日民協事務局通信KAZE 2015年2・3月

 「日本と原発」を制作して


 ドキュメンタリー映画「日本と原発」は約三年の歳月をかけて完成された。監督は私だ。一介の弁護士である私がなぜ映画を作ったのか。それをお話ししたい。
 私はこの約二〇年、盟友海渡雄一弁護士とともに各地の原発差止訴訟を戦ってきた。しかし連戦連敗だった。そこに二〇一一年三月一一日の東電福島第一原発事故が起きた。そこでもう一度、日本全国で原発差止訴訟を起こし直そうと、「脱原発弁護団全国連絡会」を結成した。今は約三〇〇名の弁護士が日本全国で戦っている。その成果の第一が、昨年五月二一日の福井地裁判決(大飯原発3・4号機の運転差止)だ。しかし、このように、裁判で戦っているだけでは国民に脱原発の思いはなかなか浸透しない。多数発行されている「原発本」にも限界がある。そこで思いついたのが、ヴィジュアルである。映画なら二時間余で原発の危険性を伝えることができるはずだ。裁判官の説得にも使える。裁判官は原発訴訟での膨大な記録に圧倒され、全体的把握ができず、結局「権威」ある「行政」や「御用学者」の言う通りに判決するという「無難」な道を選んできたのだ。それなら裁判官に対して映画で日本の原発の全体像、全体図を把握してもらい、方向の正しい判決を出してもらおう。
 この二つの狙いで映画制作に入った。
 日本の原発の問題点を全て網羅した。全ての論点において原発推進派の論理を打ち破らなければ脱原発派の人が論争に負けて意気阻喪してしまうからだ。逆に、この映画の内容を全てマスターすれば、原発推進論を打破して、自信と勇気をもって脱原発運動ができるようになる。福島の被災者の被害の深刻さ、怒り、悔しさから始まり、原発の仕組み、福島原発事故では国家壊滅の危機すらあったこと、原子力ムラの巨大さと醜さ、CO2論、「国富流出」論、「失敗は成功の母」論、「再稼働」論、汚染水「アンダーコントロール」論など、全てを論じ、最後に日本の全原発五四基を新垣隆氏(佐村河内事件のゴースト作曲家)の重厚な音楽とともに写し出して終わる。
 私のふたつの狙い、国民への浸透と裁判での利用は達成されつつある。
 封切り当初の昨年一一、一二月の全二〇回の上映は全て満席であった。その後は、日本全国で自主上映の波が広がり、二〇〇カ所以上で上映されている。四月八日には第二東京弁護士会が上映してくれる。また、ほとんどの原発関係訴訟(差止に限らず刑事告訴や損害賠償請求等も)において、証拠提出されつつある。
 現に、松山地方裁判所の伊方原発差止訴訟では法廷において上映された。準文書の証拠調べという形式においてである。画期的なことである。
 ところでこの映画の英語版が完成した。これを海外での映画祭に出展して海外にも広めたいと思っている。世界に日本の原発の現状を知らせる必要があるからだ。そして、国内的には、さらに脱原発運動の一環として、またはそれと連動して自主上映活動を一層広め、日本の隅々にまで行き渡らせたい。次にDVDを販売し、最後はインターネットやYOUTUBEで見られるようにしようと思っている。脱原発の思いが広く、強く広まった時、その時こそ政治がそれを取り入れ、脱原発に大きく舵を切る時だと思う。その日が来るまで絶対に戦い抜く決意である。
 最後に全ての弁護士の方々がこの映画を見てくださるようお願いしたい。

(弁護士 河合弘之)


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