日民協事務局通信KAZE 2008年10月

 登記のオンライン申請促進の手法


 防衛省の意見広告のようなポスターや、合法的な労働組合に対する大臣の発言など、さわやかな秋には似合わないことが次々と起こります。私の話題もあまりさわやかとは言えない、登記申請の話です。
 今は、コンピュータ無しでは社会が成り立たないといった状況ですが、登記制度も例外ではありません。これまでの登記は、申請人や代理人が、申請書類を登記所に持参して申請していましたが、〇四年六月から商業登記、〇五年三月から不動産登記が、インターネットを利用したオンライン申請ができるようになりました。しかし、このオンライン申請がなかなかの曲者です。
 不動産登記のオンライン申請では、当初、登記申請書(登記申請情報)およびその添付書類(添付情報)の全てが電子化される必要がありました。電子化といっても、電子取引が必要というのではなく、委任状などの添付情報をPDFファイルにすれば良いのですが、なりすましや文書の偽造変造を防ぐため、そのPDFファイルに、情報作成者が、国の定めた基準を満たす電子署名をしなければなりませんでした。しかし、現状では、全ての当事者が電子署名をできる環境にはなく、実際には不動産登記のオンライン申請は不可能でした。その結果、〇五年から昨年まで、不動産登記申請のオンライン申請がほとんど利用されていない状況でした。
 しかし、登記オンライン申請システムは、国が多額の税金を投じて作ったものですから、国は何としてもオンライン申請の利用件数を増やす必要があります。そこで添付情報のほとんどを電子化せずに申請できることにし、実務に対応する修正と、オンライン申請利用で登録免許税を軽減する措置をとりました。その結果、登記申請だけはオンラインで行い、添付情報はそのまま登記所に郵送したり持参することが可能になりました。司法書士は、これを半分だけオンライン申請しているという意味で、「半ライン申請」と呼んでいます。これでオンライン申請の実質があるのか疑問ですが、実際には、登録免許税減額措置と日本司法書士会連合会の方針が相俟って、オンライン登記申請の割合は随分増えたようです。
 実際のオンライン申請については、これまで、システムダウンによって申請ができなくなるトラブルが発生していて、あまり信頼がもてない状況にあります。また、新しい方法に馴染めない司法書士も少なくないようですし、それ以外にも多くの問題があります。今後、運用を踏まえたうえで修正がなされ、代理人の側も申請方法に慣れてくれば、近い将来、オンラインによる登記申請が実務的にも原則形態になるでしょう。
 まず制度を大雑把に作っておいて、不都合が生じたときに対応を考えるという最近の手法は、とりあえずソフトを頒布しておいて、バグが発生したら随時修正サービスで直していくというコンピュータソフトの方法を反映しているように見えます。いずれにしろ、利用者である一般市民にとって、どれほど利便性が増したのかは、疑問です。
電子署名酷d子記録に付与する、電子的徴証(コンピュータ処理)、紙のサインに相当する。デジタル署名とも言う。
バグ鴻vログラムの誤りや不具合のこと。虫喰い(bug)が語源。


(司法書士 加藤政也)


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