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07.1.30東京地裁判決の要点QアンドA

Q1 07.1.30東京地裁判決の内容を一言で言うとどういう判決ですか

A 判決内容を一言で言えば、「意に反して海外に留め置かれた日本人同胞について、国家はその早期帰国の実現をはからなくてもいいし、帰国後に支援しなくてもいい」というものです。
この理屈でいくと、国は北朝鮮拉致被害者を救出する義務もないし、帰国後に支援する義務もないことになります。それほど東京地裁の判断は、国民意識や社会常識に反するものと言わざるを得ません。判決は随所に「法的判断」を強調していますが、「法的判断」が国民意識や社会常識からかけ離れていいわけがありません。神戸地裁判決(06.12.1)は、孤児の帰国を制限する国の措置を違法と判断しましたし、結論的には孤児たちの請求を認めなかった大阪地裁判決(05.7.6)も、「帰国を希望する残留孤児のために早期帰国を実現させる施策を立案実行すべき」義務があったと判断しています。こうした点からも、今回の判決は、非常に特異な判断です。


Q2 判決は、残留孤児が発生した原因についてどう認定しているのですか

A 満州国の建国、移民政策、ソ連参戦を前にした関東軍の密かな撤退、終戦時の民間人の置き去りなどの一連の国策が、残留孤児を生み出した原因であることは、歴史的事実であり、大阪地裁判決・神戸地裁判決でも認定されている事実です。神戸地裁判決は、これを「無慈悲な政策」と述べました。
 ところが、判決は「法的因果関係」がないとして、それを否定し、何とソ連の侵攻だけを取り上げて孤児発生の原因としました。だから、国には救済する義務がないというのです。しかし、これまた「法的判断」の名の下に歴史事実に目をつぶるものであり、とうてい受け入れられません。


Q3 どうして判決は国交回復後まで帰国させなくてよいというのですか

A 判決は国交回復の時点では、既に26年以上経過しているので、既に「損害の発生という結果が生じてしまっている」とし、いかにも今さら手遅れだから、帰国を実現しなくてもいいと言わんばかりの判断をしています。
 とんでもありません。72年の国交回復から本格的に帰国が始まった85年までの13年の遅れは孤児たちに重大な被害を与えました。帰国が遅れるにつれて身元未判明および生活保護受給の率が高くなることも明らかです。
 さらに驚くべきことに判決は、大量に帰国させると、「国内で混乱と厳しい批判の生じるおそれ」があるとまで述べています。祖国に帰りたいという孤児の切実な願いと「国内の混乱」といったいどちらが重要だというのでしょうか。


Q4 判決が孤児の被害補償を認めなかった理由のポイントは何ですか

A 孤児の被害は戦争損害である、戦争ではみんなが損害を受けたのだから孤児といえども受忍すべきだ、というのです。
 しかし、孤児の被害は、歴史的には戦争に起因する被害ですが、より本質的には戦後の日本の政策による被害です。日本社会で育った日本人なら、どんなに貧しくても、どんなにハンディキャップを負っていても、少なくとも、日本語・日本の生活習慣・家族や友人関係など、日本で社会生活を送る基本的な能力・資質・人間関係を身につけています。しかし、孤児らは、戦後長期にわたって中国に置き去りにされたため、日本語や日本の生活習慣を身につける機会を全く与えられず、日本における人間関係を形成できず、何の財産もないまま、日本での生活を始めることを余儀なくされました。
 孤児たちが要求する「孤児独自の給付金」は、いかなる立場にある国民でも、戦後多かれ少なかれ享受することができた戦後復興の恩恵を孤児にも還元するものです。従って,戦争被害一般に対する補償とは全く趣旨を異にします。


Q5 判決はどうして孤児の生活支援をしなくていいとしているのでしょうか

A 判決は国に早期帰国実現義務がないのだから、帰国が遅れたことによる生活困窮を助けなくてもいいと判断しています。
 しかし、義務や義務違反の点をおくとしても、少なくとも戦後の政策によって帰国が遅れた孤児に対し、生活支援をしなくていいわけがありません。
 判決は生活保護で処遇しているからそれでいいとも述べています。これは国の主張の全くの引き直しです。孤児たちは、中国では社会人として立派に役割を果たしてきた人たちであり、能力もプライドも持っています。しかし、帰国の遅れと自立支援政策の不十分さの結果、その能力が活かせないために、生活苦に陥っているのであって、本来なら自立して生活できる人たちなのです。そのために、孤児たちは生活保護を受けること自体に強い屈辱感を感じるとともに、人間として、あるいは国民としての尊厳を傷つけられている現状を何とかしてほしいと訴えているのです。