ひろば 2016年11月

 トランプ現象に視る第3の道


 米大統領選でトランプが当選した。前回大統領選でオバマが獲得したオハイオ、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの4州でトランプが勝利したことが帰趨を決めた。これらの州は、「ラスト・ベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる地域で、かつては鉄鋼、自動車などの製造業で栄えたが、今では雇用を失い貧困に喘ぐ多くの白人労働者たちがいる。トランプは、移民を雇用の障壁として攻撃するなど過激な排外主義の主張をし、TPP離脱など自国の利益を優先して「強いアメリカをつくろう」と呼びかけ、貧困化する中間層を含めた白人の支持を得た。他方、クリントンは、自らの政治家としての実績を強調したが、逆に既成勢力とみられ、支持を伸ばせなかった。
 トランプを当選させたのは、世界を支配する超大国アメリカ社会の深刻な矛盾と危機そのものであり、既成勢力に対する強烈な怒りだ。2012年のあるデータでは、上位1%の富裕層の収入が米国民全体の19%を超し、上位1%は収入が20%増加したのに対し、米国民の99%は収入が1%しか伸びなかった。貧富の格差は拡大し続けており、中間層は希薄になっている。
 しかし、トランプは、実際には超富裕層に有利な「税制改革」を主張するなど、決して貧困に喘ぐ白人労働者の権利を擁護するわけではなく、既存の権益を温存する立場だ。
 今回の大統領選挙は、既存勢力のクリントンと排外主義者のトランプの争いと捉えられているが、もう一人忘れてはならない人物がいる。サンダースだ。彼は、予備選挙で、連邦最低賃金時給15ドルの支援、組合結成権の保障、環太平洋連携協定(TPP)への反対を含む通商政策の変更、国民皆保険制度の実現、巨大銀行の分割、公立大学の無料化などのアメリカ社会の抜本的変革を掲げ、若者たちの圧倒的支持を得た。サンダースの主張は、少数者が支配するグローバル資本主義の矛盾に対し、個人の尊厳を保障する政治を目指す第3の道を志向するものと言って良いだろう。政治の世界に「たら」、「れば」は禁物だが、もしサンダースが民主党大統領候補になっていたら、トランプに勝利していたかもしれない。
 米大統領選挙から日本の学ぶべき点は多い。安倍首相の排外主義、度重なる強行採決にみられるような反民主主義的政治姿勢は、トランプ氏のそれと似ている。安倍政権は、アメリカの肩代わりを求めるトランプの要求に積極的に応じ、アメリカへの軍事協力を強め、軍事大国化を目指していくだろう。
 私は、アメリカ社会を変革しようとする人々と連帯し、排外主義、軍事主義と決別して個人の尊厳を保障する政治を志向する第3の社会変革の道を追い求めていきたい。
 解散がいつになるかわからないが、11の参院選一人区、新潟県知事選で勝利した市民と野党の共同の内実を深め、安保法制廃止、立憲主義回復、格差是正、反TPP、脱原発の旗を掲げ、政権選択が問われる衆議院選挙で勝利することが重要である。そのことによって安倍政権に代わる新しいこの国の道のりが見えてくるはずである。

(弁護士 南 典男)


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