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東京地裁627号法廷で 

渡邉修孝さんの代理人として、裁判所と被告国に申し上げる。

被告・国は、反訴をもって、原告渡邉にバグダッドからアンマンまでの航空券購入費と、アンマンから成田までの航空券日付変更費用の立替金計2万3576円の支払いを求めている。しかし、原告はその支払いの根拠とされる委任契約は成立していないものと考えているし、そもそもその支払い請求が、「自己責任論」バッシングに悪乗りした、不公平な取扱いと主張している。

被告・国は、不公平な取扱いをしたものでないという根拠として、今回乙18号証を提出した。2004年6月29日付の「犯罪や危難等に遭遇した日本国民に対する保護や援助にかかる費用の求償に関する答弁書」と題する内閣総理大臣の国会質問答弁書である。

これによると、消防・警察・自衛隊の国民保護の活動に関して「これらは、いずれも本来的に各機関が行政としての責任を果たすべき業務として行っているものであり、保護や援助を受けた国民に対してその活動に要した費用を請求することは想定されておらず、これまで当該費用を請求した事例は承知していない」と言っている。

また、「海外における我が国の国民の生命及び身体の保護等の事務の遂行に当たって、政府が要する経費については、これをその者に請求することは想定されておらず、政府が負担することとしている」とも原則を述べている。

まことにもっともで、常識的な理解と一致した政府見解である。本件渡邉の場合も、「本来的に在外大使館が行政としての責任を果たすべき業務として、被告が危難からの「救出」「保護」という公法上の責務を遂行したものであって、保護や援助を受けた原告に対してその活動に要した費用を請求することは想定されていない」のである。

国が、乙18を持ち出した趣旨は、「我が国の国民が海外で、危険に遭遇した場合、緊急事態において国民の輸送にチャーター機を利用する場合は、原則として正規のエコノミークラス料金分の負担を当該国民に求めており、平成11年以後、政府チャーター機を利用した例は3件あるが、いずれの場合にも後日支払を受けている」という個所の援用である。

このような事実は、まったく国民に知られていない。「我が国の国民が海外で、危険に遭遇し、緊急事態において国民の輸送にチャーター機を利用する場合」が、大きな話題とならないはずはないが、一般人にはどの事例であるか見当もつかない。本件に先例として引用するにふさわしい事例であるのか否かもまったく分からない。

いかなる事例について、どのような顛末であったかを明示せずに、自己の主張の挙証に有利な事例として引用することはまことにアンフェアである。事例の特定と経過の詳細を明示されたい。

なお、乙18は、政府チャーター機を利用した3例について、「いずれの場合においても、あらかじめ負担について了解を得て、後日支払をお願いした」と言っている。費用負担について明示の合意があったとすれば、格別に問題はない。いうまでもなく、本件渡邉の事例はチャーター機を調達したものではなく、事前の費用負担の合意も欠く。被告の主張との関連性について明らかではない。

かねてから、原告は国に対して、釈明を求めてきた。
これまでの在外邦人を危難から救出した典型例について、帰国費用の負担をどのように処理をしてきたのか。また、今回の乙18号証が引用している事例ではどうだったのか。これだけ、不公平取扱いの疑惑が濃厚だと主張しているのに、どうして疑惑を晴らそうとしないのか。すべての資料は国の手にあり、提出に差し支えの事情も考えられないではないか。釈明に応じることこそ、行政の透明性を確保し、説明責任を全うする所以ではないか。このような事態で、飽くまで釈明に応じられないのでは、不公正に取扱いあったことを事実上認めるに等しいと言わなければならない。

是非とも、公益の代表者にふさわしい態度をもって、次回までには誠実に釈明に応じられたい。