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2005年05月01日（日）
平和・安定・安全ーメーデー・スローガン　　　　　

連休中の日曜日のメーデーである。統一メーデーは今年も実現せず、全労連が東京・代々木公園で第７６回中央メーデーを開催した。会場には約４万３０００人（主催者発表）が集まり、周辺に設営された模擬店や野外ステージでのアトラクションを楽しんだ（毎日）。

今年のメーデーのメインスローガンは平和である。そのための「憲法改悪阻止」「核兵器廃絶」「イラク派兵反対」が叫ばれた。天木直人・前駐レバノン特命全権大使が連帯のあいさつに立ち「平和と暮らしを大切にする皆さんの前であいさつができ、光栄です。イラク戦争は正当化されることはありません」と、改めて日米政府の対イラク政策を批判した。

もう一つ、注目すべきは市場万能論批判である。「全労連の熊谷議長は主催者あいさつで、小泉内閣による改革によって大企業が優遇される「二極化が進んだ」と指摘。ＪＲ福知山線の脱線事故も例に挙げ「安心・安全軽視の利潤至上主義社会」と批判した」と報じられている（毎日）。

規制緩和という言葉に象徴される新自由主義経済政策は、利潤追求という露骨な資本の衝動を容認する。市場原理を至上のものとして、優勝劣敗・弱肉強食を当然のものとする。社会が富めるものと貧しきものに階層分化することを当然視する。社会不安の根源はここに生じている。さらに、企業の利潤至上主義は労働強化、安全の軽視をもたらす。ＪＲ西日本が起こした福知山線大事故の原因もここにあることが明らかになりつつある。

平和・労働者の生活の安定・消費者の安全、いつに変わらぬメーデーの中心課題である。４万ではなく、４０万、４００万人のメーデーの隊列を見たいものと思う。


2005年05月02日（月）
青地晨氏に聞こえたつぶやき　　

連休というのは、魔法の時間。毎年そう思う。事前には無限の長さをもっている。なんでも連休中に片づけられそうに思う。連休明けまでになら、と多くの仕事を背負い込むことになる。ところが、連休突入するやたちまち魔法は解けてくる。無限の時間が、たちまちにして収縮するのだ。いかなる物理的法則によるものであろうか。
書斎や書庫の整理も連休にできるはずだが、毎年確実に挫折する。触った本のページをめくり始めると、そこで予定は終了するからだ。今年も、同じこと‥。

いくつか、懐かしい書物にであう。その中の一冊が今はなき青地晨氏の「魔の時間ー六つのの冤罪事件」。ページをめくると感慨が深い。

氏は、「冤罪事件は嘘の自白から生まれる」とし、嘘の自白がなされる構造を追求する。「私は、そのような被疑者の状態、つまり完全に係官のロボット化され、嘘の自白をし続けている期間を『魔の時間』と呼びたい。冤罪事件には『魔の時間』がつきものである」という。

取りあげられた事件は、仁保事件・島田事件・松山事件・梅田事件・名張葡萄酒事件・弘前大教授夫人である。いずれも、執筆当時には冤罪が晴らされていないものばかり。どのように巧みに、どのように卑劣に、いかにももっともらしい自白調書が作成されるかが、執拗に描かれている。

氏が冤罪事件に取り組むのは、氏自身が戦争中の言論弾圧事件（横浜事件）で投獄された体験があるからである。氏は、仁保事件を紹介する文中でこう語っている。
「私の体には、拷問の傷あとがいまも残っている。拷問はひどいものであった。恥ずかしいことだが、私は拷問の苦痛に耐えかね、やってもいないことをやったと、『自白』している。‥誰だって嘘の自白を好んでする者はない。‥このただごとでない状況をつくりだした密室での拷問の恐ろしさは、自分で体験した者でなければ、やはり実感的には分からぬのではあるまいか」

この本の最後は次の言葉で、結ばれている。
「深夜、冤罪事件の原稿を書いていると、闇の底から『もっと書け、もっと書け、書いて俺たちの気分を晴らしてくれ』という横浜事件の死者たちの低いつぶやきが聞こえてくるような気がする。このつぶやきが私の耳にとどくかぎり、私はやめることはできない。またかといわれても、私は冤罪事件をこれからも書き続けるだろう」

私たちも、この低いつぶやきにじっと耳を傾けなくてはならないと思う。


2005年05月03日（火）
緊迫した情勢下の憲法記念日　　

今年の憲法記念日は、これまでになく緊迫した雰囲気の中で迎えられている。
自主憲法制定を結党以来の悲願とした自民党が、ようやくにして今秋１１月に、党の憲法改正草案を作ることを公約し、急ピッチでその作業を進行中である。もちろん、自民党一党では改憲は不可能である。連立与党を組む公明党も、「野党」第一党の、改憲そのものには反対の姿勢ではない。

２０００年１月に発足した両院の憲法調査会はその活動を終え、衆院では４月１５日に、参院では同月２０日に最終報告書を発表した。さすがに国民各層の意見を改憲一色とはしていないが、改憲誘導の方向を指し示すものとなっている。

そして、改憲手続きの立法手続きが着手されようとしている。その一は、国会法改正。憲法９６条による両院の憲法改正案の発議機関を正式に作ろうとするものである。現在、両院の各憲法調査会を特別委員会に昇格する案が取りざたされている。さらに、憲法改正国民投票実行のための手続き法として、憲法改正国民投票法案が上程されようとしている。その案文については、既に自公で摺り合わせ済みである。極めて問題の大きな、容認できない内容。

改憲のための手続き法の上程を阻止すれば、改憲の策動自体を阻止できる。従って、「改憲のための国民投票法上程反対」が主位的なスローガンとなる。
また、「民意を徹底的に正確に反映する法案」が実現すれば、改憲発議は阻止できるのではないか。民意をゆがめる国民投票法案反対と言うことでは、より多くの勢力の賛同を得ることも期待できる。
「よりマシな国民投票法を」というスローガンは、あり得ないと思う。

憲法擁護派には、いま大きなピンチではある。だが、改憲推進派も、実は容易ではないのだ。戦後培ってきた、広範な国民の平和意識、平和運動は決して過小評価できるものではない。私は、ここで憲法を守り抜くことができれば、日本の民衆は、与えられたものではない、真に自らの憲法を初めて手にすることになるだろうと思う。


2005年05月04日（水）
曽根崎心中は、民事訴訟不信が招いた　　

近松門左衛門は２４曲の世話物浄瑠璃を書いている。その最初が、曾根崎心中。作者５１歳であった。実際に大坂曾根崎天神の森で起こった心中を題材にしたものだが、驚くべきはその速報性である。事件は１７０３（元禄１６）年４月７日。浄瑠璃曽根崎心中の初演は同年５月７日である。人の噂も７５日の半分にも満たない時期、事件の記憶が世人に生々しい内に浄瑠璃として語られたのだ。義太夫の稽古もあろう、人形操りの工夫も必要であろう。いったいどれだけの時間で書き上げたのだろう。さしたる長巻ではないものの、あの巧緻を極めた文章である。驚嘆せずにはおられない。

昔、近松を読んだ際には、男女の情愛の深さ激しさだけにしか眼が行かなかった。いま読み返すと、当時の社会のディテールが興味深い。

醤油屋の手代・徳兵衛の心中の動機は借金を踏み倒されたこと。というよりは詐欺にあったことにある。徳兵衛の親友だった油屋九平次は、「３月の末を越すためにたった一日必要」と拝み倒して徳兵衛から銀２貫目を借り受ける。この銀は、徳兵衛が遊女お初と添い遂げるために必要ないわくのもの。徳兵衛はこの銀を４月７日に主人に支払わねばならない。それまでに返済してもらえるならと承諾し、九平次は借用証を作成する。証文の作成日付は３月２８日。返済期限は４月３日。当然に「実印」が押される。ところが九平次、実印を３月２５日に落としたとして改印届を済ませていたのだ。押された実印は改印前のもの。
３月６日、せっぱ詰まって返済を迫る徳兵衛に九平次は言う。
「２５日に落とした印を、２８日にどうして押さりょうか。さては、そちが拾うて、手形を書いて、判を据え、おれをねだって銀（かね）とろうとは大罪人」
これに対する徳兵衛のセリフが次のとおり。
「さて巧んだり。巧んだり。いっぱい喰うたが無念やな。ハテなんとしょう。こう巧んだことなれば、でんどへ出てもおれが負け。腕先でとって見せょう」

「でんど」とは、出るべきところ、つまりは法廷のこと。訴訟をしても勝ち目はないと自力執行に及んだのだが、反対に５人がかりに打ちのめされて、翌日の心中を決意する。徳兵衛も、近松も、浄瑠璃を聞く見物衆も、法廷に出たところで真実が勝つはずもないと、そう思いこんで不自然でなかった。「捜査機関か弁護士に駆け込めば銀２貫目を取り返せるはず」との通念あれば、この世話物は成立しない。この狂言が大当たりとなったのは、当時の民事訴訟制度への社会的信頼感が欠けておればこそ、ということなのだ。

翻ってさていま、民事訴訟は当時と比べて正義の顕現機関として市民の信頼を得ているだろうか。


2005年05月05日（木）
私のスタイル　　

弁護士のありかたは多彩である。人間全体が色々であるのと同じこと。依頼者や依頼事件は千差万別、その処理のスタイルにもお手本はない。そもそも、仕事に生きるか別の場に生き甲斐を求めるか。仕事や活動を通じて、いかなる理想に向き合おうというのか。人生に正解などないように、誰からも尊敬されるモデル弁護士などあり得ない。

基本的には、社会を構成する諸勢力のどの部分に依拠するかで色分けが可能なのだろうが、そう簡単でもなさそう。自分の個性を押し出して生きていけることが、弁護士を多彩にしているのだと思う。

変わった弁護士を多く見てきたが、私も自分ながらずいぶん変わった部類の弁護士だと思う。自宅の一隅を法律事務所として事務員もいない。およそ営業活動というものをしたことがない。この１５年間、年賀状・暑中見舞いの類を出していない。依頼者と一緒に食事をする習慣はない。もちろん、酒席に顔を出すこともなく、ゴルフもやらない。人と共にする趣味もない。

交通事故や借地借家、離婚、貸金・売掛金・手形、境界画定などの一般民事といわれる範疇の事件はもう１０年以上とんとご無沙汰。それでも「非一般」事件でとてつもなく忙しい。正直のところ、今さら割りの悪い仕事はやりたくない。それでなくても、金とは無縁の仕事が山積している。

私は近所付き合いが苦手である。義理にはまって事件の依頼を受けることも不本意。だから、町内会にもはいっていない。回覧板は私の家の前を右から左に通り過ぎる。冠婚葬祭の案内も来ない。亡くなった清水恵一郎君とは正反対。彼の住まいは隣町だが、私の町内の隅々に友人をもっていて、親切に相談を受けていた。私には真似ができない。

結局、人それぞれ。弁護士としてのあり方などはさしたる問題ではない。人として、いったい何を目標に、何を生き甲斐として日々を送るのか。人生の方向を決めてから弁護士となったつもりだが、実はこの世界にはいってから道は際限なく細分されていることを知った。常に岐路にたって右往左往の毎日である。それでも、もはや３５年。そろそろ、先が見えなくてはならないのだが‥。


2005年05月06日（金）
追悼・渡辺良夫先生　　

渡辺良夫先生が亡くなられた。本日が通夜である。日民協代表理事のお一人。多くの人に尊敬される弁護士として、これ以上の人を知らない。この人を評する言葉は、誠実・謙虚・温厚篤実・緻密・献身・地の塩‥。私の印象は、「暖かさ」である。若輩の私の話にも、愉快そうに耳を傾ける方だった。

先生が携わった諸事件は今の時代には信じがたい広範で膨大なもの。朝日訴訟・堀木訴訟・藤木訴訟などの社会保障事件。恵庭・長沼・百里などの自衛隊違憲訴訟。最大の治安事件であるメーデー事件。陸軍の飛行機乗りであった経験を生かしての全日空機墜落事故事件‥。これに労働事件・行政事件の数々が加わる。そのすべての弁護団の中心に位置して、目立たず地道な仕事を引き受けておられたという。さらに、患者同盟との付き合いから医療過誤訴訟の分野で文字どおりの草分けとなった。医療弁護団の代表となり、ＨＩＶ訴訟弁護団長ともなった。

その渡辺先生が、１９８４年１０月１４日名古屋駅頭で倒れた。脳梗塞の発作である。当地で、「患者の権利宣言案」を発表したその日のできごと。以来リハビリに努められ、一時は不自由な体を引きずるようにして会合にも姿を見せていた。が、９７年以後はそれもかなわなくなり、業務を退いて療養に専念しておられた。訃報はかねて覚悟のものではあったが、やはりさびしい。

渡辺先生は修習４期であるが、結核で５年の療養を余儀なくされ９期として修習を終えた。９期修習生として席を並べた小田成光さんが音頭をとって「われも綱曳くー弁護士渡辺良夫と私たち」という書物を世に出している。日本評論社からの発行日は９８年１０月１４日。療養の先生への励ましの一書である。鈴木利廣さんが編者のひとりとして「師匠」への思いを綴って熱い。他にも多くの人が、自分との関わりで先生を語っている。中で、安原幸彦さんの以下の文章が目に留まった。これ以上の褒め言葉はないと思う。

私は先生が担当されていた、それも不自由な体になられてから担当した一件の医療過誤事件を引き継ぎました。その依頼者と初めてあったとき彼は言いました。「この裁判を起こして本当によかったことの一つは、渡辺先生にお会いすることができたことです」
私もいつの日かこう言われる弁護士になりたいものだと思います。

渡辺先生、先生の志を継いで、後に続くものは育っていますよ。


2005年05月07日（土）
何度でも言おう「靖国神社公式参拝は違憲だ」　　

靖国神社への公式参拝は憲法に違反する行為である。だから、憲法遵守義務を負う公務員は、その公的資格において靖国参拝をしてはならない。「中国や韓国からの外圧があるから政策としてやめておこう」というものではない。

公式参拝が違憲な所以は、靖国神社が宗教施設であるからだ。従って、伊勢神宮でも明治神宮でも、あるいは東郷神社・乃木神社でも同じこと。とりわけ、靖国神社は昔も今も天皇と緊密に結びついた神社であり、かつて天皇制の軍国主義・侵略主義を代表する宗教的軍事施設だったからでもある。「天皇のために侵略戦争を指導したＡ級戦犯を祀っている」ことは、靖国の性格を際だって象徴するものであるが、その合祀を取り下げれば公式参拝の違憲性が薄らぐという筋合いではない。

言うまでもなく、憲法が厳格な政教分離規定（憲法２０条３項・８９条）を置いたのは、天皇制や軍国主義への国民精神総動員に宗教を利用したことへの反省に基づくものである。「天皇の兵として闘って死ぬことが臣民としての最高道徳」「天皇の兵としての戦死者には靖国の神として祀られる名誉が与えられる」という靖国の教義の復活を許さないためのものである。

小泉首相が、「平和を祈念するために靖国に参拝する」「ふたたび戦争を起こさぬために参拝する」というのは、あまりに無知・無教養・無神経・牽強付会。平和を求めるならば、ふたたび戦争を繰り返さぬ誓いをしようとするならば、侵略と軍国主義の象徴である施設に行くべきではないのだ。

明日は、５月８日。ドイツ降伏の日。ドイツの歴代の首脳は、「平和を祈念するために訪れる」にふさわしい場所として、アウシュビッツやノルマンディーを選んでいる。小泉首相よ、南京で、柳条湖で、盧溝橋で、重慶で、ソウルで、広島・長崎・沖縄で、パールハーバーで、反省と平和渇仰の意を表すべきではないか。

靖国が靖国であるかぎり、国や公共団体とのとの関わりはいささかも許されない。最高裁は、玉串料奉納については大法廷の圧倒的多数でこの当然の理を認めた。が、残念ながら公式参拝についてはまだ最高裁判例がない。公式参拝を違憲と争って、最高裁の実体判断を求める事件が組めないからだ。岩手靖国違憲訴訟が、高裁段階での違憲判断を勝ち取ったが、最高裁の判断を仰ぐまでには至っていない。問題は、これを可能とする訴訟類型がないことである。

いま、違憲国賠訴訟が果敢に損害論の壁を乗り越えようと挑戦を続けている。その成果を待ちたい。


2005年05月08日（日）
「記憶と和解の日」に、日・独格差を思う　　　　

１９９９年、日民協が提唱して「日独裁判官物語」というドキュメント映画を作った。司法民主化運動に一定の役割を果たしてきている。ビデオもまだ販売中。このサイトで購入申込みを受けつけている。

「同じ敗戦国。ドイツにできたことが、なぜ日本ではできないのか？」というのがこの映画の問題提起。開放的で独立性の高いドイツの裁判所。裁判官が市民的自由を謳歌しているドイツの裁判官。それに比較して、閉鎖的官僚的な日本の裁判所。市民的な自由を喪失した日本の裁判官。その裁判所のあり方の差が、判決内容にも影響を及ぼしている‥。

このちがいは、裁判所だけではない。第２次大戦前の旧体制をどれほど真摯に批判しそこからの脱皮を心掛けているか、という社会全体のあり方が問われている。「同じ戦争加害国。ドイツにできた近隣諸国との和解が、なぜ日本ではできないのか？」という問題が根本にある。

本日、ナチスドイツ降伏から６０年。国連が「記憶と和解の日」にすると宣言した日。ファシズム、軍国主義が引き起こした大戦の惨禍を「記憶」し、確固たる平和への「和解」を決意する日。

侵略戦争への反省と近隣諸国への真摯な謝罪、そして被害国との和解の努力において、この６０年でドイツと日本の間には、とてつもなく大きな格差が生じた。これについて「ドイツではなんでも、ナチスのせいにできるから‥。日本はそうはいかない」という「反論」が試みられる。これは、半分当たっているのではないだろうか。しかし、免責の理由にはならない。

ドイツでは、ナチスと闘った勢力が大きかった。その人たちが戦後の民主主義を支えた。日本でも、旧天皇制政府と闘った勢力はあったが、微力だった。なんでもナチスのせいにしたドイツに真似ることが日本ではできないのは、天皇も官僚も、政治家も、裁判官も、戦前の尻尾を引きずったまま６０年を過ごしたからなのだ。

それどころか、「戦後は古くなった」として、旧体制批判の憲法までを変えて「戦前回帰」が図られようとしている。旧体制がしたことを正確に「記憶」し、近隣諸国との誠実な「和解」の努力が必要ではないか。本来、ドイツにできたことが、日本にできないはずはない。


2005年05月09日（月）
ああ、過ぎ去りし幻の大型連休よ　　　　

手を伸ばしても掴めぬものがある。掴んだと思った途端にすり抜けていくものがある。さらさらと、指の間からこぼれていくものがある。うたかたの夢、希望、青春、幸福。連休も同様だ。

大型連休だと吹き込まれた。連休中になんでもできると思った。普段はできないことを、大型連休が可能にするはずだった。あれも、これも引き受けた。が、連休はすり抜けていった。命なき砂の如く、指の間からさらさらとこぼれおちていった。引きとどめようもなかった。希望や青春と同じ。春の夜のうたかたの夢。

夢から覚めて愕然としている。追いかけて届かないのが夢。逃げても追いかけてくるのが現実。現実は容赦しない。すぐにつかまってしまう。社会主義がはかない理想で、資本主義が強固な現実であることによく似ている。

医療過誤事件の最終準備書面作成に泣きたくなる。先物被害事件の証人尋問の準備ができていない。締め切りすぎた原稿がいくつもある。声明文の起案もしなければならない。集会の準備も‥。

さて、どこかで開き直らねばならない。どうせ、私一人の事情ではないのだ、と。


2005年05月10日（火）
イラクで新たな日本人被拘束者　　

「傭兵」「外人部隊」という言葉には、うさんくささが付きまとう。ロマンなんてものではない。戦争をアウトソーシングする軍隊がある。これをビジネスとして請負う死の商人がいる。死の商人に雇われる殺し屋稼業がある。人殺しを買って出て飯のタネにしようという輩。このような仕事の需要があり供給者が存在するのだ。

軍隊の存在に一分の理があるとすれば、自国に住む民衆を邪悪な侵略から守ろうという理念。傭兵には、一切の理念とは無縁。ひたすら金のために、血を吸い、血を流す。危険な仕事ほど、ダーティーな仕事ほど金になる。危険を覚悟し、汚い仕事であることを承知の「仕事」。

イラクの武装勢力に襲われ拘束された斎藤昭彦さんは、イギリス系警備会社の社員で、「イラク西部の米軍基地の警備に携わっていた」と報道されている。フランスの外人部隊に永く在籍した経験を持つが、イラクでの「警備員」としての活動が傭兵の実態であったかはまだ定かではない。定かではないものの、これまでイラクで拘束されたジャーナリストやＮＰＯ活動家とは明らかに異なる。現地の人からは、「侵略者の手先」と見られてやむを得ない立場だ。

だからといって、「自己責任」という言葉で切って捨てて良いことにはなるまい。いかなる場合にも、日本の政府には国民救出の努力をなすべき義務がある。これは、国が国として存在する基本のキである。国民の安全のために国家があるので、その逆ではない。そのことの論理の帰結でもある。ダブルスタンダードの姿勢をとることなく、政府に対しては被拘束者の安全のために行動せよとの要求を続けよう。


2005年05月11日（水）
宇都宮の法廷　午前１０時　　　　

弁論終結に際して、本日付の準備書面を、かいつまんでご説明いたします。

本件は、開業医から「胆嚢癌疑い」で患者の紹介を受けた被告病院が、胆嚢癌検査を繰り返すも確定診断が得られず、胆嚢癌疑いを払拭できないまま、「胆嚢炎・胆石」の病名で、腹腔鏡下胆嚢全摘手術を実施した症例です。術後、患者や家族には、胆嚢癌の疑いについてはなんの説明もないまま、術後一年足らずで、肝床に遺残癌が発見され、しかも既にガンの進行は手術不可能として、患者は死に至りました。

胆摘手術の際の切除標本は、本来ホルマリン固定し、これをパラフィン包埋した後に薄く切り出し、染色してプレパラートに作成して、組織診断をしなくてはなりません。ところが執刀医はこの標本を食塩水保存せず乾燥させて使い物にならないものにしてしまいました。大きな過誤と言わざるを得ません。被告病院の過失は明らかです。

本件の主要な争点は、因果関係です。被告は、責任論の範疇での主張においては、「見落としあった胆嚢癌は微小な早期癌」との主張をしておきながら、損害論の段になると「胆嚢癌は本件手術当時既に進行癌で、仮にこのとき開腹手術によって全部を摘出していたとしても、余命は短い」と一転します。

被告が余命は短小と主張する根拠は、本件手術時における患者の胆嚢癌の進行度にあります。
「胆道癌取扱い規約」上の
�　崙�眼的漿膜（腹腔側）浸潤」の程度が、Ｓ0・Ｓ1・Ｓ2・Ｓ3の４段階分類の内、「Ｓ2以下」に該当し、
�◆崙�眼的肝内直接浸潤」の程度が、Hinf0・Hinf1・Hinf2・Hinf3の４段階分類の内、「Hinf2」に該当する、というものです。
しかし、これは明らかに誤りなのです。

定義は以下のとおりです。あくまで、肉眼的観察での基準です。
Ｓ0:癌が漿膜面に全く出ていないもの
Ｓ1:癌が漿膜面にようやく出ていると思われるもの
Ｓ2:癌が漿膜面に明らかに出ているもの
Ｓ3:癌が他臓器に浸潤しているもの

Hinf0:肝床への浸潤を全く認めないもの
Hinf1:肝床への浸潤が疑わしいもの
Hinf2:肝床への浸潤が明らかであるが、肝床周辺にとどまるもの
Hinf3:肝床を中心に癌浸潤による明らかな腫瘤を形成するもの

ガンのうたがい濃厚な胆嚢を全摘した外科医そして病理医が、この胆嚢を肉眼的に観察してないはずはなく、一見して癌と視認できなかったのですから、癌の浸潤が胆嚢の表面に露出していることはあり得ないのです。

胆嚢癌は、現在早期癌なら１００％完治が期待できます。確かに進行癌なら予後が悪い。しかし、進行癌なら切除標本の癌の見落としはあり得ない。本件患者の癌は早期癌であったはずです。従って、平均余命を全うできたはずなのです。

胆嚢壁は層を成しており、組織学的な胆嚢壁各層の名称を、内側から
粘膜層　　ｍ
固有筋層　ｍｐ
漿膜下層　sｓ
漿膜 　ｓ
と表現します。
癌の浸潤の程度を表す壁進達度は、手術予後の重要な因子です。
ｍ癌，ｍｐ癌なら、根治率１００％。漿膜面に露出したｓｅ，ｓｉ癌なら１０％。
その中間にｓｓ癌があります。

本件では患者がｍ癌ないしｍｐ癌であることがほぼ明らかで、仮にｓｓ癌であったとしても、統計上十分に５年生存を期待し得ます。ｓｅ，ｓｉ癌の可能性はありえません。請求の趣旨に記載の判決をいただくよう、強く求めます。

宇都宮地裁での事件。本日結審して、判決言い渡しは７月２７日となった。
医療過誤を担当する弁護士は受任事件について勉強しなければならない。この時期、胆嚢癌だけにはやたらに詳しくなった。次は、肺癌・食道癌・骨腫瘍・ラクナ梗塞が待っている。


2005年05月12日（木）
板橋高校刑事弾圧事件第２回公判報告　　

本日、板橋高校元教員藤田勝久さんに対する刑事弾圧事件の第２回公判。
まず、弁護側の冒頭陳述がなされた。背景事情を要領よく簡潔に述べ、威力業務妨害があったとされた本件卒業式会場でのできごとの経過を詳細に述べたもので、説得力があった。朗読する二人の弁護人とも、情熱と自信に満ちていた。要するに、藤田さんは、内心の自由について告知しただけ。これまでも、都立高校の校長や教頭が行っていたことと同じことをしただけである。威力の行使も、業務妨害の事実もない。それが起訴されたのは都教委と警察・検察にこそ問題があるということ。

次いで、９点の証拠について開示請求の申立。検察官の手許にあることが明白であるが、提出しようとしない証拠について、提出するよう裁判所の命令を求めるもの。これに対しては、次回検察官が提出するかどうかの態度を決め、その後に裁判所が決定をすることになった。

検察側、弁護側それぞれが相手方の請求証拠に対する意見を述べ、同意証拠について取り調べが行われた。まずは、教員のひとりが撮影した本件卒業式のビデオ（９０分）を映写することに決定。これは、事前準備で内定していた予定のとおり。意外だったのは、弁護側から請求したＴＢＳ「報道特集」ビデオ（２０分）について、検察官の異議にかかわらず裁判所が採用決定をしたこと。

休廷後の３時から５時まで、廷内に設置された３台の再生装置で、２本のビデオが上映された。

９０分の卒業式ビデオには、藤田さんの登場は一切ない。開式から最後までを。ノーカットで固定した位置から撮影したもの。卒業式に混乱はない。卒業式が妨害されてその遂行に支障を生じた事実のないことは明らかである。

圧巻は、開会式直後の「国歌斉唱」時。司会者が「国歌斉唱」と発声すると、起立していた卒業生が一斉に着席する。ビデオに映っている限りではほぼ全員着席である。生徒たちには、なんのためらいもない当然ことという雰囲気。格別の気負いは感じられない。もとより、誰かの指示を受けての着席という印象はまったくない。次の「校歌斉唱」となるや、これも当然の如く全員が起立して斉唱する。式次第の最後は、旅立ちの歌の合唱。視力障害の生徒のみごとなピアノ伴奏に、盛りあがった雰囲気で終わる。

「報道特集」ビデオの前半は、君が代伴奏を強制される音楽専科教員の苦悩を取りあげている。何度も見た映像だが、問題点を良く押さえていると思う。そして、後半は板橋高校卒業式現場の取材。起訴事実となっている藤田さんの演説の音声がバッチリはいっている。まさしく、「なぜこれが犯罪なの？」と言いたくなる。そして、ワンカットだけだが現場から場外に連れ出される藤田さんの映像が映っている。

この両ビデオを真っ先に裁判官に見てもらいたかった。現場状況の再現として、これに優るものはない。最も客観性の高い証拠。おそらくは、裁判官にもことの実態と、問題の本質とが呑みこめたものと思われる。

さて、次回から証人尋問である。次回５月３０日は、都教委から本件卒業式の監視に派遣された５人の都教委職員のひとり、鯨岡氏の尋問。彼が現場で録音したというＩＣレコーダーの録音状況がテーマとなる。尋問時間は、主尋問・反対尋問を通じて合計３時間を予定している。もう山場の一つを迎えることになる。

これまでのところ、首尾は上々。無罪判決への手応えは十分である。３名の裁判官も「報道特集」でインタビュー対象となった音楽専科教員の心情を酌んでくれたものと考えたい。胃から血を吹きだした人、退職という道を選ばざるをえなかった人、追いつめられて心穏やかではいられない人‥。それに引きかえ、遺憾なく悪役ぶり丸出しの、土屋敬之都議（都議会民主党）、横山洋吉教育長、そして石原慎太郎知事。これでも藤田さんを有罪にできるか。


2005年05月13日（金）
平頂山事件に控訴審判決　　

撫順は良質な石炭の産地として名高い。露天掘りのあとが巨大なクレーターをなして人の目を驚かせる。その炭坑町の郊外に平頂山惨案遺址記念館がある。
１９３２年９月１６日、ここで旧日本軍が３０００人の住民を虐殺した。村民を集合させておいて、機銃で一斉射撃し、生き残りの者を刺殺したのだ。その現場を掘り起こし、虐殺された状態のまま累々たる遺骨を保存する遺骨館が建設された。天皇の軍隊が中国の民衆に何をしたか。南京と共に、それを象徴する場所であろう。小泉首相が、贖罪と平和を求めて訪れるべき最もふさわしい場所の一つ。

ここでは、折り重なった遺骨が身もだえている。骨が哭いてる。叫んでいる。呪いの言葉を吐いている。頭骨の眼窩が睨みつける‥。明確に数えられる遺骨数が８００体。母が子を抱き、家族がかばい合い、額に弾丸の貫通痕を受け、みなが同時に生を終えている。

日本軍は、この遺体に土をかぶせて隠蔽した。奇跡的に生き残ったものが、戦後この地を発掘し、侵略を受けた歴史の記憶を消してはならないと、遺骨館を作ったのだ。ここでは、日本語の案内表示がある。遺骨が「日本人よ、目を見開いてよく見よ」と訴えている。

当時幼児で生き残った３人が、この事件の責任を問うて、日本国を被告として提訴したのが１９９６年。一審敗訴。控訴して本日控訴棄却となった。無念というほかはない。昨年の７月７日にピアノ伴奏拒否事件で福岡陽子さんの請求を斥けた宮崎公男裁判長の判決。

判決は「戦争で被害を受けた個人が相手国に損害賠償請求できるとの国際慣習法が当時、存在したとはいえない」として、国際法、中国民法、日本の国内法に基づく原告の請求をいずれも斥けた。国会が戦争被害者の救済立法を怠った『立法不作為』の責任も否定した。

但し、事件の存在と背景については、原告側主張のとおりに事実認定して裁判所にも一片の良心あるところを示した。文字どおりの「一片」でしかないのだが‥。

あの遺骨たちは、今日の判決をなんと聞いたろう。


2005年05月14日（土）
松元ヒロ　恐るべし　　

日本青年館大ホールで、「憲法フェスティバル　２００５」。今年で、第１９回となる。まさしく「継続こそ力」。運動として成功している。スタッフのご苦労はたいへんなもの。

森川文人実行委員長の挨拶の中に、「商業主義と結びついているメディア優勢の状況の中、表現手段を持たない私たち一般市民は、ビラ配り、デモ、インターネット、そして集会などで、声をあげて行かざるを得ない」「戦争に対する嫌悪、平和を求める心、これを持っている人々は多数派であり、決して、それを捨てようとは思っていない。ただ、正しい情報、リアルなオルタナティブへのイマジネーション、それがきちんと伝達され共有される環境が十分でなく、これを作っていく努力が必要だと思う」とある。まったく同感。

実行委員会の議論では常に、「憲法」派と、「フェスティバル」派との角逐があり、そのバランスが難しいのだという。今年の「憲法」派的企画の中心は姜尚中さんの講演、そして「フェスティバル」派的企画の目玉が松元ヒロの「マイムコント」。いずれもそれぞれ質的に最高のものだった。

いつもながら、姜尚中さんのよく練られて説得力ある語り口には感心させられる。この講演だけを目当ての参加者も多かったに違いない。次の指摘が印象に残る。
「いま、改憲の必要は全くない。政治の貧困・政治の劣化の原因を、憲法の所為に転嫁した筋違いの押しつけがなされているだけである」「自民党改憲草案がいう日本の歴史・伝統・国柄の重視とは、かつての国体明徴運動と同じく、異質を排除し純血化を指向する運動だ」「近代憲法とは、異なる価値観を持つ人々の共存を可能とするルールである。その意味では、宗教戦争の反省から生まれた政教分離原則は極めて原理的な重要性を持つものである」「国家が個人の内心に立ち入ってはならないとすることは、近代国家の大原則」「自民党は、祭政一致国家を復活させようとしている」「Ａ級戦犯を文分祀して国際的批判をかわし、海外での戦死者を靖国に祀るというシナリオができているのではないか」「祀る国家は戦争をする国家であり、戦争をする国家は祀る国家を必要とする」「９条改憲にもまして、政教分離を定めた２０条改憲は重要な問題ではないか」

姜尚中さんの講演もさることながら、プログラムの最後に出演した松元ヒロのコントは他を圧する素晴らしい出来栄え。感動を覚えた。芸は、活かすも殺すも観客次第。今日は良い観客に恵まれたこともある。ヒロさんも、乗りに乗っていた。これまで見た中で最高のでき。

何よりも、憲法についてのトークの内容が極めて正確である。本質を突いて分かり易く、巧みであるだけでなく情熱にあふれていた。

取りあげられたテーマは、「日の丸・君が代」、愛国心、天皇、小泉、石原、不景気、年金負担、労働組合、二大政党制‥。最後に、自らが「憲法君」となりきっての護憲トーク。「５８歳、まだまだ元気」「僕をリストラする理由はない」「理想を現実の次元に引きずり下ろすのではなく、現実を理想に近づけ引き上げる努力を」「これまで結構暇でしたよ。もっと、僕を使いこなして欲しい。もっと僕の出番を作って欲しい」。そして、フィナーレに迫力満点の前文の暗唱。多くの観衆の心を揺さぶる力を持っている。恐るべきは芸の力。


2005年05月15日（日）
「ニンジンに救われた‥」

バグダード在住のリバーベンドさんのサイト「バグダードバーニング」（日本語訳版）の最新ページは２００５年５月２日付。タイトルは、「ニンジンに救われた‥」。

書き出しは次のとおり。
「ここ数日、爆発しやすい日々が続いている―文字通りの意味で。こんな状況は４日前からのことだが、いまもって続いている。バグダードだけでも車の爆発が１４件ほど起きていると、２、３日前に聞いた―といっても、うちの近所で起こったのは６件だ。最近、車を見るとびくびくしてしまう。どの車も怪しく見える―小さいのも大きいのも、古い車も新車も、運転手が乗っている車もレストランや店の前に停車している車も。ちかごろは、どれもこれも不吉に見える」

記事の内容は、家のすぐ近所でおきた爆発事故から危うく難を逃れた１６歳の従弟の話。母親の「ニンジンを買っておいて」という依頼を思いだして歩く方向を変えたことで、間一髪事故に巻き込まれることから救われたという生々しい報告。ニンジンを買うべきことを思いだして災難に遭った人もいるかもしれない。バグダッドの市民にとって、生活に安全のないことへの苛立ちがよく伝わってくる。イラクの民衆にとって、戦争はまだ終わっていないのだ。

イラクの治安は泥沼。アメリカの軍事力がいかに強力でも施す術がない。ありもしなかった大量破壊兵器の存在を口実に、侵略し占領して、このような混乱を引きおこし、鎮静化できなくて、どう責任をとろうというのだ。

イラク駐留「軍」のなかで、米軍１４万人に次ぐ規模を持つものは、「警備会社」との名称の傭兵だという。正規兵の死は厳密にカウントされ、世論を刺激して、戦争継続に支障の要因となる。傭兵が死んだところで、軍も政府も責任を負う必要がない。危険な任務であるほど、ＰＭＣに請け負わせることになる。リスクが増すほど、当然に請負単価が高くなる。傭兵の報酬も。

斎藤昭彦さんの拘束で、ＰＭＣ（民間軍事会社）という存在がクローズアップされてきた。伝えられるところでは、１０００億ドル（１０兆円）規模の市場なのだそうだ。新たな軍需産業。

とは言え、ＰＭＣはあくまで戦争のアウトソーシングでしかない。正規軍の戦費こそ、ビジネスチャンスの本道。戦争のためのビジネスなのか、ビジネスのための戦争なのか。イラクの市民生活を極度の不安に落ち込ませる戦争は、ある人々にとっては巨額の利益をもたらすビジネスなのだ。

「バグダードバーニング」のＵＲＬは以下のとおり。
http://www.geocities.jp/riverbendblog/


2005年05月16日（月）
この世の不公平　　　

当番弁護士として警視庁菊屋橋分室で接見。菊屋橋は、女性被疑者だけの留置所。本日勾留尋問で、地裁・地検からの帰りを見計らって出かけたのだが、午後７時２０分の接見申込みが接見開始８時１５分。勾留尋問を受けた者の人数が多くて、帰りの押送が大幅に遅れたのだという。

逮捕の被疑罪名は覚せい剤の所持。繁華街を歩くと、売人が寄ってくるのだそうだ。３０代半ばで独身無職の彼女は「生活に疲れ、さびしくて、クスリに手を出した」と言う。これが初めての逮捕経験。再犯を防止するためには、生活を立て直さなくてはならない。そのためには、まず職を確保すること。「ウエイトレスか、皿洗いをしっかりやりたい」というのが、彼女のささやかな願い。「これまでずっとフリーターだった。職があったりなかったり。健康にも恵まれず、精神安定剤を服用している。職探しも楽ではない」と聞かされて、やるせない。所持金全部で９０００円とのこと。

このような若者は、層をなしているのだと思う。冷たい競争社会からはじかれる多くの人たち。フリーター・ニート・パラサイトシングル・非正規雇用と、このような若者たちを形容する言葉にはこと欠かない。その中でも生きることに不器用な一群。もっと暖かい社会なら普通に暮らせる人たちが、この世相の中ではドロップアウトして犯罪者予備軍となる。内向きの人が、アルコールやドラッグに溺れ、買い物依存症になる。サラ金を借り歩き、あるいは万引きの誘惑にかられる。外向きの人が、クレジット詐欺やオレオレ詐欺、恐喝の類に走る。

帰宅して夕刊を読むと、「高額納税者番付」が話題に。トップの納税額が３７億円。推定年収１００億円だという。武富士の武井保雄の息子二人も高位の「長者」になっている。成功報酬、企業合併・買収（Ｍ＆Ａ）、起業家。こんなところが、時代を反映するキーワードなのだそうだ。加えてサラ金。要するに、額に汗して働く時代ではない。成功した博打打ちや庶民の膏血を絞る連中が高額所得者となる時代なのだ。

階層分化という言葉を実感する。世の中、あまりに不公平。一方の極に富が集中し、快も賢も美も、そして善まで独占する。一方の極に、富にありつき損ねた人々が群れをなす。賢くなく、美しからず、不安の生活を余儀なくされ、犯罪に近づく。治安政策とは、この格差を縮めるところにこそ根本がある。


2005年05月17日（火）
梅原猛かく語りき‥　

梅原猛さんが朝日に「反時代的密語」というコラムを連載している。月に一度のペース。本日は「日本の伝統とは何か」。平明な文体で論じられているテーマは、「果たして教育勅語が日本の伝統に根差すものであろうか」というもの。

結論はこうだ。「教育勅語はけっして日本の伝統に根差すものではない。教育勅語を復活させるのは、伝統文化を愛さず、もっぱら私利を追求する知なき徳なき政治家のいうことを、天皇の命令だといって従わせることになるのではないか」

氏によれば、神仏習合こそが日本の伝統。「ところが、偏狭な国学者によって思想的に占領された明治政府は神仏分離、廃仏毀釈の政策をとり、仏ばかりか神々までも殺してしまった。そして、その神仏不在の場所に新しい天皇という神を導入したのである」という。天皇を神とする思想は、江戸中期以降「倒幕の思想として利用されたに過ぎない」ともいう。天皇を神とし、天皇のために死すべきことを中心道徳とする教育勅語の思想は、廃仏毀釈、神仏分離の延長上に明治政府が作りだした「新しい神道」で、日本の伝統などではない。これを否定した、天皇の「人間宣言」から日本の近代化が始まった。

注目すべきは、次のトーン。
「太平洋戦争中には『天皇のために死ね』という言葉が、天からも地からも響いているようであった。この声に従って多くの友人は‥潔く戦って散っていった。私は幸運にも命永らえて帰ってきたが、三百万以上といわれる日本人を空しく死に至らしめたこの戦争を心から憎んだ」

私がこの人に注目したのは、例の靖国懇のとき。芦部信喜教授と並んで首相の公式参拝に反対の立場を鮮明にしたのが梅原さんだった。私だけでなく、多くの人が驚いたのではなかったか。以来、主張は一貫している。

本日のコラムに全面賛成とはならない。「日本の加害責任についての自覚に乏しい」「天皇個人に対する親和感はいただけない」「憲法改正・教育基本法改正の論争事情を良くお分かりだろうか」などなど。しかしそれにしても、氏の真摯さには襟を正さざるを得ないし、「日本学」の権威の言に耳を傾けざるを得ない。氏が「九条の会」の一員となったことにも大いに敬意を表したい。今後、梅原さんが何を語るか、注目度はすこぶる高い。


2005年05月18日（水）
人事委員会というもの　　　

東京都庁の人事委員会に出向く。５月２３日から始まる「君が代不起立」処分審査請求における口頭公開審理の打ち合わせのため。

現在不起立で処分され、審査請求を申し立てている教職員は２３７名。そのうち、１９３名の審査請求人から受任しているのが、尾山宏団長の弁護団。加藤文也事務局長で、私は副団長。

実は、口頭公開審理が始まるのは、そのうちの１グループ、０３年度周年行事での不起立者７名だけ。あと１２グループ１５０人（０３年度卒業式と０４年度入学式）について、まだ争点整理が終わらないとして書類の交換が延々と続けられている。０４年度卒業式不起立の３６名については、まだ手つかず。

なお、０５年度入学式での不起立者処分はまだなされていない。卒業式の処分は、めちゃくちゃに急いでなされる。入学式への牽制のため。入学式での処分は、急ぐ必要がないとされる。まったく現金なもの。

人事委員会というのは、簡易迅速に行政の間違いを見直して糺すというのが建前。それが、この審理の遅さでは委員会設置の趣旨が泣く。都教委は少しも急ぐ立場にない。ちんたらやってるに越したことはない。それを人事委が督促して急がせるということはない。「もうこれ以上は双方の言い分がないというまで争点整理をする」のが、人事委の方針なのだ。

それだけではない。人事委には不満が募る。人事委員は３名。現在その出自は、元裁判官、元経団連職員、そして元副知事。元裁判官はともかく、経団連職員や副知事に、公正な判断を期待できるとは到底思えない。もう少し、マシなのと取り替えてもらいたい。元副知事の単独審理など、ごめんこうむりたい。

それに、この審理室の狭さはどうだ。傍聴席は２９席だけという。「形式的に公開すればよいというものではなかろう。事件に対する社会の関心に応じて、もっと広い審理室を確保すべきではないか」「物理的に不可能を要求するのではない。莫大な税金を注ぎ込んで、こんな大きな庁舎を造っておきながら、こんな狭い部屋しか用意できないはずはない」「都民が仕事を休んでまでして傍聴を希望しても場所がないから傍聴できない、では納得しがたい」「会議室がいくらでも空いているだろう」

これに対して、「もう決めたことだから従っていただきたい」との言葉があって一悶着。「決めたから従え、はないだろう。まるでお上のお白州ではないか。行政機関は都民へのサービスが任務のはず」「我々は、信頼に足りる機関だと思って、人事委に来ている。どのように審理を進めるかについては、合理的に話し合おうではないか。理屈の通った説明があれば納得する。当然に協力もする」「規則だから、決めたから従え、という態度では信頼は生まれない」

同じような議論を何度も繰り返してきた。まだ、壁は崩れない。
同じ独立行政機関でも、東京都労働委員会と東京都人事委員会では、役立ち方のレベルがまったく違う。都労委は不当労働行為救済に実績を持っている。労働者・労働組合の信頼も厚い。これに対して、人事委を信頼する都の職員にお目にかかれるとは思えない。この落差はどこから来るのだろう。

もともと労働組合法と地方公務員法の成り立ちの違いはあろう。また、労働委員会には労使双方の参与委員がいる。労働者委員の存在が信頼感醸成に一役買っていることは間違いない。だが、それだけでもあるまい。
労働運動は、労働委員会を実効的な機関として活かす闘いを積み重ねてきたのだと思う。人事委の方はそのような闘いの場とはなってこなかった。その差の開きではないか。どんな制度も組織も、結局はそれを運用する人次第。遅まきながら、人事委も実効ある機関に変えていく努力の対象としなければならない。が、どうも迂遠だ。もう間に合わないのかも。


2005年05月19日（木）
見えざる神の手か、悪魔の手か　　

日弁連消費者問題対策委員会は、２か月に１度「消費者問題ニュース」を発行している。本日の委員会全体会議の日程に合わせて発行の最新号が�癸隠娃供�政策提言、事件報告、文献・催事紹介など内容はなかなかの充実ぶり。その６ページに、同委員会の韓国金利規制調査の報告が載っている。これが興味深い。

新自由主義とは、先祖返りした資本主義擁護論、市場原理万能の思想である。「企業の活動を規制する必要はない。自由な経済活動を保障すれば、市場を支配する見えざる神の手があるべき秩序をもたらす。金利の規制だって不要、いや有害。金利規制を撤廃して自由にしさえすれば、適正な水準の金利による最も豊富な資金供給が実現する」という。なんとプリミティブな信仰体系。

高金利に苦しむ多くの多重債務者を見てきた我々の現実認識からは到底受け容れがたい「理論」であるが、その反駁に実例が欲しい。おとなりの韓国がそのような実体験をしたと聞いて、この春実態を調査に行った消費者弁護士たちの報告なのだ。

韓国には１９６２年制定の利子制限法があった。最高利子率が年利２５〜４０％に規制されていた。ところが、１９９７年の通貨危機・経済危機によってＩＭＦ管理体制下に入り、１９９８年１月に利子制限法が撤廃された。「利子制限法によって、市場機能による自由な利子制定が制約されている」というのがＩＭＦの利子自由化の理由。金融市場におわします「見えざる神の手」の御業に期待してのことなのだ。で、その結果はどうなったのか。

高金利合法化によって、金利は暴騰した。統計によれば、サラ金の平均利子率は年２００〜３００％となった。なかには、１２００％という実例も現れたという。高利業者による深刻な被害が発生し、「地獄よりも悲惨な状況」がもたらされた。暴力団による苛酷な取り立て、拉致監禁、人身売買、臓器売買、殺人、性的暴行などが横行したという。

その社会問題としての深刻さは、事態を放置しておくことを許さなかった。新法（貸付業法）を制定して、金利規制を復活せざるを得なくなった。こうして、２００２年１０月に３０００万ウォン（約３００万円）以下の貸付に関して金利規制が復活した。現在の上限規制金利は６６％だという。もちろん、まだ高金利。現在なお、日本以上に多重債務問題は深刻だという。韓国の弁護士がこの分野で十分に活動していないことも、遠慮がちに紹介されている。

報告は「金利規制の撤廃がいかに悲惨な被害を生むか、自由競争により適正金利が定まるというのは机上の空論にすぎず、利息制限法を超える暴利を規制することは絶対に必要であることを訴えていきたい」と結論を述べている。

自由化された韓国の金融市場に棲者は神ではなく、悪魔だったということ。これが神だとすれば、業者の神。庶民には背を向けた冷たい神。もっとも、業者の方がお賽銭は多かろう。お賽銭次第というところは、マーケットの神にふさわしい。


2005年05月20日（金）
「法律家九条の会」はできないのか　　

「最近、ずいぶんたくさんの『九条の会』が活動しているようだね」
「本家『九条の会』の呼び掛けに応えて、各地・各分野にさまざまな『九条の会』ができている。『岡山県九条の会』『太田九条の会』『映画人九条の会』『宗教者九条の和』『九条の会・東大』『九条の会・兵庫県医師の会』などなど。無数にあって、誰にも数え切れない。草の根改憲阻止運動の本流になりつつあるんじゃないか」
「『法律家九条の会』はないのかい」
「兵庫と大阪に、『弁護士九条の会』ができている。それに、各地の九条の会に法律家が大勢参加しているよ。『旬報法律事務所九条の会』や『東京法律事務所九条の会』など、法律事務所単位で優れた活動をしている例もある」
「それは結構だが、全国の法律家が一丸となった会はどうしてないのかな」
「法律家は、それぞれの地域で頑張っているんだから、それで十分だと考えているんだろう」
「しかし、改憲問題って直接には法律家の分野の課題だろう。法律家が率先して『九条の会』を作らなければ、何となくしっくり来ないな」
「改憲阻止運動に取り組んでいる法律家団体や弁護士はけっこうたくさんいる。その人たちで、『九条の会』を立ち上げることは困難なことではない」
「それでは、せっかくの『九条の会』設立の趣旨にはそぐわないんじゃないか。幅の広さこそ、この会の命だろう。これまでは改憲阻止運動に縁のなかった人にも参加してもらう工夫がなくっては」
「全国の弁護士２万人の多数派となる運動にならなくては意味がない。焦らずに、じっくり機が熟するのを待つことだな」
「あせらずじっくりはいいが、なにもしないで時期を待ってさえいれば、そんな運動ができるのかい」
「日弁連も、単位弁護士会も、全員加盟組織の制約の中で改憲問題には熱心な取り組みをしている。今年１１月の人権擁護大会でのシンポジウムテーマにもなっている。憲法問題での決議もなされる。会内の気運の醸成は期待できる」
「そうかね。九条の会の改憲阻止世論の形成運動は、日弁連の活動と重なるところはあっても別物だろう。誰かが、会の結成に向けて動き出さないと、自然発生的にはできっこないだろう」
「そりゃあ、『法律家九条の会』ができるに越したことはない。イメージは、リベラル保守層まで含んだ絶対多数派形成の会。国民運動の重要な一翼を担って対外的に国民全体を励ますもの。対内的には、その会の呼びかけが弁護士全員に届き議論を起こし、意見を集約して行動を提起するもの」
「ならば、善は急げ、じゃないか」
「いや、急がば回れ、なんだよ」
「そんなもんかね」


2005年05月21日（土）
医薬品副作用被害救済請求に非情の不支給決定　　

くたびれた。腰が痛い、背中が痛い。目がかすむ。頭が働かない。オーバーワークはもとよりだが、仕事がうまく行かないときに疲れが出てくる。
本日、医薬品機構に申し立てていた副作用被害救済申し立てに、「不支給」の決定通知。これで、疲れがどっと出た。

膠原病で療養中の１４歳の少女が某病院で亡くなった。直接の死亡原因は小腸出血。小腸出血の原因までは分からない。解剖の結果、可能性あるものとしては投与薬品の副作用とされた。そこで、「医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構」に、副作用被害救済制度を利用して遺族一時金の給付請求を申し立てた。金額は７００万円余。被害救済の要件は、薬品投与と死亡に因果関係があること。過失の存在は問わない。

申立が２００４年１月２６日のこと。１年４か月待たされての結論が不支給なのだ。しかも、不支給決定の理由が納得しがたい。がっくりと疲れが出て来ようというもの。

患者が服用していた死亡に関係ありそうな薬品は、以下のとおり。
　プレドニン錠（ステロイド剤）
　水溶性プレドニン（ステロイド剤）
　ソル・メドロール（ステロイド剤）
　ブルフェン（非ステロイド性抗炎症剤）
　バファリン（アスピリン）
　ネオラールカプセル（免疫抑制剤・シクロスポリン）

不支給決定は、非情にこう言う。
「しかしながら、ネオラールカプセル（シクロスポリン）は、機構法第４条第５項第１号の規定に基づき厚生労働大臣が指定する医薬品である。従って、本事例の死亡に対する副作用救済給付の対象とすることができない」

実は副作用被害救済の制度は、すべての薬品についてのものではない。被害者には納得しがたいことに、抗ガン剤や免疫抑制剤など危険性の高い薬品については除かれている。シクロスポリンはその除外薬なのだ。これあるから、不支給という。

しかし、シクロスポリンの服用が死亡原因だと判断されたわけではない。投与された複数の各薬剤と死亡との因果関係が吟味された形跡はない。どの薬品の投与が、主たる原因と考えられるかという言及もない。複数投与薬品の一つに、免疫抑制剤があったから救済は拒絶というのでは、到底納得しがたい。

このことは、請求時から十分に意識していたこだった。主治医には、「投与期間や投与量、さらには副作用の態様から、ネオラールが死亡に関与している蓋然性は極めて低い。プレドニンとブルフェンがもっとも蓋然性高い」という意見書まで作成してもらっている。それでも不支給。「できるだけ支給を押さえたい」という本音が聞こえてくる。

不支給に力を落とすだろう、少女の母親の顔が目に浮かぶ。これで、今は名を変えた「独立行政法人医薬品医療機器総合機構」を被告とする訴訟をしなければならない。それで、くたびれることになる。しかし、くたびれはしても負けるものか。


2005年05月22日（日）
変わってきた大相撲　　

久しぶりに大相撲を見た。テレビの前が桟敷となった、夏場所千秋楽の土俵。どうにも違和感を拭えない。大相撲人気斜陽もむべなるかな。

千秋楽恒例の「これより三役」。小結・関脇・大関戦とも、外国人力士対日本人力士の対戦となった。結果は、３対ゼロで外国人力士側が圧倒。勝者は、琴欧州・白鵬そして朝青龍。この３人は、おそらくこれからも勝ち続ける。

朝青龍が強すぎることが相撲人気低迷の原因の一つ。これで４場所連続優勝。４回目の全勝優勝でもある。優勝回数は１２回となった。今年になってから、負けたのはたった１回。４４勝１敗というから恐れ入る。これに対向しうるのは白鵬と琴欧州。ご当地力士など出る幕はない。

「これより三役」の前に、黒海（グルジア）が高見盛をノックアウトし、露鵬（ロシア）が豊桜をひっぱたいた相撲を見た。いずれも後味が悪い。あれは相撲じゃない、別種の格闘技だ。プロレスに近い。相撲のルールとしては、拳でさえなければ、突いても横殴りでも反則にはならない。が、これまで力士と観客の美意識が、空手チョップやラリアットまがいの粗暴な技を許さなかった。今、力士も観客も変わってきたのだろう。

厳しく激しい土俵は魅力だが、殴り合う殺伐とした相撲など見たくはない。外国人力士の席巻で、相撲の文化は確実に変容している。これに馴染めない私は、意外に保守的な心情の持ち主なのだ。

私の故郷・岩手県出身力士として久々に大成を期待されたのが栃乃花（春日野部屋）。この力士がいかにも県人好みなのだ。岩手県九戸郡山形村の出身で、明治大学の相撲部から大相撲入りし、付け出しなしで序の口から取り、一時はトントン拍子の出世ぶり。順調に小結までは昇進したが、優しい性格が裏目となり、腰痛と怪我も重なって、幕下東３０枚目まで落ちた。が、再度ジリジリとはい上がって、今場所は十両西８枚目で優勝候補の筆頭だったが、１４日目・千秋楽と連敗して十両優勝を逃した。それでも１１勝４敗、名古屋場所での再入幕に期待がかかる。地元では再度の大声援。こんなところは、昔と変わらない。

そして千秋楽恒例の「君が代」斉唱。その違和感はますます大きい。外国人ばかりの活躍目立つ中で、「相撲は国技」と言うもおこがましい。優勝力士モンゴル人の朝青龍を立たせておいて君が代でもなかろう。いい加減にやめたがよい。


2005年05月23日（月）
人事委員会の存在意義が問われている　　

本日、「日の丸・君が代」処分に関する東京都人事委員会審査請求事件の第１回公開口頭審理。
「被処分者の会」に参加している審査請求人は１９６名（本日現在）。そのうち、昨年処分を受けた者が１５７名（周年行事・卒業式・入学式）。これが審理の便宜上１３グループに分割されている。本日は、その先陣を切った０３年度（「１０・２３通達」以後０４年３月まで）周年行事での不起立者として処分を受けた者７人のグループ。他の１２グループについては、まだ期日は決まらない。０５年３月の卒業式で処分された教員３９名についてはまだなにも手続きは動き出していない。

このような状況下で、またまた処分が行われる。５月２６日が都教委の定例会合。ここで行われる処分内容に注目せざるを得ない。０５年４月の入学式における不起立者・伴奏拒否者が処分対象となるというだけではない。
４回目の不起立を現認された教員への処分が審議対象となる。既に０５年３月の卒業式の不起立（３回目）で減給６月の処分となっている人。４回目はさらに苛酷な処分となるのだろうか。
従来都立校の過半で実施されてきた「内心の自由の告知」を保護者に行ったとして、処分前提の事情聴取を受けているケースがある。また、来賓として元の勤務校の式に出席して不起立だった人もいる。福岡地裁「ココロ裁判」判決後の最初の処分である。都教委が、いささかなりとも正気を取りもどしてくれればよいのだが‥。

本日の公開口頭審理では、冒頭に審理のあり方に関して意見続出。主な発言は、「公開の原則を実質的に保障せよ。もっと広い審理の場所を確保せよ」「東京都人事委は、本当に公正な審理を期待できる場であるのか」「元副知事の職にあった審査委員に、本件での公正な審理や裁決ができるのか」「この場に、横山洋吉以下都教委の責任者が出席していないことに納得できない。是非出てきて、生の声を聞け」「処分者側が、いったん提出した重要書証を撤回したのはいかなる訳か。審査委員は、これを認めるのか」‥。

その後、５人の請求人本人が意見陳述。それぞれの個性豊かな感動的な陳述だった。現場での真摯な教育実践者でなくては敢えて不起立などする動機がない。自らの教育実践に自信がなくては、堂々と不起立を貫くことなどできることではない。いずれも、自らの言葉で教育実践を語り、「教育者としての良心が起立を許さない」ことを語った。要約するのはもったいない。是非とも、全文をこのサイトにアップしよう。

私も、意見陳述の準備をしていたが、時間切れで次回まわしとなった。
私が手続きの冒頭に言いたいことは、公正な審理を求めるということ。公正とは、憲法的常識を踏まえるということ。要するに、憲法的常識に従った審査と裁決を願いたいということなのだ。憲法的常識から言えば、思想統制が望ましくないことは自明の理。「日の丸・君が代」の強制は、権力による思想統制以外の何ものでもない。踏絵そのものではないか。これを、一片の通達で強行しようとする愚を許してはならない。しかも、教育の場での思想統制は、戦前の轍を踏むものである。憲法的常識は、教育に権力が国家主義的イデオロギーを持ち込んではならないのだ。
当たり前のことを当たり前に判断してもらいたい。そうでなくては、人事委員会という制度自体の存在意義を問われることになる。


2005年05月24日（火）
がんばれ「鎌倉・九条の会」　　

鎌倉市が、「鎌倉・九条の会」の発足記念講演会を後援すると聞いていた。その旨のポスターが張り出されているのも見た。さすがは「平和宣言都市・鎌倉」、さすがに井上ひさしさんのお膝元。民度が違う、たいしたものだ、と感心していた。ところが、市は、いったん決定していた後援を取消したという。なんと情けない鎌倉、なんと情けない石渡��一鎌倉市長。そして、市教育委員会。

神奈川新聞によれば、「鎌倉・九条の会」は３月中旬に後援を申請、同下旬に承認を得た。しかし、市は「取り扱い指針になじまない」として４月下旬に後援を取り消した。「後援取り消しは極めて異例のこと。市は『申請から承認に至る調査が不十分だった』としているが、同会は『理由が明確でなく、取り消し通知は受け取れない』と反発している」とのこと。

問題は、鎌倉市の取消理由である。
「３月の時点では会の性格をとらえきれず、４月の内部協議で政治性が高いと判断した」とした上で、「憲法問題は高度に政治的で世論を二分する問題であり、もっと慎重であるべきだった」と説明（神奈川新聞）。
「一般的な憲法についての講演会であれば問題はない。護憲、改憲の議論があり、その後の調査から政治性を含むので後援は適当でないと判断した」と説明する（朝日）。

キーワードは「政治的」「政治性」。曖昧模糊として定義のしようのない言葉。その解釈の恣意性から、使う側に便利で、使われる側に危険な言葉。広く解釈すれば、この世に政治的ならざる事象はない。現実政治から離れようとすること、離れていること、それ自体も実は政治的なのだ。九条の会からの後援申請を認めることを政治的というなら、認めないこともまったく同様に政治的であり、いったんした決定を取り消すなどは、さらに高度に政治的なのだ。

「鎌倉・九条の会」は、「憲法には公務員が憲法を尊重し擁護する義務が規定されている。行政が‥後援を取り消すのは納得できないと反発している」（朝日）。当然のことだろう。憲法擁護の立場を相対化して、改憲の立場と同列に置くこと自体が「政治的」なレトリックである。憲法９９条があり、憲法記念日があり、公務員の憲法遵守宣誓がある。すべての法体系・行政の頂点に憲法がある。これを擁護しようという言動にたいしては、政府・自治体は最大の尊重姿勢を示さなければならない。

教育現場での学習指導要領と同様。たかが文部大臣告示の分際で、憲法上の権利を侵害するなど不届き千万。たかが市教委内規の分際をもって、憲法に下克上を挑もうなどとはちゃんちゃらおかしい。

「鎌倉・九条の会」の発足記念講演会は６月１０日だそうだ。鎌倉市の不当への抗議は当然として、市のおかげで会は注目され、その発足は多くの人の知るところとなった。その意味での「後援」の効果はあろう。記念講演会の盛会を祈念したい。何てったって、今こそ「いざ鎌倉」なのだから。


2005年05月25日（水）
鎌倉時代の民事訴訟　　

昨日に続いて鎌倉ネタ。
鎌倉駅の西口を横須賀線沿いに北上すると英勝寺という寺があり、その傍に阿仏尼の墓がある。日記文学の白眉として知られる十六夜日記の作者。文学史では高名で、誰もが書名と作者を知っているが、和歌に関心を持つ少数の人以外に、読み通す人は稀であろう。私も、有名な書き出し以外読んではいない。

関心を惹くのは、この書の奥書である。
このあぶつばう（阿仏坊）と申人は、定家の息爲家の室也。きんだち五人まし候。はりまの國ほそ川のしやう（庄）を爲家よりゆづりおかれ候を、爲氏たふく（他腹）たるによりて、あふりやう候そしやう（訴訟）のためにかまくらへくだられ候時の道の日記にて候。爲氏もちんじやう（陳情）のためにかまくらへ下向。兩人ともにかまくらにて死去せられし。そしようは爲氏のかたへはつけられず候しとかや。あぶつは安嘉門院の四條と申人なり。為相のはゝなり。

この日記、法制史上の貴重な記録だという。訴訟のために京都から鎌倉へ出かけた女性の紀行文は、訴訟記録でもあるのだとか。この頃の訴訟といえば当然に所領紛争。相続争いなのだ。作者は、我が子の相続権を認めてもらうために、はるばると京から鎌倉に下って、審理のために鎌倉に居住し、判決を待ちながらこの地に客死した。その経過が記されているとのこと。

阿仏尼は歌人として名高い藤原定家の子・為家の側室。為相（冷泉家の祖）の母となった人。晩年の為家は阿仏尼を寵愛し、その子為相に播磨国細川庄を与える旨の遺言を書いた。為家没後、この遺言を認めない嫡子・為氏との相続争いが生じて、阿仏尼は我が子・為相のために鎌倉へ下って提訴する。４年間の滞在後、事件の解決をみないまま亡くなった。ときに１２８３年４月。元寇で世が騒がしいころ。奥書によれば、嫡子である為氏も陳情のため鎌倉に下向し、この地で亡くなったというのだ。二人の死後に出された判決は、為氏には与しなかったようだ。

訴訟の土地管轄の制度がなくすべての訴訟が鎌倉で行われた。当事者主義も口頭主義もなく、被告への弁論通知や防御権行使の機会も十分とは思えない。両当事者を同席させての開廷の制度すらなかったようだ。弁護士もなく、ひたすら伝手を頼って有力者に会い、訴願する訴訟。裁判の公正の保障はなく、司法権の独立もなかった。そしてこの訴訟の遅延ぶり。気の遠くなるような民事訴訟制度である。

現行民事訴訟制度に不満は多いが、鎌倉時代と比較すればずっとマシ。人類の叡智の積み重ねはけっして小さくはないのだ。


2005年05月26日（木）
この国、相当にやばくなっている　　

「日の丸・君が代」各訴訟は、あれもこれも動き始め、走り出して、それぞれの準備に大忙しの状態。そのような実務的打ち合わせの中で、若い弁護士がふと漏らした言葉に実感がこもっていた。「この国、もう相当にやばいことになっているんじゃないの」

当然の憲法的価値だと思っていたものが、どんどん削り取られていく。思想良心の自由も、教育への権力の介入禁止も、男女平等も、自主・自律の原則も、表現の自由も、そして何よりもはつらつとした主権者としての精神が‥。上意下達・上命下服・面従腹背、それが教育の場でまかり通っている。これではいけないと、自分の意見を強く押し出す人には、刑事弾圧が待っている。いったい、いつの間にこんなやばいことになってしまったのか。

法廷で対峙する都教委の中枢にかつての全共闘活動家が少なくないことが話題となる。彼らは、革新都政の時代であれば、革新都政なりの官僚になったはずの人たち。上が変わればその風を読んで器用に自分を変えてしまうカメレオン諸君。風見鶏諸君、ヒラメ諸君、ロボット諸君。君たちは恐ろしい存在だ。この集団を哀れむべきなのか、それとも打つべきなのか。

そして本日、都教委は定例会で、０５年４月卒業式の不起立者９名とピアノ伴奏拒否者１名に対して減給・戒告の処分を決定した。中に、４回目の不起立者が含まれている。都教委は明日の処分発令のため、該当者に呼び出しをかけている。
本日の教育委員会では、「不適切な生徒指導」での厳重注意も決定されている。さらに、また「再発防止研修」命令である。なるほど、確かにこの国は相当にやばい。

が、この不当に憤り抵抗を続ける集団がある限り、まだ希望は残されている。この抵抗が終息してしまったとき、そのときこそこの国のやばさは本物になる。そうさせてはならない。つくづくそう思う。


2005年05月27日（金）
日民協理事会風景　　

本日は日民協理事会。珍しく、矢田部理さんが参加された。最近の憲法状況について、「無党派・改憲派にどれだけ切り込めるかが勝負。政党主導の運動には限界がある。政党色で色分けしない市民主体の運動を。それと、労働運動の再構築がポイント」とお話された。

冒頭、亡くなられた渡邉良夫弁護士（日民協・代表理事）への黙祷を捧げ、それぞれの偲ぶ言葉を交換。多くの人に頼られ、尊敬される人柄であったことがよく分かる。「歩く憲法判例」とか、「歩く憲法裁判」と言われていたことが語られた。「歩くカンパ帳」と言われる私とは大違い。

次いで憲法状況についての意見交換の後、「国民投票法案の上程を許してはならない」とする声明文採否についての議事。日民協の声明案は簡単にはまとまらない。執行部段階で吟味したものが叩かれて、何人もの人から修正案が出てくる。これをまとめるのは、一種の職人芸。こうすることによって通例文章の迫力は原案より落ちることにはなる。しかし、多くの会員の意見の集約点に到達する実感がある。この作業の後、クレームはほとんどない。

今回の声明案の修正についても、実は数日前から修文に頭が痛い。会員の意見は多様なのだ。小田中聡樹・佐藤昭夫・新井章と言った諸先輩の意見を取捨選択して案文をまとめなければならない。骨が折れるのもご理解頂けよう。

この声明文の骨格は、
※「日本国憲法改正国民投票法案」を、改憲策動の一環としてとらえ、その上程自体に反対する立場を明確にする。
※併せて、現在上程されようとしている自公の与党案が抱える問題点を指摘する。必ずしも明確に改憲反対の立場を有しない人々にも、改憲策動の危険性を理解してもらうために有益との立場から。味方を拡げる効果がある。
※指摘する問題点の第一は、刑罰をもってする国民投票運動への規制。とりわけ、マスコミに対する報道・評論の規制。これによって、「べからず国民投票法」とならざるを得ない。
※その他に投票制度についてのいくつかの問題の指摘。中で最大の問題点は、投票対象を事項ごとに個別のものとするか、発議された改正案全体について一括したものとするか。

この大筋に関しては、異論はなかった。しかし、いざ文言化するとなると、それぞれがイメージするニュアンスには、相当の落差がある。まとめには、相当の苦労を要する。それでも、ようやくまとまった。気の小さな私は、ホッと胸をなで下ろす。

７月１６日の総会について準備状況の報告があり、第１回法民賞の選考の概略について説明がなされ、「法と民主主義」４００号の記念行事の構想が語られ、次期の人事についても話し合われた。

最後に、理事のひとりが特別に発言を求めた。「井上薫という裁判官がいる。この人が書いた『司法のしゃべりすぎ』という書が一定の部数売れている。中身を見たら、めちゃくちゃな内容。あまりにひどい。こんなものを放置しておいて良いのだろうか」との問題提起。

以前私の日記でも紹介した、「あの、井上薫」の本である。多寡が知れている。まともに相手にしてやることもあるまい、というのが本音。が、一応検討することとなった。
ネットでは江橋崇さんが、この書物について的確で痛烈な批判を加えている。
http://www.geocities.jp/humanrightspolicy/book/007.html
この書評の紹介で足りるのではないか。あとは、井上裁判官の再任時期に不適格裁判官としての意見具申を集中しよう。


2005年05月28日（土）
憲法調査会報告書から何を読み取るべきか　　

いつも土曜日は予定がたて込む。本日も、第五福竜丸平和協会の理事会、予防訴訟を支える会の総会、教育法学会‥。そちらには不義理をして、「法と民主主義」７月号の座談会企画に。

小沢隆一・静岡大学教授、山元一・東北大学教授、只野雅人・一橋大学教授という若手憲法学者にご参集いただき、「両院の憲法調査会報告書から何を読み取るべきか」というタイムリーな企画。コーディネーター役の私は、３人の教授から個人レクチャーを受けるという贅沢。これは役得。

座談会は３部構成。まず、小沢さんから、「憲法調査会報告書の基本的特徴と憲法改正・平和主義をめぐる問題」について報告。
「調査会は、雑駁な調査活動のすえに極めて恣意的な操作による「多数意見」を創出して、改憲への道筋をつけた。しかし、それは確定的な道筋とはならなかった。最大の狙いは集団的自衛権の容認にあったが、堂々と海外派兵を正当化する論理には到達できなかった。結局は弱点を露呈した報告書となっている」との指摘がなされた。他のおふたりも、ほぼ同意見。

次いで、山元さんから、「立憲主義と人権をめぐって」と題する報告。
タイトルからの予想はこうだ。「自民党だけでなく民主党まで一緒になって近代立憲主義を崩壊させようとしている。権力行使の制約原理としての憲法から、国民にお説教する憲法への変身。その反映として、自由権的基本権が変容し国民の義務や責務を強調する論調が横行してきた」。ところが、そうはならなかった。
「近代立憲主義の妥当性を再度問い直してみる必要があるのではないか。『憲法を暮らしの中へ』という魅力的なスローガンは、国家に対峙する自由権的基本権を想定していない。企業や、家庭、地域社会で守られなければならない人権の権利性は国家に対するものではなく、近代立憲主義とやや遠い位置にある。環境権ともなれば、国家だけでなく国民全体の行為規範とすることに違和感はない。憲法の名宛人を、国家ではなく国民を含むものとすることに魅力を感じる」というもの。
刺激的な発言をめぐって討論。小沢さんからは、「社会権や平和の課題をも取り込んだ、現代的立憲主義」という言葉も飛び出した。

最後に、只野さんから「統治機構」を巡っての論点について報告。
政党条項・首相のリーダーシップ強化・「政」による「官」の統制・参議院改革・国民投票・天皇制のそれぞれについて言及。イギリスをモデルにした内閣中心構想が進展しつつある、とのこと。さすがに専門家。手際よいレポート。

本日の感想。
憲法改正の策動は、ひたひたと押し寄せてはいるけれども、けっして改憲勢力も自信をもっている訳ではない。改憲の作業は、けっして容易ではないのだ。具体化すればするほど、難しさも鮮明になってくる。わが国の平和運動、平和を求める国民意識の水準が、改憲を容易ならざる作業としているのだ。厳しいせめぎ合いではあるが、十分に展望はある。そのことが、改憲策動の主舞台と目論まれた憲法調査会の報告書から見えてくる。


2005年05月29日（日）
幻の３００００アクセス　　

当ホームページは健闘していると思う。
先日までは坂勇一郎さんが管理した敗訴者負担問題のコーナー、今は渕上隆さんの「中国残留孤児訴訟」コーナーが充実し、こまめに更新が繰り返されている。清水雅彦さんの映画評も、このホームページならではの特色を持った看板になりつつある。

法律家運動・人権運動のコーナーを増やしたい。コラムももっと増やして、日民協のサイトで運動の現状が分かるとまでしてみたい。それには、まずアクセス数の多いことが基礎条件。当面は、アクセス数３００００となれば、一人前と思っていた。

私のメモでは、「５／７　午後９時　２９０００」「５／１４　深夜　２９５００」「５／２２　早朝　２９８００」は確認している。ところが、５月２７日深夜に異常事態。カウントが突然２９５００に逆戻りしてしまっていた。２週間分がなくなった。おやおや。３００００アクセス達成はお預け。コンピューターだって、風邪もひく、気まぐれもあれば失敗もする。大したことではないが。

最近は、土・日も含めた一日の平均アクセス数は７０〜８０くらい。もう少ししたら、これを大きく伸ばせると思う。いくつもの魅力的なコーナーを作れそうだから。残留孤児訴訟弁護団のイメージで、「軒先貸します・作戦」に乗ってくれる運動体を募集中。

昨日、複数の方から、私の「日記」の更新がなかった、２７日の記事がない、とご指摘を受けた。２７日の記事はその日の内に書いていたのだが、操作ミスかコンピュータのご機嫌か、しばらくサイトにアップされていなかったらしい。「どうしました。疲れている様子で、入院でもされたかと思いましたよ」と。こんな面倒なコラムを読んでいただけるのは、まことにありがたいこと。

日民協事務局長の任期は、おそらく７月１６日の総会まで。それまでは、欠かさず書き続けることとしよう。


2005年05月30日（月）
「九条の会・杉並」の集会で　　

朝１０時から午後５時まで、板橋高校刑事弾圧事件の公判。証人調べは今日が初めてだが既に山場。威力業務妨害現場でＩＣレコーダーの録音をした都教委指導主事の尋問。本日では終了せずに、次回に継続となった。

「録音なら客観証拠」とはならない。操作の余地があり、意識的操作なくとも機械の特性で誇張や変容が生じうる。どのようにして録音されたか、偽造や変造のおそれはないのか。本当にこの録音を証拠として採用して良いのか、吟味が続く。尋問担当の加藤さんや若手の皆さんのご苦労はたいへんなもの。

次回までが、ＩＣレコーダーの証拠採否にかかわる証人の尋問。これが終了すれば、校長や教頭、保護者などの現場目撃証人の証言が続くことになる。

今日の尋問でも、つくづく思う。たったこれだけのことが犯罪として立件される世の中は恐ろしい。やはりどこかおかしい。有罪にさせてはならない。

報告集会を途中で抜け出して、「九条の会・杉並」の例会に。「改憲と教育・教科書問題」のテーマでの講演。本日の私の話は、岩手靖国訴訟を起こした菊池久三さんのことから。

久三さんは、戦前に教職に就いた。若い教員として情熱をもって子どもたちに臣民の道を説いた。その子どもたちが出征するとき、「生きて帰ると思うな。今度会うのは靖国神社だ」と言って聞かせた。戦後、聖戦は侵略戦争であることを悟り、多くの子どもたちを死地に追いやった自分を恥じた。金輪際、再び教壇に立つまいと決意したが、「本当に反省するなら、徹底した平和教育をすべきだ」という先輩教員に諭されて、戦後教育を担う群像のひとりとなった。「再び、教え子に武器を取らせない」という決意を身をもって実践し、退職後に靖国神社公式参拝を許さぬ訴訟の原告となった。

久三さんにとっては、侵略戦争加担への反省が自分の生き方そのものだった。戦争を起こした体制を弾劾し、その反省から出発した日本国憲法の諸原理を擁護することは、教員としての良心をかけた譲れぬ実践であった。これが歴史認識というものである。「平和を祈念するために、靖国神社に参拝する」「靖国で、再び戦争を繰り返さぬ誓いをする」　こんなことを聞かされたら、今はなき久三さんは、なんと言うだろう。軍国神社・侵略神社への歴史的反省が根本から欠けている。

「日の丸・君が代」も同じなのだ。本当に旧体制への反省あれば、「日の丸・君が代」強制など発想としてあり得ない。歴史・公民教科書の採択問題もしかり。教育現場が、憲法・教育基本法「改正」を先取りしている現状はたいへん危険。九条の会の活動に期待したい。

杉並には、既に九つの「九条の会」ができたという。本日のごとき集会が無数に積み重ねられて、改憲阻止の力になるのだろう、と実感する。


2005年05月31日（火）
石原都政の「暴走」　　

「法と民主主義」５月号の概要が、当サイトにアップされた。特集は「検証・石原都政─その暴走の構図」である。巻頭記事となっているのが、渡辺治一橋大学教授のインタビュー。暴走する石原都政の基本構図をみごとに解き明かしている。都政の見方についての教科書である。ご一読いただきたい。

この渡辺インタビューが総論を語り全体像を描く。その各論となって肉付けをしている各分野の論文も力作揃い。教育・治安・都市政策・福祉・排外主義・障害児政策・差別等々。最後に、「自治体東京都の否定へ向かう石原都政」というタイトルで、都の職員が現場から石原都政の危うさを述べている。

その末尾に、「石原のアキレス腱は側近のＨ」「知事は都庁にあまり姿を見せず、都政はＨによって壟断されている」「何が問題なのかさえ明らかでないが、都政の裏で不穏なうごめきが感じられる」「多くの幹部と職員はやる気をなくしている。内部からの瓦解も進行している」とある。Ｈが浜渦副知事であることは、今や誰もが知るところ。意外に早く、不穏な動きは顕在化した。瓦解も近いということではないか。

渡辺インタビューが分析する都政は、「おくれた国」に縛られない、「進んだ首都」の新自由主義的、新保守主義的政策の構造である。これが、石原の「差別丸出しの強い日本」思想に適合的だということにある。ところが、石原ー浜渦ラインはもっと低次元・低レベルで躓いているようなのだ。

「何が問題なのかさえ明らかでないが、都政の裏で不穏なうごめきが感じられる」と言われても困惑するばかり。分かるのは、渡辺治さんの解説とは違った意味で「石原都政が暴走」していること。

関心は次の２点。
(1) 浜渦のクビを切れば、石原無傷と言うことはなかろう。おかしな側近政治システムを作り、都政を混乱させた石原の責任はどうなるのか。
(2) 「進退伺い」を出した横山洋吉教育長はどうなるのか。「１０・２３通達」の発令者である戦犯横山の後任教育長の席には、鳩がとまるのか、それとも鷹が棲みつくか。

教育長は副知事格。裁判には何の影響もないが、これからの教育行政にとっては誰が教育長になるかが重大事である。このミニ宮廷クーデター、教育長人事に吉と出るか、凶と出るのか。

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