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与党合意に抗議し、閣議決定の撤回と、安全保障法整備の即時中止を求める法律家6団体の共同声明  
2015年3月27日

1 はじめに
 自民、公明両党は、今月20日、昨年7月1日の閣議決定に基づく新たな安全保障法整備の具体的な方向性について合意し、共同文書を発表した。今後政府は、この方向性に即して作業を加速化し、必要な法案を本年5月半ばには国会に提出できるようにさらに準備を進めていくとしている。
 そもそも、昨年7月1日の閣議決定は、集団的自衛権の行使は憲法上許されないとする歴代政府の憲法解釈を一内閣の独断で変更し、集団的自衛権の行使を含む自衛隊の海外での武力行使を容認し、日本を戦争のできる国に転換するものであり、許される条文解釈の限界を超え、憲法第9条そのものを否定する内容である。同時に、憲法第96条の改憲手続きによらず、閣議決定とその後の立法により、憲法9条の実質的な改憲を行おうとすることは、立憲主義と国民主権の原理にも反し違憲無効である。
 今回、発表された与党の共同文書は、この違憲の閣議決定に基づいて、安全保障法制の具体的な方向性を明らかにしたものであり、米国以外の他国軍隊の武器等防護のための武器使用まで許容する点など、昨年の閣議決定すらも踏み越える内容となっている。ここに示された法制の中身は、憲法第9条平和主義に違反するとともに、憲法第96条立憲主義の原理にも違反するものであり、違憲無効を免れない。
 私たち法律家6団体は、与党合意に強く抗議するとともに、政府に対しては、違憲無効の閣議決定を直ちに撤回し、現在進めている安全保障法制定作業を即時中止すること
を求めるものである。

2 共同文書「安全保障法整備の具体的方向性について」の問題点
(1)憲法第9条の下で許容される自衛の措置―集団的自衛権行使関連
 与党合意(共同文書)の問題点の第1は、自衛隊法、武力攻撃事態法等を改正し、わが国に対する武力攻撃が発生していなくても、わが国と密接な関係にある他国に武力攻撃が発生した場合(新事態)に、自衛隊による武力行使を認め、集団的自衛権の行使を可能とする点である。
 集団的自衛権の行使は、憲法9条の下で許されない国権の発動たる戦争、武力による威嚇又は武力の行使にあたり違憲である。そのことは、戦後約60年の長きにわたり、政府が堅持してきた解釈でもある。また、新3要件は、法律要件として著しく不明確であり、何らの歯止めにもならない。現に、安倍首相は、ホルムズ海峡が封鎖され石油の輸入が滞れば、存立事態に該当する余地があると、経済的理由による集団的自衛権の発動の可能性も否定していない。さらに、存立事態にあたるかどうかを判断するのは、国家安全保障局、国家安全保障会議(NSC)、最終的には首相判断であり、秘密保護法により、国会も国民も事実の検証がなんらできないままに、わが国が他国と戦争状態に入る現実的な危険が加わる。
(2)他国軍隊に対する支援活動―周辺事態法改正関連
      並びに国際社会の平和と安全への一層の貢献―PKO法改正関連等

 与党合意(共同文書)の問題点の第2は、日本の平和と安全、日米安保条約の効果的運用、国際社会の平和と安全への貢献などの名のもとに、自衛隊の海外派兵(派遣)を恒常的に解禁し、且つ、武器使用を含む自衛隊の活動権限と範囲を飛躍的に拡大し、米軍及び米軍以外の他国軍隊との一体的な共同軍事行動を可能にする点にある。
 従来の自衛隊の海外派遣法制は、PKO法、周辺事態法、テロ特措法、イラク特措法などがあるが、憲法9条の制約のもとで、時限的にも(特措法)、地域的にも(わが国の周辺地域、将来にわたって戦闘が発生しない非戦闘地域、後方地域など)、活動権限内容においても(正当防衛と武器等防護のためにのみ武器使用が許される、他国の武力行使と一体とみなされる活動を認めない、停戦後の治安維持活動は許されないなど)限定されてきた。
 しかしながら、与党合意は、これらの憲法9条による制約をすべてはずすことを目的としている。
ア)すなわち、わが国の平和と安全に資する活動を行う他国軍に対する支援活動 −周辺事態法改正関連では、@自衛隊派兵(派遣)の要件を、わが国の平和及び安全に重要な影響を与える事態という漠然不明確で運用次第でいくらでも広がる要件に変え、A地域的にはわが国周辺地域に限定せず、無限定に地球上のどこでも派兵できるとし、B支援対象を米軍以外の他国の軍隊にまで広げ、C「後方地域」ではなく、「現に戦闘行為を行っている現場ではない場所」で、D弾薬の供給、輸送活動、空中空輸等々の軍事行動を支援活動として認める方向性である。これは、日本の安全にかかわる問題として、国連決議ないし要請は不要とされ、国会承認についても事前承認は「原則」であり、例外の余地を残している。
 戦闘地域の後方で給油を行うなどの支援活動は、武力行使と一体の活動以外のなにものでもなく、憲法9条の禁止する「武力の行使」そのものである。支援活動中の自衛隊自体が、相手(国)の攻撃対象にさらされるほか、戦闘現場で展開中の米軍ないし米軍以外の他国軍隊が、相手(国)から攻撃されれば、その場でなし崩し的に集団的自衛権の行使(戦闘状態に突入)となる危険性が極めて大きい。イ)さらに、国際社会の平和と安全への一層の貢献分野 −新法(恒久化法)PKO法改正関連では、新法(海外派兵恒久化法)においては、前記の周辺事態法改正と同旨の規定が盛り込まれることが予想され、また、PKO法を大幅に改変し、国連の決議に基づくものや、関連する国連決議がある場合のみならず、国連決議がない場合でも、要請があれば、米軍及びその他の国の軍隊の一員として紛争終結後の治安掃討作戦(治安維持活動)にも加わることを任務に加え、且つ、任務遂行のための武器使用を解禁する内容となっている。PKO活動にこれらの任務及び武器使用が認められれば、いわゆる平時が一転して有事に転換しかねない危険が増大することとなる。切れ目のない自衛隊の武力行使と集団的自衛権の法的根拠を与えるもの
にほかならない。
(3)武力攻撃に至らない侵害への対処(自衛隊法改正関連)
 与党合意(共同文書)の問題点の第3は、本来、警察権の管轄領域であるグレーゾーン事態に、自衛隊が堂々と武器をもって出動することを認め、さらに自衛隊及び米軍等の武器等防護の名の下に武器の使用=武力行使を認める点である。すなわち、与党合意は、わが国の防衛に資する活動に現に従事する米軍部隊の武器等の防護を自衛隊法95条の趣旨を踏まえつつ認めるとし、さらに米軍以外の他国軍の武器等防護についても検討するとしている。憲法9条の下、武器等防護のための武器使用については、職務上武器等の警護にあたる自衛官に限り認められるなど厳しく限定されてきたが、平時であるグレーゾーン事態に武器を持った自衛隊が出動することを認めれば、グレーゾーン事態が一転して国際紛争の火種を大きく燃え上がらせる事態に発展し、有事にもつながりかねない危険を飛躍的に増大させることは、PKO法改正の問題と
同質である。
(4)与党合意に基づく安保法制が国民の命と平和な暮らしを守るか
 与党合意(共同文書)は、いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを守り抜くため、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備するとしている。
 ここでいう切れ目のない対応とは、前述したとおり、憲法9条を実質的に改憲して、その足かせをはずし、自衛隊を平時有事を問わず、いつでもどこにでも切れ目なく派兵(派遣)し、米軍および米軍以外の他国軍隊と一体となって、あらゆる「脅威」に対して、戦争・武力による威嚇、武力の行使ができる体制の法整備を指す。これは、1990年の湾岸危機、翌年の湾岸戦争以来、一貫してアメリカが日本に要求してきた「血を流す」軍事的国際貢献であり、2013年10月3日の日米安全保障協議委員会(「2+2」)の共同発表「より力強い同盟とより大きな責任の共有に向けて」や、昨年10月8日に発表されたガイドライン再改定の中間報告で「切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な共同の対応」「平時から緊急事態までのいかなる段階においても、切れ目のない形で、日本の安全が損なわれることを防ぐための措置をとる」とされていることの忠実な実践にほかならない。
 しかし、平時からの自衛隊の早期投入と武器使用が可能となれば、一発の銃声や砲弾により、直ちに反撃となり戦闘行動が開始されることにもなりかねない。与党合意の内容は、国際社会への貢献を名目とする出動やグレーゾーン事態の出動など、平時における自衛隊の出動により、相手(国)との武力衝突の危険性を増大させると同時に、それが、切れ目のない対応により、容易に武力行使、戦争へと拡大し、米国および同盟国軍との共同軍事作戦の下、なし崩し的に集団的自衛権の行使につなげることを可能とする仕組みの整備といえる。政府与党の主張する「切れ目のない対応」が、国民の命と平和な暮らしを守るものではなく、逆に、戦闘行為による自衛隊員等の死亡や国民がテロの標的になるなどの危険を増大させるものであることは、明らかである。

  3 軍事力・軍事同盟の強化によって安全は守られない 憲法9条こそが安全保障の要
 日本国憲法は、軍国主義とファシズムにより310万人を超える自国民と2000万人を超えるアジア諸国民の命を奪ったアジア太平洋戦争の痛切な反省のもと、戦争と武力による威嚇又は武力の行使を永久に放棄し、戦力を持たず、交戦権も認めないとする世界に例のない徹底した平和主義を基本原理とする。これにより戦後約70年にわたり、日本人が戦争で人を殺し殺されることなく、平和国家として世界中の国々から信頼を得、それが日本の平和と繁栄の礎となってきた。戦争は、これまでも「自衛のため」「正義のため」「テロとの闘い」などの口実により開始されてきた。いかなる名目であっても戦争はしないとした憲法9条の神髄がここにある。憲法の掲げる平和主義こそがこれまでの日本の安全保障の要であり、これからもそうである。
 軍事力と軍事同盟による力の安全保障構想は完全に破綻している。海外では「軍隊に守られるのは危険」「軍隊そのものが危険」というのが常識である。共通の敵を想定する軍事同盟・集団的自衛権型安全保障は、果てしない軍拡の応酬と疑心暗鬼と相互不信、摩擦と対立を生み、紛争を決して解決することはない。敵を作るのではなく、国同士、国民同士の信頼関係を強化し、お互いの安全保障を図る、軍事力・軍事同盟による力の平和ではなく、世界の紛争の火種を除去するために、「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去する」ために、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を」確立するために、積極的に非暴力・非軍事の外交と国際貢献を行う、それこそが、日本国憲法の定める積極的平和主義であり、21世紀の安全保障のあるべき姿であることを、私たちは疑わない。

  4 結語
 私たち法律家6団体(構成員延べ7000名)は、第2次安倍政権による日本版NSC設置法、秘密保護法の制定、集団的自衛権行使容認等の閣議決定等々、憲法を無視し、国民の批判も国会をも蔑ろにする反民主主義、反立憲主義的手法により急ピッチで整備されてきた9条の実質改憲の動きに対し、日本弁護士連合会とも協力して、一貫して反対し警鐘を鳴らしてきた。今回も、政府に対し、改めて、違憲無効の閣議決定を直ちに撤回し、現在進めている安全保障法制定作業を即時中止することを強く求めるものである。
以上

2015年3月27日


社会文化法律センター 代表理事 宮里邦雄
自由法曹団 団長 荒井新二
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 原 和良
日本国際法律家協会 会長 大熊政 一
日本反核法律家協会 会長 佐々木猛也
日本民主法律家協会 理事長 森 英樹

 



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