日本民主法律家協会

改憲を阻止し、命と平和を守る憲法に基づく政治への転換を求める法律家団体のアピール

2022年6月20日

改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 海渡 雄一
自由法曹団 団長 吉田 健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 上野  格
日本国際法律家協会 会長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会長 大久保賢一
日本民主法律家協会 理事長 新倉  修

 

はじめに

 7月10日に投開票を迎える参議院選挙は、専守防衛政策を転換し、軍備を増強し、憲法9条を「改正」して戦争をする国に日本を変えるのか、それとも専守防衛政策を徹底し、憲法9条を活かして日本が非軍事的に平和を創造するあらゆる努力を続ける平和主義の立場を堅持するのかという重大な選択が主権者である市民に求められています。
 私たち改憲問題対策法律家6団体連絡会(法律家6団体)は、改憲にNO!憲法蹂躙の政治に終止符を!の審判を下すことを広く市民に呼びかけます。

 

1 9条改憲にNO!

 岸田文雄首相は、在任中の改憲に強い意欲を見せており、施政方針演説でもその方針を明言するとともに、憲法記念日にも憲法9条への自衛隊明記への執念を表明しました。
 こうした岸田首相の方針に呼応するかのように、衆議院憲法審査会で改憲ありきの異常な審議が続きました。国民生活の福利のために注力すべき予算審議の時期にあえて憲法審査会を開催しました。改憲論議を必要とする世論が醸成されていないにもかかわらず、自民党、公明党、維新の会、国民民主党などは、衆議院憲法審査会の毎週開催を強行に要求し、積極的に改憲論議を展開してきました。特に、ウクライナ侵攻を契機として自民党、維新の会は「憲法9条では国を守ることはできない」と述べ、憲法9条を「改正」し自衛隊を明記する必要性を強調しました。自衛隊が憲法に明記されれば、憲法9条は死文化し、歯止めのない軍拡と武力行使が可能となります。平和主義の理念を葬ることは、国民主権と基本的人権の尊重という憲法の体系そのものも破壊し、軍事の論理が人権や民主主義に優先する国となる危険があります。

 

2 国民(市民)の命と生活を犠牲にする戦争する国にNO!

 憲法9条違反の政治が自公政権のもとで進んでいます。岸田首相は、敵基地攻撃能力の保有と軍事力の抜本的強化を繰り返し宣言しています。敵基攻撃論は、国際法上違法とされる先制攻撃と紙一重であり、攻撃対象を「指揮統制機能」に拡大すれば、国際人道法違反にも問われかねないものです。5月23日の日米首脳会談では、ウクライナ危機を口実に「力に対して力で対抗する」ことが宣言されていますが、これは憲法9条が掲げる「外交による平和の実現」をかなぐり捨てるものです。
 また、安倍晋三元首相や維新の会は「核共有」の議論を始めるべきと述べ、核兵器禁止条約に背を向け、日本が堅持し続けてきた非核三原則まで捨て去ろうとしています。自民党は、①敵地攻撃能力の保有並びに攻撃対象を敵国中枢に拡大②防衛予算を5年以内にGDP比2%③日米軍事同盟のさらなる強化と核抑止力の強化④核持ち込み禁止の見直しなど、専守防衛政策の転換を求める提言を岸田首相に提出しました。
 日本維新の会も、安倍元首相が民放番組で核共有の議論を促すとすぐさま賛成し、①防衛費増額GDP2% ②中距離ミサイル等の装備拡充③核共有等の拡大抑止の議論開始④専守防衛の「必要最小限」の見直しなどを打ち出しています。
 しかし、専守防衛政策を捨ててこれ以上軍事力を増大させることは、日本や近隣諸国の安全保障環境を危機に陥れかねません。日本が敵基地攻撃能力を保有し、核共有を実施し軍事力を倍増させることは、必然的に周辺国の疑心暗鬼を招き他国も軍事力を増強することにつながります。軍事力に頼る抑止論は、果てしない軍拡の応酬と相互不信を生むだけであり、近隣諸国の緊張関係を亢進し軍事衝突の危険を逆に増すことになります。
 むしろ地域のすべての国を包み込む安全保障と非軍事的支援の枠組みを作ることこそ唯一の平和への道であり、憲法9条はそれを指し示す役割を担っています。
 さらに、軍事費を増大させることは、私たちの生活のために必要な福祉予算を削る、あるいは消費税を大増税するということを意味します。防衛費倍増5兆円があれば、大学授業料の無償化、児童手当の高校までの延長と所得制限の撤廃、小中学校の給食無償化(合計約3.2兆円)をしてさらに余りがでます。また、年金受給者に対してその受給額を一律年12万円増加させる(約5兆円)こともできます(6月3日東京新聞調べ)。ただでさえコロナ禍や近時の物価高騰で悩まされている市民は、こうした財政支出こそ望んでいるはずです。
 私たちは、軍事力に依存した政策にきっぱりとNOを突きつけなければなりません。

 

3 「政策要望書」を一致点とした野党共闘こそ求められている

 安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)は、5月9日、平和・暮らし・気候変動・平等と人権保障の4つの柱からなる「政策要望書」を発表し、立憲民主党、共産党、社民党、沖縄の風、碧水会の3党2会派はこの要望書を口頭にて確認しました。この確認された「政策要望書」には、「憲法が指し示す平和主義、立憲主義、民主主義を守り、育む」という理念が記されるとともに、「非核三原則を堅持し、憲法9条の改悪、集団的自衛権の行使を許さない、辺野古新基地建設は中止する」という目標が掲げられており、私たちの主張と一致しています。さらに「政策要望書」は、「すべての生活者や労働者が性別、雇用形態、家庭環境にかかわらず、尊厳ある暮らしを送れるようにする」、「原発にも化石燃料にも頼らないエネルギーへの転換を進め(る)」「すべての人の尊厳が守られ、すべての人が自らの意志によって学び、働き、生活を営めるように人権保障を徹底する」としています。これらは、いずれもコロナ禍の中で苦しめられてきた市民の命と暮らしを第一に据えた政策であり、私たち法律家6団体が求めてきたことと一致します。
 私たちは、立憲野党がこの「政策要望書」を共有し、参議院選挙を共同して闘うよう決意したことを大いに歓迎するともに、この政策に基づき自公政権の下で破壊された憲法秩序と人権保障を回復する政治を実現し明文改憲を阻止することを強く期待します。

 

4 参議院選挙で勝利し改憲を阻止し、平和を創造する政治への転換を

 7月10日の参議院選挙を終えると、その後3年間は国政選挙はなされないと言われています。改憲勢力は、これまで選挙直前には「改憲」の主張を一時的に隠しますが、選挙直後には再び改憲を声高に叫んできました。仮に改憲勢力へ改憲に必要な3分の2の議席を与えてしまうと、この3年のうちに改憲発議がなされる危険も決して杞憂とは言えません。
 その意味で、この参議院選挙は、軍事優先の国家づくりにストップをかけることができるか否か、東アジアの平和構築を図ることができるか否かの重大な選挙であると言えます。いうまでもなく、平和なくして命や人間の尊厳は守れません。
 きたる参議院選挙では、改憲勢力である自民、公明、維新にNO!の審判を下すよう呼びかけます。そして、参議院選挙が、命を守り平和を創造する政治への転換となるよう、私たち法律家もみなさまとともに行動することを宣言します。

 

以上