日民協事務局通信KAZE 2012年4月

 韓国司法制度調査に行ってまいります


 最近の協会活動は活性化著しい。
 まず、執行部会。一五分間の「渡辺治ゼミ」で始まる。理事長自らの気合いのはいったレポートが楽しみ。前回のテーマは、大阪の「維新の会」「船中八策(原案)」をどう見るか。露骨な新自由主義的競争至上主義を、その政策の犠牲者である格差の下層にある若者が支持するという奇妙な構造のカラクリについて。
 編集委員会も活発な議論であふれる。その議論の成果が毎号の「法と民主主義」の読み応えに表れているはず。さらに、戒能通厚委員長で再出発した司法制度委員会と、小澤隆一委員長の憲法委員会の充実ぶりは特筆に値すると思う。
 三月一三日の編集委員会、二二日の執行部会、三一日の司法制度委員会、四月五日の憲法委員会、そして七、八両日の「原発と人権・研究交流集会in福島」。この一連の会合の場で、今大切なテーマのことごとくについて議論が交わされている。普天間、辺野古、消費税増税、社会保障の切り捨て、改憲策動、比例定数削減、秘密保全法、裁判員制度、法曹養成、震災復興、脱原発、再稼動問題、原発事故被害補償、TPP、教育、労働、マスコミ、地方自治…。各会合が限られた人数であることがまことにもったいない。

 この議論の中から、韓国の司法制度を調査に行こうという話しが持ち上がった。きっかけは、韓国の憲法裁判所が元日本軍慰安婦として被害を受けた女性からの憲法訴願審判請求を認容する決定をしたという報道。憲法の理念と最高裁判決との落差に臍を噛んでばかりの日本の弁護士には驚嘆の内容。行政に対する厳格なこの姿勢はいったいどこから生まれてきたのだろう。どのようにして実現したのだろうか。憲法裁判所にも訴願審判請求という制度にもなじみがなくてよくわからない。ともかく現地へ行って、直接お話しを聞いてみようじゃないか。こうして、四月末の四日間の日程が決まった。
 憲法裁判所だけではない。刑事手続の分野でも、韓国では身柄不拘束の原則が徹底されているという。「起訴前勾留に対する裁判所の令状審査が厳格で、仮に被疑事実が認められ有罪となった場合に実刑が想定されるような事案でなければ、安易に身柄拘束を認めないという実務上の基準が確立している」のだそうだ。それなら、痴漢冤罪事件で、長期の勾留を恐れての心ならずの自白もありえない。また、取り調べには弁護人の立ち会い権が認められているそうだ。冤罪の温床となる日本の令状実務を知る者にとって、なんという素晴らしい刑事司法のあり方。民事でも、教えられることが多々あるという。

 私たちがこれまで当たり前と思ってきたことが、実は必ずしも当たり前ではないという実例を見せられて驚くことがある。韓国の司法制度には大いに驚き、大いに学んで帰りたい。
 他方、深く憂うべき大阪の事態。これまで当たり前と思ってきたことが、脆くも崩されて行くのではないかという不気味さを禁じ得ない。大いに驚きつつも、人権や民主主義が損なわれることのないよう大いに力を尽くしたい。

(弁護士 澤藤統一郎・副理事長)


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