ひろば 2016年4月

 日弁連は毅然として反対を


 参議院法務委員会で継続審議となっていた刑事訴訟法等改正案が4月14日ついに審議入りした。本号に「緊急寄稿」として掲載されている小池弁護士の論稿は、この法案を本当に成立させてしまってよいのか、これまで法案に反対とまで言わなかった人たちに、今一度、立ち止まって考えてもらうための「旬」の素材を提供するものだ。ぜひお読みいただきたい。

 この法案には取調べの「可視化」が盛り込まれている。どんなに不十分でもこれが入っている以上一歩前進ではないか、他の司法取引や盗聴拡大などに目をつぶっても余りある価値があるではないかという意見はあり、日弁連もその立場である。
 一般市民がイメージする「可視化」とは、「取調官を監視する監視カメラ」である。私たちは、この法案は、監視されるべき取調官の判断で録画しないことを許す例外規定がある以上、取調官に都合のよい場面だけを録画して使われ、かえって冤罪を増やす危険があるのだとして反対してきた。

 小池弁護士の論稿に書かれている今市の事件は、具体的事案をもってそのことを生々しく露呈したのである。
 過去のいろいろな事件を思い出す。例えば、袴田事件では、拷問に近い取調べの結果得られた45通の自白調書のうち44通は任意性なしとして証拠排除されたが、最後の1通だけは任意性が認められた。延々と違法な取調べが続いた後の最後の1通がなぜ「任意」になるのか、不思議で仕方ないが、今回の法案はこうした不合理な任意性立証に手を貸すものなのだ。被疑者が取調官に屈服してスラスラ「自白」する場面だけを、「録画」というビジュアルな証拠で強烈に印象付け、自白の「任意性」を今まで以上に容易に立証するだけでなく、「犯罪があった」ことの有力な証拠としても使ってしまう。

 「冤罪防止」のためのはずの法案が成立したら、こんな使われ方をされることが明らかになったのだ。幸い、法案はまだ成立していない。日弁連は、ここで立ち止まってほしい。こんな「可視化」と引き換えに、明らかに冤罪を助長する司法取引や、17年前に大反対運動をした盗聴法の大幅な拡大を許しては、将来に禍根を残す。日弁連の真価が問われている。

 3月下旬、この法案の廃案を求めて、法律家5団体(社会文化法律センター、自由法曹団、青年法律家協会弁護士学者合同部会、日本国際法律家協会、日本民主法律家協会)が共同声明を発し、469名の法律家の賛同を集め、4月14日市民団体の協力を得て300人のデモを組織し、院内集会を開いた。そして4月15日5団体の弁護士と学者が日弁連の新会長と面談し、誠心誠意、この稀代の悪法に反対し、日弁連の信頼を取り戻してほしいと訴えた。

 いま日本は重大な岐路に立っている。特定秘密保護法、戦争法に反対して大きな役割を果たした日弁連は、人権擁護の原点に立ち、国民監視・捜査権限の拡大強化を狙う刑訴法等改正案に、毅然として反対してほしい。

(日民協事務局長(弁護士) 米倉洋子)


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