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ひろば

第0016回 (2005/10/14)
報道・表現の危機を考える弁護士の会の緊急声明

緊急声明
2005年10月11日

                 報道・表現の危機を考える弁護士の会
                     

 朝日新聞社が、10月1日付朝刊で、NHK「番組改変」報道に関する第三者機関「NHK報道」委員会(以下「第三者委員会」といいます)の見解及びそれを受けた朝日新聞社としての見解を発表したことについて、当会は、朝日新聞社の見解は民主主義に資するべき報道の自由の観点から看過できない問題があると考え、本日、朝日新聞社に対し、別紙のような申し入れを行いました。 私たち「報道・表現の危機を考える弁護士の会」は、NHK「番組改変」問題を契機として、市民に事実を伝える過程に政治的介入があれば、民主主義は回復不可能になることを危惧する弁護士有志で結成されました。
 当会は、今回の朝日新聞社の見解が朝日新聞社の権力監視機能を減退させるものになることを懸念しているとともに、他のメディアが今回の朝日新聞の見解報道について「取材が不十分であった」旨の批判的報道を行う傾向があることに対しても、危惧感を抱いています。そこで、当会は、表現の自由擁護の観点から、次のとおり緊急声明を発表します。

1 報道機関の使命
  そもそも、報道機関の第一の使命は、権力監視機能である。このことは、別紙申入書に詳述したとおりである。報道機関は、自己統治の観点から優越的権利とされる表現の自由のもと、その情報収集力と伝播力を駆使することで、企業として活動している組織である。したがって、報道機関は表現の自由を享受する反面、自己統治を推進するにふさわしい報道、すなわち、権力を監視する報道を行うことが要請されている。

2 朝日新聞の記事には、真実相当性が優に認められる
  第三者委員会の結論は、政治家から異議が唱えられた@安倍議員がNHK職員を呼び出したか否か、A中川議員は番組放送前にNHK職員に会ったか否か、という点も含め、取材記者が真実であると信じたことに相当の理由があるというものである。
  圧力をかけた安倍・中川両議員及びNHK松尾武放送総局長(当時)のいずれもが、取材時には、圧力の存在を認めたばかりか、上記@及びAの事実を認めていたのである。また、朝日新聞が第一報(1月12日付記事)を報じた後、安倍・中川両議員らは、その言を覆したが、新たな主張が正しいという客観的な裏付けは何もない。
  結局、圧力をかけた具体的場面は、密室での出来事であり、究極的には当事者の証言によるほかない。
  そして、上記のとおり、当事者は全員、圧力の存在を認めていたのである。
  したがって、朝日新聞のNHK「番組改変」報道には、優に真実相当性が認められるのである。批判されるべきは、言を左右にした安倍・中川両議員である。
 
3 取材不十分と報道することの危険性
 報道機関は、調査報道をするにあたって、捜査機関のような強制的な調査権限は有していないため、調査報道について、細部まで正確を期することは困難である。最高裁(昭和58年10月20日判決・判例時報1112号44頁)が「重要な部分につき真実性の証明」があれば足りるとしたのは、まさに、報道機関に調査権限がないことを考慮したからである。
 したがって、報道機関は、上記判例及び「その行為者においてその事実を真実と信じるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しない」とした最高裁判例(昭和41年6月23日1判決)に依拠して、報道の自由を守るべきであり、重要部分の真実性、真実相当性が存在するのであれば、当該記事の正当性を世に訴えるべきである。
 しかるに、朝日新聞は極めて自制的な見解を表明し、その見解に対して、他の報道機関の多くは、取材が不十分であったことを認めるものだとして、その不十分性を批判する報道を行う傾向にある。
 しかし、そのような報道は、表現の自由・報道の自由を侵害するもの、すなわち、重要部分に限定する判例、相当性の判例以外に、わざわざ、新たな規範を設けて、自らの手足を縛る行為である。自らが朝日新聞の取材記者の立場に立った場合、両当事者が疑惑を認めているにもかかわらず、それを報道しないという選択をするだろうか。

4 報道機関は連帯してその権利を守らなければならない
 NHK「番組改変報道」は、前述のとおり、権力監視の観点から高く評価されるべきものである。それにもかかわらず、自民党は調査プロジェクトチームを設けてまで、朝日新聞に対して、圧力を加えた。一時は朝日新聞社の取材を拒否する旨発表したほどである。政権与党が党を挙げて抗議する狙いは、権力に不都合な記事は掲載させないという意図を明確に示すことであろう。まさに、報道機関に対する政治圧力である。これに対して各報道機関は一致して、そのような不当な圧力に抗議する必要があった。にもかかわらず、他の報道機関も朝日新聞の取材のあり方を批判するやに取られるような報道をすることは報道機関があげて権力に追従してしまうことに他ならず、報道機関のもつ権力監視という使命を自ら放棄したと判断せざるを得ない対応である。当会は、報道機関に対して、他社の報道の自由の危機を放置することが自らの報道の自由の危機に直結するものであることを十分に認識し、責任ある報道を行うよう求める。

代表世話人 梓澤 和幸
世話人   池田真規 宇都宮健児 中山武敏  児玉勇二  澤藤統一郎 板垣光繁
      内田雅敏 内藤 隆  大久保賢一 金城 陸  木村晋介  海渡雄一 
福山洋子 田部知江子 中川重徳  坂井 眞  佃 克彦  大山勇一 
杉浦ひとみ 打越さく良 徳岡宏一朗 山内康雄

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