日民協事務局通信KAZE 2015年1月号

 「集団的自衛権」行使容認は「解釈改憲」をこえ「憲法破壊」


 昨年七月一日、安倍首相は、集団的自衛権行使は憲法九条により認められていないという従来の政府見解を変更し、行使を容認する閣議決定を強行した。
 この閣議決定は、憲法改正の手続を経ることなく憲法の意味や内容を変更してしまう「解釈改憲」であり、とりわけ海外での武力行使を容認する「集団的自衛権」の行使容認は、もはや「解釈改憲」をこえて、「憲法破壊」といえる。
 ここで考えみたいことは、憲法擁護義務を負っている総理大臣や閣僚から成る内閣が、その意思決定を行う閣議により、憲法の意味・内容を変更する「解釈改憲」を行うことは、憲法上、果たして許されるのであろうかという問題である。
 内閣法によると、「閣議は、内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる」(四条二項)、「内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて、行政各部を指揮監督する」(六条)とされている。それでは、ここにいう「内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件」の中に、「憲法解釈の変更(解釈改憲)」が入るのだろうか。
 日本国憲法七三条は、内閣の行うべき事務として、「一般行政事務」のほか、@法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
A外交関係を処理すること。
B条約を締結すること。
C法律の定める基準に従い、官吏に関する事務を掌理すること。
D予算を作成して国会に提出すること。
E憲法及び法律の規定を実施するための政令を制定すること。
F恩赦や刑の執行の免除及び復権を決定すること。
の七項目に限定しており、憲法解釈あるいは解釈の変更の権限は明示されていない。
 したがって、憲法には、その時々の内閣が憲法の意味内容について解釈を行う権限を与える明示的な根拠は存在しないといえる。少なくとも、憲法九条のように、その意味内容について大きな論争がある条項について、内閣が意味内容を確定するような行為は許されない。
 さらに重要なことは、内閣が、主権者である国民により制定され、遵守することを命じられている最高のルールである憲法の意味・内容について、自分に都合のよいように解釈変更を行うことは、立憲主義に真っ向から抵触するという点である。このことからも、内閣が、従来の憲法学説や憲法判例をかえりみず、憲法の意味内容を一義的に決定し、実質的な「解釈改憲」を行うことは、到底許されない暴挙といえよう。

(専修大学法学部教授 内藤光博)


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