ひろば 2018年10月

 少年法「年齢引き下げありき」ですすむ審議会


適用年齢についての議論はないまま
 2017年2月9日、少年法の適用年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることが法制審議会に諮問され、現在、少年法・刑事法部会で審議がすすめられています。
 「少年法における『少年』の年齢を18歳未満とすること及び非行少年を含む犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事法の整備の在り方について」がご審議の議題となっており、少年法の適用年齢だけではなく、懲役刑と禁錮刑の単一化、宣告猶予制度の新設など、成人の刑事法や刑事政策と幅広い内容が議論の対象となっています。
 一方で、少年法の適用年齢引き下げの是非については、これまで本格的な議論が行われたことはありません。こうした議論のすすめ方を見ていると、引き下げの「結論ありき」で犯罪者全体の処遇が検討され、その結果をもって「年齢を引き下げても大丈夫だ」という結論が導かれるのではないか、との懸念が強まっています。

果たして「少年法の代替」になるのか
 2017年9月以降は3つの分科会に分かれて検討がすすめられてきましたが、7月26日の第8回部会において、各分科会のこれまでの検討の取りまとめとして「分科会における検討結果(考えられる制度・施策の概要案)」が報告されました。
 第1分科会では、若年受刑者に対する処遇内容及び処遇調査の充実が検討されており、その方向性は、少年院における矯正教育の手法を刑務所に導入し、処遇改善を図ろうとするものです。しかし、刑務作業を基本とする刑務所では教育の充実といっても限度があります。また、若年受刑者に対する処遇調査において少年鑑別所の鑑別機能を活用するとしていますが、その根拠や実効性も不明です。
 第2分科会の検討の中では、「若年者に対する新たな処分」が検討されており、これを家庭裁判所が担うとしています。
 しかし、この手続については、虞犯や警察の捜査で終わるいわゆる「署限り」の事案などは保護する必要性が高くても対象とならないのではないか、検察官の起訴・不起訴にかからせる制度で良いのか、少年法のもとで行われてきた教育的措置と同様の効果があるのかなど、現場の家裁調査官からも様々な疑問が出されています。
 第3分科会では、検察官が一定の守るべき事項を設定した上で、保護観察官が指導・監督を行う制度(検察官が働きかけを行う制度)を新設し、対象とする被疑者の選定及び守るべき事項の設定は、必要に応じて、少年鑑別所の調査機能を活用することとしています。しかし、対象や守るべき事項について検察官に振り分けさせるのが相当か、裁判官による審理・決定なしに、検察官が強制的に少年鑑別所の調査を受けさせることや保護観察処分ができるのかという人権保障上の問題があります。

今こそ少年法の理念と役割を伝えよう
 少年事件の現場で見る18・19歳は、社会的に未成熟である反面、進学・就職など成長の転機を迎える時期であって、外部からの働きかけの選択肢が広がり、少年法による更生の効果が非常に高い年齢だというのが現場の感覚です。
 こうした審議状況について、朝日新聞は「少年法と年齢 引き下げありきの矛盾」と題した9月24日付けの社説で「今の制度はおおむね有効に機能しているというのが、現場の共通認識だ。にもかかわらず、引き下げありきで改正を論じる。その矛盾が議論の端々にのぞく」「この混迷ぶりは、今回の法制審の動きが、『改正のための改正』でしかないことを物語っているといえよう」と書いています。
 全司法では、少年法の理念や、少年事件において家庭裁判所や家裁調査官の果たしている役割を正確に社会に伝え、適用年齢の引き下げに理由もメリットもないことを明らかにしていくことが重要になっていると考えています。

(全司法労働組合中央執行委員長 中矢正晴)


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