日民協事務局通信KAZE 2004年1月

 密室作業を許せば足をすくわれる

(副理事長 有村一巳)

 本号は日民協司研集会の特集号である。今回の司研集会には私の妻も参加したので、彼女の率直な意見も聞いて、感想めいたものを書いてみたい。
▼まず、日民協の司研集会に、法律家団体や法律関係団体・個人が幅広く参加・結集してくれたことの意義である。今回も日弁連の委員をはじめ、裁判官ネット、自由法曹団、青法協、労働弁護団、全司法労組、全国青年司法書士協議会、市民オンブズマン、市民の裁判員制度つくろう会、国民救援会などから、よく準備された貴重な報告と、多くの資料をいただいた。それは、「ここまできた司法改革・これからの課題」を検討するのに欠かせない条件であった。時間に比して課題が多く、論議が充分深められたとはいえないが、現状と問題点を俯瞰できたことはよかったし、ありがたいことであった。
▼集会の最初に「ここまできた司法改革と法科大学院構想の現実」と題して龍谷大学の村井敏郎教授が話をされた。龍谷大学は、市民の立場に軸足をおいた民主的法曹の養成、憲法と人権を守る理念重視を強く打ち出した法科大学院の設置申請をしており、同教授はその設置準備委員長として先頭にたっておられたが、「不認可」とされた。
 当局の説明によると、「設置基準は満たしているが、予備校主導の疑念を払拭するに充分な説明が尽くされていない」との理由だったらしい。聞かれれば説明を尽くす用意はあったはずで、聞く耳もたず不認可としたのは、その理念・姿勢が当局の意に沿わなかったためで、見せしめとしか考えようがない。この点、会場発言でも多く指摘されており、今後の当局の姿勢に対し、厳しい国民の目が注がれることになった。
▼裁判官ネットワークの報告はとりわけ興味深く聞いた。残念ながらマイクを通しての声が小さく、後ろの人はよく聞き取れなかったかもしれない。
 「裁判官ネットは当初二一人で出発したが、現在は二六人。サポーター三四人、ファンクラブ会員一七六人である」と話された。「開かれた司法の推進と司法機能の充実強化に寄与することを目的」として結成された同ネットの加入者はもっとふえていいはずなのに、これはいったいどうしたことか。
 「裁判官懇話会への出席は、最近は五〇人前後と少ない。〇二年の懇話会に現職の最高裁裁判官二人、地裁・家裁所長二人が参加した」とも語られたが、これらの現象はいったい何を意味しているのだろうか。
▼弁護士費用の敗訴者負担の問題は、日弁連や国民的な反対運動のなかで、「原則導入」の線は阻止でき、「訴訟当事者の同意」を条件に敗訴者負担を導入する方向で進んでいるという。民事司法の改革では、市民に大きく門戸を開き、アクセス促進を図ることが最重要課題だったはずである。この基本理念からすれば、弱者が提訴に二の足を踏むような制度導入は論外である。特定分野の適用排除や、技術的な当事者の同意云々に道を開けば、それを足がかりにした権力側の新たな策動が始まるだろう。
 裁判員制度についても、職業裁判官三人に対し裁判員は四人などという意見が強く出され、いろいろ規制する方向でとりまとめが進められていると聞く。これでは国民参加が形式的で見せかけだけに終わり、かえって危険なものになる。裁判官に対する裁判員の人数比を大きくし、対象事件や手続きへの関与、評議、評決のあり方等について、裁判員の関与を広げる必要があると思う。
▼先に行われた総選挙において、財界は、政権交代可能な二大政党論を喧伝し、財界の期待する政策をどれだけ受け入れるかによって各政党を採点し、企業献金を配分するという露骨な政党支配、政治支配の方針を打ち出した。司法改革についても、財界は同じようなことを狙っていた。彼らのこの狙いは、司法改革が法案作成・国会提出の段階にいたって、より巧妙に執拗に進められている。作業が国民の目の届きにくい密室的な場所に移っているだけに、作業の進行状況の把握と国民への警鐘乱打が不可欠である。


戻る

©日本民主法律家協会