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 法と民主主義2015年6月号【499号】(目次と記事)


法と民主主義2015年6月号表紙
特集★ハンセン病「特別法廷」と司法の責任──遅すぎた最高裁の検証
特集にあたって………編集委員会・米倉洋子
◆特別法廷の違憲性とハンセン病差別・偏見………内田博文
◆特別法廷と菊池事件の死刑判決………岡田行雄
◆当事者運動と特別法廷………コ田靖之
◆特別法廷──司法による被害および名誉の回復 司法がもたらした被害は司法が主体となって回復を図らなければならない………八尋光秀

  • 特別掲載●司法審の思想と法曹大増員の関係論………戒能通厚
  • 司法をめぐる動き〈12〉・法曹養成制度改革推進会議決定(案)について──「司法試験合格者数1500人以上」の意味するもの──………森山文昭
  • 司法をめぐる動き〈12〉・2015年5月の動き………司法制度委員会
  • 書評●鷲野忠雄著「検証・司法の危機 1969−72」日本評論社………小田中聰樹
  • 国会最前線──戦争法案・労働法改悪・刑事訴訟法等改悪法案をめぐって
  • 砂川事件最高裁判決は集団的自衛権容認の根拠となるか………小沢隆一
  • 資料・砂川事件最高裁大法廷判決
  • 資料・安保法制(戦争法案)の廃案を求める法律家6団体の共同アピール
  • 資料・安保関連法案に反対し、そのすみやかな廃案を求める憲法研究者の声明
  • 緊迫する国会情勢・派遣法 めざせ三度目の廃案、時間・金銭解決制度は?………菅 俊治
  • 刑事訴訟法改正案の問題点………渕野貴生
  • メディアウオッチ2015●戦争法制と憲法「違憲法案」の指摘で揺れる 根源的な問題ようやく浮上………丸山重威
  • リレートーク●憲法を武器に、声をあげ、行動することの大切さ………種田和敏
  • 時評●赤信号、みんなで渡れば そこ戦場………斉藤豊冶
  • KAZE●大阪夏の陣・維新落城をことほぐ………澤藤統一郎

 
ハンセン病「特別法廷」と司法の責任──遅すぎた最高裁の検証

 ◆特集にあたって
 今月号の特集は、内田博文教授が編集委員会に提案・企画して下さった。東京中心になりがちな『法と民主主義』編集に新風を吹き込んでいただいたことにまず感謝したい。
 最高裁は、二〇一四年五月「ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査委員会」を設置した。調査は今年三月終了し、調査結果の公表が待たれている。本特集の論稿は、検証の対象である「特別法廷」の問題を中心としつつ、ハンセン病問題に限らない司法自身による過ちの検証の重要性を考えさせる労作である。
 内田博文論文は、公開裁判の例外は事件毎に個別に判断されるべきところ、ハンセン病(元)患者は一律に特別法廷を指定され、法廷での審理も適正手続を無視した異様なものであり、司法が患者らを「日本国憲法の枠外」に扱ってきた事実を紹介し、今回の最高裁による検証には様々な問題があるが、最高裁が自ら検証に取り組んだことの意義は極めて大きく、冤罪事件の誤判原因の分析等「検証文化」の定着が日本の司法の最大の課題であると述べる。
 岡田行雄論文は、特別法廷で審理された著明な死刑事件「菊池事件」について、特別法廷の問題のほか同事件の捜査・審理の違憲性、事実認定や量刑理由の著しい不合理性を詳しく紹介し、司法による名誉回復の必要性を強調する。
 コ田靖之論文は、ハンセン病問題における当事者運動が長い歴史を持ちながら長く司法の場に提起されなかったことの原因に、患者らを「汚物」のように扱った特別法廷の問題があったとし、最高裁は自らの加害性を正面から見据えることで憲法の守り手としての権威を確立してほしいと述べる。
 八尋光秀論文は、今回の最高裁の検証が、裁判の独立を理由に個々の裁判結果の検証を先送りしたことにつき、司法がもたらした被害は司法が主体となって回復を図らなければならないとし、近時の諸外国の誤判救済制度を紹介して、ハンセン病問題を契機に日本の司法も被害と名誉回復を図る主体となるべきだとする。
 近時、冤罪事件の弁護士らが「誤判原因を究明する調査委員会」の設置を求める運動を進めているが、そうした流れに沿う最高裁調査結果の発表が待たれる。
 なお、本号には、法曹人口問題に関し、司法制度改革審議会から説き起こした戒能通厚論文と、最新情勢を伝える森山文昭報告を掲載した。こちらもぜひお読み頂きたい。

法と民主主義編集委員会 米倉洋子


 
時評●赤信号、みんなで渡れば そこ戦場

(甲南大学名誉教授、弁護士)斉藤豊治

 集団的自衛権の行使は、事の性質上、戦争ないし戦闘行為への参加であり、憲法九条一項が禁止する「武力の行使」以外の何物でもない。運動はこの点を前面に出す必要がある。
 集団的自衛権の行使に関しては、いわゆる新三要件によりどの程度「限定」されるのかという要件論に焦点が当てられている。政権は要件論に世論を誘導し、その効果に関しては触れてほしくないというスタンスを取っている。要件論の批判的検討は、もとより重要ではある。しかし、その効果にも目を向けなければ、政権側の術策に陥る。
 集団的自衛権の行使の効果は、文字通り、武力の行使、戦闘への参加であり、それは後方支援ではない。これまでの自衛隊法の「防衛出動」は、日本に対する武力攻撃がある場合だけを想定している。日米共同作戦を前提として、小泉政権はそれを具体化する武力攻撃事態法を強行制定させた。
 今回の戦争立法では、自衛隊法七六条の改正および武力攻撃事態法の改正によってアメリカ等への攻撃を日本への攻撃と同格に位置づけて、防衛出動を認め、「存立危機事態」という枠組みのもとでの武力行使を可能にしようとしている。
 防衛出動が命じられる場合は、後方支援ではありえない。集団的自衛権ないし「存立危機事態」においても、最初から戦闘現場、前線に自衛隊が投入される。相手方の軍人および民間人の死者が出ることは不可避であるが、自衛隊員の死を招くことも確実である。「殺さなければ殺される」という状況が現出する。戦闘の現場での自衛隊員の安全確保など、絵空事である。安倍首相は、「六〇年の安保改定に対し戦争に巻き込まれるという批判があった。この批判が間違いだったことは歴史が証明している」として、存立危機事態での自衛隊派兵の危険をごまかそうとしているが、全くの詭弁である。
 日本の「防衛法制」では、武力の行使と武器の使用は区別している。このような区別をする例は、日本だけのようである。このように区別する理由は、「武力行使」を禁止する憲法九条の存在によるところが大きい。
 武力の行使は武器使用を含む。武器の使用のマックスが武力の行使ではある。しかし、武器の使用が直ちに武力の行使となるわけではない。日本への武力攻撃事態および存立危機事態以外の出動の際には、武器の使用のみが認められる。出動の類型によって武器使用の要件は異なるが、これまでは、物的施設の破壊や威嚇射撃を超えて武器の使用によって相手を死傷させることは、正当防衛ないし緊急避難状況の存在が要件とされているし、武器の使用が必要不可欠であり、それ以外の手段がないこと等が求められる。これに対して、武力行使では必要性が認められれば、論理的には青天井に武器の使用が肯定される。武器使用は、警職法が原型となる。これには、自己防衛型と任務遂行型がある。武器使用の範囲が、戦争立法では大幅に拡大され、要件も緩和されて、任務遂行型に重点が移っている。その結果、武器の使用と武力行使の垣根は低くなる。
 周辺事態法を改正する重要影響事態法案では非戦闘地域という限定を外して、戦闘地域の後方支援に自衛隊の派兵を認める。派遣の地点が戦闘現場になる場合、撤退するという方針は、守られないだろう。撤退がかえって自衛隊員にとり危険である場合も多いし、撤退に対して「同盟国」からの強い反発も予想される。その結果、現地での武器の使用がエスカレートし、武力行使に至る可能性が高い。「国際平和支援法」、PKO協力法改正法などでも同様の問題がある。
 自衛隊の海外派兵が急増すると、海外で武力攻撃にさらされる機会も増大する。後方支援などであっても自衛隊への攻撃=我が国への武力攻撃という図式が成り立つとすれば、自衛隊の「防衛出動」=武力行使は、急増する。「平和安全」法制のすべての道は、戦場に通じる。



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