日民協事務局通信KAZE 2004年6月

 ニューヨーク留学を前に

(弁護士 伊藤和子)

 今年の八月から一年間、米国留学し、ニューヨーク大学ロースクールの客員研究員として、研究生活を送ることになった。以前から予定していた陪審制の研究が主目的だ。私は市民が司法に直接参加し、法や正義を実現する主体となるようにと、陪審制度の導入を求めて活動してきた。

 しかし今回の「司法改革」で制度化された「裁判員制度」は私たちの司法をどこへ導くのか予断を許さない。そこで、アメリカの陪審制度と刑事手続を現地で調査・研究し、公正な陪審の判断を確保する諸制度、ミランダ・ルール、捜査の可視化、証拠開示などを今後の改革・制度設計に導入できるよう、提言したいと思っている。

 同時に、アメリカの単独行動主義がイラク・アフガン等で数え切れない犠牲と不正義をもたらし、大統領選挙も予定されるこの時期は、私のもうひとつのライフワークである「平和」の問題について研究するまたとない機会だと思っている。

 戦場では、罪もない多くの人々が殺され、虐待され、劣化ウランの被害に晒される、幾多の途上国では人々が飢え、子どもが性的に搾取される─こうした現実を変えたいと思って、平和、戦争被害、米軍基地被害、劣化ウラン廃絶、商業的性的搾取禁止に関わる活動をしてきたが、ニューヨークでも是非、ネットワークをつくって活動を続けたいと思う。

 今、国連内外を舞台に、各国、NGO、市民が、二一世紀に再び平和で公正な世界秩序を立て直そうと様々な行動をしている。戦争犯罪・人道法違反を裁く国際刑事裁判所やハーグ・アピールなどのNGO、平和を求めて行動する幾多のグループ。是非交流を持ち、その過程に参加したいと思う。

 私の留学決定後、今年の二月には「劣化ウラン廃絶キャンペーン」を設立、四月にはイラク「人質」事件の救出・弁護活動を通して市民・NGOとのネットワークが大きく広がり、今後の展開がとても楽しみだ。

 一方、イラク情勢や自衛隊派遣、憲法九条を巡る動きや「人質」バッシングなど、国内の右傾化は拍車がかかり本当に心配な状況もある。そんな時期に日本を離れるのは、後ろ髪を引かれる思いもする。

 しかし、だからこそ、という気持ちもある。戦後民主主義の遺産を「守る」活動に止まらず、未来に向かって「創造する」活動を、若い世代の中で創りたいと思う。そのために、世界の胎動を聞き、公正な世界秩序を生み出そうとする人々の息吹に触れ、そこに参加し、国内の活動にも還元したいと思っている。

 メール等を通じ、国内の活動と常に連絡を取り続けたいと思いますので、留学中もよろしくお願いします。


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