日民協事務局通信KAZE 2002年10月

 南の国の変酋長と言われても

(佐藤むつみ・弁護士)

 うちの母は一一月にやっと八〇才になる。母は年を鯖読み「私は八〇才」と何かにつけて自慢していた。若いと言われるとまんざらでもない。自慢は年だけでない。話はほとんど自慢で終わる。自慢を挟みながら何時間でもしゃべりまくり「いくらでも話題はでてくる」と豪語する。これで痴呆にでもなったら私たち家族はどうなるのだろうか。耳栓だ。今でも「お願いだからしゃべらないで」というと今度はひそひそ声でしゃべりまくる。無視すると「私を馬鹿にして。あーいやだ。いやな性格の娘だ」と悪口雑言が次から次と繰り出される。

 その母に「とっておきの一枚」を読ませている。ただ馬齢を重ねている人に反省と自覚を促すためである。熱心に読み、また自慢。「私と同じ時代を生きてきたからよく分かる」そうか。「あんたは文章が本当にうまいね。小説家にでもなったらいいかもしれない」なれる訳ないだろうに。「世の中には偉い人が一杯いるもんだ。私だっていろいろ聞いてもらえば書くことが多いぞ。波瀾万丈の人生なんだから。むつみどうだろう」どうって言われても困るんだけど。母の中での「とっておきの一枚」は何なんだろう。書いて貰いたいと自分が思うのではなく書きたいと書き手が思わなければインタビュー企画など成り立たないの。旅立ったら娘一同で「恵美ちゃんは今日も元気」という追悼集を作ってやるつもりである。

 と言うわけで「とっておきの一枚」は苦労して書いているが私には楽しい役得である。今度は日民協らしい「読書案内」を企画している。残念ながらまだ原稿は届いていない。きら星のごとくいる読書人はこの本のことを是非書きたいって思っているに違いない。この企画が溜まったら書き手の紹介を入れて単行本にしたいのです。「司法をめぐる動き」も連番で「法民情報私の月」としてあまりご負担無くそれぞれのここ一番気になるところを書いて貰う方式にしようかと考えている。次世代通信もお楽しみに。

 「思いつき編集長」は澤藤事務局長に「変てこな酋長」と言われてもびくともしない。偏執長というんだってあるけど。この澤藤先生はとにかく文章がうまい。魅力的。アジテーションにも澤藤風のスパイスが効く。土の詩人という素朴な味付け。これがどうして難しいのである。小難しいことをわかりやすく格調も落とさず書ける稀有な人である。だから私は困っちゃうの。格調と知性が足りない分は人に書かせて法民の品格とレベルを維持しようと思っている。

 よくぞ此処まで生きてきたとほめてやりたい法民。原稿料なんか払わなくても書いて貰える法民。そして特集の質を見てよ。たいしたもんでしょう。借金漬けの法民だけどみんなで支えて行きたい。会員参加型で面白くそして深い雑誌にしたいものである。どんどん原稿を頼むのでお待ちください。論文はもちろん、魅力的な書き手にご登場いただき存分に書いていただきたい。次が読みたい雑誌になったら読者も増えるに違いない。

 最後に影の編集長に登場願う。林敦子さん。娘さんが我が事務所にいる。「林ママはいわゆる美人じゃないけどすてき。魅力的な人ね。おしゃれだし」。娘曰く。「あの馬面が。口大きいし。やーだ」うちの娘なんて「お母さんってデブだね」と冷たく言い放つ。私が「ママ有能だよね」というと「仕事好きですからね」とそこは肯定する。そうなんです。実に有能。そして林さんは何事も肯定的で前向き。あれやったら面白い。これやったらいいね。そして人たらしでもある。厳しく言うが優しい。会員のなかには用が無くとも林さんになついて事務局に来たり電話をしたりしている人も多い。彼女無くして日民協と法民は成り立たないのである。見捨てずにお付き合いください。


戻る

©日本民主法律家協会