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 法と民主主義2013年1月号【475号】(目次と記事)


法と民主主義2013年01月号表紙
特集★安倍政権発足と憲法の危機
特集にあたって………編集委員会・小沢隆一
■第一部■
座談会●政治・経済・運動の課題──2012年総選挙・都知事選挙の結果を受けて
出席者………渡辺 治/岡田知弘/河添 誠
聞き手………小沢隆一/南 典男
■第二部■憲法改悪の動きにどう立ち向かうか
◆九条改憲の動きに抗して………小沢隆一
◆国会と選挙制度の抜本改革の行方………上脇博之
◆新政権と「行政改革」・公務員制度の動向………尾林芳匡
◆税財政改革の視点………浦野広明
◆道州制に対峙する住民自治と人権を保障する地方自治………榊原秀訓
◆TPP参加を阻止し、この国と農業の未来を開く………真嶋良孝
◆教育の希望と誇りを守り拡大する運動を………佐貫 浩
  • シリーズV「若手研究者が読み解く○○法 Part2」の開始にあたって………清水雅彦
  • シリーズV「若手研究者が読み解く○○法 Part2」1「行政法」 生活保護基準の改定と行政裁量の統制手法………豊島明子
  • 判決・ホットレポート●建設職人のアスベスト被害について初めて国の責任を認めた東京地裁判決………宗 みなえ
  • 出来事・レポート●こんな時だからこそ──草の根の日中友好運動と被害者に向き合った裁判官たち………内田雅敏
  • 特別寄稿●東京弁護士会人権賞を受賞して………小野寺利孝
  • 書評●坂上香著『ライファーズ 罪に向きあう』(みすず書房)………井桁大介
  • 書評●内藤功著『憲法九条裁判闘争史』(かもがわ出版)………浦田賢治
  • 委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………米倉洋子/小沢隆一
  • 時評●体温のある草の根民主主義を取り戻そう………大脇雅子
  • kAZE●庶民の懐を暖めてこそ………門田敏彦

 
特集★安倍政権発足と憲法の危機

特集にあたって
 二〇一二年一二月一六日に投開票が行われた衆議院総選挙で、自民党は、文字通り「四割の得票で八割の議席」という小選挙区制効果のおかげで、二九四議席の圧倒的勝利をおさめた。自民党と選挙協力した公明党の三一議席と合わせた三二五議席は、憲法五九条二項の「再議決」に必要な衆議院議員定数の三分の二を超えた。一方、三年三カ月の間政権を担った民主党は、憲法に基づく政治の実現を求める国民の声と期待に背いて、普天間基地の辺野古移設方針への回帰、「社会保障と税の一体改革」による消費税増税などをすすめて信頼を失い、また改憲と新自由主義政策の推進を願う財界やアメリカからもその政権運営を見限られ、比例代表選挙での得票を約二〇〇〇万票減らして九六三万票とし、公示前の二三一議席から五七議席へと大きく後退した。今回の総選挙は、自民党、日本維新の会、みんなの党などが、従来に増して改憲の志向を鮮明にしたなかで闘われ、これらの政党はいずれも議席を増やした。その一方で、共産党や社民党は、これに対抗する「改憲阻止」の勢力の前進をと選挙戦で訴えたが、それぞれ一議席と三議席、公示前から減らして、八議席と二議席になった。
 また、石原慎太郎前都知事が国政進出をもくろんで突然職責を放り投げ、急きょ一二月一六日に行われることになった東京都知事選挙では、一三年半の石原都政を転換して「人にやさしい都政」の実現をと訴えて立候補した宇都宮健児弁護士が一〇〇万票弱を獲得して次点とはなったものの、石原都政の継承をもくろむ猪瀬直樹氏が、四三〇万票を獲得して当選した。
 一二月二六日には国会で、安倍晋三自民党総裁が内閣総理大臣に指名され、二度目の自民・公明連立による安倍政権が発足した。二〇〇七年に安倍氏が、当時衆参で多数をとっていた自民・公明の与党に憲法改正国民投票法の制定を急がせてこれを成立させ、みずからの政権のうちに改憲を実現すると叫んだこと、その後七月の参議院通常選挙での敗北を受けて、また本人の体調不良もあり退陣したことは、なお人々の記憶に鮮明に残っている。その彼が、再び改憲の公約を掲げて政権に舞い戻ってきた。しかも、気の合う者だけを集めた「お友達内閣」と揶揄された前回とは異なり、二〇一二年の総裁選挙を争った石破茂、石原伸晃、林芳正の各氏や、麻生太郎、谷垣禎一という首相ないし総裁の経験者を内閣と党の要職に配した「挙党態勢」で政権をスタートさせた。
 この総選挙と都知事選挙で何が争われ、各陣営がいかなる政策を掲げたか。それらは、今後の政治の動向にどのように関わっていくか。選挙後の政党と政治勢力の配置、安倍新政権のくり出す諸政策、こうした新しい情勢の下で、私たちはさまざまな課題にどう取り組むべきか。第一部は、総選挙と都知事選挙を踏まえて「政治・経済・運動の行く末を問う」座談会という形で、渡辺治一橋大学名誉教授と岡田知弘京都大学教授、河添誠青年非正規労働センター事務局長に縦横に語っていただいた。第二部では、「憲法改悪の動きにどう立ち向かうか」として、当面する重要な法的、政治的問題について、さまざまな角度から検討し、主張する論稿を寄せていただいた。

「法と民主主義」編集委員会 小沢隆一


 
時評●体温のある草の根民主主義を取り戻そう

大脇雅子(弁護士)

 二〇一二年一二月一六日第四六回衆議院選挙は自民党が単独過半数を上まわり、圧勝した。その後成立した自・公連立政権は、議員定数の三分の二を超える。しかし、この自民党の圧勝は、投票率五九・三二%のもとで、自民党の得票率四三・〇一%、有権者の二四・六六%の民意の結果に過ぎない。小選挙区比例代表並立制という選挙制度がもたらした結果である。国政が少数の民意によって統治されるのは、実に納得がいかない。小選挙区制は、相対的多数を獲得した政党の絶対的政治支配を固定化するための枠組みとして機能する。そもそも自民党がかねてから成立を目論んでいた制度であった。結果として多数の民意の死票を生み出すツールとなった。それに加えて「一票の格差」が是正されないことで、更なる不均衡をもたらしている。多様な民意を適確に反映させるためには、選挙制度の根本的改革が必要である。
 安倍内閣が成立して、三年三カ月にわたって進められたきた民主党の政策は次々と見直され、捨てられ、自民党政権の施策が矢継ぎ早に実施されようとしている。とりわけ今回の選挙において自民党は、国防軍の創設や結社の自由や生存権の基本的人権の制約を柱とする「憲法改正案」を明示しているため、戦後民主主義の危機である。
 いま、民主主義の再構築が問われている。市民は、自民党に政策の白紙委任をしたわけではない。政治に市民の声を不断に届ける道筋をどう構築すべきか。
 壊れつつある市民の暮らしを救うために、非正規労働者の均等処遇の原則の確立、男女賃金差別の解消、過労死や自殺の防止、子育て中の両親の支援、若者の就労、高齢者や障害者の年金と福祉等について、政治へのコミットが緊急課題である。財政政策や成長戦略に弱者の声を組み込ませなければならない。脱原発は、命と未来世代の問題である。
 まずは、デモと集会で社会的正義のありようを目に見えるようにしよう。市民革命を起こすという気概で取り組む。脱原発の集会や官邸前のデモは、六〇年安保のときより規制されているとはいえ、社会の根底的な変革への方向性を孕んでいる。呼吸する個人、体温のある人間の出会いの場から結び合う。
 その声で国会をどのようにして動かすか。これまで、そしていまもそうなのだが、政府にとって市民の声は「騒々しい音」でしかなかった。官僚への陳情、国会への請願、国会前のデモや集会。官僚に仕切られた審議会やパブリックコメントさえ国会を動かすものでなかった。野党の議員立法すら動かなかった。多様な要望や声を聞く集会は、紹介議員があれば、数限りなく議員会館の部屋で行われていた。しかしこれは制度として確立されておらず、単発の市民集会であり、広範な市民のネットワークを生むことはなかった。互いの主張を尊重しあいながら、「市民の広場」を形成し、立法政策化への直接参加の道筋が拓かれるよう知恵を出そう。
 憲法一六条「請願権」の空洞化の現状を打破する必要もある。「請願権」という言葉は明治憲法にもあったが、いかにも古めかしい。内容的に言い換えれば、法律制定等意見表明権といえようか。請願が採択されると内閣へ送付され政府や省庁は必要な措置を取らなければならない。しかしこの権利の活性化ほど与党や官僚の抵抗が強いものは無いだろう。
 二〇〇〇年イタリアの社会民主党の大会に出席したときの感動を伝えたい。スタジアムの中央の幹部席は若者で占められ、「オリーブの木」の連帯のもとでの政権奪還の報告が続いていた。大会スローガンは「未来はわが胚の中にあり─リルケの言葉より─」とあり、私はその新鮮な詩的表現にひどく感動した。そしてインターナショナルの歌が地響きのように湧き起こり、天井まで突き抜けるように響いて、わたしはまたもや仰天した。討議では「連帯」「団結」「公平と平等」という言葉が湧いてでた。原点に立ち返った体温のある草の根の運動に期待したい。そして平和と社会的正義を求める人間の力を信じたい、と思う。



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