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 法と民主主義2015年2・3月号【496号】(目次と記事)


法と民主主義2015年2・3月号表紙
特集★原発災害を絶対に繰りかえさせないために(パートY)─あれから4年「フクシマ」の現在と私たちの課題そして展望─
特集にあたって………編集委員会・海部幸造
企画T●あれから4年「フクシマ」の現在
◆原発被災からの「回復」の現段階………今野順夫
◆「遠い夜明け」福島第一原発の現状………山川剛史

企画U●〈原発被害の完全回復と原発のない社会をめざして〉─「原発と人権」ネットワーク企画シンポから
◆司法の力で原発を止める………海渡雄一
◆ドイツの脱原発を生んだ 「もう一つの反原発運動」………千葉恒久
◆被害回復に向けて──ADR和解の現状と今後………小海範亮
◆今日、原発公害裁判闘争が問われること──福島原発被害者の基本要求を実現するために………小野寺利孝

  • メディア・ウオッチ2015●「イスラム国」人質問題とメディア 「敵」とされた日本、なお残るナゾと政府の姿勢………丸山重威
  • あなたとランチを〈10〉………ランチメイト・海渡双葉×佐藤むつみ
  • 司法をめぐる動き■『刑事訴訟法等の一部を改正する法律案』を二分割する提案について………足立昌勝
  • 2015年1月〜2月の動き………司法制度委員会
  • 資料●通信傍受法拡大に反対する単位会会長共同声明
  • リレートーク●〈19〉Pay for Justice!〜給費制復活を目指して〜………石井衆介
  • 書評●上脇博之著『告発!政治とカネ 政党助成金20年、腐敗の深層』かもがわ出版・他2冊………丸山重威
  • 委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………米倉洋子/小沢隆一
  • 時評●「国富」の喪失か、回復か………庄司 捷彦
  • KAZE●映画「日本と原発」を制作して………河合弘之

 
原発災害を絶対に繰りかえさせないために(パートY)─あれから4年「フクシマ」の現在と私たちの課題そして展望─

 福島第一原発の大事故から四年。一方で原発被害の風化が危惧され、川内原発、高浜原発の再稼働に向けて強引に事が運ばれているが、他方で大飯原発では差し止め判決が勝ちとられ脱原発訴訟のネットワークが作られ広がり、住民のADR集団申し立てが広がり、全国で二五件以上もの原発被害者訴訟が提訴されて、被害者、弁護団、学者、支援者達たちの協同と連帯が広がりつつある。
 本特集は、こうした「風化」など許さない福島の現在の状況と、現在の大きな運動の広がりの現状と展望を伝えるものである。

 〈企画T あれから四年『フクシマ』の現在〉は、文字通り、原発事故から四年を経た福島の状況を二人の方に伝えて頂いた。
 今野順夫元福島大学学長の論稿「原発被災からの『回復』の現段階」は、原発被災者の方々の過酷な広域的・長期的避難、そして震災関連死の増大、帰還の困難、地域・生業の回復の大きな遅れといった全体状況を、客観的な数字を示して明らかにしている。この状況の中での国・東電の補償打ち切りに向けての動きには、本当に怒りを禁じ得ない。
 東京新聞・原発取材班キャップである山川剛史氏の「『遠い夜明け』福島第一原発の状況」は、福島第一原発の現場の状況を伝えている。目の前の最大の問題である汚染水の発生と増加、そして海への流出が続いている。一方廃炉作業は、極めて高い放射線量の中で、手法自体が手探りであり、三〇年ないし四〇年はかかるといわれている作業行程の、今はまだ入り口にも立てていない、「(入り口の)ドアをノックしている段階」である。

 〈企画U 原発被害の完全回復と原発のない社会を目指して〉は、今年二月一六日に行われた「『原発と人権』ネットワーク」が企画したシンポジウム「原発事故から四年 今求められていることは」における、四本の基調報告・問題提起を、各報告者にまとめていただいた論稿である。この企画は、原発を巡る昨今の揺り戻しと一方での運動の広がり・発展のなかで、@どうやったら本当に原発を止められるか。訴訟、運動の現状と課題は何か。脱原発を実現する上で再生可能エネルギーへの転換をどう実現できるか。A被害回復のための新しい政策形成が必要といわれているが、そうしたことを視野においた訴訟、運動をどう進められるのか。という、脱原発と被害回復の二つの柱について、同じ場で基調報告と問題提起をいただき、二つの柱を視野において各分野の参加者による意見交換を行い、運動の方向性を探ろうというものであった。企画は、各報告者のそれぞれ、きっちりした示唆的な報告をいただき、きわめて充実しものとなった。
 第一報告は海渡雄一弁護士による「司法の力で原発を止める」。新たに明らかにされた、国や東電の危険性の認識とその隠蔽の諸事実なども指摘し、3・11後の脱原発訴訟の状況、大飯原発差し止め判決にも触れて、脱原発訴訟の取り組みの現段階と課題、展望を明らかにしている。
 第二報告は千葉恒久弁護士による「ドイツの脱原発を生んだ『もう一つの反原発運動』」。ドイツが脱原発政策に転換するまでの、四〇年近い市民運動の紆余曲折の経過と、「もう一つの脱原発運動」(住民運動・地方政府によるエネルギー政策の転換)の重要性を明らかにして、極めて示唆的である。
 第三報告は小海範明弁護士の「被害回復に向けて──ADR和解の現状と今後」。現在大きく広がってきている被害住民の集団ADR申立の動きの現状、その中で獲得された内容・成果と見えつつある限界、そして集団申し立てによる地域住民結集の可能性などを語り、これも極めて示唆的である。
 第四報告が小野寺利孝弁護士の「今日、原発公害裁判闘争の問われること──福島原発被害者の基本要求を実現するために」。今こそ、幾多の「公害裁判闘争」の経験に踏まえて「原発公害裁判闘争」に問われる諸課題を明らかにし、全国各地でこの裁判闘争を担う原告団、弁護団、支援が現状認識を共有したうえで、被害者の「基本要求」実現を目指し全国的な統一闘争を検討すべき時期を迎えつつあるのではないか、と提起し、いわきの二つの訴訟を例にして、訴訟戦略と裁判闘争の到達点、課題を紹介し、問題提起している。政策形成訴訟・運動の戦略論の展開と言えよう。
 いずれも力のこもった、充実の論稿である。この特集を是非お読みいただきたい。そして、運動の示唆にしていただければ嬉しい。

「法と民主主義」編集委員会 海部幸造(弁護士)


 
時評●「国富」の喪失か、回復か

(弁護士)庄司捷彦

◆ 本号が読者の手元に届くのは、「三月一一日の大震災」から四年が過ぎる頃。あの時、私の住む石巻市は、最大の津波被災地として報じられた。実際、昨年三月現在までの死者・行方不明者は三九五〇人を越えている。震災直後、市民相互間での会話にはいつも、「津波さえ無ければねぇ」との言葉が交わされていた。
◆ しかし、津波被害の最大のものは福島第一原発・原子炉三基での炉心溶融であることに異論はないであろう。四年という時間は放射性物質が毒性を減退させるにはあまりに短い。そのために必要な時間は一〇万年。スリーマイル島・チェルノヴィリの周辺には、現時点でも、人間が居住できない汚染地域が広汎にある。福島県内の区域は、行政から「帰還困難区域」という名で呼ばれている。この区域名は欺瞞的である。
◆ 全国の原発は、立地自治体のどこでも、住民に対しては「五重の壁で安全は担保されている」「放射性物質が原子炉から外部に放出されることはない」と説明されていた。「安全神話」の流布である。何度も聞かされているうちに、「本当に安全な施設」と多くの国民が信じ込まされていた。しかし、福島では、あの地震と津波で、原子炉三基で「炉心溶融と建屋爆発」とがもたらされた。大量の放射性物質が空中に拡散された。四年を過ぎようとする現時点でも、炉心の状態は把握できないままである。原子炉解体への道筋も全く語られることはない。この国の総理が「放射性物質はアンダー・コントロールしている」と語った時、「日本発の大嘘」が地球を巡ったことになる。
◆ この国では、発電業者は同時に売電業者である。地域独占企業でる。沖縄を除く電力会社は揃って、新たな規制委員会に対して各自が保有する原発について「再稼働の申請」を出している。同委員会は、川内原発と高浜原発について「再稼働は可能」との回答を行った。規制委員会は、「委員会での審査を通ったとしても、安全生を保障するものではない」と言い、地域住民の避難計画・訓練は関係自治体の責務だと言い放っている。アメリカでは、過去に、住民避難計画が不十分であるとして、「完成後なのに運転不能とされた原発」が数基ある。この判断には「原発運転による企業利益」よりも「住民の安全」を優先させる明確な思想がある。「五・二一福井地裁判決」の次の判示を玩味すべきである。
 『本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。」
◆ この判決には、「この国の国土と人民への愛」という崇い倫理観が感じられる。法の世界での条理に満ちている。しかし、電力業界の動向やこれに同調する政治の動向には、この条理が欠如している。
◆ 福島事故の後、国は、原発からの距離で「五キロ・三〇キロ・五〇キロの各圏内」と地域を三種に区別し、事故対応での差異を設定した。事故直後から、風向を無視した「同心円での距離区分」には、避難計画でも訓練でも「非科学的だ」との批判が起きている。国はこの批判には何も答えていない。
◆ 主権者として尊重されるべき国民の一人一人が、前掲判決が示した「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していること」という「国富」を享受出来る時代は来るのだろうか。私は、そこに至る唯一の道は「全ての原発を廃炉にすること」と考える。人類は未だ「放射性物質の安全な化学的処理技術」を持っていない。「安全な隔離」は可能なのだろうか。このような有害物質を製造し続ける「原発可動」は次世代以後の人類への「最悪の贈り物」と言う外はないだろう。



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