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2004年03月01日（月）
５０年目の「ビキニデー」

今日は「３・１ビキニデー」である。１９５４年のこの日、マーシャル諸島ビキニ環礁でアメリカが行った水爆実験の被害が出た。あれから５０年となる。

焼津を母港とする遠洋マグロ船・第五福竜丸が死の灰を浴びて、機関長・久保山愛吉さんが亡くなった。原爆の被害についての記憶新しい国民に、水爆実験の放射能被害はたいへんな衝撃だった。
当時私は小学校４年生。焼津に程近い清水市の小学校に通っていた。原爆マグロ、放射能の雨、ガイガー計数管、白血病などの言葉を薄気味わるくきいた。

鉄腕アトム世代の私は、科学の進歩が人類の幸福に結びつくものと信じていた。ところが、身近に起こった水爆の被害は、子供の心にも、科学に対する警戒の念を抱かせた。私は、小学１年生は広島で過ごしている。原爆も水爆も、絶対悪として根絶しなくてはならない、時代の思想としてそう確信し今なお変わらない。

私は今第五福竜丸を保存する、「財団法人第五福竜丸平和協会」の監事を務めている。美濃部都政の時代にできたこの船体の展示館に、毎年多くの人々が見学に訪れ、水爆被害の証言者である船体を見つめる。原水爆禁止運動と平和教育の貴重な場となっている。
鈴木都政時代も、青島都知事時代も、この展示館の存続を危ぶむ必要は全くなかった。しかし、石原都政では話が別である。「日本の軍隊は強いんだから」と言い、反核運動にあからさまな敵意を示すこの知事のもとでは、第五福竜丸展示館の存続を意識した運動が必要である。多くの世論を味方にするしかない。


2004年03月02日（火）
都教育庁への申し入れ

今日から都立高校の卒業式が始まる。
昨年とは打って変わった緊迫した雰囲気の中、「日の丸・君が代」強制貫徹が課題の式となる。日の丸を掲げ、君が代を唱う卒業式をやめよというのではない。個人に強制することをやめよと言っているのだ。それすら、聴く耳を持たないのが石原都政であり、その麾下の教育行政なのだ。憲法を持つ国に、信じがたいこの愚行。時代はどこに漂いつつあるのだろうか。

午前１０時１０分、都教委教育長宛の文書を持参して、予防訴訟の弁護団５名が教育庁に出かけた。対応したのが桐山靖彦という「教育情報課」の課長。
「１０・２３通達は違憲違法で無効だ。『日の丸・君が代』の強制はやめよ」「承って、所管に伝えます」「訴訟を提起した。この件については、弁護団が受任している。一切直接に原告本人に接触することなく、弁護団を通せ」「所管に伝えます」「周年行事では、あたかも被疑者の取り調べのごとき事情聴取が行われている。弁護団が対応するから必要あれば、弁護団事務局に連絡せよ」「申し入れがあったことは伝えます」「１０・２３通達は、卒業式に参列する保護者・生徒を拘束するものでないと思われるが、その点を確認したい」「私には回答の権限がありませんのでお伝えしておきます」「回答をいただきたい」「お伝えすることは約束いたしますが、回答するかしないかは所管の判断でしょう」

この辺から、雰囲気がとげとげしくなった。「あなたはＦＡＸか」「わざわざここまで来たのは、ファクスと話をするためではない」「ファクスを取り扱う人間を出せ」「そうやって、責任逃れをするのが、あなたの仕事なのか」「ファクスと呼ばれるのが不満なら防波堤か」「重要な問題で、緊急の申し入れに来ているのだ。誠実に応対しろ」「回答の権限はありません。取り次いだ先での対応がどうなるかは存じません。それはないだろう」「それが公僕としてのあり方か」

公僕という言葉が出たところで、桐山はせせら笑った。「あなたの名前を覚えておこう。公僕と言う言葉にせせら笑ったことを確認しておきたい」と言ったら、「見解の相違です。せせら笑ったのではありません」と言う。せせら笑ったのでなければ、冷笑か、嘲笑か。話にならん。馬鹿げた４０分。

私は以前何回か、「日の丸・君が代」問題で教育庁指導課に来ている。意見の一致はなかったが、それなりに意見交換はできた。ひたすら、かわそうとするだけの誠実さのカケラもない対応に、憤りを禁じ得ない。

弁護団事務局長の加藤文也さんから、後刻連絡をもらった。
「午後４時３０分ころ、桐山課長より、私の東京中央法律事務所に電話が入り、『自分のほうは、言われたとおり伝えたので、その旨連絡を入れた』と言ってきました（極めて官僚的な言い方で）。　そこで、今度は私のほうで、教育庁指導課のタツミ課長宛に電話を入れました。指導課ののサイトウという課員が電話口に出たので、当方の立場を説明し、タツミ課長に繋いでほしいと話したところ、『少し、待ってくれ』と言われ、大分待たされた上、『タツミ課長は現在会議に出ており
、当分電話に出ることができない』と言ってきました（居留守を使った可能性あり）。そのため、やむえず、サイトウという課員に、確認を求める趣旨を伝え、明日までに書面で伝えるよう申し入れました（サイトウという課員は、タツミ課長に伝えておく旨話しておりました）」

これが、われわれが付託している都の行政の実態。われわれが払っている税金で仕事をしている都教育庁の役人の実態なのだ。


2004年03月03日（水）
小沢教授講演

本日は日民協の理事会。まずは、憲法状況の学習会と意見交換会。本日の講師は、静岡大学の小沢隆一教授。「改憲阻止運動の歴史的意義を考える」と題して、憲法論議の幕開けにふさわしい、憲法状況の大きな絵柄を語っていただいた。

いま、世界の情勢の基底を形作っているものはアメリカが主導する「グローバル市場秩序」。イラク戦争の目的は、その維持安定にある。そして、イラク戦争を可能とした条件として、アメリカの軍事力の圧倒的優位性がある。そこで行われている非対称的な戦争は、伝統的な安全保障システムである国連憲章や相互防衛同盟を破壊しつつある。

さて、わが国の自衛隊派兵に象徴される極端な対米追随の姿勢は歴史的な条件の元に形成されてきたが、ここから脱却する道はどのように開けるか。まずは、アメリカではなく、アジアと向き合うこと。北朝鮮問題を平和的に解決して、アジアにおける多国間主義、相互依存的な友好関係を築くことがその一歩であり、さらに、「安保なき９条」こそ、対米追随を終わらせる真の道である。

今財界は、危険な「対米従属路線の継続としての新自由主義＋海外派兵・改憲」を構想している。これに対抗する９条こそが、グローバル市民運動と結びついた国連システム再生の源泉となる。

現代資本主義論、国家論から説き起こしての憲法論。憲法運動論。この上なく、スケールの大きな話。こんな要約で、分かってもらえるかな。無理だろうな。意を尽くして語れるほど、私の理解がしっかりしていない。

うーん、いつもは明快で分かりやすいお話の小沢さん。今日は、私の消化酵素不足から消化不良、よくこなれない。部分、部分はよく分かるのだが、全体の構図がよく飲み込めない。「分かった」という気になれない。それでも、分かる人には分かるのだ。学者を中心に活発な意見交換がなされた。「法と民主主義」の４月号にこの講演録が載る。再度、咀嚼してみよう。


2004年03月04日（木）
追悼　鏡里喜代治

元横綱・鏡里喜代治が亡くなった。懐かしい名がまた一つ消えた。私は、玉錦・双葉山は知らない。現役時代の照国・羽黒山も知らない。知ってる力士は、東富士、吉葉山、千代の山、鏡里以後だ。好きな力士は動きの激しい栃錦だったが、少年雑誌のグラビアや白黒テレビで力士の美学の見本だったのは鏡里。取り組みの印象は薄い。しかし、目をつぶっての蹲踞の姿勢がいつもまことに美しかった。私の力士のイメージの原型である。あの太鼓腹が象徴するものは、格闘技やスポーツとしての相撲ではない。大相撲の様式美だった。

私の育ったころ、男の子は誰もが相撲をとった。地面に棒で円を描けばそこが土俵。変わりばんこに力士と行司役を繰り返した。相撲が強くなければ大きな顔はできない。夢中になって、栃錦を真似てもろざしの練習をし、千代の山を真似て突っ張りをした。玉の海の櫓投げ、琴ヶ浜の内掛けをマスターしている技巧派もいた。
私は、子どもの頃相撲だけはたいへん強かった。同級生にはほとんど負けたことがない。体の大きな子にも不思議に勝てた。相撲大会の賞状も、何枚か残っている。

膨大な素人相撲人口に支えられて、かつての恒常的な大相撲人気があった。いま、子どもたちは相撲などとらない。相撲人気は、確実に衰退していく。おそらく、モンゴルの子は、今でもモンゴル相撲をとるのだろう。そして、勝者が尊敬されているのだとおもう。朝青龍が生まれる素地があるのだ。

相撲人気復活の決め手は国際化だ。真に世界に開放された大相撲は魅力的ではないか。「日の丸・君が代」などというつまらないことはやめてしまおう。表彰式には、優勝力士の個性的なテーマソングがふさわしい。落語家に、それぞれの出囃子があるごとく、その力士の旗と曲をえらばせたらよい。双頭の鷲が掲げられ、インターナショナルがなる国技館、たいへんけっこうではないか。

ついでに、「神聖な土俵に女性はご法度」などというつまらぬ因習にこだわるのもやめよう。力士の身長・体重の表示を尺貫法から、メートル法に変える際にも抵抗があった。これも伝統と言うわけだ。しかし、変えてしまえばなんということもない。まことにすぐに慣れたものだ。伝統なんて、そんなもの。

鏡里の美学は既に歴史上の存在となった。その死を悼む。鏡里も、失われた時代も、ともに再び戻ることはない。


2004年03月05日（金）
「日の丸・君が代」強制の時代

今朝、朝日の投書欄を見て驚いた。先日まで私の依頼者だった方の投書が掲載されていた。「苦しむ教師へ網野氏の言葉」と題する歯切れのよい文章。さすがに、元国語の先生。歴史家の網野善彦さんに「日の丸に敬礼し、君が代を歌え、それに従わなかったら処分するといわれたらどうなさいますか」と質問したことがあるという。

一瞬の後、言葉を噛みしめるように答えてくれた。「僕は、処分を覚悟で反対するでしょうね」。断固とした信念のこもった答だった。

この投書を見て、さっそく敬意を表明するメールを発信、すぐに回答が来た。
「気がついてくださって嬉しいです。私なりの援護射撃をしたつもりです。…健康に気をつけて、正義の勝利をかち取ってください」というものだった。何とありがたい。身近に、志を同じくする人がいる、援護射撃をしてくれる人までいる。感慨ひとしお。

「世界」の４月号が届いた。店頭に並ぶのは８日になるとか。
特集のタイトルが『「日の丸・君が代」戒厳令』というものである。編集者が特集記事を事前に読んで、ふさわしい表現として選び取ったのが「戒厳令」なのだ。
早稲田の西原博史さん、ジャーナリストの斎藤貴男さん、教科書ネットの俵義文さんらと並んで、私も８ページ書いている。『現代版「踏絵」を許してはならないー「国歌斉唱義務不存在確認請求訴訟」の試み』という論題。読み返してみて、分かりやすくまとまった文章になっていると思う。できれば、多くの人に読んでいただきたい。

そして夜は古巣の東京南部法律事務所からの呼び出しで、太田憲法スクールでの講演。これも「日の丸・君が代」問題。一応私がメインの講師なのだが、周年行事で処分された教員の報告が現場の重い雰囲気を伝えて生々しい。フロアーからも「明日は私の学校の卒業式。処分を覚悟した行動をとらざるを得ません」という発言がなされる。
時代の空気を反映して、切実な緊迫した集会。ふと、無力感を抱かざるを得ない。そして、何とかしなければと自分を励ます。


2004年03月06日（土）
私に俳句が作れたら

余寒の中で迎えた啓蟄だが、光は既に春である。
庭の沈丁花が咲きほこり、梅に代わってスモモの花が開花を始めた。
心なしか、聞こえる囀りも春めいてのどやかである。
句作の心得あれば一句吟じたいところだが、情けなくもそれができない。

父は、短歌も俳句もものしていた。折に触れて作を見せられたが、出来具合のほどは分からない。常々、「短歌に比べると、俳句は数段難しい」と言っていた。それは、そうだろう。

父の兄は句集を編んでいる。孝行息子たちが句碑を建ててもいる。私の妹や弟も、歌を詠み、句を作る。私だけが何もしない。できない。
歳時記は座右にある。めくってみるのは楽しい。人の句に感心することしきりだが、句作は自分にできる業とは到底思えない。おそらく生涯このままなのだろう。

小学生のころだったか、中学生になってからか、
　
　月光ほろほろ風鈴にたはむれ　

という荻原井泉水の句にいたく感心したことを覚えている。自由律というのも気に入った。これなら作ってみたい、とは思ったものの、幾十年そのまま。そこが凡人の凡人たる所以。

蕪村が好きだ。一茶も面白い。田辺聖子の著作を通しての杉田久女も魅力的。ブームになっている山頭火にも興味がつきない。芭蕉があれほど尊敬されるのは、私にとっておおきな謎である。

世の中には、心惹かれるもの、美しいもの、奥の深いものが無尽蔵にある。触れずに通り過ぎるのが、いかにも惜しい。


2004年03月07日（日）
「住居侵入」と「国公法違反」

時代のイヤーな雰囲気を象徴する事件が続く。

２月２７日早朝、立川警察署は「立川自衛隊監視テント村」のメンバーの自宅など６カ所を家宅捜査し、３名の人びとを逮捕した。１月１７日に「イラク派兵反対を呼びかける」チラシを、自衛官も住んでいる官舎に配ったことが「住居侵入」になるというこのである。（ＷＯＲＬＤ　ＰＥＡＣＥ　ＮＯＷの声明から　本ウェブサイト「ひろば」参照）
革新政党の選挙チラシ配布や、オウムのビラ入れ、天皇制批判行動などが住居侵入で弾圧されてきた歴史がある。これまでは抗議行動の積み重ねで恣意的な捜査を押さえてきた。有効な反撃がないと止めどなく、後退を余儀なくされる。

続いて、国家公務員法違反である。
昨年の衆院選で「しんぶん赤旗」号外などを配布した行為を「国家公務員法違反容疑」（政治的行為の制限違反）として、社会保険庁の職員が逮捕され、自宅や共産党地区委員会事務所など計６カ所の家宅捜索が行われた。おそらくは、組織関係の書類が根こそぎ持って行かれたのであろう。

かつて「法と民主主義」は、「行政と立法に『ノー』と言えない最高裁」という特集を組んだことがある（Ｎｏ.343、1999年11月号）。「最高裁が、憲法の番人としての役割を十分に果たしてこなかったために、社会をこれだけおかしくした」というコンセプトである。そのなかに、猿払事件がある。

北海道宗谷郡猿払村の郵便局に勤務する郵政事務官は、１９６７年の衆議院議員選挙で、社会党の選挙用ポスター６枚を公営掲示場に掲示し、約１８４枚を配布して掲示するよう依頼した。これが、国公法１０２条および人事院規則１４−７（６項１３号）に違反するとして起訴された。
一審旭川地裁は、これを無罪とした。「非管理職の現業公務員で、職務内容が機械的労務の提供にとどまるものが、勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ、職務を利用したり、公正を害する意図なく、労働組合活動の一環として行った行為にまで刑事罰を科すと定める国公法１１０条１項１９号は、そのような行為に適用される限度において、制裁として合理的な必要最小限度の域を超えるため、憲法２１条・３１条に違反する」という、適用違憲論を採用したものである。札幌高裁も、検察側の控訴を棄却した。

ところが、最高裁は大法廷でこれを逆転して、破棄自判して有罪とした。罰金５０００円の刑が確定した。「上に行くほど悪くなる」法則の典型だった。

その説くところは、「公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益…。公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところ…」「意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは…単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎない」「禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要」。こう論法を、世間では詭弁という。

要するに、どんなに立派な憲法があっても運用次第でどうにでもなるのだ。最高裁とは、政権政党の思惑に合憲のお墨付きを与える、「便利屋」「法律技術提供者」として機能してきた。憲法の理念を支える国民の権力批判が必要なのだ。


2004年03月08日（月）
教職員に受難の春

　一片の通達により処分さる吾が生の意味問うてみむ春

　最後なる一人のために不起立は黙約となるそのひとりゆえ

作者は田中造雅。存じ上げないが、現役の教員であろう。「一片の通達」にたじろぐことなく、自分の生き方の重さを確認しようとする静かな決意が伝わる。
「黙約」とは、内なる神との契約だろうか。これまでの自分自身との約束だろうか。踏み絵を強要されても、けっして踏むことはできない。最後のひとりとなっても、自分が自分である以上…。と言うことであろう。

卒業式に「日の丸・君が代」強制反対の意をこめた「ハートブラウス」を着用したことで戒告処分とされた、大泉養護学校教員の渡辺厚子さんを支援する機関誌に掲載された２首である。

三十一文字が、かくも訴える力をもっている。薄汚れた「日の丸・君が代」への拒絶の意思が凛乎として伝わる。私も歌を作れたら、ギリギリの思いを歌に綴れたら、と思う。

多くの教職員にとって受難の春である。石原都政は罪が深い。


2004年03月09日（火）
予防訴訟の位置づけ

尊敬する先輩弁護士から、メールで貴重なご意見をいただいた。ある集会で私の「予防訴訟」問題でのレポートを聞かれてのもの。こんなに、真剣に対応していただいて、なんとありがたいことかと思う。長文の一部を、抜き書きさせていただく。なお、文中「先生」とは、外ならぬ私のことである。

（前略）ところで、外観（格好）では起立し歌いながらも、内心では日の丸、君が代に反対する教師の態度・行動の評価について、先生は「転向」の「政治的効果」に言及され、それでは「外堀」を埋められ、起立・斉唱を拒否した教師が処分されることが横行し、やがては「もの言わぬ教師」ばかりとなってしまうことの危険性を御指摘されました。
内心では、日の丸、君が代に反対しながらも（その反対の立場、思想については、いまここでは問いません）、起立せず、あるいは歌わないことによって、当局から不当処分を受けることによる経済的苦痛、累次の処分を重ねて分限免職処分をされるのではないかとの不安等々から、やむえず起立・斉唱をしてしまう教師は、たくさんいるのではないでしょうか。私にはこのような教師が最も多いのではないかと考えます。
　そこで「転向」の「政治的効果」を上記のごとく先生が御指摘されることは、多くの心ある教師が、この訴訟に参加することを拒否してしまうことにならないでしょうか。それは先生の本意でもないと思います。
教師としての全人格・存在をかけて、日の丸・君が代に起立・斉唱を拒否する行動を選択する教師の歴史認識に基づいた行動に、私は本当に敬意を表しますが、このような選択をすることのできる教師は、数少ないのではないでしょうか。
この訴訟は、このような立場・行動を選択したことにより不当処分を受けた「少数・精鋭」の教師の処分取消訴訟を起し、そのための運動を展開するなかで、日の丸・君が代に反対する国民的運動を提起しようとしているのでしょうか。
　私は、この訴訟が不当処分を発動させない「予防訴訟」に、やむえず起立・斉唱を選択した多くの教師が原告として参加して、日の丸・君が代に反対する運動を豊かに展開すべき法的構成と運動組織が求められているのだと思います（もっともこのような訴訟がきわめて難しい訴訟であることは、いまここでは問題ではありません）。
「少数・精鋭の教師」のみが原告となるだけでなく、多くの教師もこの運動に参加できる訴訟として展開・工夫する必要があるのではないでしょうか。
　職務命令を拒否することを選択した原告も、拒否せずに職務命令を争う原告も、連帯してこの訴訟に参加することことを追求されるべきではないでしょうか。
職務命令にはやむえず従いながらも、その違憲・違法な業務命令により受ける権利侵害を基軸にした訴訟は、可能ではないでしょうか。
　内心では日の丸・君が代に反対し、日頃から教育基本法がかかげる教育目的の実現のために献身的に実践し、子供の権利条約が提起している子供たちが主人公として行われる卒業式をこころから願っていながらも、自らはやむえず起立・斉唱の行動を選択せざるをえなかった教師も、こころに深い権利侵害を受けているのです。
　都教委通達は、起立・斉唱した教師の精神的自由、教育の自由、子供達が主体的に教育を受け、自立した意思・判断能力を身につけていく権利を侵害しているのです。子供、父母、国民とともに教師が、君が代・日の丸を教育の場に強制することによってもたらされる問題を、全面的にあきらかにするたたかう運動主体としての原告の組織化、その法的構成のうえからも、卒業式等の場で起立・斉唱を拒否できない「もの言えぬ多くの教師」も参加できる訴訟にすることが求められているのではないでしょうか。（以下略）

全く同感。意見の相違はないように思う。予防訴訟は、「職務命令を拒否することを選択した原告も、拒否せずに職務命令を争う原告も、連帯して参加できる」ものとして、構想されたのだ。集会での私の報告が、十分に真意を伝えていなかったことについて反省しなけばならない。
私が「予防訴訟」という形式に魅力を覚えたのは、不起立を貫く「覚悟の人」だけの訴訟ではないということだった。この提訴は、心ならずも起立する人も、迷っている人も、ともに参加できる運動形態である。心ならずも起立した人に対して挫折感を残さない異議申し立ての手段でもある。

不起立者による事後的な処分取り消し訴訟では、それこそ英雄的に闘った少数者の訴訟となってしまう。心ならずも起立を余儀なくされた者には敗北感だけが残されることになる。そして、孤立した例外を除いて大多数が恭順の意を表したという政治的効果が積み重ねられる。「予防訴訟」なら、多くの人が参加でき、挫折感のない異議申し立てができる。「もの言えぬ多くの教師」も参加できる訴訟としての長所があると思う。

ただ、「もの言えぬ多くの教師」が、物言わぬままに終わってはならないと思う。処分覚悟の不起立ではなくとも、何らかの異議の意思表示が必要ではないか。一歩ではなくとも、半歩でも前に進むことが求められている。一人の一歩も、１０人の半歩も、ともに必要なのだと思う。

私は、処分される立場にない。だから、ものを言う資格はないとは思わない。ものを言いやすい立場にある分だけ、余計にものを言わねばならない。それぞれの立場で、全体として前進できる運動が求められているのだと思う。


2004年03月10日（水）
一日遅れで書いてます

この記事は１１日に書いている。
午前中にある人と面会した。「事務局長日記、昨日分の記載はありませんでしたね」との指摘。そう、１０日はせっぱつまった仕事で日記を書けなかった。１１日の午後にこれを書いている。

毎日書くのは確かにしんどい。しかし、一日抜かせば、原則が崩れていく。何とか追いついて、連続掲載を続けたい。一種の強迫観念だ。

私は酒をやめた。もう４年になる。最初は、あれほど飲んでいた私が急にやめたことが仲間内での話題になった。が、今は誰も当たり前と思っている。「本当にまったく飲まないのですか」「一滴も飲みません」「意志が強いのですね」などと言われることがある。実はそうではない。

妻が言う。「あなたは意志が弱い。酒を飲んでもいいけど、上手に飲んで、途中でやめるということができない」「意志が弱いのだから、すっぱりやめるほかの選択の余地はない」。そのとおりなのだ。この日記もそうだ。

「一日や二日抜かしても、また書き始めればよい」とはならない。毎日書かねばならない。誰に約束したわけでもなく、自分自身との誓約のために。



2004年03月11日（木）
やり残した宿題

「法と民主主義」の特集として、戦争責任問題を取り上げる企画が進行中。今日はその２回目の打ち合わせ。被爆者訴訟、残留孤児訴訟、中国人戦争被害訴訟の各弁護団の中心メンバーが、企画のアウトラインについて議論した。
それぞれの弁護団固有の問題意識を尊重しながら、議論すべき共通の問題点を集約できるだろうか。

まず話題になったのは、それぞれの事件における当事者の被害と加害の両面性。被爆はこのうえない悲惨で大規模な被害だが、当時の日本は加害国であった。広島は軍都であった。アジアの諸国民に対しても米国の市民に対しても、被害の強調だけで共感を得る訴えが可能なのか。残留孤児問題を語る際にも、植民地政策の加害性の認識が必要ではないか。中国人の戦争被害と他の事件の被害当事者がどのような共感の関係を築けるだろうか。

関連して話題となったのは、戦争の性格についての歴史認識の問題。いったいあの戦争は、どのような戦争だったと総括できるのか。侵略戦争としての側面をきちんと認識できるのか、過去の克服はいかにして可能か。

さらに、それぞれの体験や運動を通して、どのような平和思想形成が可能なのだろうか。核絶対悪の思想を共有できるだろうか。侵略戦争の否定については確認できても、戦争そのものを絶対悪として廃棄する思想に至ることができるだろうか。問題は複雑で困難だという。

戦争被害の深刻さを体験したものが、平和思想に到達するとは限らない。力の足りなかったことを反省点として、強力な軍事国家を望んでも少しも不自然ではない。
「純粋な被害者」である中国人戦争被害者には、日本から受けた被害を国辱として、「再び侵略を受けない強力な強兵国家を」という考えが強いという。いったい、これを克服できるのか。

議論は、「きれいごと」に終わりそうもない。歴史がわれわれに突きつけた宿題なのだ。解決の道などまだ見えないが、各弁護団固有の議論だけでは見えない拡がりをもった問題点が見えてくるのではないか。

次回、小学習会をすることとして、継続討議となった。


2004年03月12日（金）
馬・馬・馬・馬

「法と民主主義」編集会議を終えて帰宅したら、馬が待っていた。
もっとも本物の馬ではない。切り絵の馬の群像。力感あふれた大作である。優美な馬ではなく、生活臭のある野生馬。逞しくはあるが、ゲルニカを彷彿とさせるもの悲しさも漂う。黒い紙を鋭く切り込んだ見事なもの。

家から本郷三丁目の地下鉄駅までの途中に小さな画廊がある。そこで、モンゴルの切り絵作家の作品展を開いていた。たまたま気に入って、一番大きな作品を買うことにした。展示が終わって、今日その作品が作家自身によって届けられたのだ。

ところが、この作品だけではなく、作家までが届くことになるという。妻の言うには、ツブラム・サンダドルジというその作家が、この秋に再来日する際の宿の提供をすることになったのだそうだ。ウランバートルの画家で、今回が８度目の来日だという。１２日間の宿泊場所の調達が容易でなく、今回は青砥の友人宅に泊めてもらっているとか。今秋はまだあてがないと聞いて、ウチに泊めてあげることにしたのだという。もしかしたら、８歳の娘さんもご一緒になるかも知れないとも。日蒙親善けっこうなことではないか。

モンゴルといえば、亡くなられた藤本正弁護士を思い出す。何の縁からか、モンゴルとの親善にご夫妻で熱心だった。私も、ウランバートル旅行に誘われたことがある。あのときは忙しいからと断ったが、同氏の訃報を聞いたとき、しまった、ご一緒にモンゴルに行っておけばよかったと、後悔した。ジンギスカンの軍馬が駆けた大草原は、昔からのあこがれの地のひとつである。

こんな民間の交流が、平和の基礎となるのではないか。国境を越えて人と人とが接触し、他国の人を知り、同じ人間として共感できることを確認し、親密になる。そんなことが、偏狭なナショナリズムを払拭することになる。

もっとも、自国の人であろうと、他国の人であろうと、気の合う人もいれば合わない人もいる。その人、酒もタバコもたしなまない穏和な人柄と確認してのことである。ジンギスカンや朝青龍は、わが家に泊めてあげようとは思わない。

彼のホームページがある。パトロン気分で紹介する。
http://www.turburam.com/khight.htm


2004年03月13日（土）
合意による敗訴者負担制度に市民団体の態度

午前中２時間は弁護士報酬の敗訴者負担を許さぬ全国連絡会。午後４時間は、「日の丸・君が代強制反対予防訴訟」弁護団会議。

３月２日、司法改革司法制度改革推進本部所轄の１０法案が閣議決定となって国会に提出された。敗訴者負担については、「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」である。

新しい法律を作るにも、法律を改正するにも、その理由が必要である。現行の法律での不都合、提出法案の理念が語られなければならない。司法アクセス検討会のまとめとなった「合意による敗訴者負担」に、語るべき何らかの理念があるのだろうか。

出てきたこの提出法案の提案理由がふるっている。その全文を掲記する。

「弁護士等の訴訟代理人の報酬に係る費用について、当事者の双方共同の申立てがある場合に、これを訴訟費用として敗訴者の負担とする制度を設ける必要がある。これが、この法案を提出する理由である。」

ここには、何の理念も、立法事実も語られていない。投げやりに、語るべき何ものもない、と開き直っているとしか評しようがない。こんな立法の必要は、毫もない。

理念がないだけでない。合意による敗訴者負担制度は「尻抜け」である。法案は、訴訟手続きにおける合意だけを問題とする。裁判外の合意の効果についてはダンマリを決めこんでいる。消費者は約款で、労働者は労働契約や就業規則で、マンション購入者は原始定款で、患者は手術承諾書で、借地借家人は出来合の契約書式で、零細業者は下請け契約書で、コンビニオーナーはフランチャイズ契約書で…、合意管轄の合意条項と並んで、「裁判が起きたときは弁護士費用は敗訴者の負担とする」という訴訟外の合意成立を根拠とした敗訴者負担を押しつけられることになる。

日弁連は、「このままでは合意による敗訴者負担の導入は許さない」というスローガンを掲げた。市民運動体側のスローガンはどうするか。議論の末、「いかなる敗訴者負担にも反対」という、これまでのスローガンを再確認することとなった。「いかなる」の中に、合意による敗訴者負担にも反対というメッセージが含まれている。合意が訴訟上のものであっても、事前の裁判外の契約によるものであってもだ。

このスローガンで具体的に何をするか。幸い法案の本格審議は参院選後の臨時国会となりそうだ。まだ、時間がないわけではない。国会議員を訪ねて説得・要請することが第一。マスコミに、理解してもらうことが第二。そして、第三にさらに大きな世論を形成していくこと。
日弁連は５月２０日クレオでの反対集会を持つ。これを側面支援して大きく成功させよう。そしてその場で、この夏再びパブコメの運動を提起しよう。昨年夏のパブコメ募集に際しては、合意制などというグロテスクな制度は考えも及ばなかった。今夏は、「合意による敗訴者負担」導入の意見を募集しよう。司法制度改革推進本部がしないのなら、弁護士会にお願いしよう。昨夏のパブコメ数が５０００。異例の数と言われたが、今年はこれを上回るに数を目指そう。


2004年03月14日（日）
美しい春　みにくい春　決意新たな春

本郷の日の当たらないわが家の狭い庭が、年に一度短い輝きを見せる。今日がその日。スモモの花が満開である。凛と引き締まった清潔な白さが際だつ。

　春の苑　紅にほふ桃の花　下照る道に出で立つ乙女

花の色は少し異なるが、家持の歌を借りて、この季節の雰囲気を反芻する。

その美しい春が、学校現場では今年はどうにも生臭い。都立高校での卒業式は８割方終わった。正確な集約はできていないが、君が代斉唱時の不起立現認を申し渡された教職員は１００名を超しているだろうという。確認された範囲では不起立者数８名という学校があり、５名、３名という学校も少なくない。たったひとりで、不起立を貫いた人もいる。教員は全員起立したが、生徒が自主的に不起立を通したという例もあった。

弁護団会議での報告のなかで、教委の強制の対象が、教員から生徒に移りつつあることが鮮明になってきた。校長から教員に対する職務命令書の中に、「生徒が国歌斉唱時、起立・斉唱するよう事前の指導をすること」という項目がはいるようになってきている。

それだけではない。生徒の自主的な行動を、教員の「あおり」の結果ととらえての、教員弾圧の動きが既に始まっている。
例のごとく、右翼ジャーナリズム（産経）が火を付け、右翼議員（土屋ら）が騒ぎたて、右翼知事（石原）が呼応し、右翼教委が「徹底調査」し処分しようという構図である。この間、おきまりの街頭右翼の蠢動もある。彼らすべては、つながっているのだ。

こうして、生徒たちは自分たちが自分の頭で考え、自分の意見をいうことが、良心的な教員に「迷惑を掛ける」ことになると知る。心ならずも自分を押さえて理不尽に従わざるを得ないことを「学ぶ」のだ。東京都は、何と立派な「教育」をしているのだろう。

いずれにせよ。被処分者、被弾圧者は、まず所属の労組に明確な形で支援要請をする。それで、組合の支援を得られない場合には、予防訴訟弁護団で徹底した法廷闘争を行うことを確認した。それこそ、絶対に負けられない訴訟だ。天下分け目の総力戦となるだろう。弁護団も拡充しなければならない。決意新た、である。


2004年03月15日（月）
スペインの政権交代

眠い。
昨日も一昨日もあまり寝ていない。今朝も５時に起きて、本日が提出期限の準備書面を書きはじめた。が、遅々として筆が進まない。
地下鉄で座ったら眠気がひどい。霞ヶ関を乗り過ごしたのは初めての経験。１０時の法廷に少し遅参。法律家６団体の打ち合わせも、第五福竜丸理事会も、どうにもまぶたが重い。

本当は、短時間でも仮眠したいのだが、明日は岩手県の山田町大沢に行かねばならないことになった。どうあっても、今日中に書面を書き上げなければならない。「弁護士業務は肉体労働」である。

私がぼーっとしていても、歴史は進む。
スペインの総選挙で野党社会労働党が劇的な勝利。おそらくはイラクからの撤兵を実行することになるだろう。大規模な列車同時爆破「テロ」の効果がどちらの方向に現れるが未知数だったが、世論を反戦の方向に向けたことになる。

日本にとっても他人事ではない。参院選の結果次第では撤兵も現実的な課題となりうる。韓国や、イタリアにへの影響も注目したい。そして、１１月には米国自身の大統領選挙だ。ブッシュ後を考えずに「ブッシュのアメリカ」に追随する小泉政権でよいのか。薄笑いしておられるときではない。


2004年03月16日（火）
追憶の家路

山田町大沢の漁協の事件で、現地での事情聴取。
家を出てから盛岡までが、東北新幹線で３時間。盛岡から宮古まで国道１０６号を車で２時間。さらに４５号を南下すること３０分。ようやくに、大沢の漁港に到着。やはり遠い。早朝に出て、深夜の帰宅。日帰りはきつい。

盛岡では久しぶりに秀峰岩手山を仰ぐ。南部片富士、巖鷲山との異名もある私にとっての故郷の山。今日はまた、ご機嫌うるわしく冠雪の姿をくっきり見せてくれる。雪の残る北上山地では、兜明神岳、早池峰山の姿も。

昔、この雪道で妻が運転する車がスリップしたことがある。助手席の私も肝を冷やした。閉伊川のガードレールに衝突して、車は動かなくなった。対向車線にトラックでもあれば、２月９日が夫婦の命日となっていたかも知れない。寒い夜だったが、きれいな星空が印象に残る。宮古で選挙弾圧事件と連絡を受け、夜分に急行した時のできごと。

帰途は１０６号の急行バス。あの事故現場あたりで日暮れを迎えた。うとうとしていると、「盛岡バスセンター」というアナウンス。「あっ、ここで降りなきゃ」と、一瞬の錯覚。このバス停で降りて、中の橋の手前を左に折れて、川沿いに進めばわが家だ。妻と幼い息子と愛犬が待っている…。

ふと現実に戻れば、家路は遙かに遠い。追憶のあのころも遠くなった。ここで暮らしたあのころ、自分がもっとも壮健だったあのころ、二度と戻ることないゆえに美しいあのころが懐かしい。


2004年03月17日（水）
靖国訴訟松山判決

昨日（１６日）、松山地裁坂倉充信裁判長は、「小泉靖国参拝訴訟」で、原告らの訴えをしりぞける判決を言い渡した。憲法判断はなかった。

原告は戦没者遺族１３５名、被告は小泉純一郎と国と靖国神社。２００１年８月、０２年４月、０３年１月と３度にわたる小泉靖国参拝を、政教分離を定めた憲法に反しているとして、参拝の違憲確認と今後の参拝差し止め、そして１人１万円の慰謝料を求めた訴訟である。

判決文はまだ読んでいない。報告されている限りでの判決内容は次のとおり。
１，国家賠償請求は棄却。
小泉の靖国神社参拝は、原告らに何かの強制力を及ぼしたり、原告らを不利益に取り扱ったものではない。本件参拝によって、原告らが戦没者に関する祭祀等について自ら決定し行うことが制約されたということもできない。したがって、本件参拝によって原告ら主張の利益の侵害があったとは認められない。
２，国に対する違憲確認請求は不適法、却下。
（１）行政訴訟としては
　被告とされた国は行政庁ではないから被告適格無し。訴えの利益無し。
　公権力の行使とは言えない。
（２）民事訴訟としては
　当事者能力なし
　確認の利益無し。
３，小泉に対する差し止め請求は却下。
（１）行政訴訟としては
　公権力の行使とは言えない。
（２）民事訴訟としても、
　当事者能力無し
４，靖国神社に対する受け入れ差し止め請求も却下。
　参拝受け入れ行為の内容範囲が不明確である。

代理人の草薙順一郎弁護士は、「ま、一審はこんなもんやで」
加島宏弁護士は、「控訴審はやりやすい、穴だらけの判決や」
と名言を述べているとか。なにしろ、高裁判決をひっくり返して、最高裁大法廷での愛媛玉串料訴訟の勝利判決を勝ち取った面々の言である。その揺るぎない健闘精神に脱帽。

違憲国賠訴訟は損害論の建て方が難しい。政教分離は「制度的保障」で、違反が即人権の侵害を意味するものではないとされる。イラク派兵を違憲とする平和訴訟も同様。「宗教的人格権や平和的生存権の侵害があったとは言えない」、「法的保護に値する人格的利益の侵害があったとも言えない」として、請求は棄却になる。これをどう乗り越えるかが、実践的な課題となっている。何とかしなければ。地を這う努力が積み重ねられている。

地方公共団体の首長や職員の財務会計上の違法行為であれば、地方自治法２４２条の２に基づく住民訴訟が可能だ。原告の権利侵害の要件は不要。これを客観訴訟という。これまでの政教分離訴訟の主流はこの形式。ところが、国の行為に関しては、類似の制度がない。国家賠償の形で提訴せざるをえないのだ。日弁連は、行政訴訟改革の目玉のひとつとして、「公金違法使用返還国民訴訟」制度の創設を提唱した。国民一人でもできる国税の使われ方に対する監視システムである。これができれば、住民訴訟と同様、客観訴訟として国の違憲違法行為を訴訟で争うことができる。しかし、今政府がそんな制度を作りたくないことは明らかだ。３月２日閣議決定の行訴法改正案でも、この制度導入はない。

で、結局は困難な訴訟に立ち向かうしかない。「ま、一審はこんなもんやで」と自らに言い聞かせ、励ましながら。


2004年03月18日（木）
「日の丸・君が代」処分取り消しの本格訴訟

東京中央法律事務所での弁護団会議の開始時刻が夜８時。１０時半に会議を終えての帰途、四谷駅付近で、反対方向から小走りの南弁護士に出会う。「あれ、もう会議は終わったの？」といぶかしげ。その直前まで、中国戦後補償弁護団に出ていたという。「まだ、中心メンバーは残っているはず」と中央事務所に駆けて行った。

残業手当も夜勤手当も出ない。いや本給すら出ないのに、駆けてまわっている弁護士たち。感覚が異常なのだろうか。
「人はパンのみにて生くるものにあらず」ではあるが、パンなくしては生きられない。パンに応じて働き、働きに応じてパンを得るのがこの世の習い。経済法則で人が動くとするのが、唯物論者の考え方ではないか。市場原理に反した南さんの、あの走り方をどう説明したらよいのだろう。

都立高の卒業式ではおよそ１３０人の不起立者が出た模様。今、その全員に対して、職務命令違反の事情聴取が始まっている。その席への弁護士立会を求めて、若い弁護士が奮闘している。来週には、私も教育庁の本庁か、笹塚分室に出向く予定。

既に周年行事での不起立者１０名が戒告処分となっている。この人たちの大部分が、そろって人事委員会への審査請求に踏み切る運びとなった。そして、これに続いて１３０人を超す被処分者が大規模な処分撤回闘争を始めることになる。
それこそ、本格的な教育裁判、思想良心の自由を守る本格訴訟となる。旭川学テ、教科書訴訟級の大型訴訟となるだろう。

こんな事件が起こるとは思いもしなかった。しかし、こんなことは許せない。私はこんな裁判をやりたくて弁護士になったはずではないか。
そんなことを口走る、私も相当に異常だ。


2004年03月19日（金）
明日は「３．２０　ピースアクション」

いよいよ明日は「３．２０」。
米英のイラク攻撃からちょうど１周年。あらためて、無法な米英と、それに追随する日本政府に、抗議の意思を表明したいと思う。

マスメディアのハイテク化に加えて、インターネットとメールの普及が、世界の市民をつなぐインフラとなった。私が考えることは、同時に世界の多くの市民が考えることでもある。バラバラの市民が、その声をつなぐ道具を手にしたのだ。「アメリカのイラク攻撃を許すな」は、世界中の人々の共通の声となり、共通の行動を可能にした。一年前、空前の規模の反戦デモがニューヨーク・ロンドンを含む各国で組織された。自立した市民の自発的な行動である。

その声は、米英の無法な暴力に押し切られた形にはなった。手痛い敗北ではあったが、「名誉ある敗北」であり、次の運動につながる敗北でもあった。

あれから一年。アメリカの無法はますます明らかとなった。イラクには大量破壊兵器がなかったことがほぼ明らかになった。イラクに治安の回復はない。戦争は基本的に何も解決し得ないのだ。スペインも、イタリアも、ポーランドも、ホンジュラスも、アメリカへの追随を後悔し始めている。ブッシュの再選も危うくなっているではないか。にもかかわらず、愚かにも小泉政権だけが…。
同じ思いの人々が、大組織の指示からではなく、マスメディアの報道によってでもなく、市民運動のコミュニケーションによって、反戦の意思を行動で表そうとしている。

明日、「３．２０ピースアクション」は、世界中５１カ国をつなぐ行動になるという。国内でも１３０箇所以上で一斉に行われる。「どこでも主役は歩いたり声を上げる一人一人です。」と、呼びかけがなされている。

日比谷の WORLD PEACE NOW は午後１時から。
全労連系の呼びかけによる芝公園の集会は、午前１１時から。

従来、組織に属しない個人には、デモや集会への参加に心理的な壁があった。これが克服されつつある。市民参加方式か、組織運動型かの二者択一ではなく、どちらも支え合って大きな運動になることが望ましい。

私も参加してみんなと一緒に歩こう。
「平和とは、派兵とは、生きるとは　暮らしとは
　を考えながら」

「玄関出たらピースウォーク。
　明日、同じ星の上、
　世界中のひとりひとりと一緒に一歩一歩から歩こう。
　ひとりひとりの歩みから変えていこう」


2004年03月20日（土）
冷雨の日比谷野外音楽堂

寒い。吐く息が白い。おまけに雨が冷たい。お彼岸だというのに、この天候の厳しさは今の時代を象徴するものか。
今日の集会には、天からの祝福はない。日比谷公園には、試練にめげない万余の人と万余の傘の波が埋め尽くした。

着込んで、オーバーを羽織って、手袋付けて、ホッカイロまで背中に貼った。が、１時間余も野外音楽堂に立ちつくすうちに、冷雨が体の芯までしみこむ思い。それでも、爆撃に遭う現地の人々や、戦地に送られる兵士よりはましだろう。

壇上で、ＪＶＣの熊岡路矢さんが落ち着いた声で挨拶をされた。
「現地で見ていると、イラクで追求されているものは米国の国益ですらない。一握りの企業の私益のために破壊が行われ、また私益のための「復興」が行われている。戦争も復興もビジネスにしてはならない。また、自衛隊は人道支援に全く役立たない。危険を増大させるばかり」
現地で献身的な活動をしている人の言だけに、さすがに重い。

横須賀在住の米国人ロバート・スミスさんが、「軍人家族スピークアウトの会（ＭＦＳＯ）」の代表として挨拶をされた。
「前線の兵士はヒーローではない。悲惨な死を強要されている。日本の皆さんにとっても、他人事ではない。自分たちは、アメリカで撤兵の世論喚起のために行動する。皆さんには自衛隊を帰させてほしい」

本日の「日経」に詳報がある。この団体、戦没者遺族を中心に、１４００の米兵の家族が結集して作っているという。戦没者を英雄視し、あるいは美化したくなる遺族の心情を克服して、無意味な戦争の無意味な死をありのままに見つめる。「兵士の安全より、自分の宣伝を優先させるブッシュの姿勢に辟易」「大統領のメンツのために、なぜ我々の子どもが犠牲になるのか」と言って、これ以上の無意味な死者を出すなという、全米規模での反戦行動を起こしているという。前例のないことだろう。

この会員の一人が、大統領に宛てて送った手紙が紹介されている。
「優しいあの子は祖国に命を捧げたわけではない。戦争好きなあなたが命を奪ったのだ」
真実を突いて、なんとも鋭く重い。

戦死者を英霊とする国策にどっぷりつかったままの日本遺族会ではなく、平和遺族会の意識なのだ。どうして、あの野蛮なアメリカでこのような遺族運動が大きなものとなっているのだろうか。極めて興味深い。

今日の集会では、多くの人と出会う。お元気な川田悦子さんとも久しぶりにお話をした。お世辞にではあろうが、「事務局長日記見ているわよ。少し固いけど、ときどきは面白い」とのこと。ありがとうございます。

夕方６時、ＮＨＫのテレビニュースを見る。今日の反戦デモがどう報道されているかを確認したいと思ってのこと。なんと、一言も触れられていない。何ごともなかったかのごとく。画面では、自民党の何とか議員がつまらないことをしゃべっていた。奈良公園で「鹿せんべい飛ばし大会」が行われたとの「ニュース」が報道されていた。しかし、全国数百カ所で行われたはずの「イラクに平和を」「アメリカに抗議」「自衛隊の派兵反対」という集会・デモ行進は完全に無視された。

大本営発表しか報道しない方針なのだ。だから、国営放送局など要らない。受信料など払うものか。


2004年03月21日（日）
コンピューター将棋

私のパソコンに、「東大将棋」というソフトがはいっている。時に、コンピューターと将棋を指す。現実の人間は遊んでくれない。だいたい、時間が合わない。

コンピューターとの将棋は、こちらの都合でいつでも始められ、途中でやめるのにも遠慮はいらない。だが、少々わびしい。

このソフト、「よちよち」から、「ビギナー」、「初級」、「中級」、「上級」そして「マスター」と対戦相手のレベルを選べる。初級までなら私が勝てるが、中級になると分が悪い。負けると、やはり不愉快になる。
コンピューターは、形勢を顔色に出さない。三味線が利かない。しかも、最後の最後まで絶対に投げない。そして、やたらと終盤が強い。こすっからい棋風だ。相手にして愉快な人柄ではない。

私は、将棋が好きだ。が、ヘボの域である。呆れるほど上達しない。子どものころにやっていないことが言い訳である。同じ環境で育った末弟が碁も将棋も滅法強い。私とは、子どものころの興味の対象が違っていたのだろう。私は、３０歳を過ぎて将棋を覚えた。師匠は、当事の職場だった東京南部法律事務所先輩で、アマ４段格という小池通雄弁護士である。

論理的な思考能力の優れた者が碁・将棋が強いか、どうもそうでもなさそう。修習生のころ、早稲田の将棋部キャプテンだったという人の司法試験指導を依頼されたことがある。私から見れば天才的に将棋の上手な人が、どうしてパズル同然の司法試験に合格できないのか、不思議でならなかった。人格や人生経験が重要であろうか、とんでもない。将棋差しが、とくとくと人生論など語ると、馬鹿馬鹿しくって聞いておられない。

羽生や、谷川、森内、島、佐藤、森下といった、現在の一流どころは「将棋を通じた人生を語る」などという、ダサイことをしない。すがすがしい。

その対極、ダサイ典型が米長邦雄。東京都の教育委員として、「日の丸・君が代」強制、管理教育強化、教育右傾化の先頭に立つ。将棋ができることと、教育委員の資質と何の関係があるのだろう。

エラそうにしない人の将棋の技量には尊敬を惜しまないが、米長輩には言いたくなる。「将棋に強いが、ナンボのもんじゃ。強いだけなら、コンピューターだって十分に強い」。半分負け惜しみである。


2004年03月22日（月）
「日の丸・君が代」訴訟第１回法廷

「国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟」の第１回の口頭弁論。まずは好調な滑り出しである。

東京地裁７２２号法廷はこれ以上入らない人で埋まった。その中で、尾山宏弁護団長と、３人の原告代表が堂々の意見陳述を行った。分けても、ピアノ伴奏を強制される立場にある音楽科の教員の訴えが、魂を揺する迫力にあふれていた。

「友人の音楽教員が、今胃から出血して入院中です。文字どおり血を吐く思いの苦しみを伝えなければならないと思ってここに来ました。友人はキリスト者であり、「君が代」伴奏という絶対にできないことを強制される苦しみの中で、このままでは殺されてしまうと感じています。他にも「君が代」強制のために苦しんで病気になった教員を何人も知っています。私自身も「君が代」が耳の中に響いて消えない、夜もよく寝られないことが多く体調の悪い日が続いています。
自分の体を使って「君が代」を弾かされることに心が苦しんでいます。『ピアノ伴奏は外部的行為』だという無理な理屈をつけて、『伴奏の強制が内心の自由の侵害にならない』などと言わないで下さい。音楽は、手からだけではなく心の深いところから発するものです。そして人間の心の深いところに直接入ってくるものです。
私の仕事は音楽の教員であり、人間を育てています。自分が人間であることを奪われて、人間を育てる仕事が全うできるとは思えません。…命令に黙って従うだけでは、若い人たちに顔向けできません」

裁判官とは、説得されることが仕事である。この原告の叫びに耳を傾けていただきたい。私たちのこの社会を、戦前のごとき一元的な価値観で縛られた身動きできない時代に押し戻すことのないように。正しい判決をお願いしたい。切にそう願う。

幸い、裁判官らは聴く耳を持たぬという姿勢ではなかった。次回は、１０３号の大型法廷使用が認められた。被告東京都にも、被告都教委にも、事実関係に立ち入った認否と反論をするよう指示がされた。予防訴訟の要件については、原告の提示した枠組みに理解を示した。本日のところは、上々の進行である。

法廷終了後の記者会見の席上、これまで確認された不起立者が１５０人を超えると公表された。本日意見陳述した教員と同様、悩みながらの不起立者の数である。心ならずも起立を余儀なくされた教職員の数は把握のしようもないが、その比ではなかろう。１５０という数字の持つ意味は、軽いものではない。


2004年03月23日（火）
松井康浩先生宅訪問

大泉学園の松井康浩先生宅を訪問する。小田成光、相磯まつ江両弁護士とご一緒。
松井先生は、日民協創設者のお一人。文字どおりの育ての親でもある。司法問題に、平和運動・原水禁運動に大きな足跡を残して来られた。

訪問の趣旨の半分はお見舞い。このところ体調が優れず、業務から身を退かれた形になっているという。今日も車椅子での面会だった。ままならぬ口調、身の動きが痛々しい。
もう半分は、ご報告。日民協の事務所は５月には新宿御苑駅前に移転する。しかも、発展的に新しいビルへの引っ越しである。「法と民主主義」も、誌面充実の予定であることをお伝えする。

私が松井先生に初めてお目にかかったのは司法修習生の時代。３０年余も以前のことになる。いつも背筋のピンと伸びた、ちょっとこわい先生という印象だった。若い私たちにとっては、「ともかくエライ先生」以外のなにものでもなかった。同期の仲間では、亡くなった宮地義亮さんが松井先生の京橋法律事務所員となった。生きていれば、彼が日民協に責任を持つ立場だったろう。豪放磊落で無遠慮な宮地さんだったが、松井先生の謹厳実直ぶりには一目も二目も置かざるを得なかった。

往時を思い起こせば感慨無量。併せて、先達諸氏が作り上げてきた民主的な事業継承の重要性をあらためて肝に銘じる。


2004年03月24日（水）
岡田克彦さん　早期快復を

日民協の司法制度委員会。ところが、責任者の岡田克彦弁護士（日民協事務局次長）の姿がない。
彼は、今月の１６日、自由法曹団の司法問題活動者会議の席で倒れたのだ。脳内出血で右半身が利かなくなり、そのまま倒れたという。救急車で警察病院に運ばれ、５センチ台の血腫が確認された。幸い、血腫の拡大はなく、本日の午後に血腫を吸出する手術の予定だとのこと。同年代の仲間のことだけに、早期の健康回復と職場への復帰を祈りたい。面会ができるようになれば、お見舞いに行こう。

私も、いつ体調を崩しても不思議ではない。本日午後は産科学の大家という医師（国立大学教授）の尋問。準備のために朝は５時起き、昼食抜き。そして夜８時からの弁護団会議が続く。うっかり、悪いところを指摘されたら困る。ここ１０年以上、健康診断の類を拒絶し続けている。

寒の戻りで体調崩したという欠席届が続々。日弁連司法改革実現本部からの常連も都合が悪いとか。結局、日民協の理事長・事務局長、青法協勉学合同部会の議長・前議長、自由法曹団長、全司法委員長、それに元裁判官という顔ぶれの意見交換会になった。

話題となったのは刑事司法「改革」。裁判員制度と抱き合わせの刑訴法改正案、それに「日本司法支援センター法」案。

刑訴法改正案では、「素人裁判官に負担はかけられない」として、公判前整理手続きが設けられる。非公開の整理手続きで立証計画が定められ、その後は原則として新たな証拠調べ請求はできなくなる。「とんでもない」と叫ばずにはいられない。いくら何でも、それはないよ。検察と弁護側の力量格差をどう見ているのか。

司法支援センター構想は、国選弁護人の推薦権を弁護士会から独立行政法人の手に移して、法務大臣の監督下に置こうというもの。弁護士・弁護士会の変質の契機になりかねない。

その他にもいくつかの重大問題がある。抜本修正が実現しない限り、裁判員制度の導入が実現しなくてもやむを得ないというべきではないか。「裁判員制度導入が何より大切。だから多少のことには目をつぶろう」などと言ってはならないと思う。


2004年03月25日（木）
不起立者事情聴取への立会

都立校卒業式の不起立者（国歌斉唱時の起立拒否者）は２００名にのぼる。今月中、おそらくは３０日に一斉の処分となる模様。賃金・昇進に直接影響があることを覚悟して２００人が国歌斉唱強制を拒否したのだ。私は感動を禁じ得ない。まだ気骨ある教師集団が健在なのだ、と。

都・都教委側は、そのことが大いに気に食わない。常軌を逸した対応となっている。入学式までに、大急ぎで見せしめの処分を出してしまおうともくろみだ。そのために、事情聴取手続きを急いでいる。

周年行事では、この事情聴取が、脅しと孤立感、挫折感を与えるために使われた。これを許してはならない。要請あり次第、全件に弁護士の立会を求めることとした。今、大忙しで、予防訴訟弁護団員が毎日の事情聴取に立会を求める活動を繰り返している。もっとも、教委の側は、立会を認めない。それでも、押し問答を繰り返して同席を求める。合理的な拒否の理由はない。行政の聴聞手続きで、弁護士の立会を拒絶するなど、本来大問題なのだ。

私も、本日３人の方の事情聴取に立ち会う。事情聴取予定の部屋への入室を咎められ、廊下で押し問答を続けた。
「弁護士というのは、国民の権利を守るために法が創設した制度。依頼者の権利がいささかでも侵害される恐れがあるのなら、立ち会って法的アドバイスをするのが職責である。法の趣旨を理解して、弁護士依頼権を尊重していただきたい。都が勝手に弁護士立会を認めないなどと言えるはずがない。事情聴取の側にいて、依頼者に法的アドバイスが必要な際は助言をする。弁護士としての日常業務だ。国民の重大な権利を侵害しなでいただきたい」という説得。
都教委側から、「弁護士立会は認めない」「立会を認めるわけにはいかないので、もうやめます」というまでの押し問答。

さて、先手を打って、３月２９日（月）には周年行事での不起立被処分者が都の人事委員会に審査請求をする。都庁記者クラブで記者会見も予定。「反撃が始まった」というムードを作らねばならない。直ちに２００人の人事委員会申立も可能なことを宣伝したい。


2004年03月26日（金）
渡辺治さんを囲んで

本日は日民協憲法委員会。「法と民主主義」改憲問題特集企画を兼ねての渡辺治教授を囲むディスカッション。詳細は、４月号で熟読していただきたい。

テーマの柱建ては以下の３本。
１ 改憲論の背景
２ 改憲問題のテーマとスケジュール
３ 改憲阻止の運動
各テーマの冒頭に、渡辺さんから約１０分の問題提起。
それを中心に各３０分ほどの意見交換という進行。

問題提起も、質問に対する回答も、なんとも鮮やかの一語。よどみのない説得的な語り口。そして、聞き手のやる気を引き出す展望の提示。これ以上の語り手はないと思わせる。
この人の頭の中は、たくさんの引き出しをもったタンスの構造をしている。すべての情報が、きちんと整理されてしまい込まれており、必要に応じてどんなことでも引き出せる。歴史・経済・法律・社会・文化・社会保障・財政・国際政治・政党・平和運動…。すべてが堅固な構造の中に組み込まれ、きちんと整理されている。一個の奇跡である。

これまで改憲という危ない橋を渡ることのなかった支配層が、改憲の実現に向けて始動している。その背景として３点が考えられる。
�．▲瓮螢�に追随した日本の軍事大国化（軍事的要因）
��経済のグローバル化・構造改革がもたらす社会の不安定化（経済的要因）
�９餡颪任諒歇蘰鸞臉�党制の確立（政治的要因）

改憲テーマの焦点は９条である。これを改正して、集団的自衛権行使可能とし、実戦部隊の海外派兵を可能とすることが本丸。しかし、裸の９条改正案は国民世論が受け容れがたい。一括可決方式の国民投票法案をまず通しておいて、「新しい人権」をオブラートとした、改正案が作られるだろう。

新自由主義下での構造改革は、企業活動の自由を最大限に保障し、福祉国家的理念を否定する。その結果、社会の階層分化と階層間格差の拡大を生み出し、社会を不安定で脆弱なものとする。解体された社会を再構築するための権威的な改正案が出てくる。愛国心強調の教育基本法改正もこの流れ。

改憲阻止の運動においては、数千万規模の味方を結集しなければならない。そのためには、労働運動の本隊をどう動かすかが不可欠。そして、「解釈改憲派」主敵論を克服しなければならない。かつては、組織労働者・政党・知識人が、改憲阻止の運動を構成していた。バージョンアップしてこれを再現しなくてはならない。

戦後の平和主義を支えた国民意識は、「小国主義」だった。被害者意識中心で悲惨な戦争を回避しようという心情。必ずしも、反帝国主義理念とと結びつかない。今、それは北朝鮮をこわい国と見るキャンペーンに乗せられている。この点の論争を避けては通れない。

平和運動バージョンアップに必要なのは、
�＿罎�国が、殴られる側から殴る側に立場を変えているという認識
��反グローバリズム（我が国では反構造改革）運動との統合
��オールタナティブとしての明確な対抗国家ビジョンの提示
そして、現在もっともなすべきことは、広範な活動家層の養成。活動家層の理論的な認識の強化。論争しつつ、認識を深めよう。

そのあとの懇親会の席で、「私も、一生懸命勉強しながら、考えながら、今の段階での暫定的な結論をしゃべっている。疑問や反対意見をぶつけられてはまた考える。そのことが貴重だ。疑問をぶつけ合うところから、大切なことが見えてくる」と言われた。この人にして、この言。ウーン、謙虚に学ぶしかない。


2004年03月27日（土）
強制連行訴訟・新潟判決

ご存じのとおり、拉致の本家は天皇制の日本。植民地であった朝鮮からの拉致者数の正確な把握は困難とされるが、その数およそ８０万人〜９０万人。戦勝国である中国からの拉致者はほぼ正確に把握されており、３万９０００人。国策として行われたその規模に驚く。しかも、暴力による過酷な強制労働の実態は、さすがに「本家」だけのことはある。

その巨大な氷山の一角が裁かれている。昨２６日、中国人強制連行新潟事件で素晴らしい判決が言い渡された。現地から日民協に誇らしげに勝訴を伝える電話がはいった。私も新潟地裁にまで出かけて、立ち会いたかった。いや、日本の裁判所もまだ捨てたものではない。この訴訟が勝てるのだから、「日の丸・君が代」訴訟もすべて勝てなくてはならない。

片野悟好裁判長の名を記憶にとどめよう。企業の中国人労働者に対する安全配慮義務を認めたばかりでなく、強制連行を企画し実行した国の責任を初めて認めた。労働者１人あたり８００万円、総額８８００万円の認容判決である。天皇制を模倣した分家の拉致糾弾の声が喧しい新潟の地での判決の影響も興味深い。

原告らの請求原因は、国と企業の両者に対して、不法行為と債務（安全配慮義務）不履行の両様の責任を追及したもの。
このうち、不法行為責任は棄却された。しかし、企業の不法行為も、国の不法行為も共に成立は明らかとされている。国家無答責の壁はいとも易々と突破された。棄却の根拠は除斥期間である。この「時の壁」は、乗り越えられていない。
債務（安全配慮義務）不履行責任はバッチリと認められて認容判決に結実した。企業の時効援用は、「信義に反する権利濫用」と一蹴されている。国は時効の援用をしていなかった。が、控訴審を意識してか、判決は「国ははなはだ不誠実な態度」「実質的に提訴を妨害したものと評価できる」とまで言って、消滅時効の援用は許されないとした。裁判官の息づかいが聞こえる。

中国戦後補償弁護団は、日民協の中国司法制度調査団の現地との接触から生まれた。以来９年目での輝かしい全面勝訴判決である。一連の戦後補償訴訟は、侵略戦争に対する真摯な反省から再出発したはずの我が国が、実は本当の反省はしていないではないか、という問題提起訴訟なのだ。日本の政府、国会、そして世論への歴史認識を鋭く問うているのだ。少なくとも、新潟地裁は、この問題提起を真正面から受けとめ答を出した。次は、小泉内閣、あなたの番だ。さあ、どうするどうする。


2004年03月28日（日）
ＴＢＳ「報道特集」　　

夕方５時半から、ＴＢＳの「報道特集」が都立高における「日の丸・君が代」強制問題を取り上げた。登場人物がことごとく知った顔。この問題においての自分の位置を再確認する思い。
「中立的姿勢」を保ちながらも、心ある人が見れば明らかな批判の立場。「右翼都議」や都教委幹部の鉄面皮ぶりと、深刻な現場の雰囲気のコントラストがよく表現されていた。ようやく、この異常事態が多くの人に知られるようになってきた。

処分の恫喝を背景に国家主義イデオロギーを押しつけておきながら、「職務命令を遵守していただくのは、公務員として当然のこと」という都教委の幹部には、血が通っていない。この人たちは、教育の本質を考えたことがない。民主主義のなんたるかを理解しようともしない。歴史の教訓を学ぼうともしていない。どうして、そんな集団ができあがってしまったのだろう。
「報道特集」の、続いてのテーマが北朝鮮。この国は、「上ご一人のため」、「国のため」の理念において戦前の天皇制に瓜二つ。都教委のやり方は、この国を理想としているとしか思えない。そう皮肉っている番組の配置であった。

問題の本質は、教育という営為の理解のしかたにある。「右を向けと言われれば一斉に右を向く従順な国民を作るのが教育」と考えているのが都教委。時代錯誤の偏狭なイデオロギーの押しつけ以外のなにものでもない。処分の恫喝による物言わぬ教師によって物言わぬ主権者を作ろうという意図が見え見え。戦前の国家主義的教育がまさにそうであった。その反省から、憲法も教育基本法も、「国家のための国民」「国家に奉仕する教育」の思想を否定し、「国家よりも個人が大切」であることを自明の理とした。教員の職務の本分は、国家のための国民を作ることにあるのではない。上命下達は、教育現場に通じる原則ではない。今頃どうしてこれを逆転しなければならないのか。到底理解できない。

番組のまとめの形で、野田正彰教授（心理学）のコメントがあった。「抵抗する教師ではなく、『４０秒のことだ。形だけ従っておけばよい。歌うフリをしておけばよい』という教師たちに、無気力な精神の荒廃が生じている」というもの。事態の深刻さの一面をよく表している。

時代の色は明るくない。「茶色の朝」が忍び寄っている。今のうちなら、抵抗が可能だ。一色に染められた世界はまっぴらだ。多色多彩の世界を取りもどそう。


2004年03月29日（月）
君が代処分への審査請求

春場所は朝青龍の連続全勝優勝で幕を閉じた。

幕内優勝力士の本名はドルゴルスレン・ダグワドルジ。十両はムンフバト・ダヴァジャルガル、幕下はカロヤン・ステファノフ・マハリャノフ、三段目はミナミノシマ・イサム・ファレバイ。モンゴル、ブルガリア、それにトンガの出身者だ。到底覚えられっこない。

毎日新聞スポーツ欄の見出しが「朝青の時代」。「赤い朝」も大活躍。黒海も勝ち越し、十両優勝は白鵬。色彩はまことに豊かである。「茶色の朝」でなくてたいへん結構。国際色も豊か。どうして国技館？　どうして君が代？

「茶色の朝」は、フランスの心理学者フランク・パブロフ氏が著した、忍びよるファシズムの危険を警告する寓話。２００３年フランスのベストセラーになり、１５カ国で翻訳された。日本語版も、昨年１２月に大月から出版されている。私はまだ読んでいないが、東京新聞が大きく紹介し、朝日がこれに続いて話題先行となつている。この本が話題になる状況が確実にあるのだ。

茶色党が少しずつのさばり始める。最初は、茶色以外のペットの処分。市民の事なかれ主義が次第に世の中を茶色に染めていく。そして、ある朝…。

牧師だったマルチン・ニーメラーは、「最後に教会が弾圧されたとき、私はようやく立ちあがった。しかし、時は既に遅かった」と、ナチスの台頭を許したことを血を吐く言葉で悔いている。茶色の朝は、ドイツにもイタリアにも日本にも来た。危険な徴候と闘うことに対する怠惰が積み重なって、ある日世界が茶色に染まったことに気が付くのだ。日本は、再び茶色の世界に戻ろうとしているのではないか。

本日、周年行事での君が代不起立を理由に処分を受けた１０人のうち、７人を代理して東京都人事委員会に処分取り消しの審査請求申立。残る３人のうち、少なくも２人は続いて申立の予定。いよいよ反撃開始である。

都庁記者クラブでの記者会見において、処分された教員がそれぞれの思いを語った。現場でのギリギリの決断の重さが胸に響く。ある教員は、「私は、これまでは不本意ながら起立していた。しかし、人権や自由を教える立場にある自分が、ここまで強制されては起立するわけにいかなくなった」と言われた。尊敬に値する気概を持った人を身近に見た思い。

明日は、卒業式の不起立を理由に、２００人の教員に対する処分が出されるとの情報。茶色の朝に向けて時代は進行中なのだ。しかし、これに抵抗する人々の真摯さに、虹色の朝への展望を感じる。


2004年03月30日（火）
都教委 教員１８０人を処分

北陵クリニック事件で、仙台地裁は守大助被告に有罪判決を言い渡した。弁護団から無罪の確信を聞かされていただけに胸が痛む。

問題は、鑑定の信憑性。そして、自白調書の任意性。夕刊に紹介された判決要旨を読んでみた限りでは、これでは弁護団が納得するはずはないという印象。控訴審での苦闘が続くことになる。

守被告は、今朝までは母の待つわが家に帰宅できると思っていただろう。無罪と有罪、雪辱と汚名、自由と無期懲役、家庭と監獄。判決は人生の明暗を分ける。裁判官の職責は重い。司法のシステムと法律家の役割は重い。

また、本日都教委は卒業式の君が代斉唱時不起立者１８０人に対して、戒告処分を発令した。これとは別に、８人の嘱託の地位にある者に対する新年度不採用の通知が行われた。事実上の解雇である。

内村鑑三の不敬事件を思い起こさせる。
１８９１年１月、当時鑑三が奉職していた一高で教育勅語奉読式が行われた。教頭が勅語を奉読したあと、教員と生徒全員が勅語に記された明治天皇の署名に対し「奉拝」することを求められた。しかし、鑑三はその信仰上の信念から頭を下げなかった。これが「不敬事件」として言い広められ、鑑三は職を失う。１００年以上も前の事件が、今目の前で大規模に再現されている。これは悪夢ではないか。

どうして、こんなに時代は逆行してしまったのだろうか。徹底的に争わなくてはならない。理不尽なことを許さない現場での抵抗者の役割は貴重で、これを支える法律家の役割は重い。


2004年03月31日（水）
規制緩和と消費者

午前８時から議員会館で商取法改正問題に関する民主党議員へのレクチャー。
日弁連消費者委員長・石戸谷さんを中心とする７名で臨む。私は、既に第一線ではない。かつては、参考人として委員会に呼ばれもしたが、今日は枯れ木も山の何とか。

問題は、不招請勧誘禁止の是非。今業者がやっている電話勧誘や飛び込みセールスをやめさせなければ先物被害はなくならない。先物取引の専門性とハイリスクを顧慮すれば、電話や飛び込みの無差別勧誘で素人を引き入れるべきではない。というのが、私たちの主張。それは、営業の自由という憲法上の権利に照らしていかがなものか、というのが業者と与党の立場。

一見して、財産権と消費者利益の衝突である。消費者被害の実態を見よ、ここからすべてが語られねばならない。少し前まで、そう言っていた。市場原理主義が消費者被害を生み出している。規制緩和ナンセンス。

しかし、そう言ってしまっては実も蓋もない。現実に相手を説得することができない。今はそう言わない。「市場原理を徹底するためには、公正な市場の創出がなくてはなりません。公正な市場の形成には、公正な業者間のルール設定が必要です。公正なルールの設定は、営業の自由と衝突するものではなく、むしろ市場の機能を十全に発揮させるために必要なのです。ですから、公正なルールの設定は営業の自由と衝突するのではなく、営業の自由保障の基礎となるものなのです」

消費者の自己責任についても議員から質問が出た。「自己責任は、自己判断に対応しての責任です。自己判断には、それを可能とする条件が必要です。つまり、知識と情報とが具備して初めて自己判断が可能となる。そのために、業者は顧客に必要にして十分な知識と情報を提供しなけれればならないのです。それなくして、自己判断も、自己責任もありえません。あるべき消費者像だけを語って、現実の消費者を見ないのは、有害な机上の空論です」　この趣旨は、私が発言した。

懸命に防戦はしているが、消費者保護法制は確実に後退している。「今や消費者保護の時代ではない」「消費者は権利の主体であって、保護の客体でない」「消費者に権利を。そして、自己責任を」。これが市場原理主義派のスローガンだ。規制緩和という怪獣が消費者を蹂躙している。食い尽くしかねない。これを倒すヒーロー出でよ。


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