ひろば 2018年7月

 「法民賞」の選考委員を担って


●いなおり
 本年度の選考委員に、広渡清吾氏(委員長)、内藤光博氏、中矢正晴氏らととも私も選任され、その選考を担うことになったので、その感想を述べさせていただく。
 今回の選考対象期間(2017年4月〜2018年3月)の「法と民主主義」は、安倍政権の改憲策動、日米軍事同盟の強化、そして反人権的立法の強行を批判する論陣をはっている。とくに森友・加計問題にあらわれた権力の私物化というべき安倍政権の対応が日本の民主主義に大きな負荷となっていることを明らかにした。他方、安倍政治に変わる新しい可能性を2017年10月の衆院選の分析において探った。また、歴史的な核兵器禁止条約の成立の背景と意義を尋ね、「核なき世界」を展望している。
 各委員が、それぞれ理由を付して3点の受賞候補作を提案し、議論を積み重ねた結果、次のような結論に至った。
 「法と民主主義」賞は、「特集・核なき世界をめざして」(1月号)に授与することとした。核兵器禁止条約が国連で採択され、国際的に大きな支持をひろげつつある。条約を生み出したのは、核兵器廃絶の国際的世論であり、その中心が唯一の被爆国日本の被爆者、市民そして法律家の原水爆禁止の粘り強い運動であった。核兵器禁止条約は、21世紀の世界が核の脅威から自由になり、世界平和と人類の福祉を実現するための絶対条件であり、日本国憲法9条とともにこれからの世界と日本の平和運動のたいまつとなる。本特集は、核兵器禁止条約に至るまでの世界と日本の運動および条約の世界的意義と射程を考察し、歴史的意義を有する核兵器禁止条約を記念する内容を示したものとして貴重であり、法民賞に値する。
 「法と民主主義」特別賞は、以下の2点に決まった。
 1つは、「特集・2017年衆院選――私たちは何をなすべきか」(11月号)に授与することとした。2017年10月の衆院選は、2016年7月の参院選に続いて、安倍政権に対して市民と立憲野党が共同のたたかいに取り組んだ側面を有していた。上記特集は、このたたかいを振り返り、記録し、その意義と教訓を明らかにしようとした。重要なのは、そこにおいて、選挙がたたかわれる社会のなかの基礎条件、すなわち、市民と野党の共同、市民と政党・市民と市民の関係、選挙制度それ自体などを考察し、政治を変えるために選挙をかえるという可能性を探ったことである。このような可能性の探索が今後に持つ意義を高く評価して、本特集に法民特別賞を授与することとした。
 もう1つの特別賞は、阿部岳「異形の怪鳥 同盟を象徴――オスプレイにみる隷従の実態」(10月号)に授与することとした。阿部岳氏は、ジャーナリストとして、日米軍事同盟を象徴するオスプレイをめぐる問題を沖縄の現地から告発し、これを「米軍の横暴、日本政府の卑屈、沖縄差別、本土への波及」と総括している。本論文は、安倍政権の安保政策に対する最前線のたたかいとして沖縄の現実を具体的に分析することによって、沖縄の怒りを伝え、本土との連帯を求め大きな説得力を示し、法民特別賞に値する。以上は、選考委員会委員全員一致の結論であった。
 最後に、相磯まつ江記念・法民賞の存在意義について述べさせていただく。法民賞は、年間を通してみて、日本の民主主義運動を励まし、ともにたたかい、平和と民主主義の可能性を広げるのに貢献したと考えられる論文に賞を与えるものである。私たちが生きている時代の論文を大きな視点から捉え、位置づけ、未来に対する展望を切り開いていく上で、極めて貴重なものであることを選考委員を担当して実感した次第である。末長く、法民賞が継続、発展することを祈念する次第である。

(弁護士 加藤文也)


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