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 法と民主主義2013年2・3月号【476号】(目次と記事)


法と民主主義2013年2・3月号表紙
特集★原発災害を絶対に繰りかえさせないために(パートW)──事故から2年 福島と原発を考える
特集にあたって………編集委員会・丸山重威
◆人間と地域を破壊する原発〈「原発と人権」ネットワーク発足記念講演より〉………鎌田 慧
◆福島原発事故現場の現在──見通しつかない事故終息のゴール………舘野 淳
◆生きる権利とふるさと──「帰還問題」考………清水修二
◆福島原発事故とは何であったのか──四つの事故報告書を読む………岡本良治
◆原子力規制委員会の「安全指針類の見直し」について………青木秀樹
◆事故収束作業と労働者の被ばく──どうなる廃炉への道筋………布施祐仁
◆ベトナムへの原発輸出問題──日本は海外に原発を売ってはならない………中村梧郎
◆あるべき損害賠償の射程──原発公害をどう償わせるか………米倉 勉
◆ADR(裁判外紛争手続)の現状と課題………大森秀昭
◆新たな構築 原発裁判の今………只野 靖
◆資料◆全国原発訴訟一覧表………望月賢司
◆燃え上がる炎から、くすぶる熾火へ──金曜夕方の首相官邸前から………野間易通
◆東海村と「脱原発サミットin茨城」………植田泰史
◆参議院に「脱原発基本法案」再提案される………海渡雄一
◆「原発と人権」ネットワーク 発足──様々な分野との連携を強め、脱原発の輪を拡げよう………海部幸造

  • ◆シリーズV「若手研究者が読み解く○○法 Part2」2「法社会学」 公害の法社会学──戒能法学の一断面………東郷佳朗
  • ◆事件・ホットレポート 菊池事件の再審を目指して………馬場 啓
  • ◆リレートーク●明日の自由を守るために・連載の開始にあたって………神保大地
  • ◆リレートーク●明日の自由を守るために・〈1〉若手の運動体を作るということ………黒澤いつき
  • ◆連載・裁判員裁判実施後の問題点●17 DNA鑑定(科学証拠)と裁判員………五十嵐二葉
  • ◆連続掲載●国連・平和の権利──日本からの提言10 国連人権理事会の「平和への権利」に関する作業部会第一会期について………武藤達夫
  • ◆書評●浦田賢治編著『原発と核抑止の犯罪性』(日本評論社)………澤藤統一郎
  • ◆委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………米倉洋子/小沢隆一
  • ◆時評●民法(債権法)改正問題に注目を!!………森山文昭
  • ◆KAZE●「原発と人権」ネットワークのこれからに期待………大江京子

 
原発災害を絶対に繰りかえさせないために(パートW)──事故から2年 福島と原発を考える

現場と基本に立ち返ろう 特集にあたって

 福島第一原発事故から丸二年。スリーマイル島やチェルノブイリの事故では経験しなかった大規模で広範な被害を生み出した福島第一原発の事故は、政府の「収束宣言」にもかかわらず、依然収束する状況にはない。津波被害と合わせた死者・行方不明者は一万八五四九人、原発関連死は七八九人、復興庁がまとめた避難者は三一万五一九六人。住民の避難生活は続き、その生活は一層困難になってきている。

 「こんな事故を繰り返してはならない」と「脱原発」を求める声は、将来のエネルギー計画を問う政府のアンケートに、八割以上が「原発ゼロ」を求めるなど、日本中に広がった。毎週金曜日の夜、首相官邸前に集まる抗議の人々は、ときには数万人を超え、今なお続く。原発発祥の地、東海村の村長も加わる脱原発の自治体首長や経済界からも脱原発のエネルギーを考えようという経営者が立ち上がっている。
 しかし、ここで動くかに見えた政治は動かない。二〇一二年五月、国内で唯一稼動していた北海道電力泊原発3号機が停止し、七月九日に関西電力大飯原発3号機が再稼働するまで、日本は「原発ゼロ」を経験。何の混乱も起きなかったが、政府と電力資本は反対の声を押して再稼働に踏み切った。
 世論に押された野田内閣は、二〇一二年九月一九日、「二〇三〇年代に原発稼働ゼロが可能となるよう、あらゆる政策資源を投入する」との文言を含めた「革新的エネルギー・環境戦略」の閣議決定をする予定が見送られた。何と米国に内容を伝えた結果、横やりが入ったからだ(二〇一二年一〇月二〇日付東京新聞)。
 二〇一二年一二月、あたかも政権を投げ出すように衆議院を解散、総選挙に踏み切った野田政権は大敗し、第二次安倍内閣が誕生。停止原発の再稼働や中断していた原発建設も再開の方向へ大きく舵を切った。そこでは、次々と明らかになる原発周辺の活断層や、地震に関する知見は無視されている。「原子力発電は安全保障に欠かせない」との言説も公然と交わされ、原発輸出を積極的に後押しし、恥じらいもない。

 事故から二年を過ぎ、事故の後始末は全くと言っていいほどできていない。政府、国会、民間の事故調査委員会がそれぞれ報告書を出したが、それを今後に生かす道筋は見えないばかりか、現場は今なお危険な状況である。事故で覆いが壊れた第一原発の各原子炉では、時折襲う余震が重大な事故を起こす危険が続いている。現場は作業員不足から、過剰な被曝を前提にした作業も始まっている。
 事故原因の曖昧さは、そのまま、被災者の救済の「責任」と被災者救済についての「政策」を曖昧にする。被災町村役場は、今なお県内外の各地に疎開して事務を執り、仮設住宅の不備や、人々の就業、家族の離散などが問題になっている。被災者たちは人生の半ばでこれまでの生活を奪われ、人生設計の再構築を余儀なくされた。被災者による訴訟も提起され始めた。しかし、何より問題なのは、「先」が見えず、展望を持ちづらいことだ。
 事故はいまなお「現在」の問題である。どんなに除染しても、数十年単位、あるいはそれ以上の間、立ち入りできない危険な地域ができ、故郷に帰れない人々が出る「現実」がある。これを、国と社会がどう見つめ、どう対応するか。問われている。

 原発は、ひとたび稼働させれば、使用済み核燃料をはじめとする「核のごみ」を数万年、数十万年のレベルで管理しなければならない、という人類にとって未完成の技術である。運転には、どうしても誰かが被爆することを避けられないという、非人間的、非倫理的な技術でもある。私たちはこれまで、その「現実」と「真実」に目を閉ざしてきた。事故は、そうした人類、とりわけ日本人への重大な警告だ。
 「3・11」は、地元の人たちの生活を大きく変えた。私たちの社会のあり方や生き方、法や経済のあり方にも多くの課題を投げかけた。
 もう一度現場に帰って、真実を見つめ直し、憲法と民主主義の立場に立って、原発災害を絶対に繰りかえさせないために、私たちが何をすべきかを考え続けなければならない。
 今回の特集は、全ての問題点を網羅することは出来なかったが、本特集を素材に、議論が深められることができればと、考えている。

「法と民主主義」編集委員会 丸山重威


 
時評●民法(債権法)改正問題に注目を!!

(愛知大学・弁護士)森山文昭

 今、民法(債権法)の改正作業が急ピッチで進められている。債権法の改正と銘打たれているが、総則もほとんど書き換えられることになるので、物権法と家族法を除く民法のほぼ全面的な改正ということになる。日常生活に極めて大きな影響を与える改正なのだが、存外その中身がよく知られていない。
 私は、その改正手法に大きな不安を覚える。それは、司法審の議論の仕方と瓜二つのところがあるのだ。
 司法審は、現在の司法のどこにどのような問題があるのか、そのような問題を生み出した原因はどこにあるのか、それを解決するにはどのようにしたらよいかという地道な検討を一切行わず、理念先行の青写真を描いて上から実現する手法をとった。戒能通厚名古屋大学・早稲田大学名誉教授は、これを「ワーク・デザイン・メソッド」方式であると批判しておられる(法と民主主義二〇一二年一二月号六頁)。
 今回の民法(債権法)改正作業も、現行民法に使い勝手の悪いところがあるから直そうという目的で始められたものではない。むしろ、改正の必要性、立法事実はどこにも存在していなかったと言ってよい。
 それでは、なぜ民法改正が企図されたのか。加藤雅信上智大学教授は、民法改正に向かって世界的な転換期が到来していると見誤った学者の「日本もバスに乗り遅れずに、民法改正という学問オリンピックでメダルを目指そう、とでもいうような国威発揚論に見える。」(『民法(債権法)改正──民法典はどこにいくのか』(日本評論社)八〇頁)。と喝破しておられる。
 このような動機に基づく民法改正には、実務とかけ離れた「理念」が持ち込まれる。その最大の例が、債務不履行責任の要件から債務者の帰責事由を外して無過失責任にし、損害賠償は債務者が契約で引き受けていた範囲に限る、という改正案であった。もし、そのようなことになれば、大企業は分厚い契約書を作成して、契約で引き受ける範囲を限定することになり、大企業の債務不履行に対してはほとんど損害賠償請求ができなくなってしまうことも考えられる。
 さすがに、これに対しては各界から強い批判が寄せられ、中間試案からは除外される模様である。この号が発行される頃には、中間試案が公表されていると思われるが、反対の強い改正条項は極力外して、無難な内容でまとめようという方向のようである。だとすると、今度は改正の「理念」はどこへ行ってしまったのかという問題になる。理念先行から理念なき改正へと、極端なぶれが生じている。これは、いったんやり始めたものは何が何でもやり遂げなければならぬという、官僚のメンツでしかない。
 ワーク・デザイン・メソッドによる改正が行われた場合、その理念が間違っていた場合は、司法「改革」を例にとるまでもなく、悲惨な結果になる。しかし、理念なき改正も、問題は大きい。本来必要ないところに頭の中だけで考えたものだから、どこにどんな落とし穴が潜んでいるか分からない。
 たとえば、債務不履行責任の要件としての帰責事由は復活したが、危険負担は廃止することになったままである。そうすると、当事者双方の責めに基づかない履行不能の場合、反対債務はどうなるのか。現行法では危険負担の問題になるのだが、これを廃止した改正法では解決がつかないのではないか。
 心配な例は、あげればきりがない。学者の見栄や官僚のメンツで民法典をいじくり回すのはやめにしてもらいたい。今なら、引き返すことも可能である。ボタンの掛け違えから始まった改正論議は白紙に戻して、もう一度最初から、必要な改正とは何かを国民の立場で考え直すことにしてはどうだろうか。



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