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清水雅彦の映画評

第0020回 (2005/08/05)
『アイランド』〜人間の欲望と結びついたクローン技術を考えさせる

【ストーリー】
大気汚染から守られた施設内で、仕事から運動、食事、健康まで徹底的に管理され、単調な日々を送るリンカーン・6・エコー(ユアン・マクレガー)。ここで生活する人々の夢は、汚染されていない地上最後の楽園「アイランド」で暮らすことであり、時々行われる「アイランド」行きを決める抽選会は一大イベントとなる。ある時、リンカーンは汚染されているはずの外部の換気口から入ってきた一匹の蛾を発見する。疑問を抱いたリンカーンは、施設内を調べているうちに、実は自分たちはクローン人間であり、「アイランド」行きとは殺されて臓器を摘出されることであるという事実を知ってしまう。次の「アイランド」行きに決まったのは、親しくしていたジョーダン・2・デルタ(スカーレット・ヨハンソン)。リンカーンはジョーダンと共に施設を脱出し……。


【コメント】
本作品は、これまでジェリー・ブラッカイマーと組んで『アルマゲドン』『パール・ハーバー』を世に送り出してきたマイケル・ベイが、スティーブン・スピルバーグに依頼されて作った作品。製作には、未来の監視社会に警鐘を鳴らした『マイノリティ・リポート』をスピルバーグと組んで製作したウォルター・F・パークスと、同じくスピルバーグ作品でアメリカの奴隷制度を批判的に描いた『アミスタッド』を製作したローリー・マクドナルドが加わり、脚本・原作はアフリカの難民問題を扱った『すべては愛のために』の脚本を担当したカスピアン・トレッドウェル=オーウェンです。

ベイを除く以上のようなメンバーが関わって完成した作品のため、ハリウッド映画にしては興味深い内容に仕上がっています。映画の設定は2019年。リンカーンらは「クライアント」に依頼された何も知らない「商品」にすぎないという「生命がオーダーメイドされる時代」。クローン技術が発達し、長生きをしたいという人間の欲望がこのような未来社会を生み出しているかもしれない……。ベイ自体はクローン技術そのものに反対しているわけではありませんが、今回、ベイが監督になることで、次から次へと派手なアクション・シーンが続き、画面から目が離せなくなります。

とはいえ、内容的には、いくら何でもクローン技術でここまでできないだろうという設定があるし、アクション・シーンもありえないような展開に。クローン人間が「培養」されているシーンは、人工知能に人間が「培養」されている『マトリックス』に似ているし、高速道ほかアクション・シーンも何かの映画で見たようなシーンが多い。クローン人間の反乱を助けるのは、『アミスタッド』で奴隷の暴動を先導する役を演じたジャイモン・フンスー。どこかで見た映画の寄せ集めのようでもあります。また、終わり方もハリウッド的にハッピー・エンドに。たとえば、苦労して自由を勝ちとったはずのクローン人間の2人が、環境に適応できずにあえなく死んでしまうという設定であれば、ヨーロッパ映画的で観た後に重たいものが残るのにと思いましたが。

しかし、この手の「未来映画」は色々と参考になります。住民はみんな白い服を着用し、清潔な生活空間に居住していること。一人一人が腕のリングやバイオメトリクス技術によりコンピューターで管理されていること。そして、違法行為の発覚をおそれてクローン製造企業が頼るのは軍隊並の装備を有する民間警備会社。派手だけど中身のないハリウッド映画が多い中で、近未来社会への問題提起を行う最近の『マイノリティ・リポート』以外にも『A.I.』や『アイ・ロボット』などと同様、本作品も興味深い作品です。たまにはこのようなハリウッド映画もいいと思います。



2005年アメリカ映画
原題:The Island
監督・製作:マイケル・ベイ
提供:ワーナー・ブラザース映画、ドリームワークス映画
配給:ワーナー・ブラザース映画
上映時間:2時間16分
全国各地で上映中
http://island.warnerbros.jp/

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