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 法と民主主義2016年5月号【508号】(目次と記事)


法と民主主義2016年5月号表紙
特集★「原発と人権」人間・コミュニティの回復と原発のない社会をめざして──第3回全国研究・交流集会in福島(2016.3.19〜3.20)より
特集にあたって………「法と民主主義」編集委員会・丸山重威
◆開会挨拶………寺西俊一
◆歓迎挨拶………中井勝己

●第T部 福島第一原発は 今、どうなっているのか
◆福島第一原発のいま………山川剛史
◆福島第一事故現場の現状と課題………筒井哲郎

●第U部 原発被災住民・訴訟原告たちは訴える
◆福島原発の被害がなぜ原発差し止めの法的根拠でないのか………大石光伸
◆帰りたいけど戻れない……被害者原告団全国連を結成………早川篤雄
◆放射線被ばくから免れ健康を享受する権利………森松明希子
◆6年目の避難者への偏見………金井直子
◆矛盾多い「線引き」──「強制」避難と「自主」避難………清野賢一
◆放置されたままの帰還困難区域………今野秀則

●第V部 あるべき復興政策と原発関連訴訟
◆福島原発災害─今後の復興はどうあるべきか………鈴木 浩
◆この5年間の原発関連訴訟の到達点と問題点………井戸謙一
◆全国初の裁判所検証──生業訴訟の検証報告………渡辺登代美
◆世紀の裁判が始まる!──東電元幹部らの業務上過失致死傷被告事件………河合弘之

●第W部 原発被害のとらえ方
◆原発被害を権利の面からどう捉え、法的責任論をどう構築するか………淡路剛久

●第X部 分科会報告─第1分科会から第6分科会
◆第1分科会・原発事故の救済と差止め………吉村良一/米倉 勉
◆第2分科会・原発ゼロ社会に向けて………吉岡 斉
◆第3分科会・日本はなぜ核を手放せないのか………山田寿則
◆第4分科会・原発とメディア──現場取材の報道と問題点………柴田鉄治
◆第5分科会・政府の帰還政策を問う………山田大輔
◆第6分科会・福島と全国を結ぶ──原発被害者・支援交流集会………佐藤三男

◆閉会挨拶………今野順夫
◆資料・集会アピール


 
「原発と人権」人間・コミュニティの回復と原発のない社会をめざして──第3回全国研究・交流集会in福島(2016.3.19?3.20)より

◆特集にあたって
 日本列島は、二〇一六年四月一四日夜と一六日の未明、熊本県と大分県にまたがって、マグニチュード六・五〜七クラスの地震に襲われました。一四日の地震は近くを通る「日奈久断層帯」の北端部の活動、一六日の地震は「布田川断層帯」の活動で、隣接する二つの断層帯が連動して発生した連動型地震でした。
 多くの人がすぐ思い浮かべたのは、再稼働し日本で唯一運転中の九州電力・川内原発と、四国の佐田半島にある四国電力・伊方原発が、それぞれ断層帯の南西、北東にあることでした。多くの人から「とにかく川内原発は止めるべきだ」と運転停止を求める意見が寄せられましたが、「敷地内で観測された揺れは原子炉を緊急停止する設定値を下回っている」と運転が続いています。本当に大丈夫なのでしょうか。
 しかも、NHKの籾井勝人会長は、部内で「当局の発表の公式見解を伝えるべきだ。いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる」と指示していたこともわかりました。事実やそれに基づく疑問が報道されず、政府や電力会社の言うなりの報道で、メディアの責任が果たせるというのでしょうか。オバマ大統領の広島訪問が伝えられましたが、「核廃絶」よりも「同盟強化」に利用しようと言うのが政府の姿勢です。いま「原発」は、日本の政治と将来に大きく関わり、私たちや子どもたちの未来に暗い影を落としています。
 二〇一一年三月一一日の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の大事故から五年。私たちはこの三月一九日、二〇日の二日間、福島大学で、「第三回『原発と人権』全国研究交流集会in福島」を開きました。法律家や原発技術者、大学の専門家、ジャーナリスト、公害運動家、そして何より、現地の被害者など約四〇〇人が集まって開いたこの集会では、特に、これまでの事故処理や復興対策について、「本当にこのまま続けて行っていいのか」という疑問が出され、改めて基本に帰った議論が求められていることが明らかになりました。
 全体集会で最初に登壇、特集の巻頭に紹介されている東京新聞の山川剛史記者は、集会では事故現場の上空からの映像を示して、現場が何の収束もしていないことを報告し、原子力市民委員会・プラント技術者の会の筒井哲郎氏は、政府・東電の「中長期ロードマップ」の誤りを指摘し、合理的な後始末の代替案を提案しました。
 報告を元にしたこの特集号での論文でも、山川記者は「敷地から全ての危険物をなくし、更地に戻すのが『廃炉』だとすれば、そのゴールは遠く、その道が見えているとは言いがたい」「税金三四〇億円をかけた凍土壁が無駄にならないことを願うが、五年間の経験からすれば、東電が『大丈夫』と言って、その通りに行った記憶はない」とし、関係者の中には「(核燃料は)取れるだけ取って、残りは固めてしまう選択肢もある」、「線量が下がるのを待つという考え方もある」と言う意見があることを紹介しました。筒井氏も、技術者としての立場から、「福島サイトの『後始末』を三〇?四〇年間で終わらせることは不可能」「大破した福島の原子炉の後始末には一〇〇年単位の期間が必要であることは必至」とし、環境への放射性物質放出と、被爆労働、費用を最小にするために、「当面放射能を隔離管理する作業」をし、「燃料取り出しは一〇〇?二〇〇年後に行うこと」を提案しています。
 この処理の仕方についての問題提起は、事故現場だけのことではありません。いま、現地は「避難指示解除準備区域」、「居住制限区域」、「帰還困難区域」に分けられ、避難指示が次々解除されて帰還が奨励されています。
 しかし、実際には、全住民が避難した町村のうち、二〇一五年九月、避難指示が解除された楢葉町では、実際に帰った人は六%にとどまり、避難が解除されても「戻らない」といっている人は、大熊町では六七・一%、双葉町では六四・七%だといわれます。元福島県復興ビジョン検討委員会の座長を務めた鈴木浩・福島大名誉教授は、「『帰還困難区域』以外の『避難指示区域(居住制限区域、避難指示解除準備区域)』の解除は、ふるさとの復興と被災者の生活・生業再建の道筋を分断させ、放射能汚染に不安を抱く避難者への生活・生業再建を妨げていくことになろう」と述べています。
 このほか特集では、集会での報告を元にして、この五年間に出された司法判断など「原発関連訴訟の到達点と問題点」について元裁判官の井戸謙一弁護士の報告、原発被害をどう法的責任論として展開していくかについての淡路剛久・立教大名誉教授の論考、さらに、多数の損害賠償訴訟の中で、現地実況見分を集会直前に行わせた渡辺登代美弁護士、東電社長などの刑事訴追について河合弘之弁護士の緊急報告なども掲載しています。
  また、前二回の集会同様、六つの分科会についての報告も掲載しました。いずれも、政府・東電が進めてきている現場の収束策と住民への対応はこれでいいのか、鋭く問いつめています。
 「法と民主主義」は、二〇一一年六月号(四五九号)で「原発災害を絶対に繰りかえさせないために(パートT)─各地のこれまでの取組みと司法・行政の責任」を特集して以来、パートYまで六回の特集と二回の集会報告を特集してきました。今回の第3回集会と特集号は、五年を経た福島事故を考えたうえでいままでに増して重要な問題提起がされているといるのではないでしょうか。ぜひ、ご活用をお願いします。

「法と民主主義」編集委員会 丸山重威


 
時評●原発と人権」全国研究・交流集会をふりかえって

(日本国際法律家協会・会長)大熊政一

■「核兵器と原発」分科会の存在意義

 「3.11」からちょうど5年。第3回“原発と人権”全国研究・交流集会が、2016年3月に、第1、2回と同じ福島大学を会場として開かれた。第2回集会の中身も充実していたが、今回はさすがにこの5年間における経験や思索・研究の蓄積を反映して、いずれの報告も極めて水準が高く、被災者、弁護団、被害補償や復興、原発ゼロに向けた運動に携わる人々に有益な示唆を与える内容の濃いものであった。

 私は全体会のほか、日本反核法律家協会と日本国際法律家協会の共催で開かれた第3分科会「核兵器と原発?日本はなぜ核を手放せないのか」に参加した。「核兵器と原発」をテーマとする分科会は第1回、第2回にも開かれ(第2回のときも今回と同様に両協会の共催である)、他の分科会が原発事故による被害の救済や原発の差止、政府や関連自治体による除染対策や帰還政策の問題点、脱原発をいかに実現していくか、原発をめぐる報道のあり方、原発被害者・支援者の交流など、原発そのものと原発事故・原発被害に直接かかわる諸問題を扱っているのに対して、核と人類は共存できないという視点から、原発と核兵器とのかかわりを問題とし、人類は何故核兵器と原発への依存から脱却できないのかその原因を明らかにして、核兵器廃絶と原発ゼロの課題を二つながら実現するための展望を切り開こうとするという点で他の分科会にはない特徴を有している。その意味で、今回の参加者は約40名と決して多くはなかったものの、この分科会は大きな存在意義を持っている。今後もこのテーマが一層深く掘り下げられることを大いに期待したい。

■安全神話からの脱却を!

 安倍政権の掲げる重要政策の1つに原発輸出の推進と国内での原発再稼働のもくろみがある。こうした執拗なまでの原発へのしがみつきは、安全保障の問題でアメリカの核の傘に依存する政策と実は密接不可分に結びついているものであることが今回の第3分科会におけるジャーナリスト太田昌克氏の基調報告で明らかにされた。
 原発への依存の根底には、こうした核の傘への依存政策との結びつきだけでなく、原発ないし原子力の平和利用に対する安全神話が横たわっていることを忘れてはならない。原発への依存は、「原子力村」と言われる財界、政府、官僚、および一部の学者・技術者の一団から成る原発推進勢力が今もなお安全神話に囚われていること、あるいは逆に彼等が国民を説得するために安全神話を利用していることを物語っている。

 この安全神話は、原子力の軍事利用(核兵器)と平和利用(原発)とを峻別するところから成り立っている。この安全神話の基礎となる峻別論は、歴史的にみて大変根深いものがあり、核兵器の廃絶を求める勢力の中にも根強く存在していたものであり、これまではそうした反核勢力ですら、その多くは安全神話に囚われていたことを認めざるを得ない。
 原発事故を教訓にすることなく、原発の輸出と原発の再稼働を推進しようとする動きが目前で起きている今こそ、安全神話の呪縛からの真の脱却と、そのための世論形成に向けた粘り強い努力が求められる時である。



©日本民主法律家協会