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清水雅彦の映画評

第0077回 (2007/01/04)
『硫黄島からの手紙』〜「硫黄島2部作」に共通する戦争のむなしさ

1944年6月、栗林忠道陸軍中将(渡辺謙)は総指揮官として硫黄島に赴任した。アメリカ留学の経験があり、進歩的で合理的な発想をする栗林は着任後早速上官による部下への体罰をやめさせ、地下要塞を構築して米軍を迎え撃つ作戦に大きく変更する。これには将校らが反発したが、西郷(二宮和也)ら兵士は栗林に期待を寄せ、中佐のバロン西(伊原剛志)が理解を示した。1945年2月、兵力ではるかに勝るアメリカ軍がいよいよ上陸を開始。5日で終わると思われた戦闘は、36日間も続くことになり……。

本作品は、『父親たちの星条旗』に続くクリント・イーストウッド監督による「硫黄島2部作」の2作目。脚本は日系アメリカ人2世のアイリス・ヤマシタ、製作総指揮・共同原案はポール・ハギス、製作はスティーブン・スピルバーグ。栗林の本(栗林忠道著・吉田津由子編『「玉砕総指揮官」の絵手紙』小学館)も参考にされています。

まず思ったのは、栗林やロサンゼルス・オリンピック金メダリストで負傷米兵を助ける西に、こういう人たちがいたんだということ。このようなアメリカをよく知る人物たちの声が国政に反映されるような政体だったら戦争は防げたのではないか。また、アメリカを理解しているからこそ、アメリカと闘うことは辛かっただろう、と。

アメリカにとっては「対ファシズム戦争」という「正義の戦争」であった日本との闘いの欺瞞的部分を暴く『父親たちの星条旗』には驚きましたが、本作品もすごい。アメリカの戦争映画は「敵」を対等には描かない中で、栗林に一定の敬意を払っている点。日本兵による狂信的な集団自決を描く一方、米兵による捕虜射殺も描くという公平な視点。そして2作に共通しているのは、前線の兵士たちはそれぞれ家族に思いをはせる点、上層部の一方的判断で無謀な闘いを余儀なくさせた点、個人を駒としてしか扱わない国家の姿勢。自分は安全な場所にいながらアフガン・イラク戦争を始めたブッシュ大統領や、戦争のなんたるかも知らないのに愛国心を唱える安倍首相はこの映画をどう見るであろうか。それにしても、なぜこのような映画を日本映画界は作れないのであろうか。

2006年アメリカ映画、上映時間:2時間21分、全国各地で上映中
http://wwws.warnerbros.co.jp/iwojima-movies/

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