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 法と民主主義2014年4月号【487号】(目次と記事)


法と民主主義2014年4月号表紙
特集★憲法9条で真の平和を──徹底検証・安倍流「積極的平和主義」──
特集にあたって………編集委員会・小沢隆一
◆日米中関係と東アジアの平和 ………浅井基文
◆ヨーロッパの歴史和解──第一次大戦から百年………剣持久木
◆集団的自衛権容認──「必要最小限度」論と「積極的平和主義」………浦田一郎
◆安倍政権の安保・防衛政策と自衛隊の動向………大内要三

■特別企画●秘密保護法廃止へ ──法律家7団体共催シンポジウムより
  • ◆特別企画にあたって………大江京子
  • ◆安倍政権の進める戦争する国づくりと特定秘密保護法………稲 正樹
  • ◆国民の知る権利と特定秘密保護法──国際的観点から─………山田健太
  • ◆秘密保護法と公務労働者の権利・義務………岡田俊宏
  • ◆秘密保護法対策弁護団の結成………海渡双葉
  • ◆資料・特定秘密保護法の廃止を求めるアピール
  • ◆判決・ホットレポート モスク監視を全面的に擁護したムスリム違法捜査国賠訴訟一審判決………福田健治
  • ◆裁判員裁判●司法とは何だ そこで裁判員は何をするのか〈中のA〉………五十嵐二葉
  • ◆シリーズV「若手研究者が読み解く○○法 Part2」12「法教育」 岐路に立つ法教育 ──このままでよいか?………渡邊 弘
  • ◆寄稿●日本の悪政・悪法と立ち向かう国民の使命………新垣 進
  • ◆あなたとランチを〈1〉………ランチメイト・河上暁弘×佐藤むつみ
  • ◆メディア・ウオッチ2014●NHK問題の視座 日本はメディアまでこうなのか! 「戦後秩序」否定に外国から厳しい目………丸山重威
  • ◆リレー連載●改憲批判Q&A 8 なぜ、憲法25条の明文改憲論は出ないのか?………渡辺 治
  • ◆リレートーク●〈11〉本当に「崖っぷち!表現の自由」………神保大地
  • ◆書評●たたかいに必携!「ブラック企業対策Q&A」………鷲見賢一郎
  • ◆委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………米倉洋子/小沢隆一
  • 時評●演習場の中で馬を飼って生活してた人………今 重一
  • ◆KAZE●この時代に法律家になった者として………鹿島裕輔

 
憲法九条で真の平和を──徹底検証・安倍流「積極的平和主義」

 ◆特集にあたって
 安倍政権は、国家安全保障会議設置法、特定秘密保護法の制定を受けて、二〇一三年一二月一七日、国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を閣議決定し、「戦争する国」体制づくりにいよいよ具体的に着手し始めた。これらのなかで「積極的平和主義」なる言葉がキーワードのように随所で使われているが、その意味は必ずしも定かではなく、三文書を具体的に見ていくと、日米同盟の強化を基軸とした自衛隊の外征能力やさまざまな事態への即応能力の向上が目論まれていることが読み取れる。また、憲法九条の平和主義を体現する「武器輸出禁止三原則」の改変方針も盛り込まれた。この方針は、年が明けてさっそく、一月九日の日仏2プラス2による武器輸出に関する取り決め、四月一日の「防衛装備移転三原則」の閣議決定によって実行に移されている。

 安倍首相は、「次の一手」を、集団的自衛権の行使容認のための政府憲法解釈の変更に見定めている。そのための布石として当初四月提出が予定されていた安保法制懇の報告は、GW明けにずれ込んだが、これは、「前のめり」な安倍首相に対する国民の反対世論の動きを見ての、政府与党内部の慎重姿勢が作用した結果といえよう。ただし、集団的自衛権の容認そのものやその解釈による変更などの是非、変更する場合の幅、正当化の論拠などなどをめぐってこの間交わされてきた政府・与党内部の意見調整が、「最終段階」にさしかかっていることを受けてのことであるとすれば、事態は深刻である。内閣法制局が、集団的自衛権を限定的に容認する新解釈の素案をまとめたとの報道もあり(時事通信二〇一四年四月一三日)、日本国憲法施行六七周年は、憲法九条の最大の危機の中で迎えることになる。
 こうした安倍流の「積極的平和主義」を徹底検証し、根本から批判することが求められる。日民協は、二月一三日、シンポジウム「徹底分析 安倍政権の『積極的平和主義』」を開催した。その際パネリストとして報告された浦田一郎・大内要三の両氏に、本特集にも寄稿いただいた。

 ところで、安倍流の「積極的平和主義」は、対外的には不評である。それどころか、難破をおそれて出航できない船のような状態にある。「地球儀外交」と称して原発や武器の売り込みには熱心であるものの、肝心の東アジア諸国との外交は「手詰まり」の状況である。原因はほかでもない、昨年末の首相の靖国神社参拝や「歴史認識問題」に象徴される政権の右翼ナショナリズム的傾向である。「同盟国」アメリカさえからも失望と警戒の声を受ける始末である。
 この状況をどのようにして打開するか。こんにちの日米中関係、さらには東アジアの国家間関係を冷静かつ正確にとらえることが必要である。そのうえで、「戦争の世紀」であった二〇世紀を繰り返さない確固とした信頼関係を築く必要がある。また、二〇世紀が「戦争の世紀」となった契機は、他ならぬ第一次大戦である。今年はこの大戦の勃発から一〇〇年にあたる。今年一月のダボス会議で、安倍首相は、第一次大戦開戦前良好であった英独関係と今の日中関係を重ねて語り、「日中衝突もあるのか」と欧米のジャーナリズムに戦慄を走らせたが、ここには安倍首相の歴史認識の歪みがはしなくも現れたといえよう。ここで「アジアの一員」としての日本とその首相が何よりも学ばなければならないのは、第一次、そして第二次世界大戦を経てのヨーロッパにおける歴史和解の取り組みであり、かつそれを重みと困難さも含めてとらえることであろう。

 本特集では、安倍政権の外交姿勢、歴史認識問題への態度を検討する論稿を、国際政治学者の浅井基文氏と、歴史学者で『仏独共同通史 第一次世界大戦』(上・下・岩波書店)の共訳者である剣持久木氏にお寄せいただいた。
 いずれの論稿も、安倍流の「積極的平和主義」の問題点をえぐりだし、憲法九条に基づく平和の創造に向けての視座を据えるうえで貴重なものである。熟読玩味ください

法と民主主義編集委員会 小沢隆


 
時評●演習場の中で馬を飼って生活してた人

(弁護士)今 重一

 北海道東部の三町にまたがる、陸上自衛隊矢臼別演習場があります。広さ一六、八一三ヘクタール(南北10q、東西28q)の、陸上自衛隊演習場最大の面積を持っています。この日本一広い陸上自衛隊演習場の真ん中で、農地をもち、馬を飼って生活し、土地を守ってきた川瀬氾二さん(二〇〇九年逝去)は、憲法九条をなにより大切にし、自分の生活を守ってきました。
 大きなD型ハウスに「自衛隊は憲法違反」と縦横二メートルもの文字で書いて、演習にくる自衛隊員にアピールし、この土地を訪れる多くの市民を励ましてくれました。自衛隊が川瀬さんの土地の出入り口に「陸上自衛隊演習場につき立入禁止 別海駐屯地業務隊長」「立入禁止 正当な理由がなく立ち入った者は、拘留又は科料に処せられる場合がある(軽犯罪法一条第三二号)」などの看板をかけて、演習場内の通路を利用することを牽制しようとしたり、調査のために演習場内に立ち入る人を牽制しようとすると、「ここは日本国憲法によってまもられている主権者国民の所有地です。平和と自然を破壊する者の立ち入りを禁じます」という看板を掲げ、自衛隊と堂々と対抗していました。もちろん、川瀬さん一人の力ではありません。家族もそうですが、平和を愛し、自衛隊には一坪の土地も渡さないという多くの人々の支援もありました。
 一九六三年から演習場として供用を開始されたこの広大な演習場は、入植した八四戸もの農家を追い出して設置されたものでした。
 川瀬さんと杉野芳夫さんは買収に応じなかったのです。
 一九七七年、杉野さんが離農せざるを得ない状況になりました。杉野さんの土地の取り合いは熾烈でした。杉野さんは、川瀬さん以外の人に農地は売らないことを鮮明にしていました。杉野さんの土地に設定された農林公庫の抵当権を行使させないために、買い取り資金のカンパに取り組みました。ところが、町農業委員会は、譲渡の許可をしません。川瀬さんが農民ではないと言うのです。農協まで、川瀬さんの組合員資格を取り消しました。理由は、川瀬さんの馬の飼育は農業とは認められないと言うのです。購入した杉野さんの土地に自宅を建てようとしたところ、北海道根室支庁長から、建築の中止命令が出されました。農地に建物を建てては、いけないと言うのです。一九八四年、矢臼別演習場を舞台に、日米共同演習が始まると、馬の放牧にも圧力を加えるようになりました。馬が演習場の中に入り込むことを理由にして。土地の周囲三キロメートルに一五〇〇本もの木杭を打って鉄線を張りめぐらし、出入り口にはゲートを設置すると言う、暴挙に出ました。川瀬さんは、こんな妨害行為にも負けずに、農地を守ってきました。五〇年がすぎました。
 川瀬さんは、「自衛隊イラク派遣差止訴訟」の原告でした。全国の基地反対の戦い(百里基地、恵庭事件など)に触れる中で「憲法が自分にとって身近な存在になり」、一九七三年の長沼訴訟判決で「憲法は私の中で定着し始めました」。様々な妨害や圧力も「私の中で根付いた憲法意識のおかげで、それらに屈することなく切り抜けてきました」。川瀬さんは二〇〇九年四月に亡くなりましたが、、演習場の農場では、現在も二人の住民が生活を続けています。また、自衛隊や米海兵隊の演習の監視は、多くの労働者、青年の参加で続いています。
 最近の、憲法九条は、集団的自衛権を禁じていないとの解釈改憲をめざす動きが急です。国民の大多数が、集団的自衛権があるとすることに反対しているなかで、「必要最小限の」ところででもよいから、集団的自衛権があるとの解釈を押し通そうとしています。自衛隊も最初は自衛のための最小限の戦力(実力)からはじまって、世界有数の戦力を持つにいたっています。川瀬さんは亡くなったが、いつも、「自衛隊は憲法違反」を訴え続けることの大切さを、教えてくれているような気がします。



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