日民協事務局通信KAZE 2009年5月

 国民を大切にする平和国家への願い


 太平洋戦争の末期、中国東北部で親を失うなどして孤児になった子どもたちも、国内で米軍の空襲により親を失って孤児になった子どもたちも、とうに還暦を過ぎました。
 ところで、日本政府は、これらの孤児をどう扱ってきたのでしょうか。国が責任を持って、これらの孤児の状況を調査したことさえなく、ほとんど放置してきたのです。
 中国残留孤児たちは、〇二年一二月から全国各地で国家賠償請求訴訟を提起し、一審判決の結果は分が悪く一部勝訴は神戸地裁判決だけでしたが、政治決着が図られ、〇八年一月から老後の生活を安定させることを主眼とする「新たな支援策」が実施されることになりました。満足のいく解決ではありませんでしたが、その後の経済情勢を考えますと、適時の解決だったと思います。
 もう一方の国内の戦争孤児たちを含む空襲被害者は、〇七年三月九日と〇八年三月一〇日に合計一三二名が東京地裁に謝罪と損害賠償を求める訴えを提起し、〇八年一二月八日には一八名が大阪地裁に同旨の訴えを提起しました。東京地裁の事件は〇九年一月二九日に証拠調べが終了し、五月二一日に双方が最終準備書面を提出すれば、結審となる運びです。
 この二つの事件から思うことは、わが国が国民に、どうしてこれほど冷たく、非常なんだろうかということです。
 東京大空襲訴訟の原告の一人で、学童疎開中であったため、家族で一人だけ生き残った女性は、「日本は、軍事国家体質を持った後進国だと思います。国民を見捨てる国家に、愛国心は持てません」と原告本人尋問で述べました。この女性の願いは、日本が平和国家で、国民を大事にする国家になってほしいということだと思います。
 どうやら、日本が真の平和国家に生れ変わらなければ、国民を大事にする先進国家にはなれないということのようです。ところが、最近の日本は、自衛隊のイラクへの派兵、そしてソマリア沖への派兵、北朝鮮の「飛行物体」発射騒動等と、なんだか臨戦態勢へ向かっているような雰囲気があります。
 政治家も、高い理想や理念を持つことなく、目先の利害や気分によって動いているような気がしてなりません。
 最も気になるのは、総理大臣や一部の知事が、民から権限を委託され、民のために尽くすべき立場を忘れ、自分が殿様になったような気分になり、民の金を自分の金のように錯覚し、これをもって民に施しをするという感覚です。定額給付金は、その最たるものではないでしょうか。
 とにかく、国民の中の平和思想を大きく育て、国民自身が変わり、政治を変え、国家を変えなければならないと思います。太平洋戦争の生き残りが死に絶える前に、なし遂げなければ、手遅れになりかねません。

(弁護士 北澤貞男)


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