2005年11月

ふたつの「シフォンケーキ」

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 遠回しのおねだりが効を奏して、鹿教湯(かけゆ)のドクターからお届け物。フレイバーのメープルシホンケーキQサイズとハロッズの紅茶とマーマレード、ジャムのセット。山高帽のような大きくてふわふわしたシフォンケーキはメープル味、わっしわっしと食べても食べてもまだいける。マーマレードをつけてね。ジャムもどうぞ。と送ってくれたのにシホンケーキ本体に無我夢中でそんなものすっかり忘れていました。さすがプロのケーキ、しばらくしてもしぼんでいったりしません。

 節子さん、礼子さん、我が家とみんな持ち帰りました。帰って食べても次の日食べてもふわふわシフォンのままで、食べていると不思議とやさしい気持ちになるのです。

 「シフォンケーキを作るのが得意です」と言う方が結構います。私は食べるだけで人種が違うので作り方が想像できません。とにかく、くるくるかき回すかやたら泡立てるかものすごいことがなされているのでしょう。もらうとその苦労をしのばずにばくっと食べてしまいます。シフォンケーキを焼けるお母さんや妻にはなれません。だれ一人期待してませんが。

もう一つのシフォンケーキにはしばらくしてから遠く秩父の荒川村で出会いました。田中美智子・礼蔵ご夫婦の山あいの家です。美智子先生は元衆議院議員、83才。6才年下の連れ合いの礼蔵さんが台所一切を仕切っている。いや料理係をやらされているらしい。
 
 11月23日、私と林さんが「とっておきの1枚」の取材に伺ったのである。お客様だと礼蔵さんは私たちのためにシフォンケーキを作って待っていてくれた。ミルクティーまでさっと出てくる。
 
食卓のうえのまな板にケーキ型から出されたケーキは切り分けられる。「卵何個入れたの」と美智子先生のチェックがはいる。「3個」と礼蔵さん。「4個入れなきゃだめでしょう」と作らないくせに美智子先生は口うるさい。礼蔵さんはまったく動じない。

 礼蔵さんのシフォンケーキはふわふわしない。スポンジケーキのようにしっかりとしたどちらかと言うとパンケーキに近い。卵は3個で十分だと思う。礼蔵さん、シフォンにするためには秘密があるのよ。そこにいた女3人は全員その秘密は知らない、やったこともない。卵の数やベイキングパウダーの量でもない。

ふわふわしないシフォンケーキは田中ご夫婦の人生みたいで私はすっかり嬉しくなった。お昼のお弁当のせいでばくばく食べられなかったけれど楽しいお茶でした。

ごめん「稲庭うどん」

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「秋田こまち」の出発は後30分後に迫っている。すぐに出来ると言ったくせにまだ来ない。店の店員さんに目配せするが効果無し。稲庭うどんはどんなに細くても乾麺なのだからそれなりのゆで時間がいる。駅の立ち食いそばではない。せっかく秋田に来て立ち食いなんて許せない。だから駅ビルの郷土料理の店に入っているのに。

 私の挙動不審に気づいた店員さんが焦ってもってくる。稲庭うどんのつけめん比内鳥スープである。テーブルの上にのったときは出発20分前である。よかったつけめんで。店員さん「付け汁は熱いので注意してください」わかってますって。

 味も匂いもなんのその。とにかく付け汁のお椀に入るだけうどんを入れてがばがばずーずと食べる。汁の温度はあっという間に下がって口をやけどする心配はない。芹の匂いがするがかまっていられない。

 電車に乗り遅れたらえらいことになる。事務所で依頼者と約束しているのだ。途中でさすがに悲しくなる。どうしてこうなんだろう。うどんごめん。比内鳥ごめん。芹もごめん。

 余裕を持って来ればこんなことにならないのに。みんな私が悪いのです。朝から美術館をはしごしたり、物産展に引っかかったり、出発時間にどんどん迫ってしまったのである。そこをあきらめずに食べ物に執着するからいつもこうなる。

 とにかく完食。走って駅に行く。ベンチに座っている秋田のおばさんに「駅はどこですか」と聞くとビルを出てとなりだと言う。おかしいな。と思ってふと見ると小さな改札口があるじゃない。新幹線乗り場まで距離がありそう。改札口のところに小さなお弁当屋がある。急がなければならないのにお弁当に目がいく。

 振り切って改札を抜け新幹線乗り場改札に。また弁当屋。おっと時間は5分もある。何にしようか迷って大館名物「鶏めし」を。850円の安さに引かれたのである。150円のおつりをもらって改札に行きかけてお茶を買い忘れたことに気づきまた売店へ。

 新幹線に乗ったときはしばらくぼーっとしてホームを見ていました。そしたら私の席のところがちょうどホームの弁当売り場になっている。いろいろな弁当が自然に見にはいって目移りしてしまうのである。「鶏めし」に決めたのに。もちろんもう買うことが出来ないのにである。

 秋田の次の駅が大曲である。電車は大曲から進行方向を逆に取る。その前に「鶏めし」は完食されているはずであった。それが食べられない。胃には稲庭うどんがつまっているのか、半分まで食べたらうんざりしてきた。残しましたよ。鶏の匂いまで鼻についてきました。

 目移りまでされ比内鳥にも負けて挙げ句の果てに食べ残されて「鶏めし」にもごめんごめん。

 秋田に金野先生を訪ねた次の日、秋田は初雪。千秋公園の紅葉は真っ赤で少しぬれて光にきらきらしてました。その後がこの始末。