日民協事務局通信KAZE 2012年6月

 規律訓育社会?!


●近年の「厳罰化」の動きのなかで、刑事司法制度(刑罰・執行)と治安政策が強く連動し、「社会の構成員としての規律ある行動と意識」を持つことが犯罪・非行をなした者とともに市民にも強く求められ始めている。いわゆる、「規範意識の覚醒」が立法目的とされ、また、それを目的とした治安政策が積まれている。

●今国会で継続審議扱いになっている「刑の一部執行猶予」法案は、新たな「刑罰」のあり方を含むだけでなく、更生、社会復帰に対する社会的意識の形成と深く関わっている。「懲役三年、うち一年を三年間保護観察付きの執行猶予」といった言渡しがあり、その場合まず二年の間懲役刑が執行され、その後、残りの一年の懲役刑の執行が三年間保護観察付きで猶予されるというものだ。また、その保護観察にあっては、特別遵守事項の類型に「善良な社会の一員としての意識の涵養及び規範意識の向上に資する地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を一定の時間行うこと」(更生保護法第五一条二項に追加)とし、いわば「社会貢献」活動を義務化している。刑罰ではないが、違反すれば制裁がある。手間のかかる更生支援より、わかりやすい態度表明を求めたといっていい。
 社会防衛の色合いを強くし、再犯防止を強調した更正保護法(二〇〇七年)は、その目的規定に、「処遇」の用語を新たに規定した。旧法下での「改善更生を支援する」ケースワークとしての処遇から、法の強い意志を示す「強い処遇」へとパラダイムをシフトさせた。実務運用への不安の裏返しなのかもしれない。また、市民についても、更生保護の目的の達成のために「その地位と能力に応じた寄与をするよう」(同法二条三項)強い表現で求めている。

●一方、警察庁は新たな方向性を打ち出し始めている。従前の事後的犯罪対策から「犯罪の構造要因をたたく」、社会のあり方そのものを変える役割と牽引役を警察が果たすことを明言する。警察庁通達「犯罪がおきにくい社会づくりの推進について」(二〇一〇年四月二一日)は、不安を感じる市民への積極的情報提供とネットワーク機能の形成援助、社会の秩序を乱す違反等への積極的指導、警告、検挙。少年の規範意識の醸成のための積極的地域形成への関与等、社会の全ての者の利害にかかわるが故に、犯罪がおきない安心できる社会の実現を理解してもらうという。警察はいま、社会政策形成官庁の中核となっている。

●犯罪化の前倒しと事前規制論を核とした刑事法制と治安政策の進展は、他方で犯罪の社会構造的な要因性、社会に戻ろうとする人間への関心、その支援の制度的な枠組みと担い手への関心を希薄化させている。いま求められるのは、人間ひとり一人のニーズへの関心ではなかろうか。それが新たな人間の関わりを生み、社会や他者への関心を生み出すものだろう。

(神戸学院大学・佐々木光明)


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