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 法と民主主義2015年11月号【503号】(目次と記事)


法と民主主義2015年11月号表紙
特集★戦後70年――過去と向き合い、未来を語る
特集にあたって………南 典男
◆安倍首相「70年談話」を読み解く………笠原十九司
◆戦後70年、平和を維持し続けた市民の力を次の100年へ………加藤文也
◆『歴史事実を直視する』とはどういうことか………松村高夫
◆歴史的責任の引受こそ信頼関係の基礎――戦後70年のドイツから見る………広渡清吾
◆日中友好関係と日本の対中認識………浅井基文
◆「慰安婦」訴訟を通して「記憶の継承」を考える………大森典子
◆『平頂山事件』の解決を考える 国家と国民の「謝罪」とはなにか………穂積 剛
  • 連続企画●憲法9条実現のために〈1〉◆自衛官の人権弁護団と自衛隊員と家族、恋人のための緊急相談………佐藤博文
  • 連続企画●憲法9条実現のために〈1〉◆「戦争法」と自衛官の人権………菅 俊治
  • 司法をめぐる動き ◆刑訴法案の忘れられた論点――証人等の保護について………新屋達之
  • 司法をめぐる動き ◆10月の動き………司法制度委員会
  • 追悼●深瀬忠一名誉理事への悼辞………浦田賢治
  • リレートーク●地域から実現する民主主義………川岸卓哉
  • 書評●前田朗著『ヘイト・スピーチ法 研究序説』三一書房………櫻庭 総
  • 仲間のしごと●「大東亜戦争・裁判所の戦争体験」(資料)をまとめた植島幹四郎氏………有村一巳
  • 委員会報告●司法制度委員会/憲法委員会………米倉洋子/小沢隆一
  • 時評●少年法の適用年齢を18歳に引き下げることについて………小笠原彩子
  • ひろば●少年法適用年齢引き下げに異議あり………中矢正晴

 
戦後70年――過去と向き合い、未来を語る

 ◆特集にあたって
 今年は、敗戦70周年である。この節目の年には、「過去」、「現在」、「未来」が凝縮している。過去とどう向き合うか、未来をどのように生きるかが、今、問われている。
 安倍首相は、二〇一五年八月一四日、閣議決定を経て「戦後70年談話」(安倍談話)を発表した。安倍談話は、歴代首相が踏襲してきた村山談話の核心部分であるアジア諸国に対する侵略と植民地支配の事実を、一般的抽象的言葉としては用いながら、自らは認めようとしなかった。安倍政権は、同年九月一九日未明、二度と戦争をしたくないという大多数の国民の声を無視し、極めて乱暴なやり方で「平和安全法制整備法案(戦争法案)」を強行採決した。
 先の戦争の侵略性や加害の事実を認めようとしない安倍談話と専守防衛を超えた武力行使を可能にする戦争法案の強行採決は、先の侵略戦争の反省のもと制定された憲法を頂点とする戦後の体制を壊し、再び軍事国家をつくろうとする安倍政権の本質的特徴をあらわす同根のものだ。
 これに対し、戦争法案廃案を求める国民運動は空前の規模となり、野党の共闘を生みだし、戦争法案廃案が国民多数の声となった。また、先の戦争の侵略性と加害の事実を認めようとしない安倍政権に対し、国民の側から、歴史の偽造を許さず、加害の事実と真摯に向き合い、アジア諸国との信頼関係と平和な共同体をつくろうとする動きが展開された。本号の特集は、こうした動きの中から、今年の夏に開催された二つの企画をとりあげる。
 そのひとつは、市民の側から安倍首相の談話に対峙する「国民の70年談話」をつくろうと実行委員会が組織され、本年八月一三日、東京の弁護士会館クレオにおいて行われたシンポジウムである。安倍談話の背景とその内容の全面的批判がなされ、憲法に込められた平和・民主主義・人権・教育・生活の諸分野での「戦後」を検証し、「国民(私たち市民)の70年談話─戦後70年を心に刻んで」を採択した。
 もうひとつは、二〇一五年九月一一日から一三日にかけて、明治大学リバティタワーホールにおいて行われ、「悪魔の飽食」の合唱と731部隊をテーマにした森村誠一(作家)氏と池辺晋一郎(作曲家)氏の対談、浅田次郎氏の講演、歴史教育・歴史教科書問題のシンポジウム、中国残留孤児の体験談と映画、日中若手研究者による「相互信頼」をめざす報告、南京事件をテーマにした合唱などが行われた。戦争法案を正当化する「中国脅威論」に対抗し、加害事実を認識した日本の市民の声を中国の人たちに届け信頼関係を築こうとする取り組みである。
 「私たちの国が過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目になります。」(一九八五年、西ドイツのバイツゼッガー大統領の演説)との言葉を肝に銘じ、先の戦争の加害事実を認めて東アジアとの信頼を築き、二度と戦争をしない未来をつくるために、本特集をお届けする。

法と民主主義編集委員会 南 典男


 
時評●少年法の適用年齢を18歳に引き下げることについて

(弁護士)小笠原彩子

1.少年法年齢の引き下げ問題──自民党政務調査会は、公職選挙法の選挙年齢が18歳になるので、民法の成人年齢と少年法の適用年齢もまた18歳にするのが適当であるとしています。
2.現在の少年非行と年齢引き下げの影響──2012年、検察庁が新しく通常受理した少年被疑者数は11万9212人です。そのうち年長少年(18・19歳)は5万1805人で、43.5%を占めています。4割以上の少年が少年法の保護のもとから排除され、おとなの刑事手続きに追いやられることになります。少年被疑者は過去に虐待やいじめられた被害者の立場にいたものが極めて多く、少年院在院者の7割以上が被害体験を持っています。また少年院在院者の5割から7割に広汎性発達障害の特徴がみられます。このような少年被疑者には手厚い教育的・社会的・医学的支援が必要です。この年齢引き下げは、現行少年法の精神を半減させ、将来にわたって深刻な「若年成人問題」を引き起こす虞があります。
3.年齢引き下げの合理性や必要性はあるか──選挙年齢や成人年齢、少年法の適用年齢は、それぞれの法律が定められている目的との関係で、独自に定めるべきことです。現に1922年に制定された旧少年法は、民法の成人を20歳としながら、少年法の適用年齢は18歳と定めていました。また諸外国でも、成人と同様の責任非難ができないことや犯罪予防上の有用性を理由に、形式的な成人年齢と必ずしも一致していません。
 少年非行が増加・凶悪化しているから必要という主張がありますが、結論を先に言えば、少年非行は、増加も凶悪化もしていません。これは犯罪統計上も司法統計上も、あきらかな事実で、非行の減少率は少子化の人口減を超えるペースで進んでいます。この主張は、客観的な事実を誤認または無視したものと言わざるを得ません。
4.少年院の教育的な機能──元非行少年は少年院生活について以下のように語っています。
ア (これまで外では)怒られるとか、説教されたり、注意されたり、責められたりぐらいだったんで、(先生が)優しくこう話聞いてくれて、特に家庭環境が悪いとかそういうことも、母を責めるわけでもなく聞いてくれて、あなたはこうなんだったねとか、このときこう思ったんだねとかって、自分でも気づかないような思いを引き出してくれたりして。そのときに初めて、自分で、…今までは周りの人が悪い、悪いって、私を認めてくれないって思ってたんですけど、自分の心境だったりっていうのを(聴いてもらえて、)初めて(自分がしてきたことを)振り返ることがあって……。
イ 生徒間で言い合いでも感情的になる奴はいない。…生徒同士の討論もあって、そんな中でも素直に意見する。…中学校でできなかった部活のようなことも一生懸命になって、…少年院の中で平泳ぎ50m、100mと背泳ぎで優勝したり、バレーボール、サッカーボール、ソフトボール、運動会も優勝した。俺ら楽しいわ。先生を胴上げして。…厳しい時は厳しくて優しい時は優しくて。自然と人前で涙流したり、感動したり。そこら辺から涙腺も弱くなった。感動して、心が広がって…。
ウ 勉強の面白さを知りましたよね。答えが分かるとこんなに面白いんだって。…少年院の先生からは、いつも、粘り力、忍耐力、持続力がないって言われて、その3つをつけろ、って言われました。…(資格は)ガス、小型、通信教育で簿記とか。それで、本も…小説とかも読むようになって。少年院では生まれてからのことを文章にしなくちゃいけなくて、あれで、意外と振り返ったなあって。(注1)
5.少年非行は、その資質と育った環境に大きく起因しています。同時に少年は成長発達過程にあり、可塑性に富んでいます。少年院で育てなおしの教育がなされたり、保護観察処分で適切な働きかけがなされることによって大きく立ち直る子どもたちがいます。適用年齢引き下げ後、刑事裁判の被告となり、収容処分になると少年刑務所に入ることになります。ここは少年院のように教育を目的にした施設ではありません。非行少年の立ち直りの機会を奪う、少年法の年齢引き下げは、大きな問題をはらんでいます。



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