JDLAトップへトップへ

NHK番組改変問題に関する声明  
2005年2月4日

日本民主法律家協会
理事長 鳥生忠佑

 民主主義は世論による政治である。世論の形成には、教育と並んで報道のあり方が決定的に重大な役割を担う。それゆえ教育にも報道にも、不当な支配や権力的介入があってはならない。このことは、過去の苦い歴史的経験に基づくゆるがせにできない憲法上の原則である。

 今般の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の幹部である有力政治家二名(安倍晋三氏・中川昭一氏)がNHKに対する政治的圧力を行使し、その結果2001年1月30日放送の「ETV2001〜シリーズ戦争をどう裁くか〜第2回 問われる戦時性暴力」の番組内容が改変されたとの報道は、極めて重大なものとして看過し得ない。

 この1月12日付「朝日」の報道は、これを裏付けるチーフプロデューサーの内部告発記者会見、番組の被取材者であるバウネット・ジャパン側のコメント、その後の取材経過に関する「朝日」自身の説明記事などによって信頼性を補強されている。番組改変の具体的圧力があったとする疑惑は払拭し得ない。しかし、当該の政治家らは、いずれも番組改変の圧力をかけたとする事実を否定している。問題の重大性に鑑み、政治家やNHK幹部らが否定する部分については、今後透明性を確保された場で徹底的に事実究明がなされなければならない。

 朝日の報道記事においては、各当事者に争いのない部分もある。二人の政治家は、いずれもNHK幹部との接触は認め、当初放映を予定されていた番組の内容を知っていたこと、それに不快感を有していたことまでは隠そうとしていない。これだけで、問題ありというに十分である。

 安倍氏に至っては、自分のホームページで「…明確に偏って(ママ)内容であることが分かり私は、NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した」と明らかにしている。政権与党の要職にある政治家が、NHKの幹部に対して、放送直前の番組の内容に関して、「偏向」との評価を前提に「公正中立」を求めたというのである。不当な権力的介入と解するほかはない。憲法が検閲を禁止し表現の自由を保障し、放送法が目的に「放送による表現の自由確保」「健全な民主主義の発達に資する…こと」(1条2・3号)を謳い、「放送番組は、…何人からも干渉され、又は規律されることがない」(3条)と放送番組編集の自由条項を設けた趣旨を軽んじてはならない。

 また、この事件についてのNHK側の弁明の過程で、NHKと政権与党議員との日常的な癒着の実態を露呈したことも看過し得ない。この現状では、NHKが「大本営発表」として軍や政府のスピーカーとなった時代を繰り返すのではないかとの危惧を禁じ得ない。

 なお、今回改変対象となった番組が、「戦時性暴力」についての報道であったことが問題の根底にある。安倍・中川両氏らには、慰安婦問題を歴史教育で教えること、NHKが報道で取り扱うこと自体を嫌忌する姿勢が見える。しかし、歴史に目をふさぐことこそが著しく不公正である。論評は視聴者である国民に任せるべきであって、国民への事実の伝達の遮断や歴史を改竄をしてはならない。とりわけ、日本国憲法が立脚点としている先の大戦における惨禍から目を覆うことは許されない。戦時性暴力の被害者・加害者の証言をことさらに番組から削除したことは、歴史に対する冒涜行為と言わねばならない。

 当協会は、安倍晋三・中川昭一両氏とNHKに対して猛省を求めるとともに、今後かかる事態を起こすことのなきよう厳重に警告するものである。



©日本民主法律家協会