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 法と民主主義2014年7月号【490号】(目次と記事)


法と民主主義2014年7月号表紙
特集●特集●暴走する国家、迷走する司法──「新時代の刑事司法制度」の狙うもの
特集にあたって………編集委員会・米倉洋子
◆総論──constitutional changeの観点からみた「新時代の刑事司法」………新屋達之
◆治安政策の現状からみた「新時代の刑事司法制度」………斉藤豊治
◆秘密保護法と捜査手続──「新時代の刑事司法」との関係で………足立昌勝
◆国連刑事司法からみた「新時代の刑事司法改革」………山口直也
◆あるべき「新時代の刑事司法制度」の姿………小池振一郎
◆冤罪事件からの教訓を無視した刑事手続………小川秀世
◆法制審議会「新時代の刑事司法特別部会」の答申の問題点………岩田研二郎
◆冤罪被害者と市民団体による運動の展開と今後の方向性について………客野美喜子

  • シリーズV「若手研究者が読み解く○○法 Part2」14「刑事訴訟法」 被告人に真実供述義務を負わせてよいか………中川孝博
  • 判決・ホットレポート●「絶望の裁判所」でどうやって勝ったのか ──自衛艦 「たちかぜ」いじめ自殺事件東京高裁判決………岡田 尚
  • 司法をめぐる動き3●予備試験制限問題を考える………森山文昭
  • 2014年6月の動き………司法制度委員会
  • あなたとランチを〈4〉………ランチメイト・ 宮腰直子×佐藤むつみ
  • メディア・ウォッチ2014●「集団的自衛権」閣議決定報道 「言論」は「政権の暴走」を止められないのか── 問われるジャーナリズム………丸山重威
  • 寄稿●憎悪表現(ヘイト・スピーチ)規制消極論とその背景………小谷順子
  • 書評●梓澤和幸著『リーガルマインド』リベルタ出版………井桁大介
  • 特別掲載・日民協第53回定時総会記念講演● 7・1閣議決定後に向けた改憲阻止の国民的共同を求めて………森 英樹
  • インフォメーション●総会報告・「法民賞」授賞式/総会特別決議
  • リレートーク●〈13〉くだけた声明に込めた想い………黒澤いつき
  • 時評●閣議決定違憲無効の宣言………内藤 功
  • KAZE●日民協定時総会に初めて参加し、私が決意したこと………林 裕介

 
暴走する国家、迷走する司法──「新時代の刑事司法制度」の狙うもの

 ◆特集にあたって
 法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」は、三年余に及ぶ審議をへて、二〇一四年六月三〇日最終案を提示し、七月九日の第三〇回会議において、「新たな時代の刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」(「要綱(骨子)」添付)をとりまとめた。
 この「特別部会」は、大阪地検による証拠改ざんを契機として、違法・不当な捜査と冤罪の根絶を目標として始まったはずであった。ところが、審議が進むにつれ、取調可視化の対象事件を全事件の二%に過ぎない裁判員対象事件に限定し、全面証拠開示を否定するなど、冤罪防止策は骨抜きにする一方で、通信傍受(盗聴)の拡大や司法取引など、捜査権限の拡大強化を打ち出す方向が顕著になり、冤罪被害者、刑事法研究者、弁護士、市民の強い批判の声も無視して今回のとりまとめに至ったものである。
 ところで、憲法改正を公約として登場した安倍政権は、この七月一日ついに集団的自衛権行使容認を閣議決定したが、これに先立ち集団的自衛権行使に不可欠な特定秘密保護法を成立させ、共謀罪の創設も検討中と言われている。そして、例えば特定秘密保護法違反事件の捜査・訴追には、「新時代の刑事司法」で構想されている通信傍受(盗聴)や司法取引が大きな役割を果たす。このように、現在の政治情勢の下で、「新時代の刑事司法」は、単なる刑事訴訟法の改悪にとどまらない、公安警察の強化、国民運動の抑圧という危険性を持つのではないか。
 このような問題意識を重視しつつ、本特集では、「新時代の刑事司法」の問題点を多面的に取り上げる。

 巻頭の新屋達之「総論──constitutional changeの観点からみた『新時代の刑事司法』」は、「新時代の刑事司法」が福祉国家の解体、新自由主義的国家再編、危機管理国家化、軍事大国化という現代日本の国家構造の変容と密接に関わり、憲法改正の一翼を担う性質のものであることを総論的に論ずる。新屋先生には、本特集を企画するにあたり、基本となる重要な視点を提示していただいた。
 斉藤豊治「治安政策の現状からみた『新時代の刑事司法制度』」は、「新時代の刑事司法」が「支配層の支配秩序と政策に対して異議を唱える人々を系統的、組織的に排除する政治的秩序」という意味での「狭義の治安」政策の強化の一環をなすものであることを詳細に論じる。
 足立昌勝「秘密保護法と捜査手続──『新時代の刑事司法』との関係で」は、特定秘密保護法の構成要件を詳しく紹介し、同法違反事件の捜査において「新時代の刑事司法」の新しい捜査手法が使われる可能性を具体的に論じる。
 山口直也「国連刑事司法からみた『新時代の刑事司法改革』」は、「新時代の刑事司法」が国際人権法の観点からの改革は最小限にとどめ、立法事実のない組織犯罪対策条約締結のための国内法整備をめざすものだと論じる。

 小池振一郎「あるべき『新時代の刑事司法制度』の姿」は、国連の拷問禁止委員会は日本政府に対し、弁護人の立会権、取調時間の制限、取調の全面可視化をセットで実現するよう勧告しており、これを目指すべきであること、このほか検察官上訴の禁止や代用監獄の廃止等、山積する改革課題に取り組むべきであることを論じる。
 小川秀世「冤罪事件からの教訓を無視した刑事手続」は、袴田事件などの冤罪事件の弁護人の経験から、冤罪防止のために必須の制度を論じ、特別部会の要綱案が冤罪からの教訓にまったく欠けていたと厳しく批判する。
 岩田研二郎「法制審議会『新時代の刑事司法特別部会』の答申の問題点」は、日弁連刑事法制委員会委員長として特別部会の審議を注視してきた立場から、審議の経緯、一括採決という手法に対する批判、そして特別部会のとりまとめの全論点について、議論された内容も紹介しながら正確かつ詳細に問題点を摘示する。今後の闘いにおいて、コンメンタールのように活用していただきたい。
 客野美喜子「冤罪被害者と市民団体による運動の展開と今後の方向性について」は、市民団体「なくせ冤罪!市民評議会」代表として、この間、冤罪被害者とともに取り組んできた法制審への要請行動等の精力的な活動を報告し、冤罪を生まない制度の提起をしていきたいと述べる。

 これから、法制審総会の正式な答申が出て、来年の通常国会に関連法案が提出されると言われている。本特集を、これからの闘いに役立てていただけることを心から願っている。

「法と民主主義」編集委員会 米倉洋子


 
時評●閣議決定違憲無効の宣言

(弁護士)内藤 功

◆内閣は憲法を尊重擁護し、これを忠実に執行する責務がある。内閣が憲法の根幹たる九条について、長年にわたり堅持された解釈を国会の正式審議にかけず、国民多数の反対を無視して変更するようなことは許されない。
 安倍政権は、国政選挙で多数を得たから政権が憲法解釈を決められると言っていた。しかし、広範な批判を受けて、これは言わなくなった。何か「権威」はないか、探し求めて、最高裁砂川判決を持ち出したが、砂川判決は、集団的自衛権行使を認めていない。法曹界、学界はじめ国民各層から批判を受けて、これも「閣議決定」に書き込めなかった。
 その代わりに一九七二年一〇月一四日の政府解釈(参院決算委員会提出資料)を持ち出した。ところがこれは、自衛権行使の三要件と、集団的自衛権行使は許されない旨を明記している。そこで、これを改竄した。三要件のうちの第二要件「他に適当な手段がない」と、第三要件「必要最小限度の実力行使」は「継承」したが、肝腎の第一要件「わが国への急迫不正の侵害」とある後に、「又は他国に対する武力攻撃」を書き加えて、全く異質な「武力行使三要件」に改竄した。この点だけでも、「閣議決定」は違憲無効である。
 安倍内閣の自作自演というべき「安保法制懇報告書」をみると、憲法の「平和的生存権」「国民主権」「平和主義」「国際協調主義」が、集団的自衛権行使を容認しているという立場をとっている。憲法の「平和主義」は、安倍政権が国家安全保障戦略で打ち出した「積極的平和主義」の基礎にあるものだという。かような異様な憲法解釈に立って、「多国籍軍への参加」や「駆け付け警護」や「任務遂行のための武器使用」にまで踏み込んできた。明白かつ重大な憲法違反である。

◆「閣議決定」後、内閣の国家安全保障局の「法整備チーム」が、自衛隊法はじめ関連法律案、政省令案の改定作業に入り、国会提出を狙う。こういうときこそ、主権者国民自身の出番である。主権者としては、まず、これが憲法違反で無効であると堂々と宣言すべきである。違憲の閣議決定は憲法九八条一項により、「この憲法の条規に違反する『国務に関する行為』は効力を有しない」のである。違憲無効の閣議決定は即時撤回せよとの世論を起こし、政府に迫ることである。
 憲法の精神を改めて学習し、憲法が国民に保障する、平和的生存権に基づき、選挙権、集会・結社・言論・出版その他一切の表現の自由、請願権、団体行動権、公平な裁判を受ける権利を余すところなく行使して立ち向かうときである。

◆憲法論とともに、集団的自衛権問題の核心は、日本の若者の生命を、アメリカの戦争の犠牲とするな、という大問題である。このままいけば自衛隊員にかならず死傷者が出る。その場合、どういう、補償をするのか、栄誉を与えるのか、国家としての葬儀をするのか、死者は靖国神社や護国神社に祀るのか、等の問題は避けられない。安倍政権は口をつぐんでいる。自衛官は服務の宣誓で、わが国の平和と独立のため、危険を顧みず責務完遂に務めると宣誓している。だが他国の戦に生命を賭けることは宣誓していない。集団的自衛権に基づく派兵は契約違反だ。退職するという自衛官が出て当然だ。
 自衛官の生命を守ること、こどもたち、高校生、若者を、一人たりとも戦場で死なせない。憲法の平和的生存権と生命・自由・幸福追求権に基づく、この世論と運動は、必ず広がり、政権を圧倒するだろう。今は危機のようだが、実は勝機をはらんでいる。国民的論戦を通じて、憲法は試練に堪え、磨きがかかり、強固な岩盤として鍛えられる。
 一人ひとりが、「剣豪」ならぬ「論豪」「論客」「語り部」となり、結束して立ち向かおう。ワクワクするような時代が来ているのではないか。   (二〇一四年七月七日記)



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