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伊藤和子のNYだより

第0004回 (2004/09/29)
二つの演説―アナンとアラウィ

みなさん こんにちは。伊藤和子@NYです。

 イタリアの女性二人の解放、本当にうれしいニュースでほっとしています。
 ご承知のとおり、先週NYは国連総会で、ブッシュや小泉(ヤンキース戦の始球式以外、ほとんど話題にならなかったが…)、イラクのアラウィ首相等がNYに現れる一週間でした。
 この国連総会に先立ち、ついにアナン国連事務総長がBBCのインタビューに答えて
「イラク戦争は違法だった」
 "Yes, I have indicated it was not in conformity with the UN charter fromour point of view, from the charter point of view, it was illegal." と言い切りました。
私の知る国連NGO関係者などはみな喜んでいましたが、選挙を控えたアメリカ政界では、「事務総長による内政干渉」「非常識」という批判が相次いでいました(なんと、私のロースクールの国際法の教授の中にも「アナンは非常識だ」と論難する人がおり、驚きました---ちなみに、驚いたことに、最近の国際法の研究の主要テーマの一つに“use of force ”があります。安保理決議を経ないイラク型"coalitions ofthe willing" は国際法の「発展」としてどこまで許容されるか、なんて議論をしているらしい…そういうコースは取ってませんが)。
 そんなわけで、アメリカからかなりの圧力があっただろうに、事務総長は9月21日の国連総会演説でも、同じ姿勢でしたね。イラクでは市民が大量殺戮(massacre)が行われ、囚人が卑劣な虐待を受けている、と名指しこそしないがアメリカを非難をし、全ての国際法と国内法の遵守"rule of law," を強く呼びかけていて、すばらしい演説でした。同時に、このまま単独行動による戦争と占領が続いたら国連は破壊されてしまう、歴史に大きな汚点を残す、という強い危機感を感じさせるものでした。これからの任期もずっとブッシュ政権に振り回され、平和が破壊され、職員を殺される…というのでは本当にたまらないだろう、と思います。以下演説全文です。http://www.un.org/webcast/ga/59/statements/sg-english.pdf

 一方で、とても気味の悪い光景もテレビから流れてきました。
 アラウィ首相がNYからワシントンの米議会にいき、演説をしたのですが、「イラクを解放してくれてありがとう。自由と民主主義をもたらしてくれてありがとう」とほんとうに長々と演説をし、米議会に対するThank Youを繰り返すものでした。
 イラクでは毎日たくさんの人たちが殺され苦しんでいるというのに、その真実を完全に隠蔽して、侵略者に美辞麗句を述べているアラウィの姿、そして、それを見て、本心はどうか知らないが、喜色満面で拍手を送り続けている議員たちの姿をみていると、どうしてこんなおろかな茶番劇をやっているのか、とそら恐ろしくなりました。耳障りのよい嘘であることを議員たちが気づかないはずはない、勝手に真実を作り変えて平気でいるのか、それとも本当に無邪気に喜んでいるのか?…とにかくもう21世紀なのに恥ずかしげもなくいったい何をやっているのか、と、本当に怒りを通り越して恐ろしさを感じました。日本の小泉政権もアメリカ追従だと思うけれど、これは、さらに本当にひどい。

 でも、一方でこの狂気をとめようとしている理性の力も少しずつ働いています。
 今日、NYの連邦地裁(Jugde Victor Marrero )が、愛国法の一部を憲法違反、と判断する、愛国法に関しては初めての画期的な判断をしています。以下のページに出ています。 http://www.cnn.com/2004/LAW/09/29/secret.searches.ap/index.html
 FBIが、愛国法に基づいて、市民から本人の了解なしに電話やEmailを勝手に盗聴する、というのは憲法違反で許されない、というのが裁判所の判断です。でも、これまではそれを平気でやって法律上許されていた、というのですから、恐ろしい話です。

 それともうひとつ、アブグレイブ、グアンタナモの虐待に関して、メディアのリークを発端に、米政府が極秘メモの公開に踏み切らざるを得なくなりました。その結果、公開されたメモによって、政権ぐるみの意図的な拷問・虐待だったことが明らかになり、大きな余波が生まれています。
 私のいるNYU-lawでも先週、ワシントンポストなどの記者、グアンタナモの被虐待者の弁護人、法学者を招いてテロ対策の名による虐待・拷問を検証・反省する大きなシンポジウムが開催されました。
 法律家がショックを受けていたのは、常々シビリアンコントロールこそ民主的だ、と語ってきたのに、今回の虐待は、制服組やパウエルの反対を押し切って、法律家がGOサインを出した、という事実でした。
 カリフォルニア大バークレー校のYooという現役のロースクール教授が、(政府の依頼を受けて)2002年の1月に二度にわたって、米政府に「アルカイダ、タリバンにはジュネーブ条約によって保護されない、彼らは捕虜ではない」というメモを提出しました。
 2002年1月25日に司法副長官がこれをもとにブッシュに同趣旨の報告書を提出し、パウエルらの反対を押し切ってブッシュは法律家の見解を採用した、そして、ラムズフェルドが1月27日にグアンタナモに行った際に「グアンタナモの囚人は捕虜として保護されない」と宣言し、その後の虐待が幕をあけた、というのが真相です。
 そのシンポジウムで、私は、GTMO interrogation Techniques- グアンタナモ取調べマニュアル - のコピーをもらってきましたが、服を脱がせる、犬をけしかける、20時間連続で取り調べる、怒鳴る、独房にいれ、光を与えない、女性取調官を使ってストレスを与える、ということが克明に書かれていました。明らかに偶然の出来事ではなく、政権が虐待・拷問を指示していたわけです。
 機密メモの全文は以下のHPで見られると思います。http://john.hoke.org/archive/2004/06/torture_memo_pr.php
 ワシントンポストの記者によれば、「ストレス尋問は自衛権の行使として許される」というとんでもない議論が公然と議会でもまかり通っていたようです。
 こうした事実をあきらかにさせた、という点でアメリカのメディアのチェック機能もまだまだ残っている、という印象を受けました。
 法律家のメモは、「まるで腐敗した企業弁護士がクライアント企業にとって心地よい誤った法解釈による報告文書を提出するかのようだ」と、シンポジウムのパネリストになった教授が発言していましたが、法律家たちは法律家が人権侵害の先頭に立ったことをとても深刻に受けとめて
 「今後同様の危機がおきても同じことを繰り返したくない、また同じシンポジウムを開催しないためにどうしたらいいのか…」と真摯に議論していました。
冒頭に書いたように、私のいるニューヨーク大ではuse of force をテーマとするコースにしばしば出くわし、国際法(主流派)もパワーポリティックスの影響を受けているなあ…と感じていたので、人間の尊厳に対して誠実で真摯な法律家、ジャーナリストたちにあえてうれしかったです。
 国際法コースの学生の間でも最近はこの話題が持ちきりになっています。

 PS. 高遠菜穂子さんから新著「戦争と平和」、マッド・アマノさんから新著「リコール小泉鈍一郎」をいただき、読ませていただきました。ありがとうございました(^^)読んでいらっしゃらない方、それぞれまったく切り口が違いますが、それぞれ、本当にお勧めです。
 PS 2 日曜日、1929年築の私のアパートで、100歳になるとても素敵な女性のお誕生会があり参加しました。彼女は「踊ることが私のいきがい」という元バレリーナで、世界恐慌から大戦終結まで15年間バレーを踊れなかったけれど、終戦後バレリーナに復帰して87歳まで踊り続けたそうです。今日はそのときの写真を貼り付けます。ではでは。

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