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 法と民主主義2016年4月号【507号】(目次と記事)


法と民主主義2016年4月号表紙
特集★検証 安倍改憲戦略
特集にあたって………編集委員会・清水雅彦
◆「アベ政権」の「改憲」とは何か──序論的考察………森 英樹
◆アベ改憲論を問う──緊急事態条項の難点と緊急権論の盲点………植松健一
◆アベの政治手法を問う──安倍政治の検討………西川伸一
◆選挙を問う──衆参同日選挙、小選挙区制の検討………小松 浩
◆若者の政治参加を問う──18歳選挙権と政治教育………安達三子男
◆『一億総活躍社会』を問う──安倍政権の保育・介護政策の検討………伊藤周平
◆市民は問う@──風に頼らず、確かな地殻変動で山を動かそう………菱山南帆子
◆市民は問うA──見たいと思う世界の変化に、私自身がなることを通じて………武井由紀子


  • 連続企画●憲法9条実現のために〈5〉・沖縄から問う憲法と平和………小林 武
  • メディアウオッチ2016●高市発言とキャスター交代 メディアを襲う自主規制、忖度、萎縮……恐ろしい現場の「同調圧力」 ………丸山重威
  • あなたとランチを〈17〉………ランチメイト・有田芳子さん×佐藤むつみ
  • 書評●森正著『評伝・布施辰治』日本評論社………新井 章
  • 司法をめぐる動き・国連女性差別撤廃委員会勧告が照らし出す、日本の女性の権利を取り巻く現状と課題……伊藤和子
  • 司法をめぐる動き・3月の動き………司法制度委員会
  • 緊急寄稿●今市事件判決を受けて──部分可視化法案の問題点………小池振一郎
  • 時評●「治安」の構造転換と憲法………佐々木光明
  • ひろば●日弁連は毅然として反対を………米倉洋子

 
検証 安倍改憲戦略

◆特集にあたって
 毎年、この時期の『法と民主主義』は憲法特集を組む。今年は憲法記念日の前にお手元に届くこの四月号で「検証 安倍改憲戦略」という特集を組むことになった。ただし、ここのところ、憲法の個別テーマを扱った論文が各号に掲載されているので、本特集ではこれまであまり触れていない視点から安倍政権による憲法破壊を批判的に検討し、憲法理念の実現に向けた理論提供を行う憲法特集とした。
 残念ながら戦争法自体は「成立」したが、昨年八月三〇日の国会周辺には約一二万人もの市民を集め、この運動のうねりはまだ持続している。今回の反対運動の土台を作ったのは、やはり戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会である。連合所属労組と全労連所属労組が共に平和運動を展開するようになった点が画期的であり、昨年は五月三日の憲法記念日の統一集会も実現した。しかし、総がかり行動実行委員会の結成は、一九五九年の安保条約改定阻止国民会議の結成に匹敵すると思うが、労働組合の組織率が低下したため、労働組合だけでは平和運動を十分に展開できない。これを補ったのが、これまで集会・デモに参加してこなかった学生・女性・市民・労働者などの運動への参加である。
 今年に入り戦争法は施行されたが、自動的に自衛隊が海外に出て行くわけではない。戦争法反対の運動を持続・発展させ、戦争法の発動阻止とさらには廃止に向けた運動が必要である。安倍首相自ら改憲を口にしている中、総がかり行動で築かれた野党共闘を維持・発展させ、今後の選挙では最低限、衆参両院で改憲派に三分の二以上の議席を与えてはいけないし、できれば憲法理念実現派が過半数を獲得したいところである。
 そういう情勢の中での本特集であるが、まず総論として森理事長に、constitutionのchangeに向かおうとしている安倍政権の改憲論を検討していただいた。続いて、各論である。植松論文で憲法学の観点から緊急事態条項論について、西川論文で政治学の観点から従来の政権とは異なる政治手法について、小松論文で憲法学の観点から衆参同日選挙と小選挙区制度の問題点について、安達論文で教育の現場におられた立場から一八歳選挙権と政治教育について、伊藤論文で社会保障法学の観点から保育・介護政策について、それぞれ検討していただいた。
 そして最後に、「市民は問う」という視点で、運動論である。「二○一五年安保闘争」の特徴は広範な市民運動の広がりがあったことから、市民としてあるいは弁護士として市民運動に関わってこられた菱山さんと武井さんに、安倍政権に対抗する運動を展開していくにあたっての市民への働きかけ方や運動の課題などについて書いていただいた。以上の理論と運動論を参考に、これからの法律家の運動を発展させていくことができればと思う。

「法と民主主義」編集委員会 清水雅彦


 
時評●「治安」の構造転換と憲法く

(神戸学院大学)佐々木光明

■ ウルトラマン生誕50年だという。変身するハヤタ隊員は国際科学警察機構、科学特捜隊の一員だった。次に地球にやってきたウルトラセブン。セブンことモロボシ・ダンはウルトラ警備隊員だが、いつのまにか地球防衛軍という軍隊組織になっていた。その後に登場するウルトラマンレオのおおとりゲンは民間人。主題歌では、♪この平和を壊しちゃいけない、未来をこわしちゃいけない…。紹介する「夕歩道(3.30中日)」氏は気にしすぎかと言うが、ウルトラマン諸氏は何のために何を守ろうとしたのか大いに考えさせてくれる。
■ 現実世界に転ずれば、暮らしや社会的な市民生活・活動の安全をはかる、いわゆる治安の主たる担い手は警察、検察である。いわば司法の担い手でもある。いまと未来を守る「治安の担い手の道標」は、憲法とその基本理念・原則だ。いわば「治安の目的」は、本来、現行憲法と法が保障する基本的な権利、生命、自由、財産の保護である。国民を守ることだ。
 しかし、いまそれが大きく変容しつつある。秘密保護、集団的安全保障を一体のものとして構想する危機管理「国家」と「自民党憲法草案」の新秩序のもとでは、優先すべきは国家と公共の利益・公益となる。さらに、その介入判断は、捜査機関の裁量に委ねられる。畢竟、警察・検察は新たな社会的な危機管理方策と捜査手法を求めることになる。
■ もっとも、市民の公共空間のあり方を規定する種々の政策や制度改正は、政府の「世界一安全な日本」戦略(2003.08.13)のもとで、すでに急速に進行している。
 警察関連では、東京都「安全・安心まちづくり条例」改正(2015)で、警察官に通報する「責務」、通報義務を課した。市民の相互監視と通報、新設した規律訓育的な遵法精神の肝要、それらの推進役は「警察」である。また、少年法第2次改正論議(04?07)では、ぐ犯少年、触法少年の警察官による調査権限、送致権が新たに提案された。権限の拡大強化である。法案審議過程で削られたが、他方で警察の補導に法的根拠を与える少年非行防止法案が準備され、提案の機会がはかられている。
■ 検察関連では、2000年に続き少年手続きにおける検察官の関与と抗告申立権を2014年の改正で実質的に手にした。家裁も司法機関であり検察が関与しない手続きは容認しがたいとしてきた法務省は、事案選別的に関与可能になった。
 また、障害をもった被疑者、受刑者への福祉的支援(入口・出口支援)は、福祉の司法化(治安)の懸念が消えない。また、治安強化戦略のなかで、法案化の糸口として「改革の場」があればよかった検察・警察は、盗聴の拡大、司法取引の導入、部分的な取調可視化等、裁量性が高く濫用やえん罪を生みやすい新たな捜査手法を規定した「刑訴法等改正案」を検証不十分なまま強引に提起した。「特定秘密保護法」にあっては、運用主体が検察であり、立件の判断とともにその「裁量」の根拠は明らかになることはない。それは裁判になってからも同じで起訴事実も秘匿されかねない。
 福祉の領域における検察、地域生活・教育の領域における警察、捜査機関の非司法領域における新たな政策展開は、従前の「刑事法原則の下の捜査機関のあり方」と異なった意味を持つことになる。
■ 転換する治安の実質は、自民憲法草案の基本的人権に関する二つの規定から読み取れる。草案12条は国民に「義務の自覚」を求め、「公益と公の秩序」が優先されることを示す。現行憲法97条(人権の不可侵性)の削除と相まって、続く草案13条は権利の尊重対象は「個人」ではなく、「人」として一般化、相対化され、「公益、公の秩序」による制約は合理的化されやすい。草案前文では、基本的人権を守るのは国ではなく、「日本国民」だとする。
 これまで、市民を巻き込みつつの差異化と排除による治安政策、いわゆる平時の「市民的治安主義」が浸透していたが,秘密保護法制と集団的自衛権の解釈改憲による軍事的安全保障体制の構築、社会的監視と通告制度、それらを支える警察・検察のあらたな捜査及び調査権限の拡大は、「準?戦時治安主義」への橋頭堡。憲法改正論と連動し、治安の構造転換が起きつつある。国防保安法、治安維持法下の歴史が投影する。「戦前に学んだ設計図が存在するようだ」(内田博文『刑法と戦争』みすず書房)。



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