日民協事務局通信KAZE 2009年4月

 市民が担うアジアの共同を!


 二〇〇七年四月二七日、最高裁で、日中共同声明により、戦争遂行中に生じた個人の請求権は放棄されているという判決が出ました。この判決によって、戦後補償裁判は終わったとお思いの方も多いのではないでしょうか。
 どっこい、そうはいきません。
 十数年間にわたる中国人戦後補償裁判は、多くの成果を生み出しました。
 一つは、強制連行・強制労働事件、「慰安婦」事件、平頂山村住民虐殺事件、旧日本軍遺棄化学兵器被害事件、七三一部隊事件、南京虐殺事件で裁判上事実認定がされました。多くの書証、証言、学者の研究がなされ、事実が不動のものとなったのです。
 二つは、日中双方の市民・弁護士、学者による共同作業が行われ、市民間の信頼関係をつくりだしてきました。
 三つは、司法が、解決のための努力をしていることです。上記最高裁判決自身、中国人四万人の強制連行・強制労働につき加害企業と国は自主的に解決すべきという、最高裁としては異例の提言を行い、福岡高裁は、解決を望む所感を出し、和解のための努力をねばり強く行っています。
 以上の成果を基礎に、弁護団と支援団体は、上記事件の政策形成を求める活動を精力的に行っています。
 強制連行・強制労働事件では、ドイツで行われた「記憶・責任・未来」事業を参考に、企業と政府が拠出して基金をつくり、被害者に対する補償と歴史事実を記憶し未来に生かす事業を行う構想を提案し、その実現に努力しています。
 「慰安婦」事件では、「オール連帯」という市民の共同組織が、国際社会の動きと連携しながら、国会決議による明確な謝罪等を求めて活動しています。
 平頂山事件では、被害現場のある撫順市の声援団と日本の市民が共同して、謝罪とその証として碑や陵苑をつくることを求めて、国際シンポジウムを行うなどの活動をしています。
 旧日本軍遺棄化学兵器被害事件では、裁判と並行して、化学兵器被害に苦しむ被害者に対する医療支援を医師と市民が協力して行い、政府に対し医療支援を核とする政策形成を求めています。
 南京事件では、アメリカ、ヨーロッパ、アジアの各国で南京事件七〇周年国際シンポジウムを行い、記録集の出版を行うとともに、「和解・真実委員会」の立ち上げを準備しています。
 今、アメリカに端を発したグローバルな金融危機が、国家と労働者、市民との間の深刻な矛盾をもたらしています。日本も、中国も然りです。こういう危機的時代は、多国間民主主義に基づく新たな国際秩序や人権・民主主義に根付いた国家構造に転換するチャンスでもありますが、同時に、紛争と混乱に入り込む危険もあります。
 こうした危機的時代だからこそ、市民が共同して東アジアの連携をはかり、平和を構築していく活動を強めていきたいと思います。

(弁護士 南 典男)


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