ひろば 2015年11月

 少年法適用年齢引き下げに異議あり


 全司法は10月31日〜11月1日の2日間、東京都内で少年法対策緊急集会を開催しました。この集会は、政府や自民党などが少年法の適用年齢を「18歳未満」に引き下げる動きを見せているもとで、少年法の現場で働く職員を組織している労働組合として、その問題点を明らかにし、「適用年齢引き下げ反対」のとりくみを意思統一する目的で開催したものです。
 集会では、全司法の中に設置している少年法対策委員会から「少年法適用年齢の上限引き下げに関する家裁現場アンケート」(家裁調査官を中心とした組合員等を対象に今年の7月頃から実施したもの)の中間結果にもとづいて、「家裁調査官の圧倒的多数から、対象年齢の上限を18歳未満に引き下げることについて反対や懸念を表明する意見等が示された」こと等を紹介し、あわせて、これまでのとりくみや今後の運動の方向性について報告を行いました。
 「それまでは「学校」という枠組みの中でなんとかやってきたけれど、高校を卒業して、社会に足を踏み出したとたん、挫折したり、背伸びしたりして、はみ出してしまうのです」/「小学校高学年、中学生の頃からうまく社会に適応できなくなっていた子が、同世代の友達が大学に進学したり、社会人として働き出すのを見て、焦りを感じることが事件の背景にあります」/「交通事故などでは、「普通の子」が初めて家裁に来ることがあります。18歳になり、できることが広がっても、それに伴う重さを感じていない。自分の行為と向き合うプロセスが必要なのです」
 適用年齢引き下げで少年法の対象から外されることになる18・19歳の少年について、現場で実際に接している家裁調査官は、以上のような特徴をあげています。そして、今回のアンケート結果によると、「18歳、19歳の少年に『未熟さ』を感じることはありますか」という質問については、「よく感じる」65.8%、「感じる時がある」29.2%と合わせて95.0%が未熟さを感じると回答しています。また、現実の事件を通して、立ち直りを実感したことがある調査官は89.2%と圧倒的多数にのぼっています。
 少年は少年法の手続きの中で働きかけを受け、自らの非行の重大さに気づき、考え方を変えていきます。特に、18・19歳は就職や進学など、自立に向けて歩き始める時期と重なるため、周囲の働きかけで大きく変化、成長します。そうした、「成長の時期」だからこそ、少年法の手続きが有効だというのが、少年事件を担当する書記官・家裁調査官などの実感です。進学や就職などの人生の転機を迎え、社会的にも自立が求められる時期だからこそ更生の可能性が高く、実務上もそれを足がかりに、家族間の調整や就労と結びつけて更生を図ってきたとの認識を持っているのです。したがって、その年代を少年法の対象外としてしまうことは、未だ社会的・経済的に自立しているとは言えない若年層を更生させる機会を奪うだけではなく、再非行を防止し、犯罪を未然に防ぐ「社会防衛」の施策としてもデメリットの方が大きいと考えられます。
 世間では、少年事件が「増加している」。「凶悪化している」と話題にされることがあります。しかし、実際には少年事件は年々減少しており、特に凶悪事件の減少は目立っています。また、現行法では、少年であっても、事案によっては成人と同様に刑事事件となり、殺人などの重大な結果を引き起こした場合は、死刑になる場合があることも世間的にはあまり知られていません。
 こうした誤解や「少年法は甘い」というイメージだけで議論され、適用年齢が引き下げられることのないよう、全司法は少年法の現場で働く職員の労働組合として、積極的に実態や問題点を発信していきたいと考えています。

(全司法労働組合中央執行委員長 中矢正晴)


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