日本民主法律家協会

高市政権による「戦争をする国日本」を目指す動きに強く反対し、憲法の理念に基づく政治の実現を求める法律家6団体の声明

2025年12月8日
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター   共同代表理事 海渡 雄一
自由法曹団            団長 黒岩 哲彦
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 田村 優介
日本国際法律家協会        会長 田中  俊
日本反核法律家協会        会長 大久保賢一
日本民主法律家協会       理事長 稲  正樹

 

1、2025年10月21日、高市早苗自民党総裁が日本維新の会の支援を受けて内閣総理大臣に指名され、高市政権が発足した。
 発足から1ヶ月が経過し、高市政権の本質が明らかになりつつある。それは、「力による世界秩序」にとらわれるアメリカに従属し、安倍政権以降の自公連立政権において連綿と続けられた「戦争をする国づくり」としての大軍拡や、戦争実行を支える各種の法整、そして9条改憲の動きを、維新の力を借りて加速度的に進め、「戦争をする国日本」の完成を目指そうとする、極めて危険なものである。

2、高市政権は、現在開催中の臨時国会中に、憲法9条改憲及び緊急事態条項改憲に関する自民・維新両党の条文起草協議会を設置し、緊急事態条項については、26年度中に改憲条文案の国会提出を目指すとし、また、可及的速やかに、衆参両院の憲法審査会に条文起草委員会を常設するとしている。
 さらに、現行の国家安全保障戦略に示されている軍事費(関連費含む。以下同。)の国内総生産(GDP)比2%の増額を2年前倒して、今臨時国会の補正予算で実現するとし、また、「安保関連3文書」を前倒しで改定し、軍事費のさらなる増額を目指すとしている。仮に、アメリカの要求に応じてGDP比3.5%にまで高めれば総額20兆円を超えることになる。
 加えて、第二次安倍政権が武器輸出三原則を骨抜きにして定めた防衛装備移転三原則にかろうじて残っている制限である輸出可能装備品5類型の撤廃や非核三原則の見直し、敵地攻撃能力を持つ「長射程ミサイル」の日本各地への配備、原子力潜水艦の保有までもが進められようとしている。また、戦争実行を支える制度である「インテリジェンス機能」の強化として、2026年通常国会で、「国家情報局」、「国家情報局長」、「国家情報会議」を創設、2027年末までに「日本版CIA」である対外諜報機関を創設、本年中に「スパイ防止関連法制」の議論をはじめて、速やかに法案を策定し成立させるなどとしている。

3、第二次安倍政権以降の自公連立政権が行ったことは、日本を「戦争ができる国」、そして現実に「戦争をする国」に作り変えることであった。安倍政権は、2013年12月、特定秘密保護法を制定し、「日本版NSC」を設立し、防衛装備移転三原則によって武器輸出を解禁し、2015年9月、集団的自衛権行使容認を含む「安保法制」(戦争法)を制定した。岸田政権は、2022年12月、「安保関連3文書」改定の閣議決定で、専守防衛政策を捨て去り、敵地攻撃能力の保有と軍事費GDP比2%の大軍拡に舵を切り、現在、基地建設、自衛隊の再編、長射程ミサイル開発、日米共同軍事訓練、各種国民監視法制の制定など、戦争準備がハイペース進められている。
 高市政権が目指すことは、これら憲法9条に違反する「戦争をする国」づくりを加速度的に前に進め、その完成を目指すことである。アメリカ政府の要求に沿って、安倍政権ですら踏み込まなかった危険な領域に踏み込もうとしている。

4、高市首相は、本年11月7日の国会答弁において、台湾有事が「存立危機事態1になりうる」と述べた。中国が台湾に武力攻撃した場合、日本が、集団的自衛権の行使として武力介入することを公言したに等しい。高市政権の「戦争をする国」づくりが、中国を仮想敵国とするアメリカの「対中軍事包囲網」構築の一環であることが、図らずも明らかとなり憲法9条に違反することはもとより、これまでの日本政府の見解にも反し、東アジアの緊張を高める極めて危険な発言である。高市首相には、発言の撤回を強く求める。
 同時に、集団的自衛権の行使を現実に可能にする「戦争をする国」づくりを加速度的に進める高市政権の動きに対しても、私たち法律家は、座視することができない。

5、いま市民が求めているのは、物価高対策などの経済政策と社会保障の充実、企業団体献金の禁止などにより歪んだ政治を正すことであり、排外主義を煽り、中国に対する敵対姿勢を強め、巨額の予算を用いて軍事力を増強し、戦争の準備をすることではない。
 今回の高市発言によって、首相の一存で存立危機事態を認定し、戦争に突入しうる「安保法制」の危険性と違憲性があらためて明確になった。
 私たち改憲問題対策法律家6団体連絡会は、日本国憲法に基づく立場から、高市政権による「戦争をする国」づくりに強く反対するとともに、「安保法制」の廃止を求め、憲法9条・前文(平和主義・平和的生存権)、憲法25条(生存権)や、憲法13条(個人の尊厳)、憲法14条(法の下の平等)などの、憲法の理念に基づく政治を実現するため、 広く市民と立憲野党と共同し、全力を尽くす所存である。

以上


1「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」 (武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律2条4号)