<TITLE>澤藤統一郎の事務局長日記

2003年12月01日（月）

君が代強制阻止予防訴訟弁護団募集

日民協会議室で予防訴訟の会の準備会。
既に原告団結成の準備は始まっている。弁護団を至急に立ち上げなければならない。以下は、予防訴訟弁護団募集広告。

以下のとおり、来春の都立校卒業式における「君が代斉唱義務不存在確認・斉唱時起立義務不存在確認」請求の「君が代強制・予防訴訟」弁護団へのご参加・ご支援をお願い申し上げます。

憲法も平和も民主主義も、けなげに頑張ってはいるのですが、向寒の折風邪を引きそうで、気が気でなりません。もともとが虚弱体質なのですから、よく面倒を見、励ましてやらねばなりません。体質改善と、救急治療の両方が必要だと思います。また、いじめられていたら、すぐにみつけて、いじめっ子対策も必要です。
そんな思いから、以下のお願いがあります。

面倒でしんどくて困難な上に、報酬は殆ど期待できないという、経済原理ではとてもお願いできることではないのですが、理念のためなら一肌脱ごうという弁護士・研究者の皆様に、憲法と精神的自由になりかわってお願いする次第です。

ご存じのとおり、９９年の国旗国歌法制定以来、教育現場での日の丸・君が代強制が強まっています。既に、相当数の処分と法的紛争が生じています。

そんな折りの１０月２３日、東京都教育委員会が、都立校の各校長宛に、「入学式、卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について（通達）」と「実施指針」を発しました。微に入り細を穿って、国旗の掲揚・国歌の斉唱・会場設営にこだわっています。
「教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われることを、教職員に周知すること」とまで書かれており、まさしく「生徒中心の教育か、国家中心の教育か」が問われる構図だと思います。

同様の動きは都立校（高校・養護学校）だけではなく、都内全域の公立校（小・中校）にも、及ぶ模様です。
産経は一面トップで「国旗掲揚・国歌斉唱の適切実施　違反教職員は懲戒処分」という大見出し。東京が変われば、日本中がこれに倣うはず。「天下分け目」といっても過言でないかも知れません。

既に、現在周年行事において、処分による恫喝を背景にした国旗国歌強制が進行中だということです。
都教委の挑戦的姿勢に、どう対応するか。教員・教員組合だけではなく、法律家の存在意義も問われています。到底、傍観者ではおられません。

都立校教師のグループが、「処分されてからの法的措置ではなく、処分前に予防的な法的手段をとりたい」「事前の運動に意味がある」「その方法なら多くの教員の参加を見込める」と、「予防訴訟の会」を立ち上げました。

無名抗告訴訟としての、「君が代起立斉唱義務不存在確認請求」「君が代ピアノ伴奏義務不存在確認請求」などの「予防（差し止め）訴訟」を行おうという相談に加わっていただけないでしょうか。

さて、これで弁護団結成ができるだろうか。

2003年12月02日（火）

武富士会長逮捕に快哉

本日がＸデー、武富士の創業者でありオーナーである武井保雄逮捕の日となった。容疑は、電気通信事業法違反（通信の秘密の侵害）である。

Ｘデーは来ないのではないか。一抹の不安もないではなかった。金力が権力と癒着し、警察機構自体がたじろがざるを得ない事情があるのではないか。警察との癒着の実態は、発覚したビール券贈答ごときものではあるまい。何しろ、元警察の最高幹部が「顧問」として召し抱えられている。
この国の刑事司法は、心配したほどには腐敗していない。「武富士の闇を暴く」訴訟弁護団長として、その証しに乾杯。

サラ金とは、多重債務という不幸を生み出す因果な商売である。その規模が大きいほど、まき散らす不幸も大きくなる。サラ金最大手の武富士は、最大の不幸メーカーであり、そのボス・武井保雄の罪は深い。

言うまでもなく、不幸の素は高利と過剰融資そして違法取り立てである。この不幸の３要素はそのまま裏返せば、高収益を支える３要素でもある。こうして、大規模に人の不幸を生みつつ、巨額の収益を上げたのが、武富士であり、武井保雄である。

さらに、武富士の急成長のウラには、違法行為のオンパレードがあった。貸金業務自体においても、労務管理においても違法が指摘されてきた。暴力団との癒着もあった。権力機構との癒着も、である。

先月１４日、盗聴事件で専務が逮捕、強制捜査がはいったときには、武富士のホームページには、次の釈明が載った。
「今回の捜査は、中川一博被告個人の盗聴容疑に関わるものであり、弊社は被告人の元の勤務先であるとして家宅捜索を受けたものです。同被告の個人的犯罪とはいえ、世間様をお騒がせ致しましたことは誠に申し訳なく、心よりお詫び申し上げます。幣社は今回の件をきっかけに、再発防止に万全を期し、情報管理及び社内規律の再徹底を実施致しました」
飽くまで、他人事という態度である。

さすがに、今度はそうはいかない。社長名の次の謝罪となった。
「本日１２月２日、当社代表取締役会長　武井保雄が電気通信事業法違反（盗聴）の容疑で逮捕され、本社及び武井会長の自宅が家宅捜索を受けました。
全く青天の霹靂であります。私どもとしては一日も早く真相が解明されることを強く願っております。
また、当社は当然のこと乍ら、捜査には全面的に協力して参る所存でございますが、株主、投資家及びお客様の皆様には多大の御心配をおかけいたし、まことに申し訳なく、深くお詫び申し上げます」

捜査機関には、武富士の膿の摘出を徹底していただきたい。犯罪は単に盗聴だけではあるまい。権力機構との癒着の構造にもメスを入れていただきたい。われわれは、厳格にこれを見守っている。

2003年12月03日（水）

君が代伴奏拒否事件に判決

宇都宮で医師尋問を終え、その足で税経新人会に招かれての憲法問題報告。平和憲法擁護を訴えて帰宅して、日野小学校・君が代ピアノ伴奏拒否事件の敗訴判決を知った。この時期、これは大変だ。

国旗国歌法制定直前の時期となる１９９９年４月、東京都日野市立小学校の音楽専科の教員が入学式で君が代のピアノ伴奏を命じられた。校長はこれを職務命令として強制し、彼女は自らの音楽理論と歴史認識を理由に、信念を貫いてこれを拒絶した。

職務命令違反に対して戒告処分がなされ、教員はこれを不服として都の人事委員会に審査請求をして処分の当否を争った。その結果は請求棄却の裁決となり、教員は落ち込んだ。しかし、「人事委員会は飽くまで行政サイドの機関。最初から結論が決まっているようなもの。裁判所は違う。きっとあなたの言い分に耳を傾けてくれる裁判官がいる」仲間からそう励まされ、期待して東京地方裁判所へ行政訴訟を提起した。

それが、今日の棄却判決である。報道では、「公務員は職務上、思想、良心の自由も制約を受ける」との判断を示し「伴奏を命じた校長の職務命令にはさまざまな意見があるとしても、受忍すべきだ」「伴奏自体は教諭の精神的活動までも否定するものではない」と処分を適法と認めた（朝日）。「職務命令は正当で、思想・良心の自由を制約するものであっても、教諭は受忍すべきものだ」と判断した（共同）。
この判決を言い渡したのは、山口幸雄裁判長。よく、名前を覚えておこう。

この論法では、教員には、憲法上の「思想、良心の自由の保障」がなくなってしまう。教育専門職としてのアカデミックフリーダムも否定され、教育に対する行政の不当な介入排除の原則（教育基本法１０条）も画餅に帰すことになる。子どもたちには、唯々諾々と命に服する従順な教師像しか映らなくなる。物言わぬ教師が、物言わぬ子どもたちを作る構図ができあがる。裁判所がこれに手を貸しているのだ。

さて、どうしよう。彼女の衝撃は大きいことだろう。「まだ、裁判所ならがある」と励ました仲間は、「まだ高裁がある」というだろうか。

もし、彼女が控訴するのなら、高裁段階では大弁護団を作る必要があるだろう。

2003年12月04日（木）

イラク派兵には自衛隊員が反対だ

朝日の夕刊に、ある自衛隊員の妻を取材した記事が出ている。この女性は、イラク派遣に反対する意見広告運動に参加しているという。

「自宅にもどった夫は『実はイラク行きが決まった』と切り出した。妻は『行かないで』という言葉も出ず、泣き崩れた」という内容。
『あなたには、人を殺せるの？　相手にも私みたいに妻も家族もいるのよ』
その後、同僚が代わって派遣されることになったが、その同僚にも妻と小さな子どもがいる。妻は、意見広告運動に加わる。「派遣を止めるためには何でもしたいと思う」という。
「だれか、この政権を倒してくれないかな」という夫の言葉も紹介されている。

私は、この記事はとても重い貴重なものと思う。朝日よ、よく載せた。
戦前、このような国民の率直な心情を伝える記事は書けなかった。記者は心ならずも、お国のために雄々しく出征する兵士と、けなげに見送る妻を書かねばならなかった。でなければ、社も記者も、非国民とされてしまう。ここにはジャーナリズムはなく、プロパガンダだけがあった。
まさに、今日の夕刊のこのような記事を書く自由が平和を支える。真のジャーナリズムが、危機のときに光を放つ。

今、既にこの記事の掲載にはある種の勇気が必要ではないか。少なくも、思い切りがなければ書けない、載せられない。右派で知られる政権与党の両幹事長とも、「反戦運動なんて、利敵行為だ」と目を剥くに決まっている。そんな雰囲気ではないか。

この署名記事を書いたのは、本田雅和記者。
「法と民主主義」の最新号に彼の記者魂が語られている。優しい人だが、すごい人だ。私は、盛岡にいたとき、若い彼と親しくなった。しかし、当時は彼がこんなにすごい人物だとは、不明にして知らなかった。
このような記者がいる限り、このような記事が載る限り、日本のジャーナリズムの健全さを信頼したい。がんばれ、本田記者。

2003年12月05日（金）

日民協年末カンパのお願い

師走である。年の瀬の空気が次第に慌ただしくなる。
世間ではボーナスの季節。わが日民協も、専従職員に人並みの処遇をしたい。
さはさりながら、貧乏団体の悲しさ。会費収入だけでは賞与まではまわりかねる。そこで「年末カンパのお願い」となる。

日民協に限らず、多くの民主団体・市民団体が、盆と暮れにカンパのお願いをする。「そのような財政の組み方がおかしい」「不健全な組織運営の改善を」とは毎回のご指摘。もっとも至極。さはさりながら、「お願い」を繰り返さざるを得ない。今年も状況は変わらない。

毎年この時期、時間をかけ、ない知恵をしぼりつくしてカンパの要請文を書く。
会員諸氏の琴線に触れるような文章はなかなかできない。才の不足というだけでなく、心根の持ち方に問題があるのだろう。心はずんだ文章が書けないのだから。

そんな要請にも応じて暖かいカンパをしてくださる方に励まされる。心の底から感謝申し上げたい。期待に応えて、がんばらなくてはという思いにさせられる。

さて、何をすることが、期待に応えることになるのだろう。

今、何よりも改憲を阻止する運動をおこすこと。改憲の第一歩となる「国民投票法」の成立を許さないこと。憲法の平和理念を破壊するイラク派兵を断念させること、有事法制の一貫である国民保護法制の成立を阻止すること。

憲法が正しく生かされる民主的な司法制度を作る運動に邁進すること。会員の思いと知恵とを結集して、人権志向の法曹養成制度を設計し、真に行政権からも司法行政からも独立した裁判所を実現し、社会的弱者に開かれた使いやすい民事司法、被告人の人権に配慮した冤罪を生まない刑事司法制度を目指すこと。

憲法・司法を中心テーマとして、幅広い法律家運動の軸となる役割を果たすこと。
国民運動の発火点となり、国民運動の一翼を担うこと。

さて、再び考える。カンパをいただく重さを。これだけの努力をしなければならない責任を。
感謝しつつも、訴える。カンパとともに運動参加もお願いしたい。
憲法と司法が、危うさの見えるこの時代にあなたの助力を必要としています。

2003年12月06日（土）

日の丸・君が代強制予防訴訟の会結成

午後は、日本青年館での「憲法改悪の流れを打ち破ろう」シンポジウム。山内敏弘教授と本田雅和さんがパネリスト。

山内先生は、選挙結果から説き起こし、小選挙区制の弊害を打ち破るために、次回参院選における社共両党の選挙協力あるべしとされた。そして、２外交官の死を利用した自衛隊のイラク派遣強行への警戒を強調された。
「テロに屈してはならない」という論法に対峙して、「アメリカの行為こそ最大のテロ」「今イラクは戦場。そこへの派遣は戦争荷担」とはっきり言わなければならない、とされた。

本田さんの話が現場密着で面白い。一昨日この日記で取り上げた朝日の記事の裏話。
この記事は、途中で見出しが変えられているという。「あなたは人が殺せるの」から「死んでしまうー無言で向き合う」に。この二つの間には、原理的な転換がある。後者は、自分が被害に遭うことへの恐怖の次元。それに比して、イラクのゲリラやその家族を思いやる想像力に満ちている。同僚への思いやりも。こういう自衛隊員家族を味方にする運動を、というのが彼の問題提起だった。

私も発言の時間をもらって、法律家も憲法改悪阻止、イラク派兵阻止の運動を起こしている旨の報告。

夜が、渋谷勤労福祉会館で「日の丸・君が代強制反対　予防訴訟を進める会」の結成集会。
１５０人を超す参加者で熱気溢れる集会。本日までで、「君が代斉唱時の起立・斉唱・伴奏義務不存在確認請求」訴訟の原告予定者は既に１００人を超えた。
尾山宏弁護士が挨拶。訴訟の解説と質疑応答には私があたった。さて、この年末年始はこの問題一色となってしまいそう。

イラク派兵が実現すれば、日本の軍隊とともにこの旗が海を渡る。その旗を学校現場で強制する時代なのだ。靖国も過去の問題ではない。イラクでの戦死者をどう祀るかという、まさしく今日的課題となった。
日の丸・君が代も、政教分離も、教育基本法も、イラク派兵も、全ては一体となって憲法改悪に収斂していく。個別の反対運動も、改憲阻止運動の大きな流れに糾合していかねばならない。

2003年12月07日（日）

死者の政治利用を許してはならない

日曜日、時間を掛けて自衛隊イラク問題を書いた。我ながら、久しぶりの力作。かなりの長文。
ところが、なんということ。月曜日に見直したら、全部消えてしまっている。跡形もない。まさか、ブッシュの謀略ではないと思うのだが、恨めしい。
思い出して、多少とも繕っておこう。

政府は、イラク派兵の基本計画を９日午後の閣議で決定するという。これを受けて、防衛庁長官が実施要項を策定する。その中身も、マスコミにリークされている。１月空自、２月陸自派兵説もある。自爆テロ対策に、対戦車弾を携行するとの情報もある。戦地に自衛隊を送るのだ。戦闘行為もあり、死者も出ることを十分に想定しての出兵である。

この決定は、当然に公明党の同意を得てのこと。平和の党が聞いて呆れる。普通の政党は、こんな方針転換があっては持たないが、平気で幹部が方針を変えられるのが、「普通ならざる」政党の強みであり、不気味さである。

政府は、世論を推し量っている。２外交官の死はどちらに風を送るのか。「君たちの遺志を継ぐ」を、「テロとの戦いに屈しない」「自衛隊派遣でイラク復興に貢献を」とミスリードしたいのが、本音であろう。

「英霊の死を無駄にしてはならない」というスローガンは、戦争遂行勢力にとって実に有効だった。「ベトナムの若者の死を無駄にしてはならない」というスローガンも、結局は両国の若者の死を際限なく増加させた。

死者の政治利用を許してはならない。冷静に見れば、２外交官はＣＰＡ出向職員である。現地の抵抗勢力から見れば軍事占領軍の一員なのだ。祖国を不法に爆撃し、合法政権を武力で倒した米英軍の、少なくも協力者である。かかる危険な職務を押しつけた政府・外務省こそが責任を問われなければならない。

死者の賛美に異論ははさみにくい。その死の意味を賛美したくなるのは人の情。これを政治利用してはならない。マスコミの一斉右向け右体質に惑わされてはならない。外交官の死も、自衛隊員の死も、賛美の対象としてはならない。

2003年12月08日（月）

開戦記念日に朝鮮弾圧の話題

太平洋戦争開戦の日である。
往々にして、「無謀な戦争に突入した愚」が語られる。しかし、「冷静に計算し尽くされた勝ち味のある戦争」なら許されるものではあるまい。戦争そのものの罪が語り継がれなければならない。

戦争体験は、被害者として語られることが多いが、実は１５年戦争を通じて、日本は加害者であった。その責任を直視するところから、日本国憲法の根本規範作りが始められている。

今日を選んだわけではないが、ＩＣＵの笹川紀勝先生にお目にかかってお話を伺った。政教分離学習会の打ち合わせだっが、日本占領中の朝鮮高等法院が言い渡した刑事判決の分析をされているという話に及んだ。

３・１事件関係の判決だけで４０００点を超えるという。全部旧体字の日本語文書。積み上げれば、背丈の３倍にもなる書類の山と格闘中との由。起訴されている者約１万人。内乱罪の起訴が、結局は内乱罪の構成要件を欠いた平穏な政治闘争と認定されている。おそるべき拷問・弾圧の事実が克明に記録されている。この膨大な記録の中に、独立と民主的な制度を求める民衆運動の形成が見える。残念ながら、日本にはこのようなかたちでの民衆の運動がない。という、尽きない話。

「既に戦前」との声もあるこのごろ。１２月８日に、旧日本植民地の罪業を聞かされるのも、何かの縁か。

2003年12月09日（火）

小山久子さんを悼む

突然に小山久子さんが亡くなった。今日はしめやかな通夜。

小山さんと初めて出会ったのは、平和遺族会の集会だった。私が、岩手靖国訴訟の報告をし、彼女が遺族の立場から発言した。
その後、医療過誤事件をともにしたこともある。国立小児病院のチーム医療のミスを追求した「陽遊元ちゃん」事件では、苦労の末に成果を得た。本日の通夜の席に配られた、故人を偲ぶ報告文書の中にも、この件に触れた彼女の報告があり、特別の思いのあったことを知った。

彼女の父君は、レイテで戦死している。彼女が生まれる半年前のことだという。父を知らない戦没者遺児として彼女は育った。

やがて法律を学び弁護士となった彼女は、こう言っている。
「もう二度と戦争はしない、再び戦没者も、戦没者遺族もつくらないと、国に誓って欲しいのです。この思いは、日本国憲法に生かされています。戦没者遺族にとっては、日本国憲法の『戦争の放棄』は、最愛の肉親の、戦没者の生命の代償、形見なのです。
これからの日本の進路はこの平和憲法を生かしきることであると思います」（事務所報「都民中央」１９９５年６月）

その日、政府は小山さんの願いを踏みにじって、自衛隊イラク派兵の基本計画を閣議決定した。また、新たな戦没者と遺族とをつくろうというのだ。

毎日の夕刊に、国会前抗議デモのプラカードが映っていた。「戦争５人組」と大書し、小泉・福田・川口・安倍・石破の写真が掲げられている。そして、「プラス１」として、端っこに公明党神崎の顔写真。この面々が、戦犯として歴史に名を残すことになるのだ。

2003年12月10日（水）

「法と民主主義」編集会議など

本日は「法と民主主義」編集会議。１２月号企画は戦後責任問題。被爆者訴訟、中国残留孤児訴訟、そして中国戦後賠償訴訟から見えてくる、私たちの国の戦後処理放棄の姿勢を考える。徹底的した侵略戦争への反省の上に日本は新生し、日本国憲法ができたはず。しかし、この国は本当にあの戦争を反省しているのだろうか。その責任をとろうとしているのだろうか。根底から考えたい。

１月号は、先日の司研集会報告。「ここまできた司法改革ーこれからの課題」あらためて、司法の現状を確認する誌面としたい。
２・３月合併号は、「無駄な公共事業　道路編」各地の土地収用事件、道路公害事件と道路公団民営化問題を考える。

そして、４月号以下を改憲阻止問題の連続特集企画としたい。まだ構想はまとまらない。攻撃にさらされている憲法９条を焦点に、平和主義を幾重にも形作っている諸構造を明らかにしたい。教育・政教分離・民主主義・日の丸君が代・国際協調等々の諸分野での多様な運動からのアプローチを考えたい。

編集会議のあとが「日の丸・君が代強制」予防訴訟の打ち合わせ。議論の中から、少しづつ構想ができあがって来る。

都立校の教員が原告となって、都教委教育長を被告とする無名抗告訴訟の形式。
請求の趣旨は、「卒業式・入学式等における国歌斉唱時の起立・斉唱義務不存在確認」、「君が代伴奏義務不存在確認」請求。

１０・２３通達が、教育長名で各校長を名宛人として出されている。これが校長宛職務命令であるとされ、その内容が、教職員に対して君が代斉唱時、起立・斉唱強制するよう要求している。
しかも、その予行演習と位置づけられた周年行事において、都庁職員を配置しての不起立者に対する執拗な現認作業、事後聞き取り調査が行われている。ご丁寧に、処分をちらつかせることさえ行われている。

これなら、予防訴訟の要件が充足するのではないか。腕を拱いて処分が出るまでまつのではなく、これだけ処分の脅しがある中で、積極的不当を訴えていこうという、意義のある提訴ではないか。

願わくは、多くの仲間の弁護士と共同で任に当たりたい。

2003年12月11日（木）

日民協・憲法研究会

本日は組織委員会。運動の活性化をどう実現するか。組織全体の高齢化傾向にどう対処するか。財政の健全化をどう実現するか。長期的に、短期的に何をなすべきかについて議論を重ねる。
とにもかくにも、憲法改悪阻止闘争に全力を挙げることを確認。この課題を措いて、日民協の存在意義はない。２００４年１１月まで、「法と民主主義」もこのテーマ一色で（は、ちとオーバーか）編集することで諒解。

次いで、憲法委員会の研究会。本日は政教分離原則論、なかんずく政教分離国賠訴訟における損害論の構成についての研究会。

まず、小泉・石原公式参拝訴訟の原告団事務局を担当する辻子実さん（「侵略神社・靖国思想を考えるために」の著者）が各地の靖国訴訟の現状を報告。
小泉靖国参拝を違憲と主張する訴訟は全国に６件。東京・千葉・大阪・松山・福岡・那覇。東京は石原参拝も問題にし、大阪・松山が靖国神社も被告にしている。また、東京と大阪が多数の韓国人・台湾人を原告としている。示し合わせたように、学者証人一人、原告尋問数名で結審というパターンとなりそう。大阪が既に結審して、２月２７日判決予定。他もこれに続きそう。

続いて、弁護団の大山勇一さんが、損害論の工夫について報告。不法行為論の通説である相関説を踏まえて、公式参拝継続の違法性の高さの強調。韓国籍原告の宗教的感情の特殊性の強調。公式参拝によるＰＴＳＤ論。「平和について思いを巡らす自由」侵害論。そして、名誉侵害判例などの類推論…。
ここを突破できれば、国賠訴訟の形式で広く違憲訴訟が可能となる。その意気やよし。

この報告を受けて、笹川紀勝教授から、「政教分離原則とは何か、原点に遡って考えてみては」との基本姿勢で、アカデミックなアドバイスがなされた。
明治維新後の仏教学者島地黙雷の「政教分離」論から、ワイマールドイツの制度的保障論、アメリカのレーモンテスト、神道指令後の政教分離論まで。
「憲法２０条を、宗教の自由と政教分離とに截然と二分する論法は、決してきちんとした根拠を持つものではない。ワイマール憲法解釈におけるシュミット流の受け売りだが、それも正確ではない」と力説される。

憲法２０条に違反の小泉公式参拝は、「政教分離という制度的保障の侵害行為に過ぎない」というのではなく、「宗教の自由という基本権の侵害そのもの」なのだ。この命題を裁判官に飲みやすいように、論証することが求められている。

2003年12月12日（金）

「法と民主主義」１２月号「風」

▼今年も、間もなく暮れる。慌ただしい年の瀬に思いをめぐらせる。
良い年ではなかった。来年も、さして良いこともなさそう。やや気が滅入る。
▼二〇〇三年は、唯一超大国アメリカが「先制攻撃の権利行使」を公言してイラクを侵略した年として歴史に刻まれる。国際法は蹂躙され、国連は威信を失墜した。
　国内を見れば、ラチに明けラチに暮れた。社会的ヒステリー症状は深刻である。憲法改正阻止を訴えた政党が選挙に敗れ、大きく議席を減らした。軍事占領継続中の他国の領土に自衛隊を派兵するイラク特措法が成立し、戦地イラクに派兵が実行されようとして、年を越す。
　初めて、政権党が憲法改正草案作りを公約に掲げて、総選挙を行った年でもある。
▼二〇〇四年は、イラクでの自衛隊が戦闘を余儀なくされるだろう。隊員の戦死が、ボルテージの高い論争を引きおこすことも大いにあり得る。国内世論が、拉致問題のように、一斉に「右向け右」となることだって。
　国民保護法制と国民投票法が国会闘争の焦点となり、改憲をめぐる攻防が緊迫することは目に見えている。
▼と、傍観者でいるだけでは事態は変わらない。来年をどうするか。何よりも二〇〇五年一一月までに改憲草案を作るという自民党に抗して、改憲阻止の世論を作り上げなければならない。
　かつてのように、国会内に「３分の１の壁」が築かれ、大労組の組織力に頼れた時代ではない。一人ひとりの自覚的な市民を改憲阻止運動に結集する努力が必要である。法律家の分野にも大きな役割が期待される。
▼今、改憲阻止で全力を挙げなくては日民協の存在意義はない。法律家の鼎の軽重が問われている。では、どうやって。
　まず、他の友誼団体に改憲阻止の運動を共にするよう発案する。そして、法曹界・学会・法律関連のあらゆる分野に、改憲阻止の運動を呼びかけよう。
　知りうる限りの平和・民主主義・人権関連の原告団・弁護団に共闘を呼びかけよう。あらゆる個別運動を糾合して、改憲阻止という大きな流れを作りだそう。
　多くの市民運動・民主団体と手を携え、国民的な運動の一翼を担おう。
▼そのための、「法と民主主義」の誌面作りをしよう。多くの分野の運動に参加してもらうこと、多くの研究者・実務家・市民活動家に寄稿してもらうこと、憲法問題を多面的に連続特集として取り上げよう。
　各地のビビドな改憲反対運動を反映させよう。経験を交流する場としよう。その中で、部数も伸ばそう。
　すこしだけ、気分が乗ってきたか。状況に潰されてたまるものか。せめては、あがいてみなくては。
　この気持ちで、年を越したい。

2003年12月13日（土）

皇太子の妻の自己責任

この一週間、先物取引事件での和解交渉が多かった。業者から、裁判官から、業界ＡＤＲの委員から、耳にタコのできるほど「自己責任」「ジコセキニン」と聞かされた。だました業者でなく、だまされた消費者に責任ありというお題目だ。その都度、「自己責任の基礎条件が整えられていない」「自己判断の条件ないところに、自己責任はない」と口が酸っぱくなるほど反論を繰り返す。

たまたま、皇太子の妻が、ストレスで心身不調というニュースである。「来年春ごろまで公務を休み、静養に専念される」という。庶民から見て、疲れるほどの仕事をしているようには見えないが、ストレスの積み重ねならよくわかる。とても、人前に出せる状態ではないということなのだろう。

私は、この人に個人的にはまったく興味がない。しかし、「国王の任務は生殖にある」。この人の妊娠と出産が天皇制維持に影響を持つ以上、男の子がないの、４０才になったの、まだ妊娠の徴候はないようだの、精神状態がどうの、帯状疱疹だの、育児の悩みだの、という報道に目を留めざるをえない。

それがストレスの原因なのだろうから、気の毒だとは思う。しかし、この立場は彼女が自ら選んだものだ。まさしく、自己責任原則が当てはまると言わざるをえない。この地位を押しつけた者の責任もあるのだろうが、当時２９才の彼女は十分な判断能力を持ち合わせていた。
これに比較して、皇太子の妹の方は自ら選んだ立場ではない。まことにお気の毒というほかはない。この賢そうな人の内面を有能な作家に書かせたら、きっと面白かろう。

いずれ、天皇制など人を幸福にする制度ではない。すっぱりやめてしまって、もっとも喜ぶのはこの２女性だろう。ストレスはたちどころに解消するに違いない。
天皇制廃止で誰も困らない。これを人民の統治に利用しようという、不敬・不逞の輩以外には。

2003年12月14日（日）

さようなら　吉田ルイ子さん

このごろ、エッと驚くことが多い。それはないよ。いったいどうなっているの。と言いたくなることごと。

新聞の書籍広告欄に、吉田ルイ子さんの推薦文が目に留まった。「ベストセラー躍進中!」とフレーズの付いた、独特の臭みのある雰囲気の広告欄。読むに耐えない歯の浮くような推薦文は、「幸福抄」という随想集へのもの。著者は、池田大作。当然、あの見たくない顔写真が掲載されている。

吉田さんは、私にとって好感度最高の人だった。池田大作は、言うまでもなく最低・最悪。この取り合わせは、「それはないよ。いったいどうなっているの」なのだ。

吉田さんには、集会企画でお招きしてお話を伺ったことがある。飾らない人柄。差別を憎み、弱者の側に立つ姿勢。強者に遠慮しない物言いに共感を覚えた。とりわけ、もっとも弱い立場の子どもの視点から、戦争や飢餓という「大人の悪」を告発する姿勢を素晴らしいと思った。世界中の現場からのフォト・ジャーナリストとしての発信を意義深いものと感銘を覚えた。それが、池田大作におべんちゃら。いったいどうなっちゃったの。
「ハーレムの熱い日々」の作者と、イラク派兵を容認し貧者の票を革新政党からかすめ取って保守政治の存続に貢献している政治勢力のボスとの、これ以上の奇妙な取り合わせはない。

この一文で、私は吉田さんに対する評価を改めなければならない。
あなたの池田大作に対するオマージュが心底からのものであれば、あなたは立場を異にする人として受けいれがたい。あなたが、心ならずもあんな文章を書いたというなら、あなたの全ての文章の重さを信じられない。
日本ジャーリスト会議（ＪＣＪ）特別賞の権威も地に落ちたことが残念だ。

それにしても思う。吉田ルイ子までも取り込む、彼らの力である。おむつの弱そうな広告塔タレントや国会議員なら驚かない。金や人気で釣られそうな有名人でも納得できる。しかし、吉田ルイ子まで…。
「第三文明」などにも、信じられない顔ぶれが並ぶことがある。タイトルだけしか見ないが、信じられないおべんちゃらが並べられている。
金か、人の数か、圧力か、人間関係か。恐るべき吸収力に警戒しなければならない。自戒もしたい。
いずれにせよ、さようなら、吉田ルイ子さん。

2003年12月15日（月）

ティラノザウルスが、ベラキラプトルを踏みつぶした

フセインが拘束された。それ自体にさしたる感想はない。巨悪が小悪を踏みつぶしたということ。ティラノザウルスが、ベラキラプトルを噛み砕いた図である。
なお、フセイン拘束の報が飛び込んできた日は、赤穂浪士（私は、「義士」とは言わない）討ち入りの日。吉良上野の首級をあげた３００年前の日本の浪士たちは、在野・反権力故に江戸庶民の喝采を浴びた。巨額の懸賞金であぶり出してフセインを狩った重武装のアメリカ軍に拍手を送る気にはならない。

今回の身柄拘束に関するアメリカの一連のステートメントにおいて、「サダム・フセイン」を「ジョージ・ブッシュ」に置き換えて読んでみよう。全て、文意がつながる。

やや意外だったのは、フセインを生かして拘束したこと。身柄をどうするつもりなのだろうか。米軍は、彼を拘束し、裁くどのような法的根拠を持っているというのだろうか。
文明国を自称し、民主主義の大義を下ろせないのだから、今さら裁判にも掛けずに殺害するわけにもいくまい。どのような法廷を構成し、どのような実体法と、どのような訴訟法で裁こうというのだろうか。

結局、合法性を装って裁判など始めれば、米英側の主権侵害の無法が浮かび上がってくる。面倒な「トラブルの種」を拾ってしまったのだ。さて、どうする。

もう一つ意外だったのは、彼が反米闘争の指揮を執っていた様子のないこと。では、スンニー・トライアングルにおけるあのゲリラ攻勢はどのような指揮系統で行われていたのだろう。

ベトナム戦争の際の国際環境においては、ベトナム解放戦線が善玉で、侵略者アメリカの悪玉振りが際だっていた。今回のアメリカ帝国の対イラク武力行使はベトナム戦時以上に乱暴な国際法違反であるにもかかわらず追求の矛先がやや鈍るのは、フセインという「小悪党」の存在故ではなかったか。ホーチミンのベトナムと、フセインのイラクでは、支援したい気持ちに雲泥の差が生じざるを得ない。

「フセインのイラク」が清算されたあと、独立を求めるイラク人民の運動が、どうなるのか。フセイン後も、侵略者アメリカへの抵抗運動が継続するなら、ベトナム戦の状況と酷似してくることになる。

2003年12月16日（火）

日の丸・君が代強制反対大弁護団を結成しよう

本日、またまた予防訴訟の会の打ち合わせ。正確には、「日の丸・君が代強制反対予防訴訟を進める会」。自衛隊が日の丸を掲げて、戦地に向かおうという時勢である。この時期のナショナリズムの高揚が何をねらうものかは明らかではないか。石原都政下の公立校での異様な日の丸・君が代強制を阻止しなくてはならない。

無名抗告訴訟としての、起立・斉唱義務不存在確認を求める「予防訴訟」と同時に、思想信条の自由を踏みにじる日の丸君が代強制の通達を発した教育委員会の行為を不法行為として国賠請求を提起しようという結論になった。
予防訴訟の被告は教育委員会、国賠請求の被告は都になるが、いずれも教育委員会の行為を違憲違法と構成することになる。

予防訴訟の請求の趣旨においては時期を特定しない。この春を越しても、訴訟は続くことになる。国賠請求はなおさらである。
国賠に関しては発想を転換する。処分があって初めて精神的損害が生ずるのではない。憲法と教育基本法に挑戦する通達によって、良心的教員を、「自己の思想信条を守りたい。しかしそのことを貫けば処分が不可避である」という、苦境に陥れられること自体で損害は生じる。予防訴訟の要件論と事実上重なることになる。

この訴訟形態のメリットは、処分覚悟で不起立を貫く人も、心ならずも起立する人も、分断されることなく一緒に訴訟を続けていけること。これなら、入り口論争だけでなく、堂々と内容の議論ができる。憲法と教育基本法こそが、われわれのよって立つ根拠だ。

腕を拱いて「処分が出たら闘おう」「処分が出るまでまとう」では大きな運動にならない。処分を出さないために、大きな力を結集しよう。

大弁護団を結成しよう。

2003年12月17日（水）

東京「日の丸・君が代訴訟」弁護団へのご参加を

　あなたは君が代を歌えますか。日の丸に敬礼できますか。
　軍国主義と排外主義のシンボルとして、天皇制国家とあまりにも深く結びついた歌と旗。その旗を掲げ、起立してその歌を唱えと命じられたら、従えますか。その強制が処分を伴うものであったら、いかがですか。

「逝いて還らぬ教え子よ／私の手は血まみれだ！／君をくびったその綱の／端を私はもっていた／しかも人の子の師の名において…」
　この詩に感動して平和教育・民主教育を志した教員が、今、自分の信念を貫くことで職を掛けざるを得ない立場に追い込まれています。そして、法律家の援助を求めています。
　この課題にふさわしい大弁護団が必要です。教育現場での「日の丸・君が代」の強制を許さない法廷闘争に、是非ともご参加をお願いいたします。　

石原反動都政暴走の一端が、来春の公立校卒業式にあらわれます。都教委は、都立高校・養護学校を中心に、義務制の小中校にまで、卒業式・入学式における「日の丸・君が代」の強制に狂奔しています。東京の状況は、たちまち全国に広まることになるでしょう。
　１０月２３日の「産経」朝刊一面トップは、「国旗掲揚・国歌斉唱の適切実施　違反教職員は懲戒処分　都教委きょう都立校に通達」という、おどろおどろしい見出し。そのリークのとおり、当日午後の臨時校長会で、都教委から都立校の各校長宛に、「入学式、卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について（通達）」と、「実施指針」（別紙）が示されました。
　微に入り細を穿って、国旗の掲揚・国歌の斉唱・会場設営にこだわっています。まさしく、「生徒中心の教育か、国家中心の教育か」が問われる構図でとなっています。
　とりわけ国歌斉唱時の不起立は、都議や都職員の監視で現認させ、処分を明言しています。教師を志した原点において承服しがたいという良心的な教員が苦境に立たされています。
　教組が、闘ってくれることが望ましいのですが、今のところその期待はできそうもありません。

　１２月６日に、この策動に提訴をもって敢然と闘おうという現場の声が、「予防訴訟を進める会」の結成集会となりました。原告団募集が既に始まっており、提訴者は、２００人規模となりそうです。
　これを支えてきた弁護士グループでは、「無名抗告訴訟としての、起立・斉唱義務不存在確認の予防訴訟」と、「起立・斉唱強制を不法行為とする国賠訴訟」を併せて提起しようと議論しています。
　国賠に関しては発想を転換します。処分があって初めて精神的損害が生ずるのではない。憲法と教育基本法を蹂躙する通達による、「自己の思想信条を守りたい。しかしそのことを貫けば処分が不可避である」という、良心的教員の苦境自体が損害と考えます。

　この訴訟形態のメリットは、処分覚悟で不起立を貫く人も、心ならずも起立する人も、分断されることなく一緒に訴訟を続けていけることです。これなら、入り口論争だけでなく、内容の議論ができる。憲法と教育基本法を武器に堂々と闘うことができそうです。
　腕を拱いて「処分が出たら闘おう」「処分が出るまでまとう」では大きな運動になりません。処分を出さないために、大きな力を結集しようという申し合わせです。

　現場で、闘う集団ができて、法律家の助力をまっています。早急に弁護団を結成し、提訴準備をしなくてはなりません。課題のスケールにふさわしい、大弁護団を結成しようではありませんか。
　是非、弁護団へのご参加をお願いいたします。
　また、多くの市民の皆様にご支援をお願いいたします。
　今、そこに迫っている民主主義と平和の危機を乗り越えるために。

2003年12月18日（木）

私たち法律家は自衛隊のイラク派遣に反対します

（法律家５団体　共同アピール原案）　
今、日本国憲法制定以来初めて、日本の武装部隊が「戦地」に派遣されようとしています。憲法本来の趣旨に照らして到底許されることではなく、私たちは法律家としてこの事態を座視できません。
政府は、２００３年１２月９日自衛隊のイラク派遣を閣議決定し、同月１８日防衛庁長官作成の「実施要項」を承認しました。これにより、陸海空合計約１０００人の自衛隊員をイラクへ派遣する準備が進行しつつあります。
　自衛隊の派遣先であるイラクは、米英軍の軍事占領下にあって、戦闘収束の見えない緊張状態が継続しています。国連の要請もなく相手国の承認もないまま、自衛隊はこの紛争地に赴こうとしています。攻撃の対象となり、武力行使あることを想定し容認しての武器携行の派遣なのです。
　米英両国は、国連憲章と国際法理に違反して主権国家に対する先制攻撃を敢えて行い、圧倒的な武力でイラクの政権を崩壊させました。違法な戦争に続く軍事占領の国際法上の合法性は極めて危ういものと指摘せざるを得ません。米英の開戦に反対し、イラクの占領統治継続を批判する多くの国が占領への関与を拒否しています。にもかかわらず、憲法９条を持つ日本が、米英に追随して自衛隊をイラクに派遣することは、憲法を枉げる行為として到底容認できません。
　私たち法律家は、恒久平和を希求する日本国憲法の原点に立ち返って、自衛隊のイラク派遣に異議の声をあげ、政府にその方針の撤回を申し入れるとともに、多くの市民の皆様にも、共に大きく声を上げていただくよう呼びかけます。

2003年12月19日（金）

医療過誤訴訟担当事件レホート

久しぶりに医療問題弁護団の会合。
今日は、私が担当した医療過誤訴訟についてのレポート。これまでの印象に残る事件の内１５件をレジメに載せ資料を付して解説した。ほとんどが、一人で受任して何とか勝訴した事件。脳外科から、消化器、呼吸器、循環器、放射線科、産科、小児科、眼科、投薬事故等々バラエテイに富んでいる。これまで相手にした病院名をあげれば、東大、医科研、慶應、日大、順天堂、慈恵、帝京、東邦、国立ガンセンター、東病院、国立小児、都立病院、癌研病院、岩手の県立病院、岩手医大、三井記念病院、福島労災、その他個人病院…。
自分の事件を振り返ってまとめてみる機会はなかなかない。良い機会をもらったと思う。

２０００年までは敗訴事件はない。我ながら難事件をよく勝ち抜いてきたと思う。それも我流の孤軍奮闘、徒手空拳で。あげた成果と、費やした労力・時間とのバランスがとれているかと言えば、まったくの「否」である。弁護士の活動は、経済原則では計れないところに妙味がある。

とは言え、最近では私も「コスト意識」が強くなってきた。無制限に時間や労力をつぎ込めない。たまたま、一昨年に福島地裁いわき支部で手痛い敗訴。昨年にも東京地裁３４部で敗訴判決をもらうハメとなった。いずれも、３人でのチーム受任の事件だが、ウーン、この２件の敗訴は偶然か必然か。

ところで、医療問題弁護団は在京の組織だが、２００人を超す専門弁護士集団となった。患者側に立つ姿勢を鮮明にし、事件を通じての医療の改善を活動目的としている。
私は、日本の弁護士の少なくとも中核の部分は、倫理の高い集団であると評価している。自らの職業上の活動を、金のためのビジネスと割り切ってはいない。
労働・公害・消費者・医療などに取り組む弁護士はその典型であり、医療弁護団も、その患者の人権を擁護する姿勢ゆえに社会的な信頼を勝ち得ていると思う。

私の報告も、殆どが医療過誤死亡事件である。遺族は訴訟という手段に何を求めているのだろうか。患者側弁護士は何ができるのだろうか。
愛する家族を失った人にとって、他の多くの人がその死に真剣に関わってくれること、死亡原因についての事実が究明されること、医療機関の反省がなされ、医療の改善がなされること、その過程を通じて被害者の死を意義あらしめること。それが「喪失感修復＝癒し」の過程であり、目標だと思う。このようなことのできる患者側の代理人でありたい。

現在、医療過誤訴訟は審理促進の掛け声の下、急速に専門性が高度化しつつある。従来のように、牧歌的に少しずつ調べながら勉強しながらの訴訟進行が許されなくなってきている。
東京から地方へ、集中審理方式は急速に波及しつつある。医療機関側の代理人の寡占化・専門化が進行しており、患者側もこれに対抗せざるを得ない。果たして、どこまで対応できていると言えるだろうか。

2003年12月20日（土）

今日はアンチ武富士デイ

午前中が「武富士の闇を暴く」弁護団会議。午後が武富士問題連絡会議。

武富士を強制捜査せよ、武井保雄を逮捕せよ、武井保雄は辞任せよ。ここまでは、要求の通りに筋書が進んだ。いまや、武富士は水に落ちた犬である。この不幸製造会社を、なお打たねばならない。

経営陣からの武井一族一掃を求める。テレビコマーシャル、新聞・雑誌の広告廃止を求める。日本経団連からの脱会、東証の上場廃止を求める。全ての言論弾圧訴訟を取り下げ、謝罪広告を求める。捜査機関には、電話盗聴だけで幕引きしない徹底追求を求める。特別背任、横領などの追起訴あってしかるべし。
金融庁・野村證券・電通の責任追及もしなければならない。追加の告発、武富士と関連者への公開質問状発送などの方針を決めた。

「武富士の闇を暴く」は、武富士の違法業務の実態を暴いた３弁護士の著作。武富士はこの出版の差し止めを求め、弁護士らに５５００万円の損害賠償を請求している。武富士の提訴が出版活動への妨害であり、弁護士の人権活動への妨害でもあることが明白である。違法・不当な提訴として反訴を提起することとして案文を練った。このような姑息な手段は、結局高くつくことを思い知らさなければならない。担当弁護士にも相応のペナルティがなければならない。

武富士は、違法を積み重ねて財をなした。その財は、これに群がり、これにたかり、おこぼれの甘い汁を吸う連中を育てた。私たちの社会は、このような違法集団の存在を黙認するのか、それとも浄化できるのか。企業の暴走に対する民主的規制が可能なのかが問われている。

「闇」訴訟での武富士側の代理人が弘中惇一郎弁護士。被害多発のオプション業者エー・シー・イー・インターナショナル株式会社の顧問でもある。別件でも、彼はこの不幸をまき散らしている問題業者の代理人となって、被害者や被害者代理人弁護士を被告とする不当訴訟を提起している。この件では、私も請求人となって彼を懲戒請求中だ。いや、弁護士もいろいろ。

2003年12月21日（日）

建国義勇軍と西村慎吾

イラク派兵に反対する法律家５団体共同のアピールの草案を起案中である。
「私たち法律家は、憲法の恒久平和主義に反する自衛隊のイラク派遣を容認できません」と書いて、しばし考え込む。

「日本国憲法の理念の正統の解釈からは、戦地であるイラク派兵を容認する余地はない」。これ法律家の常識として極めて当然なのだが、「イヤそうじゃない」と言いそうな非常識人の顔がすぐ浮かぶ。「反戦運動は利敵行為」という某党幹事長も、「イラク行きパフォーマンスはイカンザキ」（朝日川柳欄）と揶揄される某党委員長も、実は弁護士だ。
そして、民主党にも西村慎吾というとんでもない弁護士がいる。

「建国義勇軍」を名乗るグループが逮捕された。右翼テロ集団である。石原慎太郎が、被害者側を攻撃したあの事件の犯人でもある。主犯が「刀剣友の会」の会長村上一郎、この会の１１名が逮捕された。この「刀剣友の会」の最高顧問が西村慎吾その人である。尖閣列島で旗を振り、拉致議連の幹事長でもある。右派政治家として、「建国義勇軍」との親和性は高い。

村上は、友の会会報の００年６月号に、「グアムで１日３０００発の発射練習をした」といい、掲載写真の説明に「国賊思い知ったか」「ゴルゴ１３のような凄まじい私の腕前に、（射撃場の）管理人も、皇国日本の大東亜、八紘一宇の威徳の有り難さに目を潤ませた」などと書いているという。西村の、「村上を犯罪者と知って付き合っていたわけではない」などという弁明は白々しい。

自由党を経て紛れ込んできた民主党異分子なのだろうが、こんなトンデモ議員を、民主党よ、なんとかせよ。でないと「国賊思い知ったか」「皇国日本の大東亜、八紘一宇の威徳」の輩と同類と間違えられる。

正確には、ひとにぎりのトンデモ法律家を除いて、「私たち大部分の法律家」は、イラク派兵に反対である。

2003年12月22日（月）

理念なく、手続き的正義に欠ける合意による敗訴者負担導入に反対する

本日は今年最後の日民協執行部会。そして、忘年会。
とは言え、「年忘れ」の雰囲気はない。憲法も司法も、課題が目白押し。執行部会での議論を踏まえて、今夜中に「弁護士報酬敗訴者負担問題」についての日民協声明の起案をしなければならない。「今日の事務局長日記は、その起案の文章で埋めればよい」というのが、会議出席者の親切な助言。これに従うことにしよう。

（以下声明草案）
当協会は、創設以来司法の民主化を自らの重大な活動課題とし、本年も１１月２９日に「司法改革」をテーマに、第３６回司法制度研究集会を開催したところである。
同研究会においては今次の「司法制度改革」について積極・消極の両面から厳しい論議がなされたが、こと弁護士報酬の敗訴者負担問題に関しては、これを導入すべきでないとの見解で完全に一致した。この問題は民事訴訟の全体に関わる重大課題であり、「司法改革」の本質を象徴するテーマでもある。

あるべき民事司法の理念は、市民に大きく門戸を開いた裁判所を要求する。権利を侵害された社会的弱者の司法へのアクセス促進が最重要の課題として制度化されなければならない。ところが、司法制度改革審議会意見書から司法アクセス検討会へと続く審議の経過は、まったくこれに逆行するものと言わざるを得ない。弁護士報酬敗訴者負担制度の導入は、弱者の司法アクセスを阻害し、司法本来の使命を放棄するものである。
当然のことながら、これには多くの市民が反対の声を上げた。その運動が反映して、弁護士報酬敗訴者負担の単純な導入は不可能な事態となっている。これに替わって、今、司法アクセス検討会は、「訴訟当事者の合意による敗訴者負担制度」の導入を企図していると伝えられている。
当該の制度は、「一方当事者の合意拒否によって敗訴者負担を回避できるのだから、提訴萎縮効果は生じない」とされる。その意味では、反対運動の反映というべき側面を有してはいる。しかし、なお私たちはこれを肯認し得ない。

その理由は、まず何よりも、この制度導入が何の理念の裏付けも持たないということにある。いったい何のために、このような前例のない奇妙な制度を導入しようというのであろうか。制度導入の理念、必要性の根拠を理解することは不可能と言わざるを得ない。
司法制度改革審議会意見書の掲げる理念は「司法アクセスの促進」にほかならない。「合意を条件とする弁護士報酬の敗訴者負担制度導入」は、まったく司法アクセス促進に資するところはない。
当該案は、司法制度改革審議会意見書を「原則導入の立場」と理解し、その範囲内で「比較的弊害の少ない案」として考え出されたように見える。しかし、司法の理念から制度設計をするのではなく、審議会意見書の呪縛から逃れられないことを前提とする制度設計は逆立ちした思考方法であって、愚の極みである。

さらに、この制度の性急な導入は国民意思形成における手続きにおいて不正義と言わざるを得ず、司法のあり方を真剣に考えてきた多くの国民に対する背信性を拭えない。
司法制度改革推進本部は、この夏約１ヵ月間をかけて、この問題についてのパブリックコメントを求めた。その応募数は５１００通に達した。当然のことながら、その圧倒的多数は真摯な反対論で占められていた。また、市民運動と日弁連が集約した反対署名は、１００万筆を遙かに上回る。
「合意を条件とする敗訴者負担制度」の導入は、これらの意見を述べた多くの人々の反対論議を肩すかしするものである。「合意を条件とする弁護士報酬の敗訴者負担制度」は、まったく先例のない思いつきに過ぎず、誰もが考えもしなかった制度である。改めて、市民の声を聞かずしてこれを導入しようとすることは、誠実にパブリックコメントを送付し、署名をもって意思表示した多くの市民に対する背信行為にほかならない。同意条件案の導入は、再度のパブコメ聴取の後でなくてはありえない。時間が足りない、時期が切迫している、などとはまったく理由にならない。時間不足を理由に拙劣な制度を作ることは後世に禍根を残すことになる。

合意を条件とする敗訴者負担導入案は、決して訴訟当事者の意見に耳を傾けて作り出されたものではない。机上の空論として、司法アクセス検討会論議乗り切りの辻褄合わせの制度を作ろうというものと指摘せざるを得ない。
理念なく、手続き的正義に欠けるこの制度導入案は、技術的に同意の提出のしかたを限定したり、特定分野の適用を排除すれば賛成できるということにはならない。むしろ、司法アクセス促進の見地からは、弁護士報酬の片面的敗訴者負担制度の導入など、提訴の促進に効果を有する制度の設定に意を尽くすべきである。

司法制度改革推進本部に、以上の旨を要望する次第である。

2003年12月23日（火）

イラク派兵反対法律家アピール案

本日は、写真でしか見たことのないある男の誕生日とか。その男の誕生日を意識せよと、「国民の祝日」とされている。そのうえ、「祝日は休日」と法で定められている。休んで、この男の誕生を祝えということであろう。
とんでもない。休んでなどいられない。午前中は、イラク派兵阻止法律家アピールの実務作業会議。午後は、日民協の事務。夕方は、日の丸・君が代強制反対ホットライン会議。今日にふさわしい、正しい過ごし方であった。

イラク派兵反対法律家アピールでは、賛同者１万人を目標にしよう、という大風呂敷が拡げられた。「そのくらいの意気込みでやるべし」「そのくらいの大事件」という意見がまかり通った。

アピール文の暫定最終案文は、以下のとおり。

「私たち法律家は自衛隊のイラク派遣に反対します」
今、日本国憲法制定以来初めて、日本の武装部隊が「戦地」に派遣されようとしています。憲法本来の趣旨に照らして到底許されることではなく、私たちは法律家としてこの事態を座視できません。
政府は、２００３年１２月９日自衛隊のイラク派遣を閣議決定し、同月１８日防衛庁長官作成の「実施要項」を承認しました。これにより、陸海空合計１０００人規模の自衛隊員のイラクへの派遣が実行されようとしています。
　自衛隊の派遣先であるイラクは、米英軍の軍事占領下にあって戦闘収束の見えない緊張状態が継続しています。自衛隊がこの紛争地で実施する「安全確保支援活動」とは軍事的支援にほかならず、現地の人々からの攻撃対象となりかねません。これに対する反撃は戦闘そのもので、武力行使あることを想定し容認しての武器携行の派遣なのです。
　米英両国は、国連憲章と国際法理に違反して主権国家に対する先制攻撃を敢えて行い、圧倒的な武力でイラクの政権を崩壊させました。違法な開戦に続く軍事占領の国際法上の違法性は明らかです。憲法９条を持つ日本が、米英に追随して自衛隊をイラクに派遣することは、憲法と国際平和に違反する行為として到底容認できません。
　私たち法律家は、恒久平和を希求する日本国憲法の原点に立ち返って、自衛隊のイラク派遣に異議の声をあげ、政府にその方針の撤回を申し入れるとともに、多くの市民の皆様にも、共に大きく声を上げていただくよう呼びかけます。

2003年12月24日（水）

安田好弘弁護士の無罪に拍手

私が司法修習生になって初めての刑事裁判の授業の冒頭、担当教官が「刑事裁判は、少数とはいえ、無罪判決言い渡しのためにある」と言われたことが印象に残る。刑事司法は、被告人の人権を擁護するためにある。当然のことだ。

しかし、わが国の刑事裁判における無罪率は地裁レベルで０.０６％（法曹時報２００１年２月号）だという。およそ２０００件に１件という割合。ラクダが針の穴を通るほど難しい、といって誇張ではない。これが正常だとは到底考えられない。

高い有罪率は、長期間身柄を拘束して自白させ、自白調書で有罪を立証する、「人質司法」「調書裁判」に支えられたものである。刑事裁判が、その本来の役割を果たしているとは思えない。

そのような現実があるだけに、本日言い渡された安田好弘弁護士の無罪判決には、まず拍手を送りたい。「川口政明裁判長は、安田弁護士との共謀を認めた同社元従業員らの供述の信用性を否定。『関係者の取り調べには捜査官の不当な誘導があり、一種の司法取引のような形で迎合する供述をしたとみられてもやむを得ない』と捜査を厳しく批判した」「『検察官の態度はアンフェアとの評価を免れない』と指摘した」「『違う形で、また法廷でお会いしたい』、無罪を言い渡した川口政明裁判長は、判決の最後に安田好弘弁護士（５６）に語りかけた。『結審まで長引き、迷惑をかけました』とも。安田弁護士の目からは涙があふれる。裁判長があらためて『被告人は無罪』と宣告すると、法廷は大きな拍手に包まれた」と報じられている。刑事司法いまだ死なず、である。
一審判決が尊重され、控訴のなきことを願う。

しかし、判決では無罪とはなっても、安田弁護士にとって歯がみするほどの屈辱の逮捕、そして１０か月の勾留は取り返しのつかない無念の極みであったろう。これを、誰がどう償えるというのだろうか。当時、告発した住管機構の責任も免れない。私としては、まったく与り知らぬこととは言え、また部門も異なるものの、住管機構の弁護団には所属していた。私自身も、事件を知ったあと何もしなかったことに悔いは残る。

あらためて、法律家という職責を思う。検事・弁護士・裁判官それぞれについて。

2003年12月25日（木）

第２２回司法アクセス検討会報告

本日は第２２回となる司法アクセス検討会。おそらくは最後の会合。
弁護士報酬の敗訴者負担問題には、「合意選択制」の事務局案が出された。

原則を各自負担とし、「当事者双方に訴訟代理人が選任されている場合に限り」「訴えの提起後に当事者双方による共同の申立」を要件として、敗訴者負担制とする。なお「約款等で共同の申立をする旨の一方的な取り決めがされないようにする」とされている。

つまりは、一方が同意しない限り敗訴者負担はなく、当事者の敗訴者負担選択に関する積極消極の姿勢は裁判所に見えないようにしている、と言うことになる。
しかし、これで問題が解消するわけではない。日弁連案では、以下の要件を付して、これが充足されない限り賛同しがたいとしている。
①消費者・労働の２分野については、合意選択制を認めない。
②消費者契約、労働契約、および一方が優越的地位にある事業者間の契約などに盛り込まれた「敗訴者負担条項」の効力否定の立法措置を講ずること。
③現在事実上の片面的敗訴者負担となっている損害賠償訴訟では、これを維持するための必要な措置を講ずること。

本日の議事についての報告を聞くと、大方の委員は「合意選択制の不合理」を認識し、その除去のための措置が必要との見解を支持している。合意選択制導入に大きな役割を果たした長谷川委員が、「合意論に賛同したが、格差ある契約関係での問題点があるとは思わなかった」「飛田委員の立場に同調する」と、事実上改説している。高橋座長も、最後のまとめで「訴訟上の合意ではない私法上の合意を有効とすることには疑問」との趣旨の発言をしているという。

これから、司法制度改革推進本部事務局が法案を作成する。どのようなものができるか、監視を緩められない。そして、次は国会に運動の舞台が移る。

ここまで、運動は大筋勝利の方向にあると言ってよいだろう。運動体はたいしたことをしたと思う。それにしても、「実害のないところまで改悪を押しとどめた」というレベルである。「司法改革」いまだ遠し。

2003年12月26日（金）

予防訴訟原告の会

日の丸・君が代強制反対予防訴訟の原告団会議。年の瀬の渋谷の雑踏の中で、ここ勤労福祉会館だけには別の空気が流れている。本日は、訴訟の構成の骨格と委任状の内容確認まで。現在原告予定者は１５０名。弁護団は３０名。本格的教育訴訟になりそうだ。

訴訟は二本建て。処分権者である都教育委員会を被告とする国歌斉唱時の起立義務・斉唱義務不存在確認請求、そして１０月２３日通達とそれに付随する一連の行為によって教職員を困惑せしめていることについての国賠請求訴訟。憲法理念と現実の乖離がここにもあらわれている。しかも、本来先頭に立つべき教員組合が闘わない現実の中で、このような訴訟の必要性が生じている。

訴訟の成果は、運動と弁護団と研究者による三位一体の連携から生まれる。この訴訟では、有力な学者のアドバイスを得ることができる幸運なスタート。組合の支援には欠けるが、これを補う運動の活気もある。残る問題は弁護団だけだ。

なお、イラク派兵反対の法律家アピールも準備整いつつある。
集約用のメールアドレスがpeace@article9.jpというのが自慢。運動費用のカンパ集約口座名義は「法律家平和運動」。自慢するほどのネーミングではない。昨日深夜に、私が規約を作って生まれたばかりの団体名。

ｉＦＡＸで、全弁護士に趣意書を送付。賛同をメールとファクスで確認する。ファクス・ソフトで受信してプリントアウトはしない。弁護士登録番号の記載を求めて、ＣＤＲの名簿でチェックしてプリントアウトする。なんてスマートなやり方なんだろう。これなら、事務方の人手を大幅に省力化できる。実務が生み出した知恵だ。

2003年12月27日（土）

東京南部法律事務所忘年会

恒例のとおり、「東京南部法律事務所」忘年会に出席。
私は、蒲田の地域に根を下ろしたこの法律事務所で職業生活をスタートした。ここで、弁護士としての活動スタイルを身につけた。以来、「雀百まで」である。今年６０才になった私は、３０才の誕生日はこの事務所で迎えている。当時弁護士４年生。ずいぶん気負ってもおり、張り切ってもいた。よく働いていたと思う。

３０年を経て、そのころの志を今も持ち続けているか。ブレはないか、ズレてはいないか。古巣の事務所のメンバーとの交流で、検証が可能なのだ。事務所の昔の仲間に、胸を張っての近況報告ができなくなったら、自分がおかしくなっているということ。怠惰で無原則となりがちな自分を律する手段の一つだと思っての出席。

平和や人権や民主主義といった課題で志を共通にする集団の存在はまことに心強い。とは言え、バブリーな忘年会会場は蒲田では最高級ホテル。なかなか豪華な中華の宴席。「こちらは、志を貫いて霞を喰って生きている。カスミのお刺身、カスミの天ぷら、カスミの干物。それに比べて豪華な忘年会はおうらやましい」とは、ややイヤミな冗談。

民主経営の経済的な基礎の重要性は幾重にも強調しなければならない。精神論では乗り切れない。南部はまず安泰かとホッとする。昔は、かなりきつかった。　

所員が異口同音に語ることは、イラクの戦争、イラクへの派兵、そして日本国憲法の危機。来年は、民主主義や憲法にとって厳しい年となる。覚悟しての活動が必要だ。

６時から始まった忘年会は８時でお開き。カラオケ店での２次会に誘われる。しかし「酒は飲まない。タバコは喫わない。ゴルフはやらない。カラオケもしない。これが信条」とお断り。「付き合いが悪い」「それって殆ど生きてる楽しみがないってことじゃないか」などと言われながらのお別れ。また来年。

2003年12月28日（日）

イラク派兵反対の宣伝行動

午後１時上野公園にて、「イラク派兵に反対する若手弁護士の会」の緊急アピール・アクション。若手に紛れて、私もビラ配り。そして、マイクを握る。
通行人に向かって、どう話を進めたらよいのか。準備がなくて上手にまとまらない。あとでこう言えばよかったという内容を文章にまとめてみた。

平和な日曜日の午後です。でも、この平和がいつまでも続くという保証はありません。私たちが今当たり前のものと考えている平和も、実はこれを守り抜く努力なしには続くものではありません。安閑としていては、大切な我が子が戦場に送られる事態になりかねないのです。

私が生まれた６０年前、日本は戦争をしていました。中国への侵略は泥沼に入り込み、その上に、米英に対する開戦に踏み切ったのです。その結果が、２０００万人を殺し、３００万人以上が殺されるというこの上ない悲惨な事態を迎えて、敗戦に至りました。

日本は、その反省の上に、新しい国を作りました。戦争は決してしてはならない。そのための保証として、憲法９条を作り、戦争を放棄し陸海空軍その他の戦力はこれを保持しないことを誓いました。

ところが今、自衛隊が海を渡って、戦地イラクに派兵されようとしています。国連の要請によるものではなく、相手国の承認があるわけでもありません。ひたすら、米国の要求に従ってのことでしかありません。言うまでもなく、米英のイラクに対する先制攻撃は国際法に違反する侵略行為でしかありません。これに引き続く軍事占領の違法も明らかです。自衛隊はその違法な軍事占領に荷担することになるのです。

昨日はイラクで、タイ軍兵士２人、ブルガリア軍兵士４人が攻撃を受けて死亡しています。自衛隊も、現地抵抗勢力の攻撃目標となるでしょう。これを想定し、応戦のための武器を携えての派兵なのです。自衛隊員に犠牲者が出ること、自衛隊が現地の人を殺害すること、ともに高い確率で予想しないわけにはまいりません。そのような不幸が目に見えている派兵行為を食い止めなければなりません。

政府は、「戦闘に行くのではない。人道支援に行くのだ」と言っています。厳しい状況は、そのような弁解を許しません。常に、戦争は美名に装われて始められます。１９３０年代、中国への侵略戦争も、「東洋平和」「聖戦完遂」などの美名で始められました。当時の常識では、正しい戦争だったのです。

戦争はある日突然には始まりません。、国民の反対を少しずつ突き崩して、少しずつ準備が進み、少しずつ戦争が近づきます。私たちは、この動きに敏感になり、あらゆる戦争の準備に反対しなければならないと思います。戦争の準備である有事法制、憲法改正の動きに反対したいと思います。そして、今日の平和を続けるために、自衛隊のイラク派兵に反対しましょう。

今ならまだ間に合います。国民の過半数が派兵には反対しています。派兵撤回の声を結集すれば、派兵は止められます。手遅れになる前に、みんなで声を上げましょう。

2003年12月29日（月）

「日の丸・君が代強制反対」予防訴訟弁護団会議

午後１時から５時まで、東京中央法律事務所で研究者をお招きしての「日の丸・君が代強制」反対予防訴訟の弁護団会議。
尊敬する教育法学者から、「運動と弁護団だけでなく、しかるべき憲法研究者にどれだけ協力してもらえるかが鍵」と訴訟戦術論の指導までいただく。元気の出る会議となった。

訴訟の骨格案は、以下のとおり。
原告は都立校の教職員、被告は東京都教育委員会と東京都。
請求の趣旨は、
「各原告が被告東京都教育委員会に対し、学校行事において、起立し君が代を斉唱する義務のないことを確認する」「学校行事において、君が代斉唱のピアノ伴奏義務のないことを確認する」
「被告東京都は各原告に対し、いずれも金３万円を支払え」

つまり、①処分権者である東京都教育委員会に対する、起立・君が代斉唱ならびにピアノ伴奏についての予防的「作為義務不存在確認」請求と、②東京都公務員である教育長横山洋吉の違法行為（１０・２３通達）による損害（慰謝料）についての国家賠償請求の２本建て。

請求原因の柱建てとして、
①１０／２３通達（日の丸・君が代強制の指示）＋周年行事での強制の実態→日の丸君が代強制の切迫→処分の切迫
②処分の不利益回復の困難性
③日の丸・君が代強制の違憲違法。
　　日の丸・君が代強制の憲法１９条違反
　　日の丸・君が代強制の憲法２１条違反
　　日の丸・君が代強制の教育基本法違反
　　日の丸・君が代強制の学校教育法違反
　　日の丸・君が代強制の子どもの権利侵害
④教委の「論理」への反駁
　　職務命令違反・職務専念義務違反・信用失墜行為とならない
　　学習指導要領は日の丸・君が代強制の根拠とならない
　　国旗国歌法は日の丸・君が代強制の根拠とならない

議論は百出する。「請求の趣旨に、日の丸への敬礼義務不存在を入れるべきではないか」「日の丸については強制の要素を把握しがたい。困難を招くようなことはすべきでない」「では、国賠については違法要素の一つとしよう」「日の丸・君が代強制に対抗するキーワードが必要」「良心の自由でよいのでは」「教育者的良心の自由とすべきだろう」「職務命令に対抗する教員の良心の自由が出発点」「いや、教育を受ける子どもの権利を出発点としなければ孤立した運動になってしまう」「憲法２６条論と１９条論を架橋する理論が必要」「近現代憲法原理の常識として、国家シンボルに対する忠誠要求の拒絶は当然。そこに、教員と生徒・親の共通の立脚点がある」「生徒からの『歌わない自由があるのか』と言う問に、イエスと回答する責務がある、と言うところが原点」「教育基本法の活用は１０条にとどまるべきでない。人格の完成という教育の目的からの教員の権利構成を考えるべき」「現場では、中国人や在日の生徒も必ずいる。宗教上の配慮も必要。強制は受けいれがたい」「何よりも、教員は子どもに試される立場にある。子どもの信頼をつなぎ止めるためにも強制には従えない」……。

深刻な議論ではあるが、そして忙しさに潰されそうにもなるが、やっぱり弁護士は面白い。

2003年12月30日（火）

災害救助は自衛隊の本務ではない

空自の先遣隊がイラクに飛んだ直後に、イラン地震の報がはいってきた。第一報では「死者５０００人規模」だったものが、新しい報道のたびに被害規模は拡大し、死者３万人以上の大災害であることが明らかにされつつある。

外務大臣は、国際緊急援助隊派遣法に基づき防衛庁に協力を要請、同庁は被災民のテントや毛布などを運ぶため航空自衛隊Ｃ１３０輸送機２機の派遣を決めた。同法に基づく自衛隊の派遣は、これが４回目。過去の例は、９８年のホンジュラスでのハリケーン、９９年のトルコ地震、０１年のインド地震による被災援助だという。

イランへの自衛隊派遣は、イラク派遣とは大いに性格が異なる。イラクでは現地政府からの要請がない、派遣先は戦地である、戦闘あることを想定して武器を持参して出かけるのだ。イランでは、現地からの要請があり、戦闘ではなく、人命の救助活動に出かける。もちろん、戦闘の想定はない。

イランへの自衛隊の派遣はその目的やよし、その活動もよし、と言うことになろう。イラクとは違って国民の多くが、容認し、激励していると思う。しかし、「なぜ、自衛隊が」という疑義は最後まで残る。本質的な疑義と言うべきだろう。

自衛隊は軍隊である。軍隊は、敵を殺傷することを目的として、合目的的に組織されている。敵の殺傷に合理的な装備を持ち、殺傷のための訓練を重ねている。けっして、災害救助を目的としたものではなく、人名救助に合理的な装備も、訓練も行われているわけではない。

災害救助活動の充実に反対する国民はなかろう。しかし、災害救助は自衛隊の本来的任務ではない。災害救助活動充実のためには、自衛隊とは別の災害救助を本来的な任務とする専門組織の充実が必要なのである。それは、自衛隊でも、防衛庁でもなし得ることではない。例えば、消防庁が適任である。

現在の自衛隊の大きな部分を割いて、災害援助専門部隊にまわすべきである。そのことは、人を殺す組織から人を救う活動へ、１８０度の転換である。日本の国際貢献は数段進展し、自衛隊員もより肩身の広いやり甲斐のある任務を遂行することになるだろう。

2003年12月31日（水）

２００４年を、多少なりともよりよい年に

２００３年が幕を閉じる。もちろん、何ごとも本日の幕引きで終わりにはならず事態は連続して進行するのだが、束の間の幕間に、来し方を振り返っても見、行く先を確かめても見る。

２００３年は最悪の年であった。唯一超大国アメリカが無法の限りを尽くした年として歴史に刻まれるだろう。日本はそれに追随して、イラク軍事占領に荷担を決定した年として記憶されることになる。さらに、国民保護法、国民投票法と、改憲へ向けての地ならしの動きは急である。

この事態に日本の平和運動は、十分な盛り上がりを見せていない。各分野での平和・改憲阻止運動は事態の深刻さにふさわしい規模となっていない。もちろん、他人の責任ではない。日民協の活動も十分ではない。私自身の責任も大きい。溜息が出る。

私自身のことを言えば、毎日、本来の業務をこなさなければならない。約２０件の消費者訴訟と１５件の医療過誤事件だけで十分に忙しい。これに関与者責任追及訴訟だの、水産業協同組合法事件だの、「武富士の闇を暴く」訴訟だの、日の丸・君が代問題等々が重なる。明日の準備書面の作成に追われている。証人尋問の準備で昼食を抜かすことはしょっちゅうだ。日弁連の活動もある。弁護士報酬の敗訴者負担を許さぬ連絡会も。日の丸・君が代強制反対ホットラインもある。「予防訴訟」の準備も…。

その合間を縫って、日民協活動を行わなければならない。執行部会、理事会、「法と民主主義」編集委員会、司独、憲法委員会、司法問題委員会には必ず出席しなければならない。イベントの裏方、他団体との共同行動の準備…。ときに、「事務局長の活動費はどのくらいなのですか」と聞かれて戸惑うことがある。もちろん、全役員が、完全に無償の活動である。

私だけではない。多くの役員が多忙な時間を割いて、平和のために、民主主義のためにがんばっている。しかし、状況を変えるのに到底足りない。どうすればよいのだろう。どうすれば、法律家内部へ向けた活動ができるだろうか。どうすれば、他の分野の活動と共同した大きな運動が起こせるだろうか。

とにもかくにもできることから手を着けて、走りながら考え続けるほかはない。改憲阻止の活動に、あなたにもご参加いただきたい。来年を少しは良い年にするために。いや、より良い未来を築くために。


shiromuku(d)DIARY version 2.04